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2018年6月17日日曜日

いつか暮れるすべてのものへ。 - 神聖かまってちゃん『33才の夏休み』MV



「僕の人生は教室で自殺しようとしたあの日で
 すべてが終わっているんだ
 そんな僕がここで人様の人生をねじまげるきっかけになれたら
 僕はちょっとだけうれしい
 人生1回しかないんだ
 人生ってのは1回でそれが終わったら
 なーーーーーんもねぇ!!!!!!!」

の子さんが10年前、2ちゃんねるにこのように書き込んでいた。
彼が一度人生を終わらせようとした“教室”は、人として生まれた以上誰もが避けられない場所。
そこにずっと居座る人もいれば、逃げ続ける人もいる。

ここを始まりとして、神聖かまってちゃんの10年間を描こうとした。
の子さんがこの教室でまだ“大島亮介”だった頃に体験した、誰かに嘲笑われているような幻聴と、ひとりぼっちの救いようのない閉塞感から、フィクションを通して一つのバンドのノンフィクションを映し出そうとした。

2ちゃんねるに書き込んだ頃、“神聖かまってちゃん”と名付けられたそのバンドは誰にもかまわれなくて、ライブハウスのステージの向かいには対バンのバンドメンバーとPAさんのみ。どんなに良い曲を作っても一生懸命にライブをしても、それを目撃してくれる人はほんの一握り。
そこで、の子さんは一つの武器を見つけた。それはインターネットだった。誰もが当たり前のように日常的に使用しているものを主戦場に置き、話題を集めるために配信しながら渋谷の交番に突撃したり、自ら編集したMVをYouTubeにアップしたり、当時どのバンドも手を付けなかった手段を飛び道具として利用した。

そんなインターネットでの活動が功を奏して、その姿は遠く離れた場所にいる人々の元へ届き、僕もその一人になった。
2009年4月。『ロックンロールは鳴り止まないっ』のMVが呼び起こす初期衝動に突き動かされて、仕事帰りにふと立ち寄ったライブハウス。今は無き下北沢屋根裏の受付で、「お目当てのバンドは?」と尋ねられて「神聖かまってちゃん」と答えた。会場のドアを開けると、僕含めて3人しかいなかった。やがて本番になっても、結局10人にも満たなかった。
しかし、そこでの子さんはまるで何千人もを相手にするようなパフォーマンスを繰り広げていた。

あれから9年の月日が流れた。SEKAI NO OWARI主催の『club EARTH 12th Anniversary』で、神聖かまってちゃんは2000人以上の観客に立ち向かっていた。

「僕はいつか 東京のど真ん中で 何千人の前で 存在をみせてやる」

あの頃教室で自殺しようとしたの子さんが、『いくつになったら』で歌っていたことを次々と現実にしていく。
僕は下北沢屋根裏で初めて彼らを目の当たりにした一ヶ月後からいつの間にか、の子さんが何度も振り落とすギターに、千葉ニュータウンを駆け走る女の子にカメラを向けていた。



神聖かまってちゃん「33才の夏休み」MusicVideo
https://www.youtube.com/watch?v=s7jVsMnNReE


神聖かまってちゃんと9年間付き合ってきて、ミュージックビデオを今回初めて作ることになった。
その『33才の夏休み』は、かつての夏休みだった23才からの10年間だけでなく、あの教室で自殺しようとした大島亮介くんが“の子”と名乗って、自己を解放されるストーリーから始めないといけない。神聖かまってちゃんが表現する喜怒哀楽の根源的な部分を絶対に無視できないでいた。
それが彼だけのストーリーに収まらず、やがてその衝動が音楽となり、多くの人の新たな衝動をネットでリンクさせていく様を描かないといけないと思った。

女の子がいじめを受けている。いじめっ子の佐藤に対して「死ね」と叫び続ける『夕方のピアノ』のデモ音源の最後に、物悲しく響いているリコーダー。『笛吹き花ちゃん』の「誰もいない教室でみんなは死んだと勝手に決めつけた」という女の子の口から、それを鳴らそうと思った。

