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2011年12月11日日曜日

【連載】神聖かまってちゃん物語~第3話「なんで俺だけグラサンかけてんの!?」~

劒さんは神聖かまってちゃんにかまおうとしていた。

今度、会社をやるらしい。マネージメントの仕事を始めるそうで、名刺を貰う。そこには『恋愛研究会。』と書かれていた。これは劒さんが大阪時代から所属していた集団の名前でもある。あの頃から絶対恋愛を研究する気ないだろうと思えるイベントばかりやっていたけど、まさか会社名になるとは。
劒さんとは、お互いが上京する前からの知り合いだ。いつの日か、東京の街で自転車を二人乗りしたことがある。
「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかなあ」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」
金子賢にも安藤政信にも程遠いビジュアルの二人だが、渋谷から下北沢までの道すがら、映画『キッズリターン』のセリフを呟いてみた。
「もう終わっちまった…とかだっけ?」「始まっちゃいねー。とかでしたっけ?」
二人ともうろ覚えだった。終わっても始まってもいないストーリー。それは都会に出てきた二人にも言えることだし、下北沢・渋谷屋根裏でしかライブをやらない神聖かまってちゃんにも言えることなのかも知れない。
スーツをビシッと着込んだ大人が携わるより、劒さんのようなクセ毛の人が関わるほうがきっと面白い。そして才能を見抜く人だ。また、ステージ映えするベーシストでもある。
「仕事として、面白い人たちをマネージメントしていこうと思っててね」
劒さんが神聖かまってちゃんに興味を持ったことが何よりも嬉しかった。僕は、上京するときの深夜バスの車中、彼が「都会でも頑張ってね。」と一言メールを送ってくれたことを忘れていない。
渋谷LUSHのカウンターで、僕が勝手に作った"神聖かまってちゃん宅録音源CD-R"を渡した。1曲目が『雨宮せつな』という、こだわりの選曲だ。ここに神聖かまってちゃんの魅力が詰まっている。
後日、劒さんからあのときのように一言メールが送られてきた。
「23才の夏休み、最高。」
こんなメール、いまどき高校生でも送らないだろう。どれだけ分かりやすい反応なんだ。それほど、気に入ったということなのだろう。

その頃、サマーソニック2009の一般公募枠のイベント『出れんの!?サマソニ!?』に神聖かまってちゃんが出演の応募していた。ある程度の順位まで上りつめると、次の審査にいけるらしい。
だが、応募のプロフィールにはなぜか『ガールズバンド』と書かれていた。ガールは一人しかいないだろ。しかも『平均集客数…7、8人』とはバカ正直すぎる。
この人ら、本気でサマソニに出る気あるのか?
それでも、mixi日記で投票を促した。それはもう、強引だ。お節介そのものだ。
「"投票する"を押すのです。押すだけでいいのです。押しましたか?おっ、いいですね!最高です!あなたとは一生関係が続きそうです!よろしくお願いします!」
胡散臭い業者のようなことをした。なぜなら、とにかく大舞台で彼らを見たかったのだ。しかし、いまだ知る人はほとんどいないバンド。7、8人しかお客さんが来ないバンドがサマソニに出るなんて絵空事だ。

6月25日、渋谷屋根裏で神聖かまってちゃんのライブがあった。
前回以上に興味を示してくれた人が多く、CD-Rを配った甲斐あってか、10人くらいの友人がライブを観に来てくれた。みさこに自慢げにそれを言うと、「竹内さんのお友達って病んでるんですね!竹内さんも病んでるんですね!」とまさかの反応を満面の笑みで言われた。
客席には劒さんの姿もあった。Perfect Musicという会社の社員の方を2人連れていた。僕は前回同様、ビデオカメラを後方から回し、神聖かまってちゃんのライブを撮影した。
これがもう、ある意味歴史に残るようなライブになった。
彼らは30分の枠であるにも関わらず、55分間もライブをした。しかし、演奏したのはたった4曲。の子が『アラレちゃん音頭』を踊ったり、monoとフリーラップバトルしたりと、とにかく自由気ままなライブだ。
の子はmonoに対し、「人生が中途半端!」「23年間生きてきて、お前は一体何をした?」と挑発。ラップバトルというより、単なる口ゲンカみたいだ。そして最終的にの子が放った言葉に、会場が笑いに包まれた。
「これが…ジャズだ!!」
なんかもう、めちゃくちゃだ。そのとき、劒さんの笑い声も聞こえた。

