神聖かまってちゃんがサマソニに?
平均集客数7、8人のバンドなのに?ボーカルが警官に補導されたりするのに?ライブで『アラレちゃん音頭』を歌って踊ったりするのに?
信じられなかった。
『神聖かまってちゃん、サマソニ出演決定!!』
昼ご飯中、友人のmixiでそれを知ったとき、頬張っていた焼きそばを噴出しそうになった。ウソだろ、と。なぜなら数日前、劒さんに『出れんの?!サマソニ?!』オーディション時の話を聞いていたからだ。渋谷O-eastまで劒さんがベーシストのバンド・あらかじめ決められた恋人たちへのライブを客として観に行ったときのこと。
「いやー、の子くんがエフェクター全部家に忘れてきてね…」
うっわあ。なにやってんだ。人生一度あるかないかの勝負時になんでそんなことになるんだ。の子は『夕方のピアノ』をボーカルエフェクター無しで歌ったという。「死ねー!!」と生声で叫ばれるオーディションは一体どのような空気だったのか。こんなので受かるはずがない。投票数を多く獲得し、最終審査まで行けただけでもういいじゃないか。と、半ば諦めていた。それがまさかの。
「みっちー、あなたの目は正しかったね!」
劒さんからメールが届き、サマソニ出演決定という現実をようやく受け止めた。僕の目ではなく、審査員の目がぶっ飛んでいるのだろう。ライブを一ヶ月に一回やるかやらないかのバンドが巨大ロックフェスにいきなり出るなんて、夢のような話だ。
ポップカルチャーのニュースサイト・ナタリーでも取り上げられた。
『サマソニ一般応募枠にEES、神聖かまってちゃんら16組』
最も集客数の少ない無名のバンドが、なぜか記事のタイトルに。これはナタリーの社長・大山卓也さんがツイッターで「神聖かまってちゃんが気になる」と呟いたことが関係しているのだろうか。ナタリーに気に入られると、一気に飛び火しそうな予感がする。
その夜、神聖かまってちゃんは配信をしていた。サマソニ出演決定を告げるニコニコ生放送。そうなんだ。ほんとに出るんだ。うっわあ。リスナーからは「ぶちかませ」「伝説を作れ」「サマソニで脱げ」などと激励されていた。この状況、奇跡としか言い様がない。
みさこからメールが届く。の子がサマソニのライブをどうしても撮影してほしいという。その日、平日だ。出番は夕方頃らしいだけど、間に合うのか。仕事を休めるかどうかも分からない。その後、の子からも連絡があった。
「絶対やらかしますんで俺!!」
もう、仕事を休むしかなかった。その瞬間を見逃すわけにはいかないし、撮らない理由はない。
数日後、柏で再び神聖かまってちゃんのメンバーと会うことになった。
の子は僕の友人が某テレビ番組で取材されているのを偶然見たことがあり、興味を持っていた。その友人2人と僕とメンバーとで『飲み会配信』をしたいと打診され、行なうことに。
いやしかし、の子にとって"飲み会"なんて最も苦手な場じゃないのか。みんなでわいわいとする場なんて耐えられるのだろうか。だけどこの頃、彼は配信のネタを探しに探しまくっていた。ネタの一つとして捉えると、別に心配しなくてもいいのだろうか。
「竹内さん、本名とか働いてる会社の名前とか、配信で言っちゃマズイことってあります?」
千葉へ向かう前、の子から電話があった。配信に出てもいいか尋ねられ、意外な細かい気遣いと、律儀な態度に驚いた。配信やライブなどでは"キチガイ"と形容される行動もあるが、やはり彼は正常な意識を持っているのだろうか。そして「みさこって奴がいきなり喋るかも知れないんで、一応…」と、みさこがなぜか危険人物とされていた。
柏に着き、友人と合流。ちょうどその日、柏駅西口では『柏まつり』が開催されており、多くの家族連れで賑わっていた。大音量で音楽が鳴り、とにかく騒がしい。車道が渋滞しているようで、遅れて神聖かまってちゃんメンバーが到着。みさこだけがまだ少し遅れるという。
もはやサマソニ出演者となった神聖かまってちゃん。だけど、やはり柏の風景に馴染む、どこにでもいる若者たちに見えた。
唯一おかしいのは、開いたノートパソコンを手に持っていること。
そして、の子の腕。
ズタズタに切り刻んだ傷が大量にある。
ビックリした。遠くからでも分かる。畳の模様にも見えるくらいのおびただしい傷だ。木村カエランドで会ったときは一つも無かったのに、一体どうしたんだ。
少なくとも、転んで擦り剥いたような傷ではない。
アームカットというやつだ。
自ら切り刻んだものだと誰が見ても分かる。
以前、アームカットをするような女の子と一瞬だけ付き合っていたことがある。知り合ったのが春先だったので長袖を着ており、付き合うまでは気づかなかった。それはもう大変だった。躁鬱が激しく、1時間のうちに人格がころころと変わる。都合の悪い状況になると、「私、死ぬよ」と自分を人質にする。
早い話、"かまってちゃん"だった。
危険を察知してすぐに別れたが、その後、深夜にかかってきた電話は忘れられない。「竹内さん、月がキレイだよ」「竹内さんの家に包丁がなくて良かったね」と、ロマンチックと狂気を併せ持った内容にいちいち震えた。腕の傷を見たことにより、その恐怖を思い出してしまった。
「今日は飲みましょう!」
の子は笑顔で話しかけてきた。いかにもリア充感溢れる飲み会と腕の傷とのギャップは計り知れない。胸元にも切り傷があった。心の傷を視覚的に訴えかけているように思えた。傷の多さに圧倒され、触れることはできなかった。monoとちばぎんは以前から知っていたのか分からないが、普段通りにの子と接していた。
それにしても気になる。穏やかではない姿だ。見てるこちらがヒリヒリしてしまう傷だ。
ちばぎんがパソコンを設定し、柏駅前での配信が始まる。順番にパソコンを渡され、配信に出ることになった。その様子を少し離れたところで、手を後ろに組んでなぜか紳士的な表情で眺めるの子。授業参観に来た父親のような佇まいだった。
配信ではリスナーからの容赦ないコメントが流れる。の子は「ハゲ」、monoは「アゴ」、ちばぎんは「脱退しろ」、みさこは「黒乳首」と書かれようが、喋り続けなければならない。「新曲、いまいちだった」などと、アーティストがリスナーの正直な意見と向き合うことなんていまだかつてあっただろうか。恐怖も危険性もたくさんあるだろう。ウェブカメラの前に姿を現した瞬間、叩き台となる。僕が映ったときに流れた文字がそれを物語っている。
「いまのところイケメンなし」
本当にごめんなさい。
「今から俺、祭りの中で"あるてぃめっとレイザー!"とか叫んでくるんでちょっと待っててもらえますか?」
の子がノートパソコンを持ち、突如として『祭り配信』がスタート。祭りの中へと消えていく。monoとちばぎんも「すいませんね…」と言い残し、の子を見守るようについていく。子どもから老人までが輪になって踊る中へ向かっていく。「おしっこがー!おしっこがー!」などと楽しい祭りの風景をさぞかし一変させたに違いない。やがて約30分後、の子がなぜか上半身裸になって帰ってくる。思う存分に叫んできたのか、若干疲れている様子。それでも瞳孔は開き切っていた。
その後、大型チェーンの飲み屋に入る。の子はパソコンを手に持ち、上半身裸のままだ。店員さんが「着ていただかないと、ちょっと…」と入店を拒む。そこで、の子とちばぎんの言い争いが始まった。
「服着ろよ!」
「絶対着ねーよ!!」
説得するちばぎん。なぜか頑なに拒むの子。聞き分けのない子どもと、それに振り回される父親。そんな関係にも見えた。祭りの近くの飲み屋だけあり、次々と家族連れが入ってくる。その人々の目には、上半身裸、そして傷だらけの腕でノートパソコンを持っているの子の姿がどう映ったのだろう。あそこまで露骨に「見ちゃダメ!」といった様子で子どもの目を覆い隠す母親を初めて見た。正しいと思う。
店内が忙しいのもあり、やがて上半身裸のまま自然に入店することになる。店員さんに「あとで着るんで…」と小声でお願いし、ようやく本来の目的である『飲み会配信』の場へ。店の個室に入る。
が、電波が届かないのか、突然配信がストップする。戸惑うの子はmonoにパソコンを預け、配信を復帰させようとする。「なんだよこれ、分っかんねー」とmonoが困りながらパソコンをいじっていると、注文した飲み物が届く。
結局、配信は諦めることに。その瞬間、ちばぎんに電話で道案内されていたみさこがようやく駆けつける。なぜかボブのウイッグをつけており、配信に出る気満々だったようだ。見事に空回りしていた。
メンバーも飲み物もすべて揃ったということで、配信は無い、単なる飲み会が始まる。
まずは乾杯。彼らにはちょうど祝いごとがあった。
「サマソニ出演決定、おめでとうございまーーーす!!」
「うぇーーーい!!」
の子は元気いっぱいだった。腕の傷を忘れるくらいの笑顔を見せていた。
個室といっても隣には主婦グループのテーブルがあり、すでにアルコールででき上がっている。横から「おめでとーー!!」となぜか乾杯に参加してきた。
「サマーソニックって知ってるんですか?」
「知らなーーい!」
主婦たちは完全に酔っ払っている。ノリノリだ。旦那や子どもの愚痴などで盛り上がっていたのだろうか、彼女たちのチームワークは半端ない。「B'zとか出るんですよ」と教えると「すごーーい!」と反応。そこでの子が「俺、B'z大好きなんですよ!」とやたら主婦に絡もうとする。
「誰がボーカルなの?」と尋ねられると、「あの人なんですよ!」との子が僕を指差す。信じてしまった主婦の一人が興味津々に絡んでくるので、神聖かまってちゃんがいつの間にかギターボーカル・竹内、ベース・ちばぎん、ドラム・みさこというスリーピースバンドとして認識された。そのまま作り話を盛り上がらせ、ついにはスペイン語で歌うバンドに。「歌ってよー」と言われて困っていると、ちばぎんが助け舟を。
「ま、そんな感じのインストバンドです」
ボーカルはどうした。
「インスタントバンド?」
主婦は聞き間違えていた。
普通に飲み会として、メンバーと楽しいお酒を飲めた。サマソニ出演決定についての話から、昔のライブの話まで。の子は僕の友人と喋り続け、monoはノートパソコンをいじりながら会話に参加し、ちばぎんとみさこはよく笑っていた。
しかし、1時間ほど経過したあたりから、の子の様子が次第におかしくなっていった。
先ほどまで楽しそうにしていたはずなのに、ふと見ると、彼の身体が固まっている。
表情がフリーズしている。
パソコンで言うと砂時計が表れたような姿になっていた。
彼の手元には精神薬があった。楽しそうに喋るメンバーを虚ろな目で観察しており、不穏な空気が漂い始めていた。
メンバーと友人らも僕も、その空気を察知しつつも、どう接すべきなのか分からない様子だ。FMおだわらのラジオ出演同様、見るからに鬱状態。でもこの日は、収録時とは比じゃない。一触即発のムードがあった。導火線の短い爆弾が突然放り込まれたような飲み会になっていた。腫れ物に触れないようにする分、の子が孤立していくように思えた。
みさこはそれを気に留めながらも、笑顔での子に話を振る。
そこで爆発してしまった。
「ああ?なに見てんだ。なんだこのやろー。おい!ああ?!てめーらなんなんだよこのやろー!!ふざけんじゃねーぞこのやろーー!!!」
突然、の子の怒鳴り声が店内に響く。
一瞬で凍りつく空気。
静まる店内。
隣の主婦グループのグラスを持つ手が止まる。後ろの個室の家族連れも一斉に反応する。
それくらいの大きな声で、の子は怒鳴り散らした。
「おめーら、人がどんな気持ちなのかわかってんのかこのやろー!!」
ライブ中、いや、それ以上のシャウトが飲み屋を支配する。その怒りはメンバーに向けたものであるが、真意は掴めない。早く帰りたくなったのか、配信ができなかったことへの不満なのか、この空気が耐えられないのか。一体どうしたのだろうか。
模索する間もなく、の子は何度も怒鳴り続ける。
「なんなんだこれ!つまんねーよこのやろーー!!」
「俺だって早くお開きにしようと思ってたよ!!」
monoが反論する。の子の怒りは収まらず、歯を食いしばる。そしてまた怒鳴る。先ほどまでの表情とはまるで違っていた。monoからノートパソコンを奪い取り、配信していないのにも関わらずそのまま手に持って叫び続ける。
「なんでお前ら人の気持ち何もわかんねーんだよ!!」
「じゃあちゃんと言えよ!!」
ちばぎんも怒鳴って反論する。「言えよって、わかるだろ!!」と、の子は僕と友人の視線を気にしながらメンバーに訴え続けていた。何が言いたいのかは分からないが、苛立っている気持ちは十分伝わる。
その姿は見ていてヒリヒリする。恐さよりも切なさが勝っていた。みんな理解しようと思っているが、誰にも理解できない。本音を一言話せばいいだけなのかも知れないが、それが出来ないでいる。配信などではたくさん喋っているが、彼は実のところ、本当に言いたいことは何一つ言えていないのかも知れない。だから態度で示すが、相手には伝わらない。ただ、溜め込んだ感情が裂け目から沸騰し、ぶちまけられる。求める気持ちから生じる摩擦の火を、一人で起こしている。それが今、激しく燃え上がり、炎上している。メンバーも彼の気持ちを汲み取ろうとしているが、その量があまりも大きく、抱えきれないでいる。
腕の傷もその一つなのだろうか。
怒りでブルブルと震える腕が抱えるものは、ノートパソコンと傷。細い腕一本で、たくさんの表現欲求と大きな痛みをすべて背負っているようにも思えた。
突然の怒鳴り声で凍りつく飲み会。
こんな状況で不謹慎だが、なぜかライブを観ている感覚に陥ってしまった。
「こんなの全然ロックじゃねえよ!!!」
の子は大きな声で怒鳴り、個室を出ていった。
驚いた。
素でこんなことを叫ぶ人なんているのか。絵に描いたようなキャラクター。そしてなぜか胸に響く叫びセリフ。
映画でもライブでもない、日常で、こんな言葉が聞けるとは思わなかった。
まるで物語の中に放り込まれたかのようだ。
こんな状況で言うのもなんだが、痺れてしまった。
しかし、彼は出ていく方向を思いっきり間違えていた。
「出口逆だよ!!」
ちばぎんのツッコミが空しく響いた。これは恥ずかしい。の子は店の奥まで歩いていってしまった。せっかくかっこいいことを叫んだのに、逆方向へ歩いていくの子の姿を再び見ることになるなんて。隣の主婦グループは「なんなのかしら急に。カンジ悪いわ…」と場の空気を悪くさせたの子への愚痴をこぼしつつ、飲みを再開していた。
程なくして、の子の姿が。
なんと、再び個室に戻ってきた。
彼はイライラした様子で「なんなんだ…なんなんだよちくしょう…」と呟きながら、片手でズボンのポケットを弄り始めた。
すると皺くちゃの千円札が二枚出てきた。それをテーブルの上に無造作を置く。
これは会計か。出口を間違えたのをいいことに、律儀にも飲み代をわざわざ払いに戻ってきたのか。
「人生は一度きりしかねえんだよ!!!」
再び大きな声で怒鳴り、個室を出ていった。
が、また出ていく方向を思いっきり間違えていたのだ。
「出口逆だよ!!」
再びちばぎんのツッコミが。
まさかの天丼。
今度はさすがに笑いが生まれ、場の空気が和らいだ。
怒りをぶちまけた熱血人生劇場が、いつの間にかコントに。
これはの子の天然なのか、それとも場の空気を悪くしたせめてもの償いなのか。突然のサービス精神に度肝を抜かれた。せっかく痺れたのに、感動を返してくれ。そして行き止まりに気づいたのか、数秒後に逆方向に歩いていく彼の姿。それはなんとも情けなく、おかしい。そして妙に愛おしかった。
緊張感を覚えた分、同じくらいの安堵感を得た。そして苦い気持ちになった分、同じくらい笑ってしまった。
なんなんだ、この人は。
「すいませんね。俺ら、追っかけないといけない感じなんで…」
ちばぎんが謝り、メンバー3人が席を立つ。ノートパソコンを持ったまま店を出ていったの子を追いかけるという。重たい空気を背負いながら荷物をまとめるmono、ちばぎん、みさこ。の子が置いていった皺くちゃの札に重ね、会計を先に払おうとする。の子のあまりの癇癪が気になり、ちばぎんに尋ねた。
「こういうことって、よくあるんですか?」
「まあ、年に何回かって感じですね…」
ため息まじりに呟いた。monoは「はーー」と落ち込んでいる様子で、みさこは何も言わずにそのまま出ていった。結局、みさこのボブのウイッグは何の役割も果たしていなかった。
こうして、神聖かまってちゃんが嵐のように去っていった。
その後、友人2人と先ほどの出来事を語り合った。
あれは一体何だったのか。何に対して怒ったのか。二度目の出口の間違えはわざとなのか。いや、あれは実は配信が止まっていなくて、作為的なものだった。いやいや、配信はやっぱり止まっていた。天然だろう。いや、計算だろう。というかそもそも、みさこのボブのウイッグは一体何だったのか。
「なんだか、ライブ観てるような感覚だったね」
「怒鳴り声は恐かったけど、なんか、かっこよかった」
話題は尽きなかった。
そんな中、突然、の子が個室に戻ってくる。
ものすごいスピードで歩いてきたが、とてつもなく神妙な面持ちだった。
「さっきはマジですいませんでした…いやほんと、マジですいませんでした…」
傍に座り込み、何度も何度も謝ってくる。「いやいやいや」とこちらもなんとなく謝る。彼の本心に気づかなかったのはメンバーだけでなく、当然僕らにも責任がある。それでも「ほんとすいませんでした…」としきりに謝り続け、こちらが申し訳なくなってくる。
たったの数時間で、の子のあらゆる表情を見てしまった。
不器用だが、自分の感情に素直だ。はつらつとした笑顔と、震えるほど怒りに満ちた顔。飲み会と、腕の傷。あらゆる両極端がそこにあり、バランス感覚さえ感じた。ライブのような迫力だった。生々しい人間模様を見た。神聖かまってちゃんを知って初めて、の子の心の痛みを感じてしまった。
「じゃあ、メンバーが車で待ってるんで…また会いましょう」
の子は後悔と反省に包まれたような表情のまま、個室を出ていった。
あっという間に過ぎていくすべての出来事に、ただただ圧倒された。
音楽とは関係ないところなのかも知れない。
単なるワガママなのかも知れない。
だけど、あそこまで人との摩擦を肌で感じさせる人を見るのは初めてだ。それほど自我があり、求めていることが大きいのだろう。それが音楽に繋がっている。『いかれたNeet』で歌われている通り、の子の音楽は日記そのものだ。人間性や精神、記憶や想像すべてが直結しているように思う。
ますます、神聖かまってちゃん、そしての子という人が気になった。追求したくなった。
僕と友人らは見事に終電を逃し、ネットカフェで一夜を過ごす。ネットの神聖かまってちゃん関連の掲示板で見る限り、やはり配信は個室に入った時点でストップしていたようだ。
「こんなの全然ロックじゃねえよ!!!」
「人生は一度きりしかねえんだよ!!!」
あれは演技でも何でもなかった。
の子は本当にロックを求めていた。そして、誰にだって人生は一度きりしかない。どちらも間違いではないのだ。
あの叫び声を、きっと忘れることはないだろう。
やがて朝になる。
始発で帰ろうと、外に出た。昨晩の祭りの賑やかさとは打って変わり、柏駅周辺は静寂に包まれていた。そこら中にゴミが散らばり、空は青く、夏の朝日が光り輝く。日光により、一瞬で退色したかのような駅の看板。荒れてはいるが、どこか清々しい。
まるで台風が去った後のようであり、神聖かまってちゃんが去った後のようだった。
その台風はやがて巨大な暗雲と嵐を引き連れ、千葉県の幕張に到達する。
サマーソニック2009の当日がやって来た。
~続く~
たけうちんぐ最新情報
⬛︎ たけうちんぐと申します。映像作家をやっております。 プロフィールはこちらをご覧ください。
⬛︎ 撮影・編集などのご依頼・ご相談はこちらのメールアドレスまでお気軽にお問合せください。takeuching0912@gmail.com
2011年12月22日木曜日
2011年12月13日火曜日
神聖かまってちゃん@新木場STUDIO COAST
神聖かまってちゃん『26才の夏休みTOUR』の追加公演。場所は新木場STUDIO COAST。
巨大LED画面を使用し、彼らにとって4度目のニコニコ生放送ライブ。東京でのライブはこれが見納め。
今年も神聖かまってちゃんには色んな出来事があった。
の子さんが怒って打ち上げ会場を飛び出した"お米ぱくぱくはいはい"事件や、配信でみさこさんが精神的不安による血尿を打ち明けたり、monoくんがちばぎんに不満をぶちまけてなぜか相撲対決するなど、メンバー間の亀裂や悩みを自らネット上に晒すこともしばしば。ハラハラする展開も少なくはなかった。それでも2度の『カミスン!』出演、配信では坂本龍一との共演、桑田佳祐がラジオで絶賛するなど、いいニュースもたくさんあった。
この日、その集大成のライブとなるのか。過去最大級のキャパのライブハウスでそれが観れるのか。来年の更なる飛躍を予感させる、素晴らしいものが観れるのだろうか。
これが、まさかの大波乱のライブとなりました。
お米ぱくぱくはいはいどころではありませんでした。お米すらなかったです。
会場に着くと、STUDIO COASTの看板を写真に収めている人がいた。カメラマンの佐藤さんだ。看板には『SHINSEI KAMATTECHAN』と書かれてあり、まるで来日したかのようなバンドに。
要塞のような巨大なライブハウスを眺め、神聖かまってちゃんがついにここまで来たんだと感慨に耽る。何度感慨に耽ってるのか。感慨も安くなりそうだ。
だけど、更に感慨に耽ってしまう光景を目の当たりにした。
monoくんに会うと「ちばぎんが風邪でダウンしてるんで、励ましてあげてください」と楽屋に案内される。入ると、なんとVIPルーム。王室のようだ。エレガントな鏡、ソファ、そして部屋がとにかく広い。二階建てだ。神聖かまってちゃんは王にでもなったのかと感慨に耽った。どこでどう時間を過ごしても優雅にしかならない楽屋。それでもの子さんとみさこさんが配信をしており、いつもの神聖かまってちゃんのライブ前の風景があった。
二階に上がると、ちばぎんが倒れていた。マスク姿で、目は半開き。それもハート型のベッドの上で。奥にはなんとプールがある。瀕死の状態のちばぎんとその優雅な部屋とのギャップは計り知れない。ベッドの上にはちばぎんが書いたであろうセットリストが散らばっており、曲名がもはやダイイングメッセージにも見えた。"美ちなる方へ"が別の意味に思えた。そっちの方に行かないで!