今在るすべてのものを美しく切り取りたい。そのすべてがいつか終わるものであることを示したい。
そして10年の歳月を、の子さんが今も住む千葉ニュータウンで表したい。


ー千葉ニュータウンを美しくー



『ロックンロールは鳴り止まないっ』のMVでの子さんが腰掛けた桟橋は、釣堀のご主人によると2011年の震災で大半が沈んでしまったらしい。『僕は頑張るよっ』で蹴り込んだボールの向かう先にサッカーゴールはなく、今は撤去されてしまったという。

今年4月、の子さんがかつて自作のミュージックビデオで撮影した地をロケハンで回った。そこで10年の時の変化を手に取るように感じた。まるでカケラを拾い集め、パズルのピースを埋めるかのような作業だった。主人公の女の子の心情に寄り添うように、沈んだ桟橋は行き場がなく、姿なきサッカーゴールは受け手のない感情にロケーションが相応しかった。

春夏秋冬、晴れ雨曇り。風景は時の経過を感じさせる。街は建て替わり、人口が増えることで緑は削られる。それでも、千葉ニュータウンには変わらない景色が堂々とそこにある。
女の子がMDプレイヤーに出会って以後の風景は、10年前と変わらないロケーションを選んだ。踏切、公園、里山、森。そしてひょうたん山。それらは決して回顧でもイメージの連続でもなく、今この瞬間も生き生きと命を輝かせる風景を映し出すためだった。
そしてまた新たにこのバンドで出会う人たちが元となったMVを探したり、昔観たことがある人たちでも振り返って過去作を見返したりしてくれることを望んで、“10年”をこの作品だけに留めたくなかった。

その中心となるのが、『ぺんてる』のモデルになった櫻井商店だ。




ビートルズでいうリヴァプールのように、名作映画のロケ地でも訪れるように、“聖地”を持っていることがバンドの特性であり魅力の一つであることは、神聖かまってちゃんの活動を見てきた人なら誰もが知っていることだろう。
町の文房具屋さんである櫻井商店は今も多くのかまってちゃんのファンの方が訪れ、来店した人が自由に書き込めるノートまである。の子さんが少年時代を過ごした、いわば神聖かまってちゃんの原風景として愛されている。地元の人々にとって坊主頭の中学生男子が二人仲良く寄り添っていたり、ジャスコな街にイオンができたとしても昭和の時代から頼もしく在り続けているようだ。

「大島さんがよくここに文房具を買いに来てたのよ」とお店のおばさん。初対面でも気さくに中学生時代の大島亮介くんの話をしてくれた。「だいたい一人で来ていたと思うよ」と聞いて、ここを女の子の心情がステップアップする場所に相応しいと思った。
音楽で湧き上がるエモーションは目に見えないものでも、神聖かまってちゃんはヘルメットとサングラスが象徴として目に見える。だから、の子さんの“神”ヘルメットを被って櫻井商店の窓ガラスに半透明に映る姿を見ることにした。そこで初めて自分の姿を見つめて微笑むことで、自己を認めさせたい。あるいはおかしな姿になることで引いた目になり、自らの滑稽さを笑ってもらいたかった。

人間性を否定された者の心に人間から遠く離れたモンスターが宿り、刃物を向けて自らや誰かを襲うことが今もなお繰り返されている。衣食住に関係なく、無くても生きていけるはずの音楽の役割を今一度示したい。だから、誰かが認めてくれるのを待つのではなく、耳元で鳴る音楽が自分を認めることを手伝わせたいと思った。
かつてジャポニカ学習帳を手にした大島くんのように、女の子にここで大きなものを手にしてもらいたかった。




おばちゃんから「大島さんに何かお店のものを持っていってあげて」と、三色のボールペンを渡された。お金を払おうとしても「いいからいいから。私もそう長くはないんだから」と何度も拒まれた。
ここで一つの目的が生まれた。今から映し出すすべてがそう長くはないものであるからこそ、“残す”ことを心がけよう。櫻井商店を半永久的に留めるために美しく切り取ることを、ボールペン代の代わりにしよう。
そしてボールペンもまた、“残す”ために女の子の手前の机に小道具として使用した。いつかタイミングが来たら、の子さんに渡そうと思った。ボールペンはすぐに無くなるものだからこそ、大切に保管しておきたくもあった。