ただでさえ時間をオーバーしたライブをしているのに、ライブ後もずっとステージに居座ろうとするの子。彼をmonoとちばぎんが必死に取り押さえ、楽屋に連れていく。
「違う…もっと…触れ合いたかったんだよぉ…」
ステージ脇から聞こえるの子の声が切ない。ライブハウスは終始笑い声に包まれた。今までに見たことのない、グダグダなライブ。いや、これはライブなのだろうか。かっこよく言えば既成概念をぶち壊され、かっこ悪く言えばいい加減なコント。それでも、の子の個性がガンガン発揮されていたのは間違いない。これこそが、神聖かまってちゃんのライブの真髄でもあった。
最後はmonoがステージの中央で土下座し、謝罪。素晴らしいオチだった。

終演後、劒さんにみさこを紹介する。Perfect Musicの方々が神聖かまってちゃんと接触していた。
「これは10年に1度とか、そういうレベルではない才能。すぐに飛び火しますよ」
社員の方が言っていた。その方はポリシックスやレミオロメンを発掘した人と聞いていた。そういったグループと同じように、神聖かまってちゃんの名前が今後広まっていくのだろうか。
劒さんとの子のやり取りは印象的だった。
「君と友達になりたい」
「でも僕メール返事するの遅いし…mixiやってないし…」
なんなんだこの会話。

やがて、劒さんは本格的にかまい始めるようになった。"友達"になるための第一歩として。
千葉県の柏まで神聖かまってちゃんに会いに行くという。電話でそれを聞いた僕も、なぜか同行させてもらうことになった。
神奈川県からはるばる千葉県へ。電車に揺られて辿り着いた柏駅。
そこには神聖かまってちゃんのメンバー全員が集っていた。駅前の風景に馴染んでおり、普通の若者に見えた。
みんなで近場の居酒屋に入る。ラジオ収録以来、神聖かまってちゃんのメンバーと何もイベントがないところで会うのは初めてだった。みさこ以外の男性メンバーが全員喫煙者で、タバコの煙が遠慮なく充満していた。みさこが少しかわいそうに思えた。
2軒ハシゴして合計4時間ほど、ゆっくりと食事をし、お酒を飲んだ。
「この人は信頼できる人なんで…」
メンバーに劒さんを紹介した。劒さんとつながりのあるバンドとしてオシリペンペンズなどの関西のバンドの名をあげると、の子は大きく反応していた。世代が近いせいか、聴いてきた日本のバンドが似ているように思った。
劒さんは彼らのマネージャーになる第一歩として、まずは仲良くなろうとしていた。仕事の話というよりも、趣味や世間話を中心に話していた。対バンしたいバンドや、お互いの歴史など。なんでもない話だが、神聖かまってちゃんが好きな僕にとってはどれも興味深い話ばかりだ。
神聖かまってちゃんにはニートもいればフリーターもいて、会社員もいる。なんとなく、現代の若者がそこに集約されている気がした。monoはおとなしく、みさこはよく笑い、ちばぎんは気遣いができ、の子はバンドの舵取りをしていた。それぞれの役割とキャラクターがはっきりしているようにも思えた。
「撮ってくれた映像、あれ、めちゃくちゃ良かったっす。マジでありがとうございます」
YOUTUBEにアップした6月25日のライブ映像について、の子は律儀にお礼を言ってくれた。好きで撮ってるだけなので、まさか気に入ってもらえるとは思っていなかった。
の子はあれほどまでの魅力的な楽曲を、無料でネットにアップしている。「5000円くらい払いたいですよ」との子に言うと、「ええっ!うえっ!そんなこと言われたん初めてですよ…」と必要以上に顔を赤らめ、隣にいたちばぎんに助けを求めていた。結局、お金がなかったので払わなかった。

全員がリラックスして、色々な話をした。
の子がちばぎんにキラカードを借りパクしたまま再会した頃の話や、僕が以前ナンバーガール時代の田渕ひさ子のギターソロの映像を編集してアップした動画を、出会う前からの子とみさこがYOUTUBEで見ていた話まで。
そして、いつしか未来の展望の話になった。
劒さんが「いつか、ひきこもりの人をライブに来させましょう!」と語っていた。
ラジオの収録のときのような不穏な空気はなく、終始、和やかでいいお酒が飲めた。
神聖かまってちゃんにとって、良い夜になったのだろうか。そして、劒さんはの子と"友達"になれたのだろうか。
帰り道の電車内、劒さんが「どういうバンドと対バンしたらいいかな?」と尋ねてきた。
「toddleとか、前野健太とか、チッツとか…」「全部あなたの好きな人たちじゃないですか!」「でも、ロックフェスとかバンバン出れたらいいですね」
未知数の可能性を秘めたバンドの物語は、まだ始まったばかりだ。