先日の『謎の日』のピックアップゴールドのライブ映像をDVDにまとめたものを渡す。音をちゃんと合わせて作ったので、なにげに作業中は何時間もピックアップゴールドの曲を聴き、ちばぎんワールドに浸りまくることになった。
「ありがとうございます頑張ります…」
あのときスーツ姿でビシッとキメていた"大作"はゴホンゴホン!と大きな咳をする。明らかにまともにライブできる状態ではない。どうにか持ちこたえてほしい。そうだ。吐き捨てて、すべて壊せばいい。爆音とともに。明日に矢を放て!ピックアップゴールドの歌詞を引用し、彼の健康を願うしかない。
オープニングアクトはNATSUMEN。
これがもう、圧巻のステージ。オーケストラのように楕円形に中央を取り囲む配置で、言葉を必要としない音の数々が容赦なく攻めてくる。会場は神聖かまってちゃんファンばかりという完全にどアウェイな空気。それでも、ひたすら鳴り続ける山本達久さんのバスドラが服を揺らす。音が振動を与えてくる。AxSxEさんは終盤、ギターを叩き割るかのような激しいアクション。鋭く尖りまくっていた。とにかくかっこいい。
「俺らもニコ生配信したかったんやけど、髪切る時間がなかって…」
親しみのある関西弁で話すAxSxEさん。山本達久さんに「かまってちゃんの録音した人だよ」と紹介されつつ、最後の曲は『AKIRAMUJINA』。BOaTの『RORO』の2曲目。大学時代、研究室で助教授がなにげなく流していて、「竹内くんはBOaTとか聴かないの?めっちゃええで」と教えてくれた。懐かしい気持ちにもなり、そしてホインさんがボブでギターで完璧だった。
NATSUMENが終わると、客席でくるみちゃん(5才)を見かけた。の子さんのことが大好きなお子さんだ。ツイッターでお母さんのつぶやきを何度も見かけ、あらゆる評論家のかまってちゃん論を凌駕する発言に感銘を受けていた。
「あのね、くんちゃんは、の子が、女の子になったり、男の子になったり、するのが、すごくいいとおもう」
かわいいし、的確に"の子"を捉えている。最高だ。こっそりファンなので、見かけて嬉しかった。『なりきり"の子"』の写真がかわいすぎます。いつか、この子が書いた神聖かまってちゃんに関する作文を見たいです。
神聖かまってちゃんの出番になる。
もはや恒例となった劒マネージャーの挨拶、通称・TRGがスタート。禁止事項や諸注意などを告げるが、なぜかマイクを何度も持ち替え、挙動不審な動きをし、「あのー」を連発する。
「皆さんで助け合って…あのー、えーと、セルフプロデュース」
真剣に語っているのにも関わらず、時折笑いを起こしていた。
やがて『夢のENDはいつも目覚まし!』が流れ、巨大LEDに映像が映し出される。ニコニコ生放送のコメントが流れ、最前列のお客さんが映し出されると"女大杉""サンタがいるwww"などといった書き込みが。
曲が2番のサビに差し迫る頃、メンバーが登場。大きなリボンを髪に付けたみさこが「うわー、めっちゃおる!人がゴミのようだ!」とムスカに。ちばぎんはやはり動きが鈍く、"ちばぎん大丈夫か…"と心配するコメントも。monoがゆっくり歩きながらステージに現れ、の子だけがいない。登場SEが流れ切ってしまい、「うわっ、曲終わった!」とみさこ。
遅れての子が登場。配信中のノートパソコンを持っており、目をかっ広げている。ちばぎんにノートパソコンを渡し、なぜかちばぎんのマイクで話し始める。
「で、あぁっとぅえぃす僕はまたヒストリーを起こす」
まったく呂律が回っていない様子。観客が歓声を上げる。LED画面を見上げ、「見づれー!"の子かわいい"うっせーこのやろーさっき聞いたよ!」といつもの配信の調子で喋り、「やっぱ今日来てよかったっしょ?」とまだLED画面とメンバーが登場しただけなのに観客に尋ねる。ずっとちばぎんのマイクスタンドの前にいるの子に、ちばぎんが「の子さん、向こうです」と小声で呟く。
自分のマイクスタンドに向かうの子に、客席から可愛らしいぬいぐるみが投げ込まれる。「なんだこれ?」と拾うmono。「"アイマスおもしれえ"関係ねーだろこのやろー。俺はな、ここで雑談配信するからな。それ観るだけでも3000円払う価値はあるだろ」との子が喋り続け、ちばぎんが「そんな感じで神聖かまってちゃんです!」と無理矢理進行させてデーーーーン!といつも通りベースとドラムだけが鳴り、ようやくライブがスタートする。
「1曲目、ライブでは初めてで配信でもやったことないんですけど、『雨宮せつな』という曲を」
ちばぎんが告げると、客席から歓声が。CD化もされていない上に、YOUTUBEにもPVとして上げられてはいない。公式サイト『子供ノノ聖域』でmp3でアップされているだけなのに、認知度はやはり高い。
「ちょ、ちばぎん早い!全然準備できてねーんだよ。もっとなんか冬っぽい感じにしてくださいよ」との子が照明を注文しつつ、"アニコレきた"などとAnimal Collectiveの楽曲のパクリだというコメントに対し、「アニマルコレクションとか聴いたけどあんなもん全然似てねーじゃねーかよこのやろー!」と反論。あれ?名前が可愛らしいことになってないか?「アニマルコレクションって何の曲だか全然わかんない」と更にmonoが可愛らしいことに。"動物集めてどうすんだよ"といったコメントが流れる。
「お前らペットボトル投げんじゃねえ。チバさんだったらいいけどな、このなんかグリコのオマケみたいなもの投げると俺死んでしまうからな」
かの有名なミッシェル・ガン・エレファントのチバ・ユウスケがペットボトルをぶつけられて倒れるという『ペットボトル事件』を引き合いに、先ほどのぬいぐるみなんかで死んでしまうらしいの子。まだ喋り続ける。メンバーが演奏を促そうとするも、「この曲はもっとゆっくりゆっくり始めたいんだよ」と訴える。
の子の要望通り、照明が"冬っぽく"青みがかる。ようやく『雨宮せつな』の演奏が始まる。の子の好きなAV女優の名前が曲名になっているが、AVとはまるで関係ないように、もしくはAVを見た後の賢者タイムのように、幻想的でセンチメンタルなメロディだ。
途中、キィーンと大きな音が何度も鳴り、ニコ生のコメントには"!?""うるせー!""なんだこの音は!?"などと批判が飛び交う。メンバーの後ろには正直な感想が次々と流れていき、リアルタイムでライブが批評されていく感覚。曲に素直に感動しづらい環境でもある。
カメラがの子を映すと何重にもの子が画面に映り、何度もエンドレスの子の光景があった。それがなぜか壮大にも不気味にも思えてくる。
「これ、良かったろ?(歓声に対し)お前らうわべだけで良かったつーけどな、こいつらだよ!(画面に向かって)お前ら良かったのかよこのやろー!」
演奏後、感想を求めるの子。"いいに決まってんだろ!""よくはない""ふつう"などとコメントが流れる中、"さんま御殿みてた"というコメントも。たしかに、客席の反応よりも配信のコメントのほうが正直だ。その分、恐い。ヒリヒリしたムードも与えてくる。配信のコメントのほうがリアルな意見なのかも知れない。会場で体験するほうが明らかにリアルなのだろうけど、神聖かまってちゃんを見ていると、ネットのほうが現実に感じる瞬間がある。容赦ないからだ。
この日、冒頭からの子はどこか調子が掴めない様子だった。表情のバリエーションも少なく、喋り方もいつも以上にケンカ腰。monoとの会話も微妙にかみ合っていないように見えた。
「じゃ、『あるてぃめっとレイザー!』いきまーす」
無表情のまま告げ、突然ギターをかき鳴らす。『あるてぃめっとレイザー!』では恒例のmonoダンスが始まる。中央でただひたすらシャドウボクシングのような動きをし、だんだん動きのバリエーションが無くなっていくのが見所の一つだ。
途中、の子の歌がリズムに追いついていない瞬間もあるが、何度も「あるてぃめっとレイザー!」と叫んではギターを掻き鳴らす姿はやはりかっこいい。そして巨大LEDに流れる多くの"あるてぃめっとレイザー!"というコメントが視覚効果にも感じる。神聖かまってちゃんのライブでしか味わえない、特別な空間だ。
「"声大丈夫?"うるっせー心配するなこのやろー。今日は時間が限られてるようだけど、どんどんやっちゃうぞ」
の子の宣言にちばぎんも「はい、どんどんやりましょう!」と促すが、の子はなぜかビートルズの『Free as a Bird』を歌い出すなどとやはり自由。「じゃ、『ねこらじ』いきまーす」とちばぎんが強引に進行すると、「なんだよ…」と不満そうなの子。
「やだ!」
の子の一言。ちばぎんとみさこが収拾をつけるように「はい!」と言い、やる気のない声で「ひぃふぅみぃよぉ」との子がカウントして『ねこらじ』へ。演奏が始まると先ほどまでの悪態がウソのように、生き生きと「上へ、上へ、かけのぼってくー」と歌いながら両手の拳を突き上げるの子。が、どこか無理矢理テンションを上げているようにも見える。サポートバイオリンの柴さんが奏でる音色が後半の展開を盛り上げ、"柴さんに助けられた""バイオリンいいね"といったコメントも。
間髪入れずにちばぎんが『レッツゴー武道館っ!☆』のベースを弾き、の子は「はえー!」と言いながらもリズムに合わせて歌い始める。客席からは「やーねー!」という掛け声、"やーねー!"というコメントが乱れ撃たれていた。
「"面白いこと言えよ"?面白いこと、言ってもらいたい?」
の子が観客に尋ねると、大きな歓声が。「これから重大発表があるんですよ」と、この日ナタリーでニュースになった神聖かまってちゃんの重大発表へのカウントダウンの話題に。「とりあえず解散するんですよー」と言うと、少し戸惑い気味の反応が。普通ならその唐突さに笑いが起きるかも知れないが、若干リアルに受け取れてしまうのだろうか、遅れ気味の「えーーっ!」という声が会場を包んだ。「しないしない!」とmonoが否定する。
「今日は追加公演だからね。すっごいなんか、人には見せられない感じのことをしたいって僕は思っていますー」
の子の宣言に、歓声が上がる。恐らく「普段では見せられない」と言いたかったのだろう。人は目の前にたくさんいる。「人には見せられないことをしちゃうの?」とちばぎんがつっこむ。コメントの少なさに「お前ら過疎ってんのかこのやろー!」との子が画面を見上げる。この日、ニコニコ公式放送だけでなく、神聖かまってちゃんも自身のチャンネルでいつも通り配信をやっている。コメントが分散しているからか、それほどコメントが多いようには感じられなかった。
「お前ら、テンションこのままで!君も維持して俺も維持してそのままいくぜ!ベイビーレイニー」
みさこが「ちゃららちゃららー!」と甲高い掛け声を発し、『ベイビーレイニーデイリー』へ。monoのキーボードが美しく鳴る中、なぜかの子が履いていたズボン(スカート)がポーーンと脱げる。すかさずスタッフ・成田くんが受け取り、ステージ脇がささっと織り畳んで保管。パンツ姿になったの子は演奏後、ステージ前で両手を広げて無言で「脱げました」アピール。
「の子さん、いつの間に脱いだんすか?」
「すっごいなんかもう、トランクスらしいトランクス履いてますね」
ちばぎんとみさこがコメントする。の子は成田くんからズボンを受け取り、履く。「脱げー!」といった歓声が飛び交う中、「だろ?ああ?お前らがやったらいいんじゃねえの?ああ?」との子が返答するが、どこか空回りしている様子。何を言いたいのか誰にも分からない、コミュニケーション不能の状態。まともに会話のキャッチボールができないまま、の子の発言が放置されるかのように演奏に向かう。
ちばぎんが『自分らしく』のベースを弾き始め、みさこがバスドラでリズムを取る。monoが「おい!おい!おい!」と両手を振り上げながら叫び、「このリズムに!ついて来れるかな!」といった具合に慣れないアジテーションを展開。そしてmonoがポンポコポンとパーカッションを軽快に鳴らし、の子が『るーるる村のがんばりどころ』を歌いながら曲に突入する。
後半のmonoのキーボードに移行する瞬間には、毎度お馴染みの高揚感が。この曲では叩いたり踊ったり弾いたり、マルチプレーヤー・monoがとにかく輝いている。
そしてまた、の子のズボンが脱げる。
「衝撃的なことにドラムのところにセトリが無いんで、毎回教えてください!よろしゃす!」
みさこ、セットリスト無しでライブをやっていたことを告白。といっても、セットリスト通りにいくとは限らない神聖かまってちゃんのライブではそれほど焦ることではないのかも。
の子はまだコメントの少なさを気にしている様子。「"脱げ"?脱がねーよ!」と答え、monoが「脱いだらBANになっちゃうからね」と。昨年9月の渋谷AXを思い出す。あの日は下半身が露出したことで、LEDの画面が青くなった。の子は再びズボンを履き、ちばぎんが「次の曲いきましょう。『制服b少年』を」と進行させていく。
「ピョンピョン、あれなんか、隣の奴ぶん殴れ!社会人の奴なんていっぱいいるんだから、復讐しろ!俺はぶん殴るな!」
の子の過激な発言に、monoが「隣の人関係ないよ!」、みさこが「私、隣の人いないから殴られずに済むぜ」と言うと、「うるせー、つまんねえ。どうでもいいんだよ。とりあえず『制服b少年』いくぜ!」との子が一蹴し、演奏へ。
キーボードの音について"かわいい"とコメントが流れる。の子の歌う歌詞がところどころ曖昧で、"ちょw歌詞www"といったコメントがたくさん流れる。
『制服b少年』が終わると、ちばぎんが『夜空の虫とどこまでも』のベースを弾き始める。ちばぎん、弾き始めることで進行を促そうとする無言の働きかけが、もはや定番になってきている。風邪もあってか、顕著に表れている。の子は「はえーよ!もっとMCさせろ!」と言いつつも、観客の手拍子が鳴る中、キーボードの前に向かう。なぜか帽子を被って。
の子がmonoを手で指図し、マイクを取るmono。「おい!このリズムが鳴ったら、何が始まるか分かるだろ?お前ら頼むぜー?」とまたもや慣れないアジテーションを。だが、の子にマイクをぶん取
られて「こんなドキュンなノリじゃねーんだよ!」と一蹴される。
「もっと俺は一人になりたい。孤独になりたい。別に関係ねえ、客がいようがそんなことはよー。これは一人で作った曲なんだ。家で。ほんとに心が荒んでいるときに。そんなんお前らには関係ねー。俺はそれをここで表現するだけ」
『夜空の虫とどこまでも』は鬱状態のときに作った曲であると、本人の口から聞いたことがある。たしかに、この曲から感じるものは孤独そのものだ。一人のちっぽけな影が夜の巨大な闇に包み込まれるような。だけどそれが悲しいというより美しい描写に見えるような。当然だろうけど、神聖かまってちゃんの楽曲は彼が一人で作ったものばかりだ。そこには観客もメンバーも知人の顔もない。大きなライブ会場でも、まるで一人部屋にこもっているように、ひたすらキーボードを見つめて演奏するの子の姿が印象的だ。
「俺は、深夜徘徊、俺は深夜徘徊をする、深夜徘徊していた頃に作った」などと冒頭は即興ラップを披露していた。毎回、ここで放たれる思い付きの言葉が見事だ。
コメントでは星マークが右から左へたくさん飛んでいき、会場で回転するミラーボールにも似た演出になっていた。数々の感嘆の言葉が流れる中、なぜか"バイト受かりますように""みんなが幸せでいられますように""笑える日が来ますように"など、願いを込めたものも。短冊のようなLEDだ。匿名の願いが次々と飛び交い、音楽も相俟って、なぜか感動的な光景に見えた。それでも、帽子を被っているの子について"給食当番みたい"といった気の抜けたコメントも。
演奏後、の子は「こんだけ人いるのに、もっと盛り上がれよ!」と観客のノリに不満そうな様子。「いや、そういう曲じゃないでしょ」とちばぎんがなだめるが、「俺が盛り上がらせるんじゃなくて、お前らが盛り上がらせろよ」と注文。「"客のノリが悪い"?言ってやれよこいつらに!」との子が現場の観客をアジテーションし、パソコンの向こう側の観客に大きな歓声を見せつける。
「今日は時間がねーんだよ」との子が喋り続ける中、monoが「ちばぎんは正しいことやってるよ」と。ちばぎんがベースを弾きながら、ボイスチェンジャーで「はーい先生ー」と一人でひたすらコーラスしている。
「じゃ、次はリスナーと目の前のお客さんとうちらと一体で曲を作っていこうと思うんですけど、協力してくれますかー?よろしくお願いしますー」
みさこが案内をする中、ちばぎんがひたすら「はーい先生ー」と続けていてちょっと面白い。とにかくサクサク進めたい気持ちが伝わる。「ちばぎん誕生日おめでとー!」と歓声が上がり、「風邪大丈夫ー?」と心配する声も。「大丈夫じゃないっ!」ときっぱり返答。
「ギター低くね?」と尋ねるの子。「低い」という表現が誰にも伝わらず、会場内はシーンとする。「小さい」という意味であると分かると、ようやく反応が。「"低いのはテンション"じゃねえよ!闘志満々だよバカヤロー!」との子が画面を見上げて反論する。「の子ー!」といったたくさんの歓声に「うるせえ!死ね!」と悪態をつく。
こうして『算数の先生』が始まる。未発表の楽曲。現メンバーになる以前、3年以上前にライブハウスで演奏した動画がニコニコ動画に上がっている。の子が「1時間目は、算数よ!はーい先生ー」と言いながら、カミソリで頭を何度も切り、大量に流血するという衝撃的な映像だ。
この日は流血することもなく、時折なぜか満面の笑みを浮かべたりと、表情が豊か。どこか陰鬱なフォークのにおいを漂わせ、まるで三上寛の小学生バージョン。「はーい先生ー」といった声が客席から聴こえ、LEDの画面でも大量に流れていく。不気味な一体感があった。1時間目から10時間目まで歌い、そしてそのまま何時間目も歌うことで「いつ終わるのか」と不安を募らせるが、20時間目あたりからメンバーが本格的に演奏に入ってきて、曲のスケールが拡大。の子の歌もシャウトになる。の子が舌で時計の針の音を表現し、ジャーーン!と音が打ち鳴らされる瞬間がかっこいい。
「算数ができるのかい、算数ができるのかい、"はい先生"とかぬかすけども、そんなことは私の人生に、関係ない」
ぶつぶつ呟いた後、「私の人生、算数よー」という何重にも聴こえる心の声のような響きが、次第に激しい演奏に乗っかっていく。みさこの息継ぐ間もなく叩き続けるドラムがたまらない。突然のアングラ感。この曲だけ、セットリストでは明らかに浮いている。
演奏後、の子が「どうだった?」と画面を見上げてパソコンの前の観客に尋ねる。比較的、絶賛の嵐。「"落ち込んだ"って?」などと読み上げていく。
「ということで、残り2曲なんですが…」
これを言うのは毎度、ちばぎんの役割。「えーーーーっ!!」とお決まりの反応。「そういうもんなんですよー」とみさこがニコニコして応えるが、「俺、まだ5曲しかやってねーぞ!」との子はまだまだやり足りない様子。「5曲しかやってないことはない!」とちばぎんがつっこみ、「『ゆーれいみマン』いきます!」とさくさくと演奏を進めようとする。客席からは「もっとやってー!」という声。
mono「しょうがないでしょー!」
の子「しょうがなくねーよ!金払ってんだよこっちはよー!精神払ってんだよ!」
mono「俺だって払ってんだよほんとによ!」
の子「てか前回よりコメント少ないのはなんでだ?」
mono「NGコメントとかあるんじゃないの?」
の子「NGコメントも来いよ全部!!」
相変わらず、配信の刺激を求めている。しかし、時間は迫ってきている。まだまだ雑談をしたがっているの子であるが、他のメンバーは次々に演奏を促し、そのたびにの子が「ちょ!待てよ!」といったリアクションをする。どちらの気持ちも十分に分かるが、仕方ないことだ。
「前回の骨折がトラウマでぶん殴れないっていうね」との子がmonoの拳について触れる。「もう、の子すらぶん殴れないよ」と言うmonoに、「ああ?ぶん殴れよ」との子。
しかしこれが、後の展開の伏線になるとは。