ー女の子を美しくー



意味もなくそこに在たりと雰囲気だけで済ませるような、イメージビデオにだけは絶対にしたくない。
傷ついた女の子がそこに在ることを力強く証明することで、同じ気持ちに打ちひしがれている、または過去にその経験を味わった人たちの元に届けられることができる。陰と陽の振り幅をお芝居で見せることで、神聖かまってちゃんの世界を体現できると思った。

その存在を放つことができる人を探していた。『ミスミソウ』『ライチ☆光クラブ』などで知られる内藤瑛亮監督の新作映画『許された子どもたち』の“ある視点撮影”という名のBカメで参加していた時に、ふと心に留まる存在があった。
それが今回のMVで主演を務めてくれた池田朱那さん。澄んだ瞳にどこかしら強い意志を感じ、大人びた表情をしながらも微笑むとえくぼが目立ち、口元に鮮やかな幼さが浮かぶ。子どもと大人との絶妙な境目が、神聖かまってちゃんのイメージにピッタリに感じた。また、最近観た映画を尋ねると韓国映画『息もできない』を繰り返して観たそうで、16才にしてこの感性は間違いないと思った。

とはいえ、神聖かまってちゃんと過ごした9年間のおよそ3,000日と、池田さんとこれから撮影で過ごす片手の指で数えられる程度の日数とが、被写体としての熱量に相違が生まれることを恐れていた。
でも、それは早々に杞憂に終わった。撮影初日、教室のシーンのファーストカットであっけなく吹き飛ばされた。廊下から机に供えられた花を見つめる表情で、確信に近いものがあった。




彼女が神聖かまってちゃんのライブと同じように、夢中になって撮影をさせてしまう女優であることに気付いた。
傷ついているけど傷ついていないフリをしてほしい。決して弱く見せないよう感情を誤魔化している、そんな気持ちで演じてほしい。教室のシーンのお芝居はしつこく何度もそう伝えて、それを池田さんは持ち前の勘の良さと鋭い適応力で、監督として何一つストレスを感じない飲み込みの早さで、撮りながら手応えしか感じられない素晴らしい演技で収めさせてくれた。

あらゆる選択肢を絞って、主人公の女の子役は神聖かまってちゃんを元々よく知らない、彼らとは普段から程遠い場所にいる必要があった。
打ち合わせの際に参考のつもりで、パソコンを床に叩きつけて破壊するの子さんの過去の映像を見せた。池田さんが「わっ」と驚いて身体を動かして、そこを重要に感じていた。バンドに特別な思い入れがないからこそ、新鮮な感覚で神聖かまってちゃんを見つめることができる。その存在をファンだけに留めず、初期衝動の器として普遍性を持たせられるから。

今まで長年付き合ってきて、神聖かまってちゃんをドキュメンタリーの視点でしか、生々しいライブの現場やメンバーの言葉を紡ぐことしかしていなかった。
だからこそ、そこを強みとしてMVには一つでもドキュメンタリーの要素を取り入れようと思った。それがギターとパソコンの破壊のシーンで、予期せぬ壊れ方や小さなアクシデントを心の奥底で期待していた。

でも、もっと素晴らしいドキュメントを池田さんは魅せてくれた。




このカットには嘘がない。池田さんが実際に『33才の夏休み』を聴きながら涙を流す姿をただ切り取ったものだ。
『33才の夏休み』のMVは当然ながらすべて構成したもので、女の子はお芝居で、かまってちゃんのメンバーの演奏は当て振りだ。ギターとパソコンを壊すのも、あらかじめ仕組まれた演出である。
でも、池田さんはこの曲を聴くことで純粋に心を動かし、涙を流してくれた。そのおかげで無作為なカットになり、今までに撮影してきたライブ映像と同じように歴としたドキュメンタリーになった。

千葉ニュータウンでのロケ日は予報では大雨だった。それが雲が早く流れてくれたおかげで、昼からピーカンで雲一つない天気に恵まれた。キラカードが貼られた背中に絶妙なタイミングで風が当たり、黒い髪が華麗に舞った。あらゆる奇跡に迎え入れられたけど、池田朱那さんが何よりも奇跡だった。
MDと出会ってからの表情の変化のグラデーションや、パソコンを壊す時のアクション映画さながらの躍動感。それらが想像通りかそれを超えるもので、もっとお芝居が見たくなったし、この人を主演にまた作品を作りたいなと思った。
思い返せば、人生には幾つか大切な決断があった。それは9年前に神聖かまってちゃんを撮影しようと決めたことと、自分にとって彼らの初めてのMVの主人公を池田朱那さんに演じてもらうこと。この二つに同じくらい大きな価値を感じている。