その夜、神聖かまってちゃんの男性メンバー3人がの子の家で配信をしていた。みさこは翌日の仕事のため、欠席していた。
彼らは最近、配信媒体をPeercastからニコニコ生放送に移行した。そのせいか、Peercastのリスナーからは「戻ってきてほしい」「裏切り者」といったコメントが沢山寄せられていた。先日のみさこの単独配信は、合計来場者数が初めて1000人を突破していた。
配信はとても楽しそうな雰囲気で、柏での飲み会のことを伝えていた。の子は酒に酔ったのか、異常なほどハイテンションで「テカチュー(恐らく『ポケモン』のピカチューのこと)」と何度も叫んでいた。
その様子を見る限り、彼らにとって楽しい夜になったように思えた。神聖かまってちゃんにとって、新しい展開が生まれた。それを伝えるような配信だった。

一週間後。の子とmonoが、晴れて神聖かまってちゃんのマネージャーとなった劒さんに誘われて、横浜赤レンガパーク野外特設ステージで行なわれる木村カエラの野外イベント『GO!5!カエランド』に足を運ぶことになった。
ちばぎんとみさこは仕事の都合により行けなかった。劒さんの人脈により、ゲスト入場に。劒さんは「音楽をやっていて他のミュージシャンと繋がると、こうやってゲストとして入場することもある」ことを神聖かまってちゃんに伝えたい気持ちと、あと普通に木村カエラのライブを楽しみたかったようだ。ありがたいことに、これまた同行させてもらうことになった。
桜木町駅に待ち合わせの時間を守ってやって来たのは、monoと僕だけだった。
の子は一番遅れてやって来た。なぜかサングラスをかけており、海外の来日スターのような佇まい。一方で、遠足をずっと楽しみにしていた少年のようでもあった。避暑地に向かう観光スタイルにも見える彼の第一声は、半ば期待通り。
「おせーよ!!」
こっちのセリフだ。
「なんで俺だけグラサンかけてんの?!」
それもこっちのセリフだ。

何万人もの観客が一つの会場を目指して歩いていた。行き先は"カエランド"。その入口はなぜか口の形をしていた。そうなると出口は肛門なんだろうか。
大勢の聴衆に紛れて、の子とmonoが広大な会場を眺めている。
やがて木村カエラのライブが始まった。
自分たちはCブロックにいたが、木村カエラが「Aブロックの人ー!」と呼びかけると「わーーー!」との子が叫ぶ。違うよ。「Bブロックの人ー!」と呼びかけても「わーーー!」と叫ぶ。違うって。完全に浮いていた。そして肝心の「Cブロックの人ー!」と呼びかけると、叫ばず。無表情で固まっていた。なんなんだこの人は。

ライブは夕方から夜まで続いた。途中、の子らと離れ離れになったが、最終的には同じ場所に合流して落ち合うことに。の子は知らぬ間にメガネを着用しており、「いやー、あまりにもライブが良かったんでそのへんでメガネ買ってきましたわ」と。物販で売ってるわけがない。
その後は会場外に設置されていた"誰でも木村カエラになれる"といった顔ハメ看板で、monoが顔をはめた。残念ながら木村カエラにはなれなかった。
テントで食事し、神聖かまってちゃんの配信や音楽についてゆっくり語り合った。劒さんに「今度お金払うから、二人にビールおごってやって」と頼まれたので、おごった。その後、劒さんからお金を払われることはなかった。
monoは、話しかけなければ一切言葉を発しないほどのシャイボーイだ。の子は必要以上に気を遣う人のように思えた。配信は、時折言葉が刃のように飛び込んでくる。それを自ら受けて立ち、やり抜くのは勇気でしかないのだろう。 木村カエラのライブ会場にいる観客の中で、誰よりも普通に見える二人だが、他の人には出来ないようなことをやっている。危険な思いをした配信や、これまでの活動のこと、そして木村カエラのライブの感想を話し合った。
この日のライブは当然、木村カエラが目当ての人ばかりだ。
だけど、僕にとっては神聖かまってちゃんが一番のスターだ。誰にも信じてもらえないだろうが、この中学生のような青年と、アゴが長い青年が、スターなのだ。横から見ると二人とも三日月に似てるとかではない。
彼らがいつか、あのステージに立つべきなのだ。
木村カエラのライブ中、ここで神聖かまってちゃんが演奏する姿を想像していた。
『いくつになったら』の歌詞を思い出す。

「僕はいつか 東京のど真ん中で 何千人の前で 存在をみせてやる」

いつか、それが現実になる日が来るのだろうか。
の子とmonoは「横浜の街をもう少し楽しみたい。あと、バーで飲みたい」とムーディーなことを言っていたので、そのままお別れする。時間は22時過ぎ。二人とも千葉に帰る気はあるのだろうか。

数日後、仕事の昼休み。
会社でご飯を食べながらボーッとmixiを覗いていると、友人の書き込みに思わず噴出しそうになった。
待ち望んでいたことなのに、思わず目を疑った。

『神聖かまってちゃん、サマソニ出演決定!!』


~続く~

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