『ゆーれいみマン』は心なしか、少しテンポが早い気がした。話し足りないことに不満そうな顔をしていたの子であるが、演奏になると表情にも気合いが入る。しかし、入りすぎていたのか、口元から逃げ、言うことをきかないマイクスタンドに腹を立てる。スタンドを直しに来た劒マネージャーの活躍もむなしく、怒りのあまりマイクスタンドを思いっきりステージに叩きつけるの子。
マイクを失ったの子はステージ前でギターを掻き鳴らしながら、両手を上げて観客を煽情。そして「うーっゆれい!」というみさこのふんわりとした声に合わせ、手を浣腸のような形にして垂直に飛ぶという振り付けをする。
間奏はどこかかみ合わず、最後の語りもズレズレのまま歌ってしまっている。それでもなんとか突っ走り、無事に演奏が終了する。
間髪入れずにちばぎんが『いかれたNEET』のベースを始め、その潔い進行に"ちばぎんwww"とコメントが流れていく。monoがマイクを握り、リズムに合わせて即興ラップを披露。「ニートっ。ラップもできねークズニートだけど俺はっ」と言いかけると、の子が強引に入ってくる。「お前はニートじゃねえ。この先結婚する。俺はそんなの興味ねえ。貯金もあと500万もある」と、さりげなく自分の貯金を暴露。黒い笑い声を放ちつつ、「なんだかんだでニートになっていくかも知れないです」と呟き、『いかれたNEET』へ。
monoが「ほーいほーい」といったひょうきんな動きで軽やかにステージを歩き回りつつ、の子の「にぃぃいいとぉおおお!!」という絶叫が会場全体を包む。狂気にも爽やかにも見えるの子の表情がLEDの画面に映し出され、一緒に歌うかのように、その上に"にーーーーとぉおおお!!!"といった文字がたくさん流れていく。
この曲の最後はいつも、ギターを叩きつけるような動きでステージ脇のスタッフの緊張感を漂わせるが、この日は大人しくマイクスタンドの前に立ったままのの子。「ありがとう」と挨拶し、演奏が終わる。大量に"88888888(拍手)"といったコメントが流れる中、メンバーがステージを去っていく。が、の子だけはやはり居座っている。
「まだ6曲しかやっていない!てめーら、生主!生主じゃねえ!聞け!全然やってねえよな?"いい解散ライブだった""限界までやれ"当たり前だよバカヤローほんとに!」
歓声が上がり、の子は満面の笑み。「なんのためにスタジオコーストに来たと思ってんだよ!」と更に観客を盛り上げる。
「俺はここで言いたい!まじで。お客さんがわざわざここに来てくれたってことは、それなりのものをちゃんと還元する、そう、熱い魂、熱い魂のぶつかり合い、摩擦です!そっから生まれるメラゾーマが欲しいんです僕は!まだメラゾーマじゃねーだろてめーらーー!!まだメラゾーマじゃねーだろてめーらーー!!はーびゃびゃびゃーーー!!!」
一人きりになったステージで、中央のパーカッション機材を置いてある台に上って煽情するの子。劒マネージャーが「捌けるように」と背中を叩いて伝えるが、まったく気に留めない様子だ。「延長してー!」という観客の声。やがてノートパソコンを手に持ち、「こっちのほうがコメント多いな」などと呟く。
の子が一人で喋り続ける中、メンバーがステージに戻ってくる。
「の子が引っ込まないせいか、アンコールかなんなのか分かんない感じになってますよ」とちばぎん。「一応アンコールでーす!」とみさこが笑顔で挨拶する。
ちばぎんが「よし!『メモライザ』いきましょう!」と促し、「の子さん、この画面見ながら歌うんだっけ?」とみさこが尋ねると「うるせー!」の一言。「うるせー頂きました!」と破れかぶれに喜ぶみさこ。
『夕暮れメモライザ』は配信のコメントでリスナーに歌詞を打ってもらい、完全カンニングスタイル。これが新時代のライブなのだろうか。
の子がチューニングしている間、monoが「ちばぎん、誕生日プレゼントで一番嬉しかったのは何?」と場を繋げる。「ま、そんなクソみたいな話は抜きにして」との子が話をぶった切る。「なんでだよー!」と言うmonoに対し、「あたりめーだろ。そんな祝いごとは全部死ねよ。ぶっちゃけ俺から言わせてみれば、クリスマスとか正月とかさ、全部死ね!知ったこっちゃねーよ」と答える。
コメントを読み続けるの子。「時間がやばいっす!」とちばぎんが焦るが、「時間なんか関係ねーんだよ!時間なんて存在しねーんだよ!」と不機嫌そうに叫び、歓声が上がる。
こうして『夕暮れメモライザ』へ。
マイクスタンドの方向を変え、LEDの画面に向かって歌うの子。観客に完全に背を向けており、流れていく歌詞を追いながら歌っていく姿が印象的だ。歌い出しから歌詞を間違えており、本気で歌詞を見ないと分からないのが伝わってくる。「ふぁっきゅー」ではカメラ目線をキメていた。しかし、思ったよりもコメントが少なく、若干のタイムラグも関係しているのか、歌詞がほとんど追いついていない。
「コメントの人ありがとうございます。全然歌詞読めなかったけどな」
しかし、歌詞を打つのも相当大変だ。少なくとも、コピペしないと間に合わないものだろう。ニコニコしながら画面を見上げているの子であるが、「ほんとに、残りがあと2曲になってしまいました」とちばぎんが告げ、ライブの終了時間が刻一刻と迫ってきている。客席からは「もっとやってー」といった声。
ちばぎん「終電が無くなるんだよ終電が!」
の子「終電なんかどうでもいいじゃん!」
ちばぎん「どうでもいいの?みんな大丈夫なの?」
の子「え?終電、どうでもよくね?」
相変わらず、の子は時間を全く気にしない。の子が喋り続けるたびにステージには不穏な空気が流れ、「早くしなければ」といった焦りがメンバーから幾度となく感じられる。それでもの子は自由気ままに観客と画面に話し続け、「セットリストの紙見せて」などとゆったりと過ごす。
「あの、時間があれなんで、決まってなかったら決めちゃっていいすか?」
ちばぎんの問いに、の子は「時間なんかどうでもいい」とやはり同じ返答。「正直、俺はどうでもいいんだけどね、時間なんて」とちばぎんが返すと、「バンドとしてどうでもいいなら、どうでもいいじゃないかー!」との子が嬉しそうに叫び、歓声が上がる。そこで「『ロックンロール~』とかどうすか?」と尋ねると、の子が「なに?」と明らかに不満そうな表情でちばぎんを見つめる。そこでmonoがの子の空気を察知したのか、言葉にならない訴えをちばぎんに見せる。すると、の子の機嫌がここから急激に悪くなったように思う。
「クソ腹立つわちくしょー。(LEDを)ぶち壊してえわこれ」
突然、怒りを表すために悪態をつく。「ちなみに、LEDを壊すと会社が潰れるそうです」とちばぎんが説明すると、ボイスチェンジャーで高い声になったままの子が不機嫌そうにぶつぶつ呟く。の子の不機嫌を感じたmonoがなんとかフォローしようとする中、「お前ら、地球人みたいな顔してんじゃねーよ。とりあえずいきます」との子が自ら演奏を促す。
すると『友達なんていらない死ね』のイントロへ。の子は戸惑い、ギターを弾かずに立ち尽くす。そして演奏がストップ。観客の「えーーーーっ!?」という反応。
「ちげーだろこのやろー!」
の子が怒鳴る。「分かったっしょ?今。客のが分かってるってどういうこと?地球人みたいな顔してんじゃねーよっていう後のノリ、『Os-宇宙人』いくじゃん?」
「わかんねーよ!」と若干キレ気味にmonoが訴える。それに立ち向かうように、「はあ?分かるだろーがこのやろー!」と同じ調子でキレるの子。「わかるかわかんないかいいから、早くやろ!」「宇宙人やろ!」とちばぎんとみさこが促すが、まだの子が怒り気味。それに対してやはりmonoも怒るが、そこでの子が「アニメの話よこせよーー!」と笑いに変える。
急ぎ足で『Os-宇宙人』へ。
演奏後、「くっそーーーー!!」と叫ぶの子。画面を見上げて「"88888"ってうるせー!真実、リアルを言え!"最高だよ"ほんと?うそ?ほんと?アイドンノウ、不完全燃焼」と呟き、舌打ちをする。
「"次枠とれ"?」に対し、「とれないよーほんと。ありがとうございました」とmonoが言うと、の子に「締めんなそこで!反逆精神というものがないのか!」と叱られる。「ふぇい」とみさこが掛け声を上げると、「お前もだよ!」と更に叱られる。「そういえば重大発表って何だったっけ?」とみさこが話を振ったことで、メンバーすら誰も把握していない重大発表の話に。ぼんやりとした会話に、の子が「お前らの話聞いてるんだったら家で『パイの実』食ってたほうがマシだよ!」と不機嫌そうに叫ぶと、スタッフ・成田くんがその隣で笑っていた。
「言ったら、これがまだ第一部なんだよ」
の子の思いがけない言葉に、戸惑うメンバー。「みんなでストライキするんだよ!"やらせろやらせろー"って」と続けると、「うんわかった。もう1曲やってからそれやろう」「奇跡が起こるかも知れないから」とちばぎんとみさこがとりあえず1曲演奏するように仕向ける。
客席からの「やってよー!」「ベルセウス!」「グロい花ー!」といった声にゆっくり応えながら、セットリストの紙を眺めるの子。時折笑顔を見せる。「とりあえずお前らの意見は全員死ね!」と、またもや思いがけない言葉が。
「ね、これで分かるでしょ?」
ボイスチェンジャーで高くなった声で尋ねるの子。「全然わかんないす…」とちばぎん。「『夕方のピアノ』!」という客席の声に、の子は「ね、分かってないのはてめーらだけだよ」とメンバーに言い放つ。「もっとねー…お前、何人いるか分かる?」とmonoに尋ねるの子だが、ちばぎんが「分かったから!早くやらないと、1曲もできないっていう空気に今なってるから!」と再び仕向けるも、「えー、やだ」とごねるの子。突然、「僕が旅に出る理由は~」とくるりの『ハイウェイ』を歌い始め、「この曲だけ好きなんです」と。
「関係ねーよ。では、いきます。『友達なんていらない死ね』」
ええっ!『夕方のピアノ』じゃないの?
キンキンに高くなった声で『友達なんていらない死ね』へ。終盤、ボコーダーのマイクで歌う箇所があるが、スタッフがそのために使用するマイクを設置するのに間に合わず、の子がうまいこと場をつなげるように両手を上げていた。設置されたマイクで歌うも、音が出ず。不思議そうに歌い続けるの子。
「ボコーダーどうしたんだよおっ!!」
演奏後、さっそく指摘。それでも、設置されるまでちゃんと大人しく待機する彼の姿に若干の優しさが感じられた。
「あの、めちゃくちゃすぐにやったら、あと2曲やっていいそうです」
ちばぎんの案内に、歓声が上がる。みさこも両手を合わせて「ありがとうございます~!」といった表情。の子は気に留めず、「ボコーダーどうしたんだよおおっ!!」とまだ言い続ける。「の子さん、そんな時間ないっす!」とちばぎんが進行を促し、「『ロックンロール~』やろっか?」と提案。の子は不機嫌そうに「くっそー!」と言いながら地面のエフェクターを見つめ、無反応。「とりあえず終電とかもあるだろうから、ちゃっちゃといくぜ!」とmonoが言うが、「関係ねー」と一蹴する。
「くっそ。まじでよー。なんなんだほんとによー。金返せこのやろちくしょー。全然わかんねえ俺、ちくしょー。"怒ってる?"怒ってるに決まってんだろーが完璧主義者のの子さんがよーー!あー!?くそー!!」
延々と舌打ちを続けるの子。「の子さん、そんな時間ないっす!」と再びちばぎんが進めようとするが、の子の苛立ちは収まらない。沈黙が流れ、「ああ?」と不機嫌そうに尋ねると、monoが「『ロックンロール~』だよ」と。「そんなんアンコールでやりゃいいじゃん」と答えるが、今まさにアンコール中だ。笑いが起きる。
「アンコールでやればいいの!今は、他の曲を3曲くらい4曲くらいやって、その後『ロックンロール~』やるの!」
「もうアンコールなんだってこれ!」とmonoが落ち着かせようとするが、「お前らさあ、死んだらこんなもんどうだっていいんだよ?こういった時間は二度とないんだよ?多少怒られようが知ったこっちゃねーんだよ」と、の子の意志は堅いようだ。歓声が起きると、「別に俺はかっこつけてるわけじゃねーんだよ!」と反発する。
mono「俺だってそうだよ!」
の子「えらそう?」
mono「いや、俺だってそう!」
の子「…何言ってんのか分かんね」
こんなときでも、相変わらずのディスコミュニケーション。
画面を見上げ、「コメントが読みやすくなってきた」と呟くの子に対し、ちばぎんが「とりあえず、あと何曲やってもいいけどこの時間は無いです」と急かす。「お客さんに曲聴かせましょ?」とみさこが提案すると、素直に「そうですね。僕も怒ってばっかじゃダメですね」と納得し、成田くんが耳打ちすると「あと4曲?」と笑いながらボケる。
「『ロックンロール~』じゃなくていいから、何をやるか決めましょう」とちばぎん。セットリストの紙を見て、「コタツ」と呟く。
「ほんとによ。反逆精神…ていうかなんだ。守りに入ってんじゃねーぞ。全員敵だからな、会社も。そう、攻めろ攻めろ!お前らも攻めろ!それこそストライキだからな!延長!延長!延長!」
の子のアジテーションにより、客席から「延長!」「延長!」といった掛け声が。「はやくやれー!」という野次の中、『コタツから眺める世界地図』へ。
演奏後、すぐさま「このまま『天使』いくぞ」と言うの子だが、マイクの調子がおかしいのか「あー、あー、あー、」と何度も繰り返す。「やる気あるの?」という観客の声に、「なんだてめーこのやろー!俺が逆にやる気あるじゃねーか!俺にやる気がなかったらどうなんだ?会場全体?え?そういうことだろ?」と突っかかり、しつこく「やる気あるのか聞きたいね」と尋ねるの子に「じゃ曲いきましょう!」「いっちゃっていいですか?」とみさことちばぎんが促すも、「話してんだよーー!!」と反発するの子。「話さなくていいから曲やるぞー!」とみさこ。「はい、いきまーす!」とちばぎんが合図するが、の子は不満そうに「なんだよ、淡白だなあ」と呟く。
みさこがドラムを鳴らし、『天使じゃ地上じゃちっそく死』が始まる。
が、の子はギターを弾く気が全く起きない様子。歌いだしの「いやだー」もやる気なく歌い、本当にいやな気持ちが伝わってくる。リズムを完全に無視するかのように「しにたいなー」を繰り返し、ギターもなんだかめちゃくちゃだ。メンバー、観客、あらゆるものに反発しているように見えた。
だけど、この曲にはそういった空気が合っているのかも知れない。すべてを断絶しようとする気持ちが「しにたいなー」に集約され、その叫び声が次第に大きくなっていく。とてつもなくリアルな「いやだー」「しにたいなー」がそこにあった。
最後はギターを叩きつけようとし、成田くんが止めに入る。それでもギターが手からスルリと抜け、地面に落ちる。
メンバーがステージを去り、の子はやはりまだ残っている。意味不明な歌を歌い続け、ステージ上をうろうろしている。場内BGMが流れ、客電がつく。
ステージ中央の台に上がり、その上で画面上に流れるコメントを読む。「"もう終わりかい"ほんとだよマジでな。"楽しそう"楽しくねーよこんなんな。こんなんで納得できるかこのやろー!」と喚き散らす中、劒マネージャーが駆け寄り、指で「あと1曲できる」と伝えるが、「1曲じゃ足りねー!!」と怒鳴る。
まだまだやり足りないの子は「短けーんだよ!なんでこんなに短いんだよ!」と不満を吐き散らす。「延長!延長!」と歓声が上がり、メンバーが戻ってくる。
「の子さんの子さん、ラス1だったらやっていいって」
ちばぎんが伝えるも、「ラス1でいいわけねーじゃねーかこのやろー」とまたもや反発。「じゃあ終わろう。ラス1でダメだったら終わろう」と返されると、戸惑い気味に「終わろう?終わんねーよこのやろー」と諦めない。
「逆に俺は問いたいんだが、こんなことでいいの?今、この瞬間だよ!今この瞬間に、集まってきてくれている人のために!イラつくだろ!?」
もはや会場全体がの子の気持ちに左右されている。だけど、ライブハウスには時間がある。それもの子には関係ない。ステージが独裁状態だ。もはやここはスタジオコーストではなくホロコーストだ。
それでも歯向かうのが、「何がイラつくって?」との子に駆け寄るmono。「分かるだろこのやろー。私たちプロですよ?お金払ってるんですよ?私たちプロですよ?大切なことだから二回言った。お客さんが満足するものを、いや俺は客のこと考えてないけども、そこは期待を裏切りつつもっていう精神はさー、そんなものはあるだろ?こんだけ人が集まってて!」との子が訴え続ける。
「だったら曲やろうよ?」「そうだよ!」
monoとみさこが正論で立ち向かうが、「そんなもんやんねーよ!」との子。「あと4曲やるんだよ!」と相変わらず4曲にこだわるの子に、ついにmonoの堪忍袋の緒が切れた。「うるせーんだよバカヤロー!」と怒鳴っての子に近づき、「うるせーてめー!おめー分かってねーだろ!」と言い合いに。
「できねーっつってんだろーがこのやろー!」
「じゃあ何だお前?結婚して何だ?親思いかお前?」
顔を近づけて怒鳴るmonoの導火線に更に火をつけるかのごとく、の子がケンカを売る。「関係ねーよ!」とマイクを奪って反論するmono。「おめーそれでもロックかこのやろー。ポップロッカーかこのやろー」との子も止めない。LEDの画面にはうずくまりながら二人の様子を見つめているちばぎんの姿が映し出され、彼の言葉にならない訴えが一つの絵で十分に伝わってくる。心の声が聞こえてくる。吐き捨てーて!と元気よく歌っている数日前の彼がウソのようだ。とにかく、早く終わらせて帰さないとちばぎんの体調も危険だ。かわいそうだ。あと1曲演奏すれば済む話のはずが、まさかのケンカ勃発。この展開には、ちばぎんに同情せざるを得ない。
の子とmonoが顔面を近づける様は、昨年の2度の殴り合いのケンカを思い出さずにはいられない。
「お前茶番だと思われるだろーがよー!くそったれ!」との子が叫ぶと、monoがの子に体当たりをぶちかます。
すると、の子が身体にパンチして応戦。monoはの子の顔面を思いっきり殴る。
バトルが始まってしまった。
昨年11月の渋谷WWWと同じ光景。デジャブを感じずにはいられない構図がステージに。の子、monoを取り押さえるスタッフ。まだ言い争いを続ける二人。
「痛くねーよばかやろー!お前わかってねーんだよ!全然痛くねーよ!またなんか茶番みたいに言われるんだよこれ!」
突然、の子が泣き出す。monoに言われたくないことでも言われたのか、子どものように顔をくしゃくしゃにして泣いてしまった。
まさかの展開に、どよめきにも似た笑い声と心配する声の両方が客席から飛び交う。
慰めるようにの子の肩を撫でる劒マネージャー。歯を食いしばり、怒りと悲しみが入り混じった表情でブルブルと震えるの子。今年5月に放送されたNHKのドキュメンタリー番組『ETV特集』を彷彿とさせる絵に、コメントには"減らせるよ"と番組内での劒マネージャーの言葉が流れる。減らせる予感のない状況で、の子は更に訴え続ける。
しかし、その訴えが途中からよく分からないものになってきている。お客さんを満足させるためにたくさん曲をやりたい気持ちは分かるが、それを訴える分、時間が無くなっている。矛盾しているのだ。もはや、の子に時間という概念が存在しないことになっている。「瞬間、瞬間」なのだろうが、現実とかみ合っていない。気持ちは十分伝わるのに、その不器用さに対応できるのは誰もいない。
「時間とか関係ねーだろーがそんなもんよー!」
ちばぎんが「の子さん、の子さん」と呼びかける。このムードで、最も心配していたことがあった。ちばぎんがブチ切れることだ。いまだかつて、ステージ上で彼がの子に切れたことは無い。ある意味、そこは破ってはいけない危険な領域。ちばぎんが感情をぶちまけると、あらゆるバランスが一気に崩れる。その恐怖を感じていた。
そこで、思わぬ人が声を荒げた。
の子が「関わってるとか関係ねー!俺はバンドのほうを大切にしてんだよー!!」とマイクを床に叩きつけると、みさこが上ずった声で怒鳴ってしまった。
「ここでライブできるために何人の人が関わってると思ってんだよクソヤロー!!」
バシーン!!