帰りの車中で「あーほんと、池田さんでよかった〜!」と大きな声で伝えてしまった。この撮影期間、緊張と高揚感のせいか布団に入っても一睡もできなかった。そこからの安堵感と達成感が入り混じったせいか、帰り道にイヤホンで『33才の夏休み』を聴いていると、自分も池田さんのように無作為な感情が溢れてしまった。




池田さんが神聖かまってちゃんをイラストに描いて送ってきてくれた。

メンバーそれぞれが愛おしく描かれていた。撮影を通してこんなに好きになってくれたことで、神聖かまってちゃんの音楽に突き動かされた女の子のフィクションがいつの間にかノンフィクションになった。


ー「みんな死ね」を美しくー



悪意のために供えられた花はいつしか枯れて、日が暮れるようにすべてものが朽ち果てていく。
7年前、震災直後に発表した『僕は頑張るよっ』で歌われた、「人間はいつか死ぬ」。それが絶望にも希望にも受け取れるように、暮れゆくものを残すことができるのが“撮影すること”であることを、神聖かまってちゃんを撮影しているとふと気付くことがある。
夕暮れ空がいつだって美しい断末魔を叫ぶように、壊れゆくギターとパソコンも終わりゆく姿を激しくも綺麗に切り取りたいと思った。

誰もいない教室でみんなにお花を供えて、過去のアルバムのタイトルのごとく「みんな死ね」とやりきれない感情が芽生えたとしても、その花は残酷なまでに美しく咲き誇っている。
やがてカンカンと枯れて、みんなあっけなく死んでしまう。
枯れゆく花と同じく床に散らばっているCDも、やがてMDのように過去のものとなり、ノスタルジーの中に放り込まれていくのだろう。それでもその盤面が誇る虹色の輝きを、漲る生命のごとく映し出したいと思った。振り下ろすギターが神聖かまってちゃんの過去作品を含めたそれらのCDを叩き潰すことで、激しさの中でバンドの過去より今を、今より未来を照らし出そうとした。

ケンカと解散危機を幾度となく経てきた彼らが今、お互いを尊重するようになったことで提示する“10年後”というものは、誰かにとっての過去や現在の負の感情をいつか笑い合えるような希望になると思っている。
現に今、の子さんのかつて教室で味わった孤独が原動力となり、あの頃の負のエネルギーが“人様の人生をねじまげるきっかけ”になっている。それは今世の中で起きているあらゆる悲劇も、その後の様々な可能性を示すものになるかも知れない。

映画や音楽や小説などの作品がこの世に在る、それを必要とする人がいる理由というものが、それらが一つの考え方を押し付けるものではなく、選択肢を作るからだと常々思う。自己にも他者にも「~べき」を作るのではなく、芸術作品は「こういう方法もある」と提示することができる。
『ロックンロールは鳴り止まないっ』の歌詞にある「遠くで、近くで、すぐ傍で、叫んでやる」は、インターネットで遠くの人の元に届き、ライブで目の前の近くにいる人に叩きつけ、いつも心のすぐ傍で鳴ることのように思う。
MVの中で女の子と神聖かまってちゃんを出会わせないようにしたのは、いつだって本物のヒーローは遠い場所にいて、そのくせ心がすぐ近くにあると思っているから。イヤホンを取っても鳴り止まず、自分でリズムを取りながら夕暮れ空を眺める女の子のその後に、甘酸っぱい可能性を秘めさせたいから。
若いミュージシャンに限らず、人気のユーチューバーや『進撃の巨人』や『恋は雨上がりのように』の原作者など、ジャンルの垣根を越えて神聖かまってちゃんが原動力となって活躍している人たちが最近ますます出てきていることを、女の子がの子さんと同じ方向を見つめる姿に込めたかった。




神聖かまってちゃんの演奏シーンの撮影の終盤のことだった。

ギターの破壊を無事に撮り終えて、その撮影を見ていたmonoくんがの子さんの熱量に必死に合わせようとしたのか、キーボードを叩き弾く表情がいつもと違って見えた。

の子さんがどうして幼なじみのmonoくんをリーダーに選んだのか。その理由がフツフツと沸き上がるような表情を撮りながら、破壊シーンを撮り終えた安堵感のせいか胸が詰まった。
よりによってmonoくんで。って思うけど、そう言えるようなキャラクターであるのがメンバーにとって何よりの癒しなのだろう。素直でストレートで誰かと誰かの間に居てくれる彼だからこそ、神聖かまってちゃんが10年間ずっと続けられているように思う。
それを裏付けるシーンを9年間で幾度となく見てきた。そうか、今初めて神聖かまってちゃんのMVを撮影しているんだな、となぜかその時初めて実感した。
たぶん、この日は9年前の下北沢屋根裏の時と同じような気持ちで撮影ができた。あぁ、誰かにこのバンドを知らせたいなって。

美しく切り取ろうとした千葉ニュータウンも、女の子も、神聖かまってちゃんも、「みんな死ね」という感情も、いつかはカンカンと枯れていく。
でも、その先にある可能性に胸をときめかさずにはいられない。
“今”を切り取ることでノスタルジーに留めず、この先のストーリーを続かせていきたい。神聖かまってちゃんに限らず、すべてのライブ映像は決して撮影することが目的ではない。その先にあるものがやりたくて撮影している。誰かが観ることで、瞬時に伝えることで、映っている人や景色の未来が少しでも変われば、その映像は映像の中だけで完結しなくなる。
現実を少しでも動かせるような映像を、映像作家としてこれからも残していきたい。

阿倍君へ、いつか暮れるすべてのものへ。

神聖かまってちゃん10周年、おめでとうございます。




2017年6月14日水曜日

それは理屈じゃない。 - 映画『ベイビー・ドライバー』が凄すぎた



ヤバい。マジでヤバい。この作品、とんでもなく半端ない。

ヤバいなんて語彙をなくす作品こそが至高で、言葉を選ぶ前にまず誰かに伝えたくなる。まるで火事を目撃したかのように、UFOに遭遇したかのように、「おーい!」と大声を上げて視覚・反応・共有へと繋げるスピードが早ければ早いほど、その映像の威力を感じさせるのだ。
今年ナンバーワンだとか安直な言葉で片付けたくない。気持ちを落ち着かせるためにも、それ以上の表現を早く見つけてしまいたい。

エドガー・ライト監督の新作『ベイビー・ドライバー』は超大傑作だった。

昨日宣伝担当の方からお誘いいただき、ソニー・ピクチャーズ試写室の内覧試写で観てから、いまだに全然興奮が収まらない。テキサスのSXSWで観客賞を手に入れたり、米批評サイト・ロッテントマトで100%を叩き出したり、そもそもエドガー・ライトの新作ってだけで期待値は十分に振り切っていた。でも、そのハードルを余裕で飛び越えてきてやがる。一刻も早く一日中繰り返して観たい。
こんな映画を今までに観たことがないのだ。
音楽が身体を踊らせ、人生を狂わせ、悲しみを塞ぎ、歓びを与える理由が全部詰まったロックンロール・カーチェイスムービー。それは音楽と同じく、“理屈じゃない”ところから刺激を得て、その快感が約2時間持続する。もし覚せい剤に手を染めるつもりなら、覚醒するのはこの作品ですでに間に合っているから大丈夫だ。

物語は至ってシンプルで、強盗の逃走車を運転する“逃し屋”の青年=通称“BABY”がウェイトレスと恋に落ちたことで、裏稼業から手を引こうとする。
BABYは少年時代の事故のせいで耳鳴りが止まず、音楽を聴くことでそれが掻き消される。そんな無口な青年が車に乗ってiPodを再生すると、イカれたドライバーへと変貌を遂げる。これは、たとえば部屋の中でこっそり一人で音楽を爆音で鳴らして踊り狂うアレだったり、その音楽を聴くことでなぜか最強になった気がするアレだったりする。その“アレ”とは一体何なのか、それは理屈で語ることができない。子どもが嬉々として音楽に合わせて踊ることに、理屈なんて要るのだろうか?