感情を表すように、思いっきりドラムを叩く。『ちりとり』の演奏中のような、迫力のある動きだ。突然の出来事に、会場の空気が凍りつく。
の子が怒りのあまり、ドラムセットに突っ込む。猫のような素早さだ。みさこも怯むことなく立ち向かおうと応戦するが、の子はドラムセットの前でmonoとスタッフ・まきおくんに取り押さえられ、みさこもスタッフに取り押さえられる。
そのとき、みさこのおっぱいが完全に鷲掴みされていた。
「むんず」といった具合の鷲掴みだ。
怒りが収まらないみさこは取り押さえられながらも抵抗し、ドラムセットが崩壊する音がガシャーン!と鳴り、ステージ中央にはスタッフが集まり、騒然とした光景に。
LEDの画面に映し出されたみさこの表情は、髪の毛に隠れていた。リボンが空しく揺れていた。の子はそのままスタッフとちばぎんに抱きかかえられ、ステージ脇へと運ばれていく。みさこもスタッフになだめられ、去っていく。
最後、一人残ったmonoがやり切れない様子で去っていくみさこを眺め、「合掌」にも似た形で両手を合わせて客席にお辞儀し、無言のまま去っていく。
なんていう終わり方だ…
唖然とした様子の会場。
場内BGMが鳴り出し、LEDの画面には"こんな終わり方かw""みさこ、大丈夫か?""大戦争だな""解散だな"などといったコメントが流れ続けている。
その後、劒マネージャーが一人ステージに戻り、謝罪する。どうやら、かなり野次を飛ばされている様子だ。「本当に、ごめんなさい。…お気持ちは、はい。今日はありがとうございました」とマイクを使って言い、去っていく。
しばらくすると、ちばぎんもよろよろと歩きながらステージに戻ってくる。
「お客さんにいいもの見せたいっていうのはの子だけじゃなく、メンバー全員そう思ってるんで…これがかまってちゃんのライブだからって許してもらえるとは思ってないんで、配信でもなんでも、また来てください」
力はなく、だけど心のこもった挨拶。「ちばぎーーん」「ありがとーーー」という声援と拍手が響く中、神聖かまってちゃんのライブは終了する。
まさかこんなライブになるとは。
異様なムードに包まれたまま、会場をあとにするお客さん。戸惑いを隠しきれず、暗い顔でうつむいている人も少なくはない。
なぜ、こんな終わり方になったのか。
特別なライブにしたいの子さんの気持ちと、その気持ちを十分汲み取りながらも迷惑をかけずに無事にライブをしたいメンバーの気持ちとの摩擦。どちらも間違えていないことだ。この摩擦がまさか、の子さんの言う"メラゾーマ"となってパンチと怒鳴り声と鷲掴みになるとは。
とにかく早く演奏すれば済む話なのに、とは言っても、の子さんの思惑はなかなか分からない。ゆったりと間を取り、演奏をするのはいつものことだ。彼の言っている"反逆精神"というものは、この日ばかりは状況、メンバー、スタッフ、観客にも向けられていたのかも知れない。
「早くやれ!」と言われると、「言われた通りにやるのも、なんだかなあ」と。
そんな気持ちも少しあったように思えた。それに、神聖かまってちゃんのニコニコ生放送ライブとなると当然、雑談することも醍醐味の一つである。の子さんとしては、『雨宮せつな』『算数の先生』という初披露の楽曲を2つも用意するほど、この日のライブを特別に思っていたとは思う。「今日来てよかったっしょ?」なんて冒頭から尋ねるくらいだ。その気持ちは伝わるし、メンバーの彼の気持ちを尊重しつつも進行させなければならない状況も分かるし、なんとも言えない後味の悪さを残してしまった。
でも、どこかライブのオチをつけようとケンカに持ち込んだようにも見える。みさこさんの怒りは想定外だったかも知れないけど、の子さんとmonoくんのケンカは、このライブを特別なものにしようとしたの子さんのせめてもの演出にも受け取れた。彼は相手を苛立たせることが上手い。真相は分からない。すべてが想像だ。
間違いないのは、みさこさんに襲いかかるの子さんを必死で食い止めるmonoくん。そしてゆっくりと止めに入ったちばぎん。とにかく大変な思いをしているスタッフ。お客さんの罵声も歓声も、すべてが正しいように思える。
ツイッターなど、ネットを覗くと「誰が悪い」「誰も悪くない」「ロックだ」「ロックとかじゃない」「最低なライブ」「最高だった」「茶番だろ」「刺激的だった」などと感想は様々。どの感想も間違えていないだろうし、その人がそこで感じたことがすべてだと思う。
僕もこのライブでたくさんの誤解をしているだろう。だけど、の子さんの考えていることがすべて理解できるようであれば、あれほどの楽曲は作られないし、神聖かまってちゃんというものが面白くはならないはずだ。
終演後、恐る恐る楽屋に入る。
あの後だ。どれほど気まずい空気になっているのか恐かった。王室のような部屋のドアを開けると、思いもよらぬ光景が目に飛び込んできた。
の子さんが担架の上でタバコを吸っていた。
担架?
ケガ?
で、タバコ?
優雅にタバコをすっぱすぱ吸っており、大変なのか余裕なのか分からない光景がそこにあった。
「骨折っすわ…」
え?
「複雑骨折っすわ…」
の子さんは片足を上げていた。どうやら、ドラムセットに突っ込んだときに右足の脛を直撃させ、激痛を覚えたようだ。
「マジで骨折っすわ…」とは、いつかの新代田FEVERでの「88万円っすわ…」を彷彿とさせる哀愁を感じざるをえない。
その傍ではmonoくんが座り込み、片手にタオルを巻いている。Daredevilのスエタカさんが「monoくんも手、やっちゃったみたいなんだよ」と。まさか。あのときのように楽屋の壁ではなく、今日は顔面を殴ったのに。以前骨折した方の手で殴ってしまったようだ。それほど本気だったんだろう。
てか、骨折ってマジ?
えっ、マジ?
うっそでしょ?
まさかのケガ人二人。そして、ちばぎんという病人一人。みさこさんの姿はなかった。
緊張感のある空気であるにも関わらず、カメラマンの佐藤さんが「竹内くん、そこにしゃがんで。はい、こっち向いて」と、なぜか担架に乗ったの子さんとの記念写真を撮ろうとする。この人は僕の親父なのか。いつも通りの佐藤さんに「ちょwww」といった笑い声が。空気が少し和らいだ。
余裕でタバコを吸っている様子のの子さんだが、バランスを保っているように思えた。単に担架に乗っているとなんだか可哀相にしか見えないが、すっぱすぱと余裕でタバコを吸っていると同情心も薄まってしまう。
「竹内さん、今日のライブどうでした?」
一番聞いてほしくない質問だ。
の子さんは若干、いじわるな笑顔をしていた。「『算数の先生』が良かったです…」としか言えない。そもそも、彼が「どうでした?」と尋ねる日は、だいたいが返答しにくいライブの後。でも、この日の場合、最後はとにかく悲しい展開になったけど、僕としてはところどころグッとくる場面はいくつもあった。
しかし、うわべの意見を言ってしまった気になった。
「これ、良かったろ?(歓声に対し)お前らうわべだけで良かったつーけどな、こいつらだよ!(画面に向かって)お前ら良かったのかよこのやろー!」
この日のライブでも言っていたように、彼がかねてからネット上で言っている刺激的なものとは、リアルな意見だ。それは配信のコメントで流れてくる。現実だと、対面すると良い部分だけを伝えがちだ。誰でも、嫌われたくはない。そして自分が言える身分であるのか考えてしまう。匿名にはそれがない。批判も中傷もあって、ようやくライブが成り立つ。なんとなく、の子さんが求めている"ライブ"はそこにあるのだと思っている。
だけど、今、の子さんに直接面と面向かって意見を言えるような人はどれくらいいるのだろうか。
そういう意味では、みさこさんの怒鳴り声は刺激的だった。
楽屋の外に出ると、みさこさんが廊下で「うわーーん」と言いながら近づいてくる。「恥ずかしい…」と嘆いていたが、なぜかベレー帽を被っており、美大生っぽい。「『天使じゃ地上』からずっとイライラしていて…」と、あのやる気のない歌い方やギターに思うことはあったようだ。だからあれほどドラムが力強かったのかと納得。めちゃくちゃなボーカルと、やたら強烈なドラミング。あれはあれで良かったと思ってしまう僕は、ダメなんだろうか。あのへんの摩擦がメラゾーマな演奏にも感じられてしまったけどなあ。
あのときのみさこさんは、吐き捨てて、すべて壊してしまうかのようだった。しかし、爆音とともにすべてを捨てて踊れるわけにもいかず、明日に矢は放たれない。さぞかしグレートエスケープしたかったことだろう。
ちばぎんは力のない声で「お疲れ様でした…」と精一杯の笑顔だった。
やがて担架で運ばれていくの子さん。
神聖かまってちゃんに携わっている大人たちが一丸となって、の子さんが乗っている担架を持つ。協力し合って彼を持ち運んでいくその姿は、ひょっとすると神聖かまってちゃんを取り巻く現状を表しているのかも知れない。
「竹内くん、タバコ取ってあげて!」
ワーナーの野村さんに言われ、の子さんの口元を見る。すると、くわえられたタバコの火がそろそろ口にまで到達しそうな勢い。頭にタオルを被せられたの子さんはそれに気づいていない。
これはまずい。
手で掴める面積が少なくなったタバコを、動きながら取るという一つのチャレンジが始まった。火の輪っかをくぐり抜けるようにタバコを掴み、の子さんの口元から離した。が、熱っ!後で気づいたが、そのとき指を思いっきりジュッとやってしまった。帰り道に指の色が変わっていることに気づき、急いで缶ジュースで冷やした。
タバコの火はとにかく熱かった。ライブと同じくらい熱かった。
そのまま車の中まで運んでいく。monoくんも担架に乗ったの子さんと一緒に車に乗り込み、二人を乗せた車が23時過ぎの新木場を走っていく。
見送るスタッフと、出待ちのファンの方々。
静まり返ったスタジオコーストの会場前。
来るときに看板に貼られてあった『SHINSEI KAMATTECHAN』が一文字ずつ撤去されつつあり、一日の終わりを告げていた。来るときと同じように写真を撮るカメラマンの佐藤さん。文字を左から順に撤去していく様に『AMATTECHAN(余ってちゃん)』になる瞬間を待ち望んでいたが、スタッフが順番を飛ばして撤去してしまい、『K M TTECHAN』に。「そっからいくかー…」と嘆く佐藤さん。
こうして、神聖かまってちゃんの今年最後の東京公演が暮れていく。
なんとも言えない余韻。それでも、ケンカについてはネット上で神聖かまってちゃんをあまり知らない人も反応していた。嫌悪も含め、興味を示す人も少なくはなかった。
感想をたくさん綴る人、心配する人、怒りを覚える人、感動する人。メンバーを含め、神聖かまってちゃんを想う人々が刺激的な言葉を発していた。
結果的には、の子さんがあらゆる人の"本気"を誘発させているように思った。意識はしていないだろうし、天然だろうけど、「クソ」とまで言わせることは意外に少ない。人間臭く、ありのままの感情をぶつけられた。口の中のデキモノのように、気になって仕方がないライブにはなったように思う。
monoくんもみさこさんも、お客さんにもバンドにも本気だからこそのケンカに思えた。
これがやがて笑い話になる日は来るのだろうか。今までもそうだったように。
の子さんの足、monoくんの手、ちばぎんの体調、みさこさんのおっぱい。それだけが気がかりです。
(結果、の子さんの足もmonoくんの手も折れてなく、ちばぎんは回復に向かい、みさこさんは宇宙刑事ギャバンが好きなようです)
関連リンク : みさこ『装苑』BLOG / 劒マネージャーBLOG
2011年12月13日 新木場STUDIO COAST
<セットリスト>
1、雨宮せつな
2、あるてぃめっとレイザー!
3、ねこらじ
4、ベイビーレイニーデイリー
5、自分らしく
6、制服b少年
7、夜空の虫とどこまでも
8、算数の先生
9、ゆーれいみマン
10、いかれたNEET
(アンコール)
1、夕暮れメモライザ
2、Os-宇宙人
3、友達なんていらない死ね
4、コタツなら眺める世界地図
5、天使じゃ地上じゃちっそく死
2011年12月11日日曜日
【連載】神聖かまってちゃん物語~第3話「なんで俺だけグラサンかけてんの!?」~
劒さんは神聖かまってちゃんにかまおうとしていた。
今度、会社をやるらしい。マネージメントの仕事を始めるそうで、名刺を貰う。そこには『恋愛研究会。』と書かれていた。これは劒さんが大阪時代から所属していた集団の名前でもある。あの頃から絶対恋愛を研究する気ないだろうと思えるイベントばかりやっていたけど、まさか会社名になるとは。
劒さんとは、お互いが上京する前からの知り合いだ。いつの日か、東京の街で自転車を二人乗りしたことがある。
「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかなあ」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」
金子賢にも安藤政信にも程遠いビジュアルの二人だが、渋谷から下北沢までの道すがら、映画『キッズリターン』のセリフを呟いてみた。
「もう終わっちまった…とかだっけ?」「始まっちゃいねー。とかでしたっけ?」
二人ともうろ覚えだった。終わっても始まってもいないストーリー。それは都会に出てきた二人にも言えることだし、下北沢・渋谷屋根裏でしかライブをやらない神聖かまってちゃんにも言えることなのかも知れない。
スーツをビシッと着込んだ大人が携わるより、劒さんのようなクセ毛の人が関わるほうがきっと面白い。そして才能を見抜く人だ。また、ステージ映えするベーシストでもある。
「仕事として、面白い人たちをマネージメントしていこうと思っててね」
劒さんが神聖かまってちゃんに興味を持ったことが何よりも嬉しかった。僕は、上京するときの深夜バスの車中、彼が「都会でも頑張ってね。」と一言メールを送ってくれたことを忘れていない。
渋谷LUSHのカウンターで、僕が勝手に作った"神聖かまってちゃん宅録音源CD-R"を渡した。1曲目が『雨宮せつな』という、こだわりの選曲だ。ここに神聖かまってちゃんの魅力が詰まっている。
後日、劒さんからあのときのように一言メールが送られてきた。
「23才の夏休み、最高。」
こんなメール、いまどき高校生でも送らないだろう。どれだけ分かりやすい反応なんだ。それほど、気に入ったということなのだろう。
その頃、サマーソニック2009の一般公募枠のイベント『出れんの!?サマソニ!?』に神聖かまってちゃんが出演の応募していた。ある程度の順位まで上りつめると、次の審査にいけるらしい。
だが、応募のプロフィールにはなぜか『ガールズバンド』と書かれていた。ガールは一人しかいないだろ。しかも『平均集客数…7、8人』とはバカ正直すぎる。
この人ら、本気でサマソニに出る気あるのか?
それでも、mixi日記で投票を促した。それはもう、強引だ。お節介そのものだ。
「"投票する"を押すのです。押すだけでいいのです。押しましたか?おっ、いいですね!最高です!あなたとは一生関係が続きそうです!よろしくお願いします!」
胡散臭い業者のようなことをした。なぜなら、とにかく大舞台で彼らを見たかったのだ。しかし、いまだ知る人はほとんどいないバンド。7、8人しかお客さんが来ないバンドがサマソニに出るなんて絵空事だ。
6月25日、渋谷屋根裏で神聖かまってちゃんのライブがあった。
前回以上に興味を示してくれた人が多く、CD-Rを配った甲斐あってか、10人くらいの友人がライブを観に来てくれた。みさこに自慢げにそれを言うと、「竹内さんのお友達って病んでるんですね!竹内さんも病んでるんですね!」とまさかの反応を満面の笑みで言われた。
客席には劒さんの姿もあった。Perfect Musicという会社の社員の方を2人連れていた。僕は前回同様、ビデオカメラを後方から回し、神聖かまってちゃんのライブを撮影した。
これがもう、ある意味歴史に残るようなライブになった。
彼らは30分の枠であるにも関わらず、55分間もライブをした。しかし、演奏したのはたった4曲。の子が『アラレちゃん音頭』を踊ったり、monoとフリーラップバトルしたりと、とにかく自由気ままなライブだ。
の子はmonoに対し、「人生が中途半端!」「23年間生きてきて、お前は一体何をした?」と挑発。ラップバトルというより、単なる口ゲンカみたいだ。そして最終的にの子が放った言葉に、会場が笑いに包まれた。
「これが…ジャズだ!!」
なんかもう、めちゃくちゃだ。そのとき、劒さんの笑い声も聞こえた。
ただでさえ時間をオーバーしたライブをしているのに、ライブ後もずっとステージに居座ろうとするの子。彼をmonoとちばぎんが必死に取り押さえ、楽屋に連れていく。
「違う…もっと…触れ合いたかったんだよぉ…」
ステージ脇から聞こえるの子の声が切ない。ライブハウスは終始笑い声に包まれた。今までに見たことのない、グダグダなライブ。いや、これはライブなのだろうか。かっこよく言えば既成概念をぶち壊され、かっこ悪く言えばいい加減なコント。それでも、の子の個性がガンガン発揮されていたのは間違いない。これこそが、神聖かまってちゃんのライブの真髄でもあった。
最後はmonoがステージの中央で土下座し、謝罪。素晴らしいオチだった。
終演後、劒さんにみさこを紹介する。Perfect Musicの方々が神聖かまってちゃんと接触していた。
「これは10年に1度とか、そういうレベルではない才能。すぐに飛び火しますよ」
社員の方が言っていた。その方はポリシックスやレミオロメンを発掘した人と聞いていた。そういったグループと同じように、神聖かまってちゃんの名前が今後広まっていくのだろうか。
劒さんとの子のやり取りは印象的だった。
「君と友達になりたい」
「でも僕メール返事するの遅いし…mixiやってないし…」
なんなんだこの会話。
やがて、劒さんは本格的にかまい始めるようになった。"友達"になるための第一歩として。
千葉県の柏まで神聖かまってちゃんに会いに行くという。電話でそれを聞いた僕も、なぜか同行させてもらうことになった。
神奈川県からはるばる千葉県へ。電車に揺られて辿り着いた柏駅。
そこには神聖かまってちゃんのメンバー全員が集っていた。駅前の風景に馴染んでおり、普通の若者に見えた。
みんなで近場の居酒屋に入る。ラジオ収録以来、神聖かまってちゃんのメンバーと何もイベントがないところで会うのは初めてだった。みさこ以外の男性メンバーが全員喫煙者で、タバコの煙が遠慮なく充満していた。みさこが少しかわいそうに思えた。
2軒ハシゴして合計4時間ほど、ゆっくりと食事をし、お酒を飲んだ。
「この人は信頼できる人なんで…」
メンバーに劒さんを紹介した。劒さんとつながりのあるバンドとしてオシリペンペンズなどの関西のバンドの名をあげると、の子は大きく反応していた。世代が近いせいか、聴いてきた日本のバンドが似ているように思った。
劒さんは彼らのマネージャーになる第一歩として、まずは仲良くなろうとしていた。仕事の話というよりも、趣味や世間話を中心に話していた。対バンしたいバンドや、お互いの歴史など。なんでもない話だが、神聖かまってちゃんが好きな僕にとってはどれも興味深い話ばかりだ。
神聖かまってちゃんにはニートもいればフリーターもいて、会社員もいる。なんとなく、現代の若者がそこに集約されている気がした。monoはおとなしく、みさこはよく笑い、ちばぎんは気遣いができ、の子はバンドの舵取りをしていた。それぞれの役割とキャラクターがはっきりしているようにも思えた。
「撮ってくれた映像、あれ、めちゃくちゃ良かったっす。マジでありがとうございます」
YOUTUBEにアップした6月25日のライブ映像について、の子は律儀にお礼を言ってくれた。好きで撮ってるだけなので、まさか気に入ってもらえるとは思っていなかった。
の子はあれほどまでの魅力的な楽曲を、無料でネットにアップしている。「5000円くらい払いたいですよ」との子に言うと、「ええっ!うえっ!そんなこと言われたん初めてですよ…」と必要以上に顔を赤らめ、隣にいたちばぎんに助けを求めていた。結局、お金がなかったので払わなかった。
全員がリラックスして、色々な話をした。
の子がちばぎんにキラカードを借りパクしたまま再会した頃の話や、僕が以前ナンバーガール時代の田渕ひさ子のギターソロの映像を編集してアップした動画を、出会う前からの子とみさこがYOUTUBEで見ていた話まで。
そして、いつしか未来の展望の話になった。
劒さんが「いつか、ひきこもりの人をライブに来させましょう!」と語っていた。
ラジオの収録のときのような不穏な空気はなく、終始、和やかでいいお酒が飲めた。
神聖かまってちゃんにとって、良い夜になったのだろうか。そして、劒さんはの子と"友達"になれたのだろうか。
帰り道の電車内、劒さんが「どういうバンドと対バンしたらいいかな?」と尋ねてきた。
「toddleとか、前野健太とか、チッツとか…」「全部あなたの好きな人たちじゃないですか!」「でも、ロックフェスとかバンバン出れたらいいですね」
未知数の可能性を秘めたバンドの物語は、まだ始まったばかりだ。
その夜、神聖かまってちゃんの男性メンバー3人がの子の家で配信をしていた。みさこは翌日の仕事のため、欠席していた。
彼らは最近、配信媒体をPeercastからニコニコ生放送に移行した。そのせいか、Peercastのリスナーからは「戻ってきてほしい」「裏切り者」といったコメントが沢山寄せられていた。先日のみさこの単独配信は、合計来場者数が初めて1000人を突破していた。
配信はとても楽しそうな雰囲気で、柏での飲み会のことを伝えていた。の子は酒に酔ったのか、異常なほどハイテンションで「テカチュー(恐らく『ポケモン』のピカチューのこと)」と何度も叫んでいた。
その様子を見る限り、彼らにとって楽しい夜になったように思えた。神聖かまってちゃんにとって、新しい展開が生まれた。それを伝えるような配信だった。
一週間後。の子とmonoが、晴れて神聖かまってちゃんのマネージャーとなった劒さんに誘われて、横浜赤レンガパーク野外特設ステージで行なわれる木村カエラの野外イベント『GO!5!カエランド』に足を運ぶことになった。
ちばぎんとみさこは仕事の都合により行けなかった。劒さんの人脈により、ゲスト入場に。劒さんは「音楽をやっていて他のミュージシャンと繋がると、こうやってゲストとして入場することもある」ことを神聖かまってちゃんに伝えたい気持ちと、あと普通に木村カエラのライブを楽しみたかったようだ。ありがたいことに、これまた同行させてもらうことになった。
桜木町駅に待ち合わせの時間を守ってやって来たのは、monoと僕だけだった。
の子は一番遅れてやって来た。なぜかサングラスをかけており、海外の来日スターのような佇まい。一方で、遠足をずっと楽しみにしていた少年のようでもあった。避暑地に向かう観光スタイルにも見える彼の第一声は、半ば期待通り。
「おせーよ!!」
こっちのセリフだ。
「なんで俺だけグラサンかけてんの?!」
それもこっちのセリフだ。
何万人もの観客が一つの会場を目指して歩いていた。行き先は"カエランド"。その入口はなぜか口の形をしていた。そうなると出口は肛門なんだろうか。
大勢の聴衆に紛れて、の子とmonoが広大な会場を眺めている。
やがて木村カエラのライブが始まった。
自分たちはCブロックにいたが、木村カエラが「Aブロックの人ー!」と呼びかけると「わーーー!」との子が叫ぶ。違うよ。「Bブロックの人ー!」と呼びかけても「わーーー!」と叫ぶ。違うって。完全に浮いていた。そして肝心の「Cブロックの人ー!」と呼びかけると、叫ばず。無表情で固まっていた。なんなんだこの人は。
ライブは夕方から夜まで続いた。途中、の子らと離れ離れになったが、最終的には同じ場所に合流して落ち合うことに。の子は知らぬ間にメガネを着用しており、「いやー、あまりにもライブが良かったんでそのへんでメガネ買ってきましたわ」と。物販で売ってるわけがない。
その後は会場外に設置されていた"誰でも木村カエラになれる"といった顔ハメ看板で、monoが顔をはめた。残念ながら木村カエラにはなれなかった。
テントで食事し、神聖かまってちゃんの配信や音楽についてゆっくり語り合った。劒さんに「今度お金払うから、二人にビールおごってやって」と頼まれたので、おごった。その後、劒さんからお金を払われることはなかった。
monoは、話しかけなければ一切言葉を発しないほどのシャイボーイだ。の子は必要以上に気を遣う人のように思えた。配信は、時折言葉が刃のように飛び込んでくる。それを自ら受けて立ち、やり抜くのは勇気でしかないのだろう。 木村カエラのライブ会場にいる観客の中で、誰よりも普通に見える二人だが、他の人には出来ないようなことをやっている。危険な思いをした配信や、これまでの活動のこと、そして木村カエラのライブの感想を話し合った。
この日のライブは当然、木村カエラが目当ての人ばかりだ。
だけど、僕にとっては神聖かまってちゃんが一番のスターだ。誰にも信じてもらえないだろうが、この中学生のような青年と、アゴが長い青年が、スターなのだ。横から見ると二人とも三日月に似てるとかではない。
彼らがいつか、あのステージに立つべきなのだ。
木村カエラのライブ中、ここで神聖かまってちゃんが演奏する姿を想像していた。
『いくつになったら』の歌詞を思い出す。
「僕はいつか 東京のど真ん中で 何千人の前で 存在をみせてやる」
いつか、それが現実になる日が来るのだろうか。
の子とmonoは「横浜の街をもう少し楽しみたい。あと、バーで飲みたい」とムーディーなことを言っていたので、そのままお別れする。時間は22時過ぎ。二人とも千葉に帰る気はあるのだろうか。
数日後、仕事の昼休み。
会社でご飯を食べながらボーッとmixiを覗いていると、友人の書き込みに思わず噴出しそうになった。
待ち望んでいたことなのに、思わず目を疑った。
『神聖かまってちゃん、サマソニ出演決定!!』
~続く~
今度、会社をやるらしい。マネージメントの仕事を始めるそうで、名刺を貰う。そこには『恋愛研究会。』と書かれていた。これは劒さんが大阪時代から所属していた集団の名前でもある。あの頃から絶対恋愛を研究する気ないだろうと思えるイベントばかりやっていたけど、まさか会社名になるとは。
劒さんとは、お互いが上京する前からの知り合いだ。いつの日か、東京の街で自転車を二人乗りしたことがある。
「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかなあ」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」
金子賢にも安藤政信にも程遠いビジュアルの二人だが、渋谷から下北沢までの道すがら、映画『キッズリターン』のセリフを呟いてみた。
「もう終わっちまった…とかだっけ?」「始まっちゃいねー。とかでしたっけ?」
二人ともうろ覚えだった。終わっても始まってもいないストーリー。それは都会に出てきた二人にも言えることだし、下北沢・渋谷屋根裏でしかライブをやらない神聖かまってちゃんにも言えることなのかも知れない。
スーツをビシッと着込んだ大人が携わるより、劒さんのようなクセ毛の人が関わるほうがきっと面白い。そして才能を見抜く人だ。また、ステージ映えするベーシストでもある。
「仕事として、面白い人たちをマネージメントしていこうと思っててね」
劒さんが神聖かまってちゃんに興味を持ったことが何よりも嬉しかった。僕は、上京するときの深夜バスの車中、彼が「都会でも頑張ってね。」と一言メールを送ってくれたことを忘れていない。
渋谷LUSHのカウンターで、僕が勝手に作った"神聖かまってちゃん宅録音源CD-R"を渡した。1曲目が『雨宮せつな』という、こだわりの選曲だ。ここに神聖かまってちゃんの魅力が詰まっている。
後日、劒さんからあのときのように一言メールが送られてきた。
「23才の夏休み、最高。」
こんなメール、いまどき高校生でも送らないだろう。どれだけ分かりやすい反応なんだ。それほど、気に入ったということなのだろう。
その頃、サマーソニック2009の一般公募枠のイベント『出れんの!?サマソニ!?』に神聖かまってちゃんが出演の応募していた。ある程度の順位まで上りつめると、次の審査にいけるらしい。
だが、応募のプロフィールにはなぜか『ガールズバンド』と書かれていた。ガールは一人しかいないだろ。しかも『平均集客数…7、8人』とはバカ正直すぎる。
この人ら、本気でサマソニに出る気あるのか?