一人のドライバーのお話をここまで魅力的に映させるのは、紛れもなくロックンロールとそれに合わせた編集のセンスだ。主人公のプレイリストが鳴り止まないように、劇中音楽が全く途切れることがなく暴走する。驚くべきことに、その映像の切り出し方がほとんど楽曲のリズムに合わせている。
ギターのカッティングで刻まれるカット割り。スネアとともに叩かれるリズミカルな銃撃音。ジョンスペ、ダムド、クイーンなどの楽曲がこの映画のために書かれたのかと錯覚するほど。“ロックンロール版『ラ・ラ・ランド』”とも呼ばれているらしいが、その楽曲と映像の順序は全然違う。愛情しかないのだ。オリジナル曲ではなく既存曲と同期している映像から、エドガー・ライトがいかにその楽曲を愛しているかが伝わってくる。ジョンスペなどに青年時代に出会ってからずっと想像していたシーンなのだろうか、監督の笑顔が垣間見れる瞬間が多々ある。楽曲のリズムが落ち着くとカット割りもまた落ち着き、加速するとBABYの走行速度もグンと上がるのだ。



予告編 https://www.youtube.com/watch?v=WLoNgynP52A


人生から現実から「逃げる」ことがキーワードになっていて、それは音楽という存在からも感じ取れる。
音楽は踊らせるだけじゃなく、耳を塞がせてくれる。外界のノイズを掻き消し、吐き気のする現実を爆音で吹き飛ばしてくれる。イヤホンやヘッドホンはインナーワールドを作り出す。決して誰かと肩を組んで仲良く聴くだけのものじゃない。理屈を越えて、時には医学さえ超えて、孤独な者の心を癒してくれる。
BABYが音楽からパワーを得て、それが原動力となって運転テクニックを引き出す。幼少期のトラウマから、内向的な自分から逃れるために、音楽で“最強”になる。アイアンマンのスーツのように、ドラゴンボールのスーパーサイヤ人のように、音楽がどこにでもいる彼を超人へと導くのだ。
ロックンロールの衝動ってつまりそういうことだろう。
もし音楽に少しでも意識を彼方へ飛ばして、思考を忘れて身体を踊らせたことがあるなら、いやそうじゃなくても、『ベイビー・ドライバー』は今までの映像体験の中で特別なものになるに違いない。

この先この映画に影響される作品が次々と生まれるに違いない。シナリオに組み込んだ選曲とそれに合わせたカット割りから、もはや新しい映画のスタイルの原点を目撃したように思う。
特筆すべき点は限りがない。リリー・ジェームズとエイザ・ゴンザレスという二人の女優が可愛さとエロ美しさのダブルパンチで、それだけでも十分拍手喝采なのにケヴィン・スペイシーとジェイミー・フォックスという二大悪役の演技が存分に楽しめる。
そして主演のアンセル・エルゴートだ。スマートでスタイリッシュな出で立ちから、立ち姿だけで様になる。カーアクションは体育会系の筋肉野郎だけのものじゃない。ここでは内向的な音楽キ◯ガイのお手の物で、何より心が優しいのが特徴的だ。一人一人の命を大切に扱った作品でもあり、よくある従来のアクション映画で見て見ぬふりをされてきた“脇役の死”を、この作品は決して無視をしない。
エドガー・ライト監督には一歩引いた視点がある。それは今までのゾンビモノでも、警官モノでも、終末モノでも、恋愛モノでも。そして、今回のカーアクションモノでも。かつて焦点が当てられなかった、現実からかけ離れた映画の“ウソ”をちゃんと理解している。
映画には“ハッピーエンド”という最大のウソがある。人生に待ち構えているのは確かな死であり、そこではハッピーエンドが厳しい。いつか終わりが来ることは誰もが知っているのに、それを忘れるように暮らしている。エドガー・ライトはそれを拾うことで、主人公たちの次の次を想像させる物語に仕上げている。
銃撃もカーチェイスもありながら、温かい気持ちにされてくれるのだ。

心優しき音楽オタクがカーチェイスするなんて、しかもそれが超大傑作だなんて、音楽へのリスペクトが十二分に発揮されている。
もはやカッコイイの代名詞。センスというセンスを全て掻っ攫うつもりだろうか。
アメリカでは今月下旬から、日本では8月19日から公開が決まった。この作品は絶対に絶対に絶対です。座って観たくなかった。小声で「ヤバい…」と呟いてしまった。
「この映画をあと何回繰り返し観ると気が済むのだろう。」
これは今年の夏、世界中の多くの人の深刻な悩みになるに間違いありません。

映画『ベイビー・ドライバー』公式サイト
http://www.babydriver.jp/



縦動画メディア「THE PUBLIQ」


縦動画メディア「THE PUBLIQ」にディレクターとして参加しています。
ここでは縦動画ならではの没入感・親近感のある新しい表現を追求してまいります。
サイト→http://thepubliq.com/
YouTubeチャンネル→https://www.youtube.com/channel/UC3ITQ4QCuEhP8UySWDmjY8g/
Twitterアカウント→https://twitter.com/thepubliq

ディレクション及び編集を手がけた作品をここに掲載してまいります。
(2017年11月24日更新)

・人間の領域を超えて、美しさをゼロから作り上げる - ドールアーティスト 橋本ルル/THE CREATION
・この世界にはないものをファンタジーで魅せる - グラフィックアーティスト KASICO/THE CREATION
・涼しげもずく梅きゅうパスタ - 篠崎こころ「しのざきっちん」2品目/THE DELICIOUS
・LINE LIVE - Portrait Documentary Film - 未確認ライオット【出演 - 平手友梨奈(欅坂46)/ ねごと / GLIM SPANKY / 片平里菜 / yonige / ぼくのりりっくのぼうよみ / YAJICO GIRL / 10代アーティストファイナリスト】
・丸ごとトマトカップ冷製ラタトゥイユ - 篠崎こころ「しのざきっちん」1品目/THE DELICIOUS
・メロディは懐かしくサウンドは新しい“勝負師” - 音楽プロデューサー 木皿陽平(ランティス)/THE CREATION
・“色”を映し出しハッピーを重んじる19歳 - 映画監督 松本花奈/THE CREATION
・"ぜんぶくちから"人生のすべてをビートに乗せる - ヒューマンビートボックスアーティスト KAIRI/THE MUSIC
・『Concrete Jungle〜Boy meets Girl〜』 - hime(lyrical school)/THE LYRIC
・スイートガール - hime(lyrical school)in 渋谷/THE GIRL
・"終わり"が来ることを知りながら - シンガーソングライター ヒロネちゃん/THE MUSIC
・人間の根本にある性と死をポップに表現 - 妄想監督/アーティスト 市原えつこ/THE CREATION
・愛する町へ恩返しするもんじゃ屋 - 大泉学園「わらべ」店主 加藤輝幸/THE PORTRAIT
・ヘブンリーガール - 中尾有伽 in 調布市 神代植物公園/THE GIRL(編集のみ)
・"少女"は絶滅危惧種?! - 少女写真家 飯田エリカ/THE CREATION
・生活に寄り添う伴走者 - 株式会社Money&You 頼藤太希/THE MINDMAP
・シャイニーガール - 竹内れお in 梅ヶ丘 羽根木公園/THE GIRL(編集のみ)
・圧倒的な存在感 - 16才の現役女子高生アーティスト 吉田凜音/THE MUSIC
・LINE LIVE - Portrait Documentary Film - イェソン(SUPER JUNIOR)
・ロボットノ夜 - 神聖かまってちゃん/THE LIVE
・もんじゃガール - 鹿目凛(ぺろりん先生) in 大泉学園「わらべ」/THE GIRL
・美術界のロックンローラー - 画家 さいあくななちゃん/THE CREATION
・アバンギャルドなナンパ師 - 裏モノJAPAN編集部 仙頭正教/THE PORTRAIT
・日本にNYを作り込むピザ屋 - PIZZA SLICE オーナー 猿丸浩基/THE PORTRAIT
・全身表現者の変わり者 - ビートメイカー Seiho/THE MUSIC
・書道とHIPHOPを融合する女性 - 書道家 万美/THE CREATION
・文学的フリースタイル - ラッパー GOMESS/THE LYRIC
・バブルガール - MONICO in 渋谷 恵比寿 池尻大