それでも、mixi日記で投票を促した。それはもう、強引だ。お節介そのものだ。
「"投票する"を押すのです。押すだけでいいのです。押しましたか?おっ、いいですね!最高です!あなたとは一生関係が続きそうです!よろしくお願いします!」
胡散臭い業者のようなことをした。なぜなら、とにかく大舞台で彼らを見たかったのだ。しかし、いまだ知る人はほとんどいないバンド。7、8人しかお客さんが来ないバンドがサマソニに出るなんて絵空事だ。
6月25日、渋谷屋根裏で神聖かまってちゃんのライブがあった。
前回以上に興味を示してくれた人が多く、CD-Rを配った甲斐あってか、10人くらいの友人がライブを観に来てくれた。みさこに自慢げにそれを言うと、「竹内さんのお友達って病んでるんですね!竹内さんも病んでるんですね!」とまさかの反応を満面の笑みで言われた。
客席には劒さんの姿もあった。Perfect Musicという会社の社員の方を2人連れていた。僕は前回同様、ビデオカメラを後方から回し、神聖かまってちゃんのライブを撮影した。
これがもう、ある意味歴史に残るようなライブになった。
彼らは30分の枠であるにも関わらず、55分間もライブをした。しかし、演奏したのはたった4曲。の子が『アラレちゃん音頭』を踊ったり、monoとフリーラップバトルしたりと、とにかく自由気ままなライブだ。
の子はmonoに対し、「人生が中途半端!」「23年間生きてきて、お前は一体何をした?」と挑発。ラップバトルというより、単なる口ゲンカみたいだ。そして最終的にの子が放った言葉に、会場が笑いに包まれた。
「これが…ジャズだ!!」
なんかもう、めちゃくちゃだ。そのとき、劒さんの笑い声も聞こえた。
ただでさえ時間をオーバーしたライブをしているのに、ライブ後もずっとステージに居座ろうとするの子。彼をmonoとちばぎんが必死に取り押さえ、楽屋に連れていく。
「違う…もっと…触れ合いたかったんだよぉ…」
ステージ脇から聞こえるの子の声が切ない。ライブハウスは終始笑い声に包まれた。今までに見たことのない、グダグダなライブ。いや、これはライブなのだろうか。かっこよく言えば既成概念をぶち壊され、かっこ悪く言えばいい加減なコント。それでも、の子の個性がガンガン発揮されていたのは間違いない。これこそが、神聖かまってちゃんのライブの真髄でもあった。
最後はmonoがステージの中央で土下座し、謝罪。素晴らしいオチだった。
終演後、劒さんにみさこを紹介する。Perfect Musicの方々が神聖かまってちゃんと接触していた。
「これは10年に1度とか、そういうレベルではない才能。すぐに飛び火しますよ」
社員の方が言っていた。その方はポリシックスやレミオロメンを発掘した人と聞いていた。そういったグループと同じように、神聖かまってちゃんの名前が今後広まっていくのだろうか。
劒さんとの子のやり取りは印象的だった。
「君と友達になりたい」
「でも僕メール返事するの遅いし…mixiやってないし…」
なんなんだこの会話。
やがて、劒さんは本格的にかまい始めるようになった。"友達"になるための第一歩として。
千葉県の柏まで神聖かまってちゃんに会いに行くという。電話でそれを聞いた僕も、なぜか同行させてもらうことになった。
神奈川県からはるばる千葉県へ。電車に揺られて辿り着いた柏駅。
そこには神聖かまってちゃんのメンバー全員が集っていた。駅前の風景に馴染んでおり、普通の若者に見えた。
みんなで近場の居酒屋に入る。ラジオ収録以来、神聖かまってちゃんのメンバーと何もイベントがないところで会うのは初めてだった。みさこ以外の男性メンバーが全員喫煙者で、タバコの煙が遠慮なく充満していた。みさこが少しかわいそうに思えた。
2軒ハシゴして合計4時間ほど、ゆっくりと食事をし、お酒を飲んだ。
「この人は信頼できる人なんで…」
メンバーに劒さんを紹介した。劒さんとつながりのあるバンドとしてオシリペンペンズなどの関西のバンドの名をあげると、の子は大きく反応していた。世代が近いせいか、聴いてきた日本のバンドが似ているように思った。
劒さんは彼らのマネージャーになる第一歩として、まずは仲良くなろうとしていた。仕事の話というよりも、趣味や世間話を中心に話していた。対バンしたいバンドや、お互いの歴史など。なんでもない話だが、神聖かまってちゃんが好きな僕にとってはどれも興味深い話ばかりだ。
神聖かまってちゃんにはニートもいればフリーターもいて、会社員もいる。なんとなく、現代の若者がそこに集約されている気がした。monoはおとなしく、みさこはよく笑い、ちばぎんは気遣いができ、の子はバンドの舵取りをしていた。それぞれの役割とキャラクターがはっきりしているようにも思えた。
「撮ってくれた映像、あれ、めちゃくちゃ良かったっす。マジでありがとうございます」
YOUTUBEにアップした6月25日のライブ映像について、の子は律儀にお礼を言ってくれた。好きで撮ってるだけなので、まさか気に入ってもらえるとは思っていなかった。
の子はあれほどまでの魅力的な楽曲を、無料でネットにアップしている。「5000円くらい払いたいですよ」との子に言うと、「ええっ!うえっ!そんなこと言われたん初めてですよ…」と必要以上に顔を赤らめ、隣にいたちばぎんに助けを求めていた。結局、お金がなかったので払わなかった。
全員がリラックスして、色々な話をした。
の子がちばぎんにキラカードを借りパクしたまま再会した頃の話や、僕が以前ナンバーガール時代の田渕ひさ子のギターソロの映像を編集してアップした動画を、出会う前からの子とみさこがYOUTUBEで見ていた話まで。
そして、いつしか未来の展望の話になった。
劒さんが「いつか、ひきこもりの人をライブに来させましょう!」と語っていた。
ラジオの収録のときのような不穏な空気はなく、終始、和やかでいいお酒が飲めた。
神聖かまってちゃんにとって、良い夜になったのだろうか。そして、劒さんはの子と"友達"になれたのだろうか。
帰り道の電車内、劒さんが「どういうバンドと対バンしたらいいかな?」と尋ねてきた。
「toddleとか、前野健太とか、チッツとか…」「全部あなたの好きな人たちじゃないですか!」「でも、ロックフェスとかバンバン出れたらいいですね」
未知数の可能性を秘めたバンドの物語は、まだ始まったばかりだ。
その夜、神聖かまってちゃんの男性メンバー3人がの子の家で配信をしていた。みさこは翌日の仕事のため、欠席していた。
彼らは最近、配信媒体をPeercastからニコニコ生放送に移行した。そのせいか、Peercastのリスナーからは「戻ってきてほしい」「裏切り者」といったコメントが沢山寄せられていた。先日のみさこの単独配信は、合計来場者数が初めて1000人を突破していた。
配信はとても楽しそうな雰囲気で、柏での飲み会のことを伝えていた。の子は酒に酔ったのか、異常なほどハイテンションで「テカチュー(恐らく『ポケモン』のピカチューのこと)」と何度も叫んでいた。
その様子を見る限り、彼らにとって楽しい夜になったように思えた。神聖かまってちゃんにとって、新しい展開が生まれた。それを伝えるような配信だった。
一週間後。の子とmonoが、晴れて神聖かまってちゃんのマネージャーとなった劒さんに誘われて、横浜赤レンガパーク野外特設ステージで行なわれる木村カエラの野外イベント『GO!5!カエランド』に足を運ぶことになった。
ちばぎんとみさこは仕事の都合により行けなかった。劒さんの人脈により、ゲスト入場に。劒さんは「音楽をやっていて他のミュージシャンと繋がると、こうやってゲストとして入場することもある」ことを神聖かまってちゃんに伝えたい気持ちと、あと普通に木村カエラのライブを楽しみたかったようだ。ありがたいことに、これまた同行させてもらうことになった。
桜木町駅に待ち合わせの時間を守ってやって来たのは、monoと僕だけだった。
の子は一番遅れてやって来た。なぜかサングラスをかけており、海外の来日スターのような佇まい。一方で、遠足をずっと楽しみにしていた少年のようでもあった。避暑地に向かう観光スタイルにも見える彼の第一声は、半ば期待通り。
「おせーよ!!」
こっちのセリフだ。
「なんで俺だけグラサンかけてんの?!」
それもこっちのセリフだ。
何万人もの観客が一つの会場を目指して歩いていた。行き先は"カエランド"。その入口はなぜか口の形をしていた。そうなると出口は肛門なんだろうか。
大勢の聴衆に紛れて、の子とmonoが広大な会場を眺めている。
やがて木村カエラのライブが始まった。
自分たちはCブロックにいたが、木村カエラが「Aブロックの人ー!」と呼びかけると「わーーー!」との子が叫ぶ。違うよ。「Bブロックの人ー!」と呼びかけても「わーーー!」と叫ぶ。違うって。完全に浮いていた。そして肝心の「Cブロックの人ー!」と呼びかけると、叫ばず。無表情で固まっていた。なんなんだこの人は。
ライブは夕方から夜まで続いた。途中、の子らと離れ離れになったが、最終的には同じ場所に合流して落ち合うことに。の子は知らぬ間にメガネを着用しており、「いやー、あまりにもライブが良かったんでそのへんでメガネ買ってきましたわ」と。物販で売ってるわけがない。
その後は会場外に設置されていた"誰でも木村カエラになれる"といった顔ハメ看板で、monoが顔をはめた。残念ながら木村カエラにはなれなかった。
テントで食事し、神聖かまってちゃんの配信や音楽についてゆっくり語り合った。劒さんに「今度お金払うから、二人にビールおごってやって」と頼まれたので、おごった。その後、劒さんからお金を払われることはなかった。
monoは、話しかけなければ一切言葉を発しないほどのシャイボーイだ。の子は必要以上に気を遣う人のように思えた。配信は、時折言葉が刃のように飛び込んでくる。それを自ら受けて立ち、やり抜くのは勇気でしかないのだろう。 木村カエラのライブ会場にいる観客の中で、誰よりも普通に見える二人だが、他の人には出来ないようなことをやっている。危険な思いをした配信や、これまでの活動のこと、そして木村カエラのライブの感想を話し合った。
この日のライブは当然、木村カエラが目当ての人ばかりだ。
だけど、僕にとっては神聖かまってちゃんが一番のスターだ。誰にも信じてもらえないだろうが、この中学生のような青年と、アゴが長い青年が、スターなのだ。横から見ると二人とも三日月に似てるとかではない。
彼らがいつか、あのステージに立つべきなのだ。
木村カエラのライブ中、ここで神聖かまってちゃんが演奏する姿を想像していた。
『いくつになったら』の歌詞を思い出す。
「僕はいつか 東京のど真ん中で 何千人の前で 存在をみせてやる」
いつか、それが現実になる日が来るのだろうか。
の子とmonoは「横浜の街をもう少し楽しみたい。あと、バーで飲みたい」とムーディーなことを言っていたので、そのままお別れする。時間は22時過ぎ。二人とも千葉に帰る気はあるのだろうか。
数日後、仕事の昼休み。
会社でご飯を食べながらボーッとmixiを覗いていると、友人の書き込みに思わず噴出しそうになった。
待ち望んでいたことなのに、思わず目を疑った。
『神聖かまってちゃん、サマソニ出演決定!!』
~続く~
2011年12月7日水曜日
の子宅@千葉ニュータウン 文字起こし
12月8日。ジョン・レノンの命日。
ちょうど1年前、千葉ニュータウンまで雑誌『GiGS』の取材に同行させてもらった。特に何の用事もなく、誘われるがままに赴いた地。ずっとここに足を踏み入れたかった。
千葉ニュータウン中央駅に降り立つと、広がる景色に既視感を覚えた。行ったこともないのに。なのに馴染み深い。それはずっと見ていた映像のせいだろう。その景色はあらゆる映像に映り込んでおり、そのせいか、なぜか懐かしい気持ちになった。
それらの映像を作った人物に会いに行く。
映像のほとんどが、彼の住んでいる近辺で撮影されたもの。半径何メートルかの世界が映し出されているのに、遠くに住んでいる僕までもがその地に馴染んでしまっている。
彼はミュージシャンでありながら、すべてのPVを撮影し、編集している。
それもスタジオなどを借りるわけでもなく、すべて自宅のパソコンで制作している。その映像は、どこの家にでもあるようなビデオカメラとパソコンによって、インターネットを通して何百万回も再生されている。やがてテレビや雑誌など、多くのメディアが彼の音楽、バンドを取り上げるようになった。
彼の自宅に入る。
ここからすべてが始まったんだと思った。
ありふれたビデオカメラやパソコンが、彼の表現を伝える手段となった。
この日、何の用事もなかったが取材に参加させてもらった。
とても充実した内容になった。PV制作についての話や、これまでの活動について思うこと。
1年前、仕事でもないのに帰ってからすぐに文字起こしした。
ずっと残しておきたかった。彼の誠実な精神が伝わるものだと思ったからです。
誌面では字数の制限などの関係で掲載されなかったエピソード。
千葉ニュータウンに初めて降り立った日から1周年を記念し、神聖かまってちゃん・の子のPV制作、活動についてのお話を掲載します。
『ロックンロールは鳴り止まないっ』は映像が作りたくて曲が出来た
の子、ノートパソコン、ビデオカメラを手に持つ。
の子「これ今使ってるやつなんですけど、何がありがたいかというと、重さ(笑)。色々ノートパソコン使ってきたんですけど、何がしんどかったっていうと、重かった。やっぱ重いんですよ。だから今は軽量化。で、このビデオカメラがPVとかで使ってて。これも重要な機材の一つです、はい」
野口「それで撮ったPVで曲が完成してるんだもんね」
の子「そうっす。だからこれも機材ですね」
野口「お父さんも撮ってるんだよね?」
の子「だいたい親父が撮ってるって言われますけど、ぶっちゃけ俺が結構撮ってますよ(笑)。でも半々ですね。なんか全部親父が撮ってるみたいによく言われるんですよ」
劒「そうそう。みんな言うんですよね」
の子「あとはメンバーも撮ってますからね、monoくんとか。でもだいたい、親父が全部撮ってるわけじゃないです」
劒「お父さんが撮ってるっていうインパクトがね」
の子「あとは編集とかが一番時間かかるんで…」
竹内「ソフトって?」
の子「これっすね」
野口「あ、『VideoStudio』。これで編集してるんだね」
の子「はい。これがなければダメですね」
竹内「これは色々入ってますね」
の子「はい、要するにこれが、こう、こうして」
『美ちなる方へ』の映像素材を再生する。
の子「これで後から曲をつけて…」
竹内「これはお父さんが撮影?」
の子「これは親父っすね(笑)。だいたい、けど、こういうのは親父が撮影してますね。これでこういう風に…竹内さんは分かると思うんですけど。竹内さんは何使ってます?」
竹内「僕は『Premiere』っすね。Macの。でもこういう風にチャチャチャッて出来ないですね」
の子「これ結構出来ますよ。やってたら面白いですよ」
野口「ここにあるのは本当に最初の素材なんだね」
竹内「色んなPVの素材が残ってるんですね」
の子「残ってますね」
竹内「これ何ですか?」
の子「これおばあちゃんです」
竹内「それは使わなかったっていう…」
の子「何かで使えたらいいなって思ったんですけど。あ、これは僕がヤフオクで落とした素材です」
竹内「あ、これ何かで見たことある。『黒いたまご』で使ってたやつ?」
の子「そうですね。よく分かりますね(笑)。さすがだなー!」
竹内「あと去年の5月に『笛吹き花ちゃん』のライブ中に使ってたやつ?」
の子「これっす!」
野口「あー!そこまで分かるの?」
竹内「僕、気持ち悪いでしょ…」
佐藤「気持ち悪い…」
野口「竹内さんどんだけ追っかけてるの…じゃあ、ここにあるもので全部の編集をやってるんだね」
の子「はい。こういう…」
野口「これ何してんの?『僕のブルース』?」
竹内「の、未公開カットですよね」
の子が布団敷いて寝ている映像素材が再生される。
の子「とりあえずこういった素材とか撮ったりして、その中でも選んでいって。たぶんこれは使えなかったんですね(笑)。違うかったんですね、たぶん。ここで布団とか持ってきて…」
野口「これは衝撃的な映像だぞ!」
竹内「かなり用意してたんだっていう」
の子「わざわざ布団とか持ってきてたんですよ。結局、ボツになったっていう」
竹内「いやーあのPVはピストルしか出てこなかったしね」
の子「そうっすね(笑)」
竹内「うわーでもこれめちゃくちゃ興味ありますね」
の子「個人的にはこれも、思い出写真みたいなもんです。だからやっぱ、『美ちなる方へ』がPV含めて好きなんで。普通に思い出写真みたいでもあるし」
野口「動画はやっぱ記録なんだ?」
の子「まあ、そういった節はありますね。だからPV作るときはだいたい、ここで繋げてったり色々やったりして、ほんとに3日間とかかけてずっとこうやって作ったりしてますね」
野口「PVを作ろうと思ったのはいつからなの?」
の子「『ロックンロールは鳴り止まないっ』からです。元々『放課後の図書室』って曲があって。YOUTUBEとか俺が知り始めた頃かな、わかんないですけど、そのときあたりで何かやってみようって気になって。元々『ロックンロールは鳴り止まないっ』って曲自体、映像が作りたくて曲が出来たんで」
竹内「へー!」
の子「映像、PVっていうものを初めて自分で作ってみようって。元々『放課後の図書室』って曲のピアノのフレーズが好きだったんで。それを使って、曲作って。俺、そのとき別にロックとかよりもテクノとかに傾倒してたんで。むしろ『ロックンロールは鳴り止まないっ』なんてジョークみたいなものだったんですね。いや、だから作ってるときは面白かったですね。"何言ってんだこれ?"って(笑)。でも狙ってた感も含めてあります。あれは。一つの作品としてPVを作ったんで。色んな往年のロックミュージシャンのそういったものを繋げてって、作品として作ってったらああなったっていう」
竹内「その頃の素材とかってまだ残ってますか?」
の子「残ってるかな…削除しちゃってるかな。あ、違うわ俺。初めてPV作ったのは『あるてぃめっとレイザー!』だった(笑)」
竹内「あの幻の!あれが初めて…(笑)」
※『あるてぃめっとレイザー!』のPVは、の子が自宅の部屋で全裸で踊り、最終的に小便を撒き散らすといった内容(モザイク処理なし)
の子「あれはWindowsの『ムービーメーカー』で作ったんですよ。それでニコニコ動画とかに上げたら速攻削除されて」
野口「そりゃそうだ!(笑)」
の子「あのPV、むしろ今俺が見たいくらいです」
パズルみたいな感じですね。PV作ってるときは
『いかれたNEET』の映像素材を再生する。
竹内「これ撮影は?」
の子「monoくんですね。たぶんこの時期はmonoくんと俺で撮影してますね」
野口「すごいなーこれ。ほんと原型だなー」
竹内「これはワクワクしますね」
竹内「このPV、ちょこちょこmonoくんが映ってるんですよね」
の子「これ…いい顔してんなあ(笑)。なんでこんなに黄昏れてるんだコイツ。この日、景色がすごい良かったんです。やっぱこの場所はすごい」
野口「撮影はこの近辺が多いの?」
の子「はい。去年とかはほんとこのへんでした」
『天使じゃ地上じゃちっそく死』の終盤の夕暮れ風景。
竹内「これ『天使じゃ地上じゃ』の…」
の子「なっつかしいなあ。歌詞に合わせて一緒に歌ってみようと思ったんですけど、出来なかったですね」
竹内「これ(曲を)流してるんですね」
の子「でも全然出来なかったっていう」
野口「色々挑戦してるんだね」
の子「挑戦は色々ありますね。いっぱい挑戦してる中でボツってるのは色々ありますわ」
竹内「そういや『ぺんてる』のPVって作ってないんですよね」
の子「最初は作りたかったんですけどね。あの曲長いんで、いかんせんめんどくさくなっちゃって。今でも作りたいんですけどね。作れるもんなら色々作りたいですけど、なかなか難しいです」
の子が料理した丸焦げの物がフライパンの上に乗っている。
野口「すっごい燃えてるねこれ」
の子「これは『黒いたまご』ですね。黒い卵を作ってボツになったっていう…」
竹内「真っ黒に焦げさせようとしたってこと?」
の子「そうっすね。『黒いたまご』のPV作るときに…」
の子「素材をこうやって色々作って、結局使わないっていう」
野口「撮り溜めた映像がたくさんあるんだね。まだ見せてない映像が色々あるんだろうな」
フライパンの上で調理している映像。
佐藤「結構美味しそう…」
ガラクタの上に座っているみさこの映像。
の子「これ良かったなー」
竹内「これいいっすよね…」
映像の中での子が「帽子を被ると、鬱さ加減が増す。今、陽のあたりがいい…」とみさこに話しかけている。
竹内「演技指導!」
野口「ディレクションしてるんだね」
の子「でもだいたいディレクションしてますね。や、『黒いたまご』いいっすよね。あれはうまくできました。みさこさんもこのときはなんか、全然別人みたいな顔してますね」
映像の中での子が「で、帽子を被り始める、と。取っても、いいからでやってくんね?ま、ギターはどうでもいいから(笑)」とみさこに話しかける。
竹内「なんか口調優しいですね。もっとこう、大島渚みたいに"こらー!"とか言わないんですね」
佐藤「なんか"脱げ"って言ったら脱ぎそうな感じする。そんな感じの声のトーン」
野口「の子くんの話しかけ方がね。これ、PVのイメージって現場に行ってから浮かぶの?元々あるのかな?」
の子「やーでも、どっちもですよ。けど、こういう場所行って浮かぶってのもありますけど。あとは元々ある素材をくっつけていって、パズルみたいな感じですね。だから楽しいですよ、PV作ってるときは」
の子「でも場所がやっぱ良かったですね。場所と天候が良かったんですよね」
竹内「時間帯もね」
の子「そう。だから俺、現場に行ったときからいいなって思って」
野口「動画の作成も自分で覚えたんだよね?」
の子「やーでも、機材は慣れるまでは難しいっすね」
野口「これは誰かに教えてもらったわけじゃないんですよね?」
の子「最初は『ムービーメーカー』から自分でやってみて、これも使って。でも慣れてしまうと一つの物から離れられないですね。それは音楽でもそうですわ」
竹内「はー。これは貴重ですわ」
野口「俺らめっちゃ貴重な物を見せてもらってるなあ」
の子「んー、このときのみさこさんはなんか違いますね」
映像の中での子がビデオカメラを持ちながら「こうやってやると、陽がバックにこう…」と景色に感激し、独り言を呟いている。
の子「懐かしいな。懐かしくなってしまうわ…」
『黒いたまご』の病院のシーン。
竹内「これって病院に許可とってるんですか?」
の子「この病院は許可とってますね。これは精神病院ですね。精神病院で僕がその、ずっと通っていたところもあったりして、それで先生に。その先生自体が僕の活動とかも知ってたんで。なんか、スターリンとか好きだったんでその先生が」
竹内「スターリン!」
野口「精神科の先生がスターリンを?」
の子「そういう人がいたんで、その先生に色々伝えて、なんとか撮らせてもらいましたね。でも、こっちは、違います」
『聖マリ(タイトルも問題になったので省略)』の病院が映し出される。
の子「これは、もう、やばかったです(笑)」
竹内「ははは…(笑)」
野口「これはね(笑)。結構たくさん撮ってたもんね。名前バッチリ出てて」
の子「これはほんと。これはちょっとね。でも、好きだったんですけどね」
自分は周りに恵まれてるって思いますよ
パソコンから離れ、今までの活動の話へ。
の子「今くらいになっちゃうと、今回アルバム二枚出すんですけど、あとはもう落ちちゃっていいと思うんですけどね。だから、たとえメジャーから離れたとしてもそれはそれで面白いですけどね。あの頃に戻ったとしても。要するに竹内さんがアップしてくれたあの頃に戻ったとしても。面白いですけどね」
竹内「僕が撮影して、また上げるってことですね」
の子「メジャーから離れたとしたらね。そうなると面白いですけどね。どうなるか分かんないですけど。俺はだから、どうやって区切りをつけて落としていくかって考えてますけどね。俺はどこまで自分のバンドで自分を宣伝できるかって見極め。今なぜ落とさないかっていうのも、なんだかんだで、なぜか映画とかあったり(笑)。よく分からんけど、あれ。なんなんすかね!(笑)いや、映画は俺自分に悪いこと別に何もないんですけどね。悪いことがあるとすれば、元々のファンがゲンナリするってことですけどね。色々ありますよ」
竹内「とか言って、観ちゃうんでしょうけどね…」
の子「ネットに上がれば俺も観ますわ」
野口「観に行かないんだ?(笑)」
の子「観に行きませんわ…」
竹内「観に来てたら逆に面白いけど…」
野口「でも、今日これ(PV素材)見せてもらったけど、これ見せたことってあるの?」
の子「いや、『クイックジャパン』で一回。でもちゃんと内容見せたことないです」
竹内「いやー貴重な」
野口「ありがとう」
の子「いや、竹内さんわざわざ来てくれたんで」
竹内「いやいやいや。僕普通に観光気分で来ただけなんで」
の子「まじすか。泊まっていきますか?」
竹内「泊まっていく?(笑)いや、でも一年半見続けて、ここに来たのは初めてなんでね」
野口「そうそう。僕も意外でした。竹内さんはもう来てるもんだと思ってて」
の子「僕も意外でした。一回くらい来てんじゃないかなと思ってました。竹内さん…あ、そっか。っていう。佐藤さんも意外でしたよ」
野口「そうそうそう。佐藤さんも初めてなんだよね。だから光栄ですよ僕。竹内・佐藤と一緒に上がらせてもらって」
竹内「いやいやいやこちらこそすいません。ありがとうございます」
の子「いやいや、ありがとうございます」
野口「ほんとありがとう」
の子「竹内さんに貰った映像もここにありますね」
竹内「ああー、これ、『ロックンロール』のPVにも使ってましたね」
の子「はい、使いましたね」
竹内「あれは嬉しかったな」
の子「いや、けど竹内さんの映像。あれだから、『劇場版』はあれでほとんど埋めればいいじゃんって思うくらいですけどね。入江監督がどう言うか分かんないですけど」
竹内「そうなったら僕にお金がたくさん入るっていう…ね(笑)」
の子「うん(笑)。でも、ほんとですよ。そのくらい貢献してるんで。いやほんと」
野口「そう考えるとあれだね、かまってちゃんは…」
の子「ほんと、うちのバンドなんて俺らの力じゃないっすよ」
竹内「いやいやいや」
の子「いやいやいやって(笑)」
野口「竹内さんの力はデカイですけどね」
竹内「僕は好きで撮ってただけなんで」
の子「そういった、だから録画隊っていうのが今もいてくれて。竹内さんがキッカケで、そういったYOUTUBEとかどんどん上げてって。それから配信とか上げてくれる人が出てきて。ぶっちゃけ俺は、そういった人たちのおかげだと思ってるんで。だから、金貰えばいいんですよ(笑)。そんななんか、『劇場版』のねえ。いやほんと、正直俺らの力じゃないっすよ。これだけは事実。これだけは事実ですからね。だから、ありがとうございますほんと」
竹内「いやいやいや。こっちこそですよほんと」
野口「俺も竹内さんと会ったから、今回色々ね。記事も書いてもらうし」
の子「いやほんと、元々YOUTUBEとか配信とか、外配信とか色々あったんですけど、あの時期がほんと嬉しかったですね」
竹内「今でもすごいたくさん上げてくれてますよね、配信のやつとか」
の子「要するに、俺らは俺らの力じゃないんですよね。別に元々はやってるかも知れないですけど、やっぱ録画の重要さってのは俺は分かってるんで。だから竹内さんが上げていったもので、ああやって広まっていった節があるんで。だから、そういった意味も含めて。俺らの力じゃないです」
竹内「こういうバンドいないですよね。誰かが録画して上げていくっていうのも」
の子「やーだから俺は、自分のバンドのいる位置としてやっぱ成り行きのほうが自分は好きなんですよね。現状とかいうよりも。今に至るまでの経緯というか。だから俺はそこを知ってもらいたんですよね。そういう、どんな風にしてここにいるっていう。プロセスっていつも言ってるんですけど。このバンドの重要なのはそこなんですよね。そこが一番面白いんですよ。曲なんかよりもそっちの部分ほうが俺は面白いんで」
野口「そうか。それはすごいなあ」
の子「だから機材紹介のところに竹内さんとかも入れて…」
野口「機材!?」
竹内「機材!?」
の子「竹内さんもこれ(ビデオカメラ)持って、機材(笑)。これ持って、機材・竹内!(笑)」
佐藤「機材っぽく、直立不動で立って」
竹内「ほんまっすか?」
の子「竹内さんのビデオカメラも完全に機材ですからね」
竹内「いやいやいや…」
佐藤「そこに立って。機材になって」
野口「じゃ、機材っぽーくお願いします」
写真撮影開始。撮影された竹内の写真をみんなで見る。
野口「なんかこれかっこいい」
佐藤「イケメンに見えるな。これは使わないようにしよう」
の子「あはは!(笑)」
竹内「いやいや、一番いいやつ選んでくださいよ」
の子「でも『GiGS』でガチでそこはちゃんとでっかく、俺も紹介したいんでそこは、気持ちとして」
佐藤「機材でね」
の子「機材というかなんていうか、うちらのバンドの重要な部分とかそういったもの、もっと知ってもらいたいところはそういうところなんで」
野口「色んな人に支えられているってところがね」
の子「はい。いややっぱそこは重要なんで」
野口「ネットで動画で流してくれる人とかね」
の子「あとはネット上の不特定多数の人とか。今ニコ動で上げてくれる人とか、よこさん(※配信動画を即座にアップしてくださる方)とか大体同じ人なんで。感謝してますよほんと」
野口「それも竹内さんの写真とともに何とか載せるようにするわ」
の子「はい。ほんと重要な部分なんで。このバンドのいい部分はそういうとこは元から…俺は個人的に自分は周りに恵まれてるって思いますよ、そこは」
野口「過程も含めてね」
の子「うん。だからほんと…俺らの力じゃないんです。ほんと、誰彼しかり。やっぱあの、竹内さんが出てきて、劒さんが出てきて、あの頃やっぱりいきなり引っ付いた感ありますよね。色々と」
野口「そこで動き出した感があったんだ?」
の子「はい。あの屋根裏のあたりとか。あの時期ですね。色々と動いたのは」
野口「屋根裏っていうのは?渋谷?」
竹内「去年の6月25日の渋谷屋根裏ですね。うん、ほら、日にちまで覚えてるっていうね…」
野口「今スラスラね(笑)」
竹内「自分が撮影した日ってやっぱ覚えてるんですよね」
の子「でも竹内さん、一番初めっていつでしたっけ?」
竹内「僕初めて観たんが4月のライブで、そのときはカメラ持ってなくて。草なぎが捕まった日で」
の子「草なぎが捕まった日って配信してた日ですね。『草なぎナイト』ですか」
野口「草なぎナイト!?」
の子「"お前も全裸になれ"とか配信で言われて。意味がいまだに俺は分からない」
竹内「初めて撮ったライブってのが結構変わったライブだったんですよね。下北屋根裏の」
の子「そうそうそう。下北屋根裏で」
竹内「さっき見せてもらった『笛吹き花ちゃん』の映像素材とか流したりね」
の子「あのときしかやってないですけどね。めんどくさいんすよね、ただ単に。あと、出来る曲が限られてるっていう。竹内さん観たときは『学校に行きたくない』とか色々あったと思うんですけど」
竹内「あと『通学LOW』と『ちりとり』。『ちりとり』はよかった。エンドロール調のね」
の子「『ちりとり』はよかったー。でも今やるとあれめんどくさいんですよね(笑)。今は配信ライブとか、そっちのほうに力入れちゃってるんで。そっちで十分みたいな。エンドロールみたいなあれはよかった」
野口「いやー、また取材したいなー。なんか『GiGS』だけじゃもったいない(笑)」
の子「いやでも『GiGS』でいいと思いますよ、やっぱ」
竹内「『GiGS』…まさか自分も機材になるとは」
佐藤「機材(笑)。楽器に並列して」
野口「そこも上手く載せれるようにするから。若干写真小さくなるかも知れないけど」
の子「いや、けどやっぱそこは、ほんと、でっかく」
野口「今日はありがとうね」
の子「いやいや、わざわざ来てくれてありがとうございます」
野口「また来ることがあるかも知れないけど」
の子「また来るときは僕らがもう、落ちぶれているかも知れないんで。そこがまた面白いんですけどね。来年のいつになるか分からないですけどね」
(終)
当時書いた日記はこちらになります。の子宅@千葉ニュータウン
ちょうど1年前、千葉ニュータウンまで雑誌『GiGS』の取材に同行させてもらった。特に何の用事もなく、誘われるがままに赴いた地。ずっとここに足を踏み入れたかった。
千葉ニュータウン中央駅に降り立つと、広がる景色に既視感を覚えた。行ったこともないのに。なのに馴染み深い。それはずっと見ていた映像のせいだろう。その景色はあらゆる映像に映り込んでおり、そのせいか、なぜか懐かしい気持ちになった。
それらの映像を作った人物に会いに行く。
映像のほとんどが、彼の住んでいる近辺で撮影されたもの。半径何メートルかの世界が映し出されているのに、遠くに住んでいる僕までもがその地に馴染んでしまっている。
彼はミュージシャンでありながら、すべてのPVを撮影し、編集している。
それもスタジオなどを借りるわけでもなく、すべて自宅のパソコンで制作している。その映像は、どこの家にでもあるようなビデオカメラとパソコンによって、インターネットを通して何百万回も再生されている。やがてテレビや雑誌など、多くのメディアが彼の音楽、バンドを取り上げるようになった。
彼の自宅に入る。
ここからすべてが始まったんだと思った。
ありふれたビデオカメラやパソコンが、彼の表現を伝える手段となった。
この日、何の用事もなかったが取材に参加させてもらった。
とても充実した内容になった。PV制作についての話や、これまでの活動について思うこと。
1年前、仕事でもないのに帰ってからすぐに文字起こしした。
ずっと残しておきたかった。彼の誠実な精神が伝わるものだと思ったからです。
誌面では字数の制限などの関係で掲載されなかったエピソード。
千葉ニュータウンに初めて降り立った日から1周年を記念し、神聖かまってちゃん・の子のPV制作、活動についてのお話を掲載します。
登場人物:の子、野口氏(『GiGS』編集部)、佐藤哲郎氏(カメラマン)、劒樹人(神聖かまってちゃんマネージャー)、竹内
『ロックンロールは鳴り止まないっ』は映像が作りたくて曲が出来た
の子、ノートパソコン、ビデオカメラを手に持つ。
の子「これ今使ってるやつなんですけど、何がありがたいかというと、重さ(笑)。色々ノートパソコン使ってきたんですけど、何がしんどかったっていうと、重かった。やっぱ重いんですよ。だから今は軽量化。で、このビデオカメラがPVとかで使ってて。これも重要な機材の一つです、はい」
野口「それで撮ったPVで曲が完成してるんだもんね」
の子「そうっす。だからこれも機材ですね」
野口「お父さんも撮ってるんだよね?」
の子「だいたい親父が撮ってるって言われますけど、ぶっちゃけ俺が結構撮ってますよ(笑)。でも半々ですね。なんか全部親父が撮ってるみたいによく言われるんですよ」
劒「そうそう。みんな言うんですよね」
の子「あとはメンバーも撮ってますからね、monoくんとか。でもだいたい、親父が全部撮ってるわけじゃないです」
劒「お父さんが撮ってるっていうインパクトがね」
の子「あとは編集とかが一番時間かかるんで…」
竹内「ソフトって?」
の子「これっすね」
野口「あ、『VideoStudio』。これで編集してるんだね」
の子「はい。これがなければダメですね」
竹内「これは色々入ってますね」
の子「はい、要するにこれが、こう、こうして」
『美ちなる方へ』の映像素材を再生する。
の子「これで後から曲をつけて…」
竹内「これはお父さんが撮影?」
の子「これは親父っすね(笑)。だいたい、けど、こういうのは親父が撮影してますね。これでこういう風に…竹内さんは分かると思うんですけど。竹内さんは何使ってます?」
竹内「僕は『Premiere』っすね。Macの。でもこういう風にチャチャチャッて出来ないですね」
の子「これ結構出来ますよ。やってたら面白いですよ」
野口「ここにあるのは本当に最初の素材なんだね」
竹内「色んなPVの素材が残ってるんですね」
の子「残ってますね」
竹内「これ何ですか?」
の子「これおばあちゃんです」
竹内「それは使わなかったっていう…」
の子「何かで使えたらいいなって思ったんですけど。あ、これは僕がヤフオクで落とした素材です」
竹内「あ、これ何かで見たことある。『黒いたまご』で使ってたやつ?」
の子「そうですね。よく分かりますね(笑)。さすがだなー!」
竹内「あと去年の5月に『笛吹き花ちゃん』のライブ中に使ってたやつ?」
の子「これっす!」
野口「あー!そこまで分かるの?」
竹内「僕、気持ち悪いでしょ…」
佐藤「気持ち悪い…」
野口「竹内さんどんだけ追っかけてるの…じゃあ、ここにあるもので全部の編集をやってるんだね」
の子「はい。こういう…」
野口「これ何してんの?『僕のブルース』?」
竹内「の、未公開カットですよね」
の子が布団敷いて寝ている映像素材が再生される。
の子「とりあえずこういった素材とか撮ったりして、その中でも選んでいって。たぶんこれは使えなかったんですね(笑)。違うかったんですね、たぶん。ここで布団とか持ってきて…」
野口「これは衝撃的な映像だぞ!」
竹内「かなり用意してたんだっていう」
の子「わざわざ布団とか持ってきてたんですよ。結局、ボツになったっていう」
竹内「いやーあのPVはピストルしか出てこなかったしね」
の子「そうっすね(笑)」
竹内「うわーでもこれめちゃくちゃ興味ありますね」
の子「個人的にはこれも、思い出写真みたいなもんです。だからやっぱ、『美ちなる方へ』がPV含めて好きなんで。普通に思い出写真みたいでもあるし」
野口「動画はやっぱ記録なんだ?」
の子「まあ、そういった節はありますね。だからPV作るときはだいたい、ここで繋げてったり色々やったりして、ほんとに3日間とかかけてずっとこうやって作ったりしてますね」
野口「PVを作ろうと思ったのはいつからなの?」
の子「『ロックンロールは鳴り止まないっ』からです。元々『放課後の図書室』って曲があって。YOUTUBEとか俺が知り始めた頃かな、わかんないですけど、そのときあたりで何かやってみようって気になって。元々『ロックンロールは鳴り止まないっ』って曲自体、映像が作りたくて曲が出来たんで」
竹内「へー!」
の子「映像、PVっていうものを初めて自分で作ってみようって。元々『放課後の図書室』って曲のピアノのフレーズが好きだったんで。それを使って、曲作って。俺、そのとき別にロックとかよりもテクノとかに傾倒してたんで。むしろ『ロックンロールは鳴り止まないっ』なんてジョークみたいなものだったんですね。いや、だから作ってるときは面白かったですね。"何言ってんだこれ?"って(笑)。でも狙ってた感も含めてあります。あれは。一つの作品としてPVを作ったんで。色んな往年のロックミュージシャンのそういったものを繋げてって、作品として作ってったらああなったっていう」
竹内「その頃の素材とかってまだ残ってますか?」
の子「残ってるかな…削除しちゃってるかな。あ、違うわ俺。初めてPV作ったのは『あるてぃめっとレイザー!』だった(笑)」
竹内「あの幻の!あれが初めて…(笑)」
※『あるてぃめっとレイザー!』のPVは、の子が自宅の部屋で全裸で踊り、最終的に小便を撒き散らすといった内容(モザイク処理なし)
の子「あれはWindowsの『ムービーメーカー』で作ったんですよ。それでニコニコ動画とかに上げたら速攻削除されて」
野口「そりゃそうだ!(笑)」
の子「あのPV、むしろ今俺が見たいくらいです」
パズルみたいな感じですね。PV作ってるときは
『いかれたNEET』の映像素材を再生する。
竹内「これ撮影は?」
の子「monoくんですね。たぶんこの時期はmonoくんと俺で撮影してますね」
野口「すごいなーこれ。ほんと原型だなー」
竹内「これはワクワクしますね」
夕暮れ空をバックに黄昏れているmonoが映る。
の子「あっははは(笑)」竹内「このPV、ちょこちょこmonoくんが映ってるんですよね」
の子「これ…いい顔してんなあ(笑)。なんでこんなに黄昏れてるんだコイツ。この日、景色がすごい良かったんです。やっぱこの場所はすごい」
野口「撮影はこの近辺が多いの?」
の子「はい。去年とかはほんとこのへんでした」
『天使じゃ地上じゃちっそく死』の終盤の夕暮れ風景。
竹内「これ『天使じゃ地上じゃ』の…」
の子「なっつかしいなあ。歌詞に合わせて一緒に歌ってみようと思ったんですけど、出来なかったですね」
竹内「これ(曲を)流してるんですね」
の子「でも全然出来なかったっていう」
野口「色々挑戦してるんだね」
の子「挑戦は色々ありますね。いっぱい挑戦してる中でボツってるのは色々ありますわ」
竹内「そういや『ぺんてる』のPVって作ってないんですよね」
の子「最初は作りたかったんですけどね。あの曲長いんで、いかんせんめんどくさくなっちゃって。今でも作りたいんですけどね。作れるもんなら色々作りたいですけど、なかなか難しいです」
の子が料理した丸焦げの物がフライパンの上に乗っている。
野口「すっごい燃えてるねこれ」
の子「これは『黒いたまご』ですね。黒い卵を作ってボツになったっていう…」
竹内「真っ黒に焦げさせようとしたってこと?」
の子「そうっすね。『黒いたまご』のPV作るときに…」
フライパンから激しい炎が立ちのぼる。
野口「危ない危ない!」の子「素材をこうやって色々作って、結局使わないっていう」
野口「撮り溜めた映像がたくさんあるんだね。まだ見せてない映像が色々あるんだろうな」
フライパンの上で調理している映像。
佐藤「結構美味しそう…」
ガラクタの上に座っているみさこの映像。
の子「これ良かったなー」
竹内「これいいっすよね…」
映像の中での子が「帽子を被ると、鬱さ加減が増す。今、陽のあたりがいい…」とみさこに話しかけている。
竹内「演技指導!」
野口「ディレクションしてるんだね」
の子「でもだいたいディレクションしてますね。や、『黒いたまご』いいっすよね。あれはうまくできました。みさこさんもこのときはなんか、全然別人みたいな顔してますね」
映像の中での子が「で、帽子を被り始める、と。取っても、いいからでやってくんね?ま、ギターはどうでもいいから(笑)」とみさこに話しかける。
竹内「なんか口調優しいですね。もっとこう、大島渚みたいに"こらー!"とか言わないんですね」
佐藤「なんか"脱げ"って言ったら脱ぎそうな感じする。そんな感じの声のトーン」
野口「の子くんの話しかけ方がね。これ、PVのイメージって現場に行ってから浮かぶの?元々あるのかな?」
の子「やーでも、どっちもですよ。けど、こういう場所行って浮かぶってのもありますけど。あとは元々ある素材をくっつけていって、パズルみたいな感じですね。だから楽しいですよ、PV作ってるときは」
みさこがギターを弾く映像が流れる。
竹内「僕にかまってちゃん教えてくれた大阪の友達が、このシーンがいいって言ってましたね」の子「でも場所がやっぱ良かったですね。場所と天候が良かったんですよね」
竹内「時間帯もね」
の子「そう。だから俺、現場に行ったときからいいなって思って」
野口「動画の作成も自分で覚えたんだよね?」
の子「やーでも、機材は慣れるまでは難しいっすね」
野口「これは誰かに教えてもらったわけじゃないんですよね?」
の子「最初は『ムービーメーカー』から自分でやってみて、これも使って。でも慣れてしまうと一つの物から離れられないですね。それは音楽でもそうですわ」
竹内「はー。これは貴重ですわ」
野口「俺らめっちゃ貴重な物を見せてもらってるなあ」
みさこがギターを持ち始める映像。
竹内「これは『黒いたまご』の最初のほうですね」の子「んー、このときのみさこさんはなんか違いますね」
映像の中での子がビデオカメラを持ちながら「こうやってやると、陽がバックにこう…」と景色に感激し、独り言を呟いている。
の子「懐かしいな。懐かしくなってしまうわ…」
『黒いたまご』の病院のシーン。
竹内「これって病院に許可とってるんですか?」
の子「この病院は許可とってますね。これは精神病院ですね。精神病院で僕がその、ずっと通っていたところもあったりして、それで先生に。その先生自体が僕の活動とかも知ってたんで。なんか、スターリンとか好きだったんでその先生が」
竹内「スターリン!」
野口「精神科の先生がスターリンを?」
の子「そういう人がいたんで、その先生に色々伝えて、なんとか撮らせてもらいましたね。でも、こっちは、違います」
『聖マリ(タイトルも問題になったので省略)』の病院が映し出される。
の子「これは、もう、やばかったです(笑)」
竹内「ははは…(笑)」
野口「これはね(笑)。結構たくさん撮ってたもんね。名前バッチリ出てて」
の子「これはほんと。これはちょっとね。でも、好きだったんですけどね」
自分は周りに恵まれてるって思いますよ
パソコンから離れ、今までの活動の話へ。
の子「今くらいになっちゃうと、今回アルバム二枚出すんですけど、あとはもう落ちちゃっていいと思うんですけどね。だから、たとえメジャーから離れたとしてもそれはそれで面白いですけどね。あの頃に戻ったとしても。要するに竹内さんがアップしてくれたあの頃に戻ったとしても。面白いですけどね」
竹内「僕が撮影して、また上げるってことですね」
の子「メジャーから離れたとしたらね。そうなると面白いですけどね。どうなるか分かんないですけど。俺はだから、どうやって区切りをつけて落としていくかって考えてますけどね。俺はどこまで自分のバンドで自分を宣伝できるかって見極め。今なぜ落とさないかっていうのも、なんだかんだで、なぜか映画とかあったり(笑)。よく分からんけど、あれ。なんなんすかね!(笑)いや、映画は俺自分に悪いこと別に何もないんですけどね。悪いことがあるとすれば、元々のファンがゲンナリするってことですけどね。色々ありますよ」
竹内「とか言って、観ちゃうんでしょうけどね…」
の子「ネットに上がれば俺も観ますわ」
野口「観に行かないんだ?(笑)」
の子「観に行きませんわ…」
竹内「観に来てたら逆に面白いけど…」
野口「でも、今日これ(PV素材)見せてもらったけど、これ見せたことってあるの?」
の子「いや、『クイックジャパン』で一回。でもちゃんと内容見せたことないです」
竹内「いやー貴重な」
野口「ありがとう」
の子「いや、竹内さんわざわざ来てくれたんで」
竹内「いやいやいや。僕普通に観光気分で来ただけなんで」
の子「まじすか。泊まっていきますか?」
竹内「泊まっていく?(笑)いや、でも一年半見続けて、ここに来たのは初めてなんでね」
野口「そうそう。僕も意外でした。竹内さんはもう来てるもんだと思ってて」
の子「僕も意外でした。一回くらい来てんじゃないかなと思ってました。竹内さん…あ、そっか。っていう。佐藤さんも意外でしたよ」
野口「そうそうそう。佐藤さんも初めてなんだよね。だから光栄ですよ僕。竹内・佐藤と一緒に上がらせてもらって」
竹内「いやいやいやこちらこそすいません。ありがとうございます」
の子「いやいや、ありがとうございます」
野口「ほんとありがとう」
全員がへこへことお辞儀する。
竹内「なにこれ(笑)」の子「竹内さんに貰った映像もここにありますね」
竹内「ああー、これ、『ロックンロール』のPVにも使ってましたね」
の子「はい、使いましたね」
竹内「あれは嬉しかったな」
の子「いや、けど竹内さんの映像。あれだから、『劇場版』はあれでほとんど埋めればいいじゃんって思うくらいですけどね。入江監督がどう言うか分かんないですけど」
竹内「そうなったら僕にお金がたくさん入るっていう…ね(笑)」
の子「うん(笑)。でも、ほんとですよ。そのくらい貢献してるんで。いやほんと」
野口「そう考えるとあれだね、かまってちゃんは…」
の子「ほんと、うちのバンドなんて俺らの力じゃないっすよ」
竹内「いやいやいや」
の子「いやいやいやって(笑)」
野口「竹内さんの力はデカイですけどね」
竹内「僕は好きで撮ってただけなんで」
の子「そういった、だから録画隊っていうのが今もいてくれて。竹内さんがキッカケで、そういったYOUTUBEとかどんどん上げてって。それから配信とか上げてくれる人が出てきて。ぶっちゃけ俺は、そういった人たちのおかげだと思ってるんで。だから、金貰えばいいんですよ(笑)。そんななんか、『劇場版』のねえ。いやほんと、正直俺らの力じゃないっすよ。これだけは事実。これだけは事実ですからね。だから、ありがとうございますほんと」
竹内「いやいやいや。こっちこそですよほんと」
野口「俺も竹内さんと会ったから、今回色々ね。記事も書いてもらうし」
の子「いやほんと、元々YOUTUBEとか配信とか、外配信とか色々あったんですけど、あの時期がほんと嬉しかったですね」
竹内「今でもすごいたくさん上げてくれてますよね、配信のやつとか」
の子「要するに、俺らは俺らの力じゃないんですよね。別に元々はやってるかも知れないですけど、やっぱ録画の重要さってのは俺は分かってるんで。だから竹内さんが上げていったもので、ああやって広まっていった節があるんで。だから、そういった意味も含めて。俺らの力じゃないです」
竹内「こういうバンドいないですよね。誰かが録画して上げていくっていうのも」
の子「やーだから俺は、自分のバンドのいる位置としてやっぱ成り行きのほうが自分は好きなんですよね。現状とかいうよりも。今に至るまでの経緯というか。だから俺はそこを知ってもらいたんですよね。そういう、どんな風にしてここにいるっていう。プロセスっていつも言ってるんですけど。このバンドの重要なのはそこなんですよね。そこが一番面白いんですよ。曲なんかよりもそっちの部分ほうが俺は面白いんで」
野口「そうか。それはすごいなあ」
の子「だから機材紹介のところに竹内さんとかも入れて…」
野口「機材!?」
竹内「機材!?」
の子「竹内さんもこれ(ビデオカメラ)持って、機材(笑)。これ持って、機材・竹内!(笑)」
佐藤「機材っぽく、直立不動で立って」
竹内「ほんまっすか?」
の子「竹内さんのビデオカメラも完全に機材ですからね」
竹内「いやいやいや…」
佐藤「そこに立って。機材になって」
野口「じゃ、機材っぽーくお願いします」
写真撮影開始。撮影された竹内の写真をみんなで見る。
野口「なんかこれかっこいい」
佐藤「イケメンに見えるな。これは使わないようにしよう」
の子「あはは!(笑)」
竹内「いやいや、一番いいやつ選んでくださいよ」
の子「でも『GiGS』でガチでそこはちゃんとでっかく、俺も紹介したいんでそこは、気持ちとして」
佐藤「機材でね」
の子「機材というかなんていうか、うちらのバンドの重要な部分とかそういったもの、もっと知ってもらいたいところはそういうところなんで」
野口「色んな人に支えられているってところがね」
の子「はい。いややっぱそこは重要なんで」
野口「ネットで動画で流してくれる人とかね」
の子「あとはネット上の不特定多数の人とか。今ニコ動で上げてくれる人とか、よこさん(※配信動画を即座にアップしてくださる方)とか大体同じ人なんで。感謝してますよほんと」
野口「それも竹内さんの写真とともに何とか載せるようにするわ」
の子「はい。ほんと重要な部分なんで。このバンドのいい部分はそういうとこは元から…俺は個人的に自分は周りに恵まれてるって思いますよ、そこは」
野口「過程も含めてね」
の子「うん。だからほんと…俺らの力じゃないんです。ほんと、誰彼しかり。やっぱあの、竹内さんが出てきて、劒さんが出てきて、あの頃やっぱりいきなり引っ付いた感ありますよね。色々と」
野口「そこで動き出した感があったんだ?」
の子「はい。あの屋根裏のあたりとか。あの時期ですね。色々と動いたのは」
野口「屋根裏っていうのは?渋谷?」
竹内「去年の6月25日の渋谷屋根裏ですね。うん、ほら、日にちまで覚えてるっていうね…」
野口「今スラスラね(笑)」
竹内「自分が撮影した日ってやっぱ覚えてるんですよね」
の子「でも竹内さん、一番初めっていつでしたっけ?」
竹内「僕初めて観たんが4月のライブで、そのときはカメラ持ってなくて。草なぎが捕まった日で」
の子「草なぎが捕まった日って配信してた日ですね。『草なぎナイト』ですか」
野口「草なぎナイト!?」
の子「"お前も全裸になれ"とか配信で言われて。意味がいまだに俺は分からない」
竹内「初めて撮ったライブってのが結構変わったライブだったんですよね。下北屋根裏の」
の子「そうそうそう。下北屋根裏で」
竹内「さっき見せてもらった『笛吹き花ちゃん』の映像素材とか流したりね」
の子「あのときしかやってないですけどね。めんどくさいんすよね、ただ単に。あと、出来る曲が限られてるっていう。竹内さん観たときは『学校に行きたくない』とか色々あったと思うんですけど」
竹内「あと『通学LOW』と『ちりとり』。『ちりとり』はよかった。エンドロール調のね」
の子「『ちりとり』はよかったー。でも今やるとあれめんどくさいんですよね(笑)。今は配信ライブとか、そっちのほうに力入れちゃってるんで。そっちで十分みたいな。エンドロールみたいなあれはよかった」
野口「いやー、また取材したいなー。なんか『GiGS』だけじゃもったいない(笑)」
の子「いやでも『GiGS』でいいと思いますよ、やっぱ」
竹内「『GiGS』…まさか自分も機材になるとは」
佐藤「機材(笑)。楽器に並列して」
野口「そこも上手く載せれるようにするから。若干写真小さくなるかも知れないけど」
の子「いや、けどやっぱそこは、ほんと、でっかく」
野口「今日はありがとうね」
の子「いやいや、わざわざ来てくれてありがとうございます」
野口「また来ることがあるかも知れないけど」
の子「また来るときは僕らがもう、落ちぶれているかも知れないんで。そこがまた面白いんですけどね。来年のいつになるか分からないですけどね」
(終)
当時書いた日記はこちらになります。の子宅@千葉ニュータウン
2011年12月3日土曜日
『お兄ちゃんの部屋』公開オーディオコメンタリー
渋谷タワーレコードB1にて、入江悠監督作品『劇場版神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』のDVD発売記念イベントが。DVD収録のスピンオフ短編『お兄ちゃんの部屋』の公開オーディオコメンタリー&トークショーということで、入江悠監督、神聖かまってちゃんのmonoくん、ちばぎん、みさこさんがゲスト。
(写真は、イベント後の楽屋にて)
『お兄ちゃんの部屋』に主演した僕としては、メンバー3人が僕の演技にどのようなことを言うのかが気になった。本編のオーディオコメンタリーでは「いっつもニット帽被ってる」「胸毛が」「目の下にクマが」「大西ライオン」と散々な言われようだったので、やはり生で確認したいところなのだ。
会場に着くと、客席にはズラーっとイスが並べられてあり、何かの儀式でも行なわれるかのような厳粛とした雰囲気に少しばかり噴出した。楽屋におじゃますると神聖かまってちゃんのメンバーとスタッフの成田くんが5日後に開催される謎に包まれたイベント『謎の日』の話し合いをしていた。話を聞くだけでもレア感満載のライブが観れるだろう。monoくんとちばぎんが意を決した姿が拝めそうだ。
ポニーキャニオンの布川さんの案内のもと、イベントがスタート。
まずはゲストが一人一人が挨拶。ちばぎんが「こんなコアな会にお越しいただいて」と言っていたが、確かに普段のオールスタンディングのライブとは違い、会員制の儀式のような着席の会場の雰囲気がまさにコアだった。
『お兄ちゃんの部屋』の上映が始まる。
自分の顔面(目は見えないように撮影しているが)が大写しになるのはやはり慣れない。相変わらずヒゲ濃いなあという気持ちが物語のジャマをする。そしてメンバーのコメンタリーもジャマするかのごとく、コメントを。ちばぎんが「この短編をまだ観てない方」と尋ねると客席では結構な数の挙手が。「じゃあ、どんどんジャマしていきます」とちばぎんの宣言通り、内容にはあまり関係ないコメントもちらほらある中でコメンタリーは終了。いつものメンバー3人の雰囲気と、入江監督の解説により、短編がより一層深みを帯びた。というわけでもないけど、とにかくちばぎんが「気持ち悪い」を4回くらい言っていた。
その後はフリートーク。ツアーから帰ってきた神聖かまってちゃんの近況など。
入江監督の振りにより、竹内がそのままトークに参加。ステージに上がり、短編のエピソードやかまってちゃんについての話を。あまり上手く喋られず、予想通りだが、挙動不審になってしまった。というのも、なんだか事態の急激な変化に動揺しちゃって(短編の中のセリフ)。
メンバー3人が今後やってみたい役を尋ねると、みさこさんは気持ち悪い女の子の役、ちばぎんは地球を滅亡させるような悪役、monoくんは車に轢かれる役をやりたいらしい。入江監督はパニックモノの映画を撮りたいとのこと。
最後はmonoくんが威勢よく「お兄ちゃんの、部屋ー!」と掛け声を出して締めようとするが、見事に沈黙が流れる。間の取り方、話す内容といい、いつもの神聖かまってちゃんメンバー3人の会話だった。
イベント後は下北沢で自分の霊能者パフォーマンスがあるので、あまりゆっくりせずに楽屋を出る。みさこさんとちばぎんが「(竹内の映画の)脚本を書いてみたい」と言っていた。
以下、オーディオコメンタリーの文字起こしになります。(短編をご覧になっていない方はネタバレになるので、ご注意ください)
望遠鏡の中に映りこむ女性。
mono「脚がキレイ…」
兄の携帯が鳴る。
ちばぎん「気持ち悪い携帯電話ですね。これ、役者さんの私物なんですよね。気持ち悪い携帯電話ですね」
みさこ「子供携帯みたいなね」
入江「これ、主演の人は竹内君っていう、かまってちゃんには馴染みのある…」
ちばぎん「そうですね」
入江「ファンの人の間でも有名なんですか?」
ちばぎん「そうですね。最近ファンになった人は知らない人も多いかも知れないですけど」
mono「あまり前に出ないからね」
ちばぎん「昔から知っている人はだいたい…」
入江「ちょっと簡単に、どんな人なのかを」
ちばぎん「えっと…突如として現れたかまってちゃんの追っかけですね。映像を撮ってニコニコ動画とかYOUTUBEとかにアップしてくれる係をして」
みさこ「その前はしょこたんの追っかけとかもしてて。でも、しょこたんにも認知される存在にもなったっていう」
ちばぎん「追っかけなんですよね、ほんと」
入江「結構初期から、屋根裏とかも撮ってますよね」
ちばぎん「ほんと、今だからこそこうやってdisってますけど、ほんとに竹内さんがいなければ今のかまってちゃんはいなかったかも知れないという。竹内さんが撮った動画を見てかまってちゃんを知った、っていう人がほんとに多いですね」
入江「その人が短編の主演をやってるという。ある意味、かまってちゃんメンバーよりもセリフが多いですからね」
みさこ「しかも長いセリフっていう」
ちばぎん「セリフどころか出てる尺自体も長いんですね」
mono「役者…役者だなー」
ちばぎん「ん?今そんな話してたっけ?」
携帯で喋っている兄。
ちばぎん「竹内さん、実際に喋ると関西弁なんですよね。それを無理矢理標準語にしているっていう」
みさこ「だから変な棒読みみたいになってる」
ちばぎん「でも実際の竹内さんを知らない人は気にならないと思うんですけど、ほんとにリアルに知ってる人と、標準語の竹内さんはほんとに違和感しかない」
入江「そうそう。結構ね、自然に訛ってきちゃって。矯正したんですよ」
ちばぎん「このスピンオフって20分くらいあるんですけど、最初の15分は違和感しかなかったですね」
入江「最後の5分で…」
ちばぎん「巻き返す感じですね」
入江「もう、何年くらいかまってちゃんを追いかけてるの?」
ちばぎん「2年…半くらいですかね?」
みさこ「もっとあるんじゃないの?3年…」
mono「3年くらいいってるんじゃないかな…」
ちばぎん「どう…だろうね。でも2年半くらいかな」
mono「たぶん合ってると思うよ」
部屋の向こうから妹の声がする。
みさこ「これ初めて観させていただいた頃はまだ完成していなくて、ふみちゃんの声が入ってなくて。監督が口で言ってくれたんですよね」
入江「そうそう。あと、これ服とかも竹内君の私物なんですよね」
みさこ「残念な…残念な感じのね」
兄の布団の傍にお菓子の袋やマンガ本が転がっている。
mono「あれ、スッパムーチョかな」
ちばぎん「のりしおにも見える」
mono「のりしおかなぁ?」
入江「あと、あそこに置いてあるのは『ウシジマくん』ですね」
みさこ「ほんとだ。『ウシジマくん』読んじゃうと何もしたくなくなりますね。生きるの辛くなりますね。オススメですけど」
入江「ちなみにこれ、僕の実家なんですよ。僕が10代の頃に若干引きこもっていた部屋で」
ちばぎん「へー!ほんとに引きこもってた部屋で撮影したんですね」
みさこ「でも引きこもってる割にはキレイですよね」
入江「撮影三人くらいだったんで、ウチにあるものをかき集めて」
兄がゴミ袋を持って下の階にこっそり降りてくる。冷凍食品を温め中の電子レンジの前で足をバタバタさせている。
mono「これ、誰にも会いたくないんですよね」
入江「そうそう。家族今誰もいないんですけどね」
みさこ「(足のバタバタに)おしっこ行きたいみたい…」
ちばぎん「…ほんとに気持ち悪いですね(笑)」
mono「でも顔は映らないんですね」
入江「やっぱり本編で顔を映さないぶんね。なかなか、映画で顔を映さないっていうのは無いんですけどね。顔が映ったらNGっていう」
部屋に戻ってくる兄。お菓子の袋が散らばっている。
mono「スッパムーチョじゃなかったな…」
レンジで温めたラジニアを夢中で食べながら、インターネットでゲームの攻略ページを見る兄。
みさこ「これだけじゃ絶対足りないですよね」
入江「竹内君、すごい猫舌で。めちゃくちゃ熱い熱い言いながら。どうでもいい情報ですけど」
ちばぎん「ほんとはこんなインターネットやってる場合じゃないくらい熱いっていう…」
入江「そうそう。ちょっと火傷したっていう」
mono「役者魂だ…」
一人、部屋で踊り狂う兄。
ちばぎん「色、白いですね…」
入江「昔、iPodのCMでこんなのありませんでしたっけ」
ちばぎん「ありましたね!」
みさこ「そんなイメージだったんだ…」
望遠鏡で女性を眺めながら電話している兄。
ちばぎん「でもこれ…引きこもって趣味が美女観察とかほんと終わってますね」
みさこ「本当に終わってますね」
ちばぎん「救いようがない…」
望遠鏡の中の様子に驚く兄。電話相手に「ちょっと今、ドルが動いたから…」と説明する。
みさこ「ドル!」
入江「一応、『ウシジマくん』とか読んでるからね」
電話で話し続ける兄。
ちばぎん「やっぱり(発音に)違和感ありますね」
入江「若干訛ってるよね」
男性に平手打ちをする女性。
mono「あいた!」
みさこ「この女優さんは突然決まったんですか?」
入江「これはほんとは予定してた女優さんが来なくなって。それで急遽探したんですよ」
ちばぎん「それでいて、こんなにベストな遠巻き美人を」
入江「あと、竹内君がこれを観て、意外と髪の毛薄くなってるってことに衝撃を受けたそうですね」
ちばぎん「あははは!」
mono「それはちょっとリアルだなー」
入江「あと、かまってちゃんの(本編の)撮影って冬だったじゃないですか。設定が冬なんですけど、撮影したのは夏なんで、ちょっと汗かいてるんですよね。髪の毛とかしっとりしてるところとかね」
温めたラザニアをがつがつ食べる兄。
みさこ「あれじゃ足りないですよね…くちゃくちゃ」
mono「これはちょっとなー。きっついなー」
望遠鏡を覗き、ため息をつく兄。
入江「このへんがちょっと、髪の毛が…」
ちばぎん「あーー」
みさこ「言われないと気づかないですけどね!」
ちばぎん「ちょっと、つっこんでいいのかどうか」
mono「ねー。リアルすぎて」
言い争う妹と父の声を聞き、怯えて野球バットを手に持つ兄。
入江「戦闘態勢に」
mono「プラスチックのバットっていう…」
みさこ「絶妙ですね」
入江「あと持ち方がね。上のほう持っちゃうっていう」
妹と父の怒鳴り声が聞こえる。
入江「あと、二階堂ふみがベネチアで賞もらったんですよね。世界的な女優にね」
みさこ「すごいですよねー」
mono「僕らも認知されるんですかね」
暗闇の中、ドアの傍に駆け寄る兄。
入江「これ、よーく見ると汗びっしょりかいてるんですよね」
みさこ「ほんとだ!これ汗だったんだ…」
入江「湿気が高い感じの」
みさこ「大変だったんだ」
入江「monoくんは引きこもったりしなかったんですか?」
mono「僕は引きこもらなかったですね。外に出ないといけなくて。ずっと家にいるのがダメだったんですよね。こう見えて意外と、そうなんですよー」
腕立て伏せをしながら、ドア越しで妹と口頭将棋をする兄。
みさこ「ちゃんと運動するところが偉いですよね」
入江「これがまた、出来なくて」
ちばぎん「腕立てが出来ない?」
入江「カット出すと、"まだやるのか?"みたいな感じで」
mono「息切れを見せない感じでやってますね」
入江「昔、『ベストキッド』って映画があったんですけど。これ、そんな感じのシーンで」
ドアの下にCDが差し込まれる。
ちぱぎん「でもあれ、本編でCDをスッと抜き取る場面があったんですけど、案外これ最後のほうであっさり抜いちゃうんですよね。スッと抜くところが感動的だったのに」
入江「で、一瞬CD忘れちゃうんですよね、このあと。でも本編ってよく考えてみると、普通にCD買ってライブ観に来てるのって、(妹の)イケメンの彼氏だけなんですよね。monoくんも言ってたけど。妹にしても兄にしても、金払ってないですからね」
兄が電話を取り、「(妹の)大事な対局なんだから!」と必死に訴える。
ちばぎん「ここはちょっと棒読みですね」
mono「妹思いだなー」
入江「これ顔絶対上げちゃいけないんですよね」
みさこ「わー、大変ですね」
mono「顔上げちゃったら感動的なシーンも台無しですからね」
CDを抜き取る兄。
ちばぎん「これ!あっさり取るんですよねー。"あ、思い出した!"みたいな。全然決意みたいなの無いんですよね」
望遠鏡の中で女性が数人の男女に囲まれる。驚いて望遠鏡の覗きこむ兄。
ちばぎん「この横顔やばいっすね…」
何もできない自分に落ち込み、ため息をつく兄。
ちばぎん「これ、完全に妹の対局のこと忘れてますよね」
なにげなくCDをプレイヤーに差し込み、ヘッドホンをする。
入江「でも竹内君はやっぱりずっとかまってちゃんを追いかけてきたから、曲にノリ出すタイミングがいいんですよね」
立ち上がり、上着を脱ぐ。
ちばぎん「いい"ガタッ"ですよね」
入江「ちょっと汗ばんでるんですよね」
みさこ「脇の下にすごい汗かいてる…」
入江「誰しも最初に神聖かまってちゃんを聴いたときはこうなるっていう。"ガタッ"って」
mono「なるんですかねー」
望遠鏡の中、数人が女性を取り囲んでちょっかいを出そうとしている様子。女性が必死に抵抗する
mono「なんかこれ、踊ってるみたいに見えますよね」
入江「…いや見えないでしょ(笑)」
ちばぎん「見えないですね全然」
走り出す兄。ドアを開こうとする。
ちばぎん「これまた衝撃的ですよね。サビに行く前に走っちゃうんですね。サビ前にはやる気が出ちゃうっていう」
mono「これ、映画のラストシーンですよね。扉が開くっていう」
望遠鏡の中、兄が走りこんでいく。
ちばぎん「ちっちゃ!」
入江「結構セリフも録ったんですけどね。"僕のアイドルに触るな!"とかいう」
ちばぎん「気持ち悪いですねー!通行人であってアイドルでも何でもないですからね」
エンドクレジット。兄が路上に座り込む。
みさこ「これ『あしたのジョー』みたいですね」
女性が兄のもとへ歩いてくる。
ちばぎん「で、これ帰ってくるのがいいんですよねー」
入江「これね、ほんとに疲れちゃって…竹内君が」
ちばぎん「いやー、素晴らしい。まさかね、本編を観てた人にとっては、最後の扉が開いた理由が美女観察っていう」
mono「でも一応ね、惚れた女性を助けに行くっていう。男らしい感じですね」
ちばぎん「一応やってることは犯罪ですけども」
入江「盗撮してたっていうね。でも神聖かまってちゃんの音源って本編では流してないんですよね。ここだけでは流してるっていう」
(終)
(写真は、イベント後の楽屋にて)
『お兄ちゃんの部屋』に主演した僕としては、メンバー3人が僕の演技にどのようなことを言うのかが気になった。本編のオーディオコメンタリーでは「いっつもニット帽被ってる」「胸毛が」「目の下にクマが」「大西ライオン」と散々な言われようだったので、やはり生で確認したいところなのだ。
会場に着くと、客席にはズラーっとイスが並べられてあり、何かの儀式でも行なわれるかのような厳粛とした雰囲気に少しばかり噴出した。楽屋におじゃますると神聖かまってちゃんのメンバーとスタッフの成田くんが5日後に開催される謎に包まれたイベント『謎の日』の話し合いをしていた。話を聞くだけでもレア感満載のライブが観れるだろう。monoくんとちばぎんが意を決した姿が拝めそうだ。
ポニーキャニオンの布川さんの案内のもと、イベントがスタート。
まずはゲストが一人一人が挨拶。ちばぎんが「こんなコアな会にお越しいただいて」と言っていたが、確かに普段のオールスタンディングのライブとは違い、会員制の儀式のような着席の会場の雰囲気がまさにコアだった。
『お兄ちゃんの部屋』の上映が始まる。
自分の顔面(目は見えないように撮影しているが)が大写しになるのはやはり慣れない。相変わらずヒゲ濃いなあという気持ちが物語のジャマをする。そしてメンバーのコメンタリーもジャマするかのごとく、コメントを。ちばぎんが「この短編をまだ観てない方」と尋ねると客席では結構な数の挙手が。「じゃあ、どんどんジャマしていきます」とちばぎんの宣言通り、内容にはあまり関係ないコメントもちらほらある中でコメンタリーは終了。いつものメンバー3人の雰囲気と、入江監督の解説により、短編がより一層深みを帯びた。というわけでもないけど、とにかくちばぎんが「気持ち悪い」を4回くらい言っていた。
その後はフリートーク。ツアーから帰ってきた神聖かまってちゃんの近況など。
入江監督の振りにより、竹内がそのままトークに参加。ステージに上がり、短編のエピソードやかまってちゃんについての話を。あまり上手く喋られず、予想通りだが、挙動不審になってしまった。というのも、なんだか事態の急激な変化に動揺しちゃって(短編の中のセリフ)。
メンバー3人が今後やってみたい役を尋ねると、みさこさんは気持ち悪い女の子の役、ちばぎんは地球を滅亡させるような悪役、monoくんは車に轢かれる役をやりたいらしい。入江監督はパニックモノの映画を撮りたいとのこと。
最後はmonoくんが威勢よく「お兄ちゃんの、部屋ー!」と掛け声を出して締めようとするが、見事に沈黙が流れる。間の取り方、話す内容といい、いつもの神聖かまってちゃんメンバー3人の会話だった。
イベント後は下北沢で自分の霊能者パフォーマンスがあるので、あまりゆっくりせずに楽屋を出る。みさこさんとちばぎんが「(竹内の映画の)脚本を書いてみたい」と言っていた。
以下、オーディオコメンタリーの文字起こしになります。(短編をご覧になっていない方はネタバレになるので、ご注意ください)
望遠鏡の中に映りこむ女性。
mono「脚がキレイ…」
兄の携帯が鳴る。
ちばぎん「気持ち悪い携帯電話ですね。これ、役者さんの私物なんですよね。気持ち悪い携帯電話ですね」
みさこ「子供携帯みたいなね」
入江「これ、主演の人は竹内君っていう、かまってちゃんには馴染みのある…」
ちばぎん「そうですね」
入江「ファンの人の間でも有名なんですか?」
ちばぎん「そうですね。最近ファンになった人は知らない人も多いかも知れないですけど」
mono「あまり前に出ないからね」
ちばぎん「昔から知っている人はだいたい…」
入江「ちょっと簡単に、どんな人なのかを」
ちばぎん「えっと…突如として現れたかまってちゃんの追っかけですね。映像を撮ってニコニコ動画とかYOUTUBEとかにアップしてくれる係をして」
みさこ「その前はしょこたんの追っかけとかもしてて。でも、しょこたんにも認知される存在にもなったっていう」
ちばぎん「追っかけなんですよね、ほんと」
入江「結構初期から、屋根裏とかも撮ってますよね」
ちばぎん「ほんと、今だからこそこうやってdisってますけど、ほんとに竹内さんがいなければ今のかまってちゃんはいなかったかも知れないという。竹内さんが撮った動画を見てかまってちゃんを知った、っていう人がほんとに多いですね」
入江「その人が短編の主演をやってるという。ある意味、かまってちゃんメンバーよりもセリフが多いですからね」
みさこ「しかも長いセリフっていう」
ちばぎん「セリフどころか出てる尺自体も長いんですね」
mono「役者…役者だなー」
ちばぎん「ん?今そんな話してたっけ?」
携帯で喋っている兄。
ちばぎん「竹内さん、実際に喋ると関西弁なんですよね。それを無理矢理標準語にしているっていう」
みさこ「だから変な棒読みみたいになってる」
ちばぎん「でも実際の竹内さんを知らない人は気にならないと思うんですけど、ほんとにリアルに知ってる人と、標準語の竹内さんはほんとに違和感しかない」
入江「そうそう。結構ね、自然に訛ってきちゃって。矯正したんですよ」
ちばぎん「このスピンオフって20分くらいあるんですけど、最初の15分は違和感しかなかったですね」
入江「最後の5分で…」
ちばぎん「巻き返す感じですね」
入江「もう、何年くらいかまってちゃんを追いかけてるの?」
ちばぎん「2年…半くらいですかね?」
みさこ「もっとあるんじゃないの?3年…」
mono「3年くらいいってるんじゃないかな…」
ちばぎん「どう…だろうね。でも2年半くらいかな」
mono「たぶん合ってると思うよ」
部屋の向こうから妹の声がする。
みさこ「これ初めて観させていただいた頃はまだ完成していなくて、ふみちゃんの声が入ってなくて。監督が口で言ってくれたんですよね」
入江「そうそう。あと、これ服とかも竹内君の私物なんですよね」
みさこ「残念な…残念な感じのね」
兄の布団の傍にお菓子の袋やマンガ本が転がっている。
mono「あれ、スッパムーチョかな」
ちばぎん「のりしおにも見える」
mono「のりしおかなぁ?」
入江「あと、あそこに置いてあるのは『ウシジマくん』ですね」
みさこ「ほんとだ。『ウシジマくん』読んじゃうと何もしたくなくなりますね。生きるの辛くなりますね。オススメですけど」
入江「ちなみにこれ、僕の実家なんですよ。僕が10代の頃に若干引きこもっていた部屋で」
ちばぎん「へー!ほんとに引きこもってた部屋で撮影したんですね」
みさこ「でも引きこもってる割にはキレイですよね」
入江「撮影三人くらいだったんで、ウチにあるものをかき集めて」
兄がゴミ袋を持って下の階にこっそり降りてくる。冷凍食品を温め中の電子レンジの前で足をバタバタさせている。
mono「これ、誰にも会いたくないんですよね」
入江「そうそう。家族今誰もいないんですけどね」
みさこ「(足のバタバタに)おしっこ行きたいみたい…」
ちばぎん「…ほんとに気持ち悪いですね(笑)」
mono「でも顔は映らないんですね」
入江「やっぱり本編で顔を映さないぶんね。なかなか、映画で顔を映さないっていうのは無いんですけどね。顔が映ったらNGっていう」
部屋に戻ってくる兄。お菓子の袋が散らばっている。
mono「スッパムーチョじゃなかったな…」
レンジで温めたラジニアを夢中で食べながら、インターネットでゲームの攻略ページを見る兄。
みさこ「これだけじゃ絶対足りないですよね」
入江「竹内君、すごい猫舌で。めちゃくちゃ熱い熱い言いながら。どうでもいい情報ですけど」
ちばぎん「ほんとはこんなインターネットやってる場合じゃないくらい熱いっていう…」
入江「そうそう。ちょっと火傷したっていう」
mono「役者魂だ…」
一人、部屋で踊り狂う兄。
ちばぎん「色、白いですね…」
入江「昔、iPodのCMでこんなのありませんでしたっけ」
ちばぎん「ありましたね!」
みさこ「そんなイメージだったんだ…」
望遠鏡で女性を眺めながら電話している兄。
ちばぎん「でもこれ…引きこもって趣味が美女観察とかほんと終わってますね」
みさこ「本当に終わってますね」
ちばぎん「救いようがない…」
望遠鏡の中の様子に驚く兄。電話相手に「ちょっと今、ドルが動いたから…」と説明する。
みさこ「ドル!」
入江「一応、『ウシジマくん』とか読んでるからね」
電話で話し続ける兄。
ちばぎん「やっぱり(発音に)違和感ありますね」
入江「若干訛ってるよね」
男性に平手打ちをする女性。
mono「あいた!」
みさこ「この女優さんは突然決まったんですか?」
入江「これはほんとは予定してた女優さんが来なくなって。それで急遽探したんですよ」
ちばぎん「それでいて、こんなにベストな遠巻き美人を」
入江「あと、竹内君がこれを観て、意外と髪の毛薄くなってるってことに衝撃を受けたそうですね」
ちばぎん「あははは!」
mono「それはちょっとリアルだなー」
入江「あと、かまってちゃんの(本編の)撮影って冬だったじゃないですか。設定が冬なんですけど、撮影したのは夏なんで、ちょっと汗かいてるんですよね。髪の毛とかしっとりしてるところとかね」
温めたラザニアをがつがつ食べる兄。
みさこ「あれじゃ足りないですよね…くちゃくちゃ」
mono「これはちょっとなー。きっついなー」
望遠鏡を覗き、ため息をつく兄。
入江「このへんがちょっと、髪の毛が…」
ちばぎん「あーー」
みさこ「言われないと気づかないですけどね!」
ちばぎん「ちょっと、つっこんでいいのかどうか」
mono「ねー。リアルすぎて」
言い争う妹と父の声を聞き、怯えて野球バットを手に持つ兄。
入江「戦闘態勢に」
mono「プラスチックのバットっていう…」
みさこ「絶妙ですね」
入江「あと持ち方がね。上のほう持っちゃうっていう」
妹と父の怒鳴り声が聞こえる。
入江「あと、二階堂ふみがベネチアで賞もらったんですよね。世界的な女優にね」
みさこ「すごいですよねー」
mono「僕らも認知されるんですかね」
暗闇の中、ドアの傍に駆け寄る兄。
入江「これ、よーく見ると汗びっしょりかいてるんですよね」
みさこ「ほんとだ!これ汗だったんだ…」
入江「湿気が高い感じの」
みさこ「大変だったんだ」
入江「monoくんは引きこもったりしなかったんですか?」
mono「僕は引きこもらなかったですね。外に出ないといけなくて。ずっと家にいるのがダメだったんですよね。こう見えて意外と、そうなんですよー」
腕立て伏せをしながら、ドア越しで妹と口頭将棋をする兄。
みさこ「ちゃんと運動するところが偉いですよね」
入江「これがまた、出来なくて」
ちばぎん「腕立てが出来ない?」
入江「カット出すと、"まだやるのか?"みたいな感じで」
mono「息切れを見せない感じでやってますね」
入江「昔、『ベストキッド』って映画があったんですけど。これ、そんな感じのシーンで」
ドアの下にCDが差し込まれる。
ちぱぎん「でもあれ、本編でCDをスッと抜き取る場面があったんですけど、案外これ最後のほうであっさり抜いちゃうんですよね。スッと抜くところが感動的だったのに」
入江「で、一瞬CD忘れちゃうんですよね、このあと。でも本編ってよく考えてみると、普通にCD買ってライブ観に来てるのって、(妹の)イケメンの彼氏だけなんですよね。monoくんも言ってたけど。妹にしても兄にしても、金払ってないですからね」
兄が電話を取り、「(妹の)大事な対局なんだから!」と必死に訴える。
ちばぎん「ここはちょっと棒読みですね」
mono「妹思いだなー」
入江「これ顔絶対上げちゃいけないんですよね」
みさこ「わー、大変ですね」
mono「顔上げちゃったら感動的なシーンも台無しですからね」
CDを抜き取る兄。
ちばぎん「これ!あっさり取るんですよねー。"あ、思い出した!"みたいな。全然決意みたいなの無いんですよね」
望遠鏡の中で女性が数人の男女に囲まれる。驚いて望遠鏡の覗きこむ兄。
ちばぎん「この横顔やばいっすね…」
何もできない自分に落ち込み、ため息をつく兄。
ちばぎん「これ、完全に妹の対局のこと忘れてますよね」
なにげなくCDをプレイヤーに差し込み、ヘッドホンをする。
入江「でも竹内君はやっぱりずっとかまってちゃんを追いかけてきたから、曲にノリ出すタイミングがいいんですよね」
立ち上がり、上着を脱ぐ。
ちばぎん「いい"ガタッ"ですよね」
入江「ちょっと汗ばんでるんですよね」
みさこ「脇の下にすごい汗かいてる…」
入江「誰しも最初に神聖かまってちゃんを聴いたときはこうなるっていう。"ガタッ"って」
mono「なるんですかねー」
望遠鏡の中、数人が女性を取り囲んでちょっかいを出そうとしている様子。女性が必死に抵抗する
mono「なんかこれ、踊ってるみたいに見えますよね」
入江「…いや見えないでしょ(笑)」
ちばぎん「見えないですね全然」
走り出す兄。ドアを開こうとする。
ちばぎん「これまた衝撃的ですよね。サビに行く前に走っちゃうんですね。サビ前にはやる気が出ちゃうっていう」
mono「これ、映画のラストシーンですよね。扉が開くっていう」
望遠鏡の中、兄が走りこんでいく。
ちばぎん「ちっちゃ!」
入江「結構セリフも録ったんですけどね。"僕のアイドルに触るな!"とかいう」
ちばぎん「気持ち悪いですねー!通行人であってアイドルでも何でもないですからね」
エンドクレジット。兄が路上に座り込む。
みさこ「これ『あしたのジョー』みたいですね」
女性が兄のもとへ歩いてくる。
ちばぎん「で、これ帰ってくるのがいいんですよねー」
入江「これね、ほんとに疲れちゃって…竹内君が」
ちばぎん「いやー、素晴らしい。まさかね、本編を観てた人にとっては、最後の扉が開いた理由が美女観察っていう」
mono「でも一応ね、惚れた女性を助けに行くっていう。男らしい感じですね」
ちばぎん「一応やってることは犯罪ですけども」
入江「盗撮してたっていうね。でも神聖かまってちゃんの音源って本編では流してないんですよね。ここだけでは流してるっていう」
(終)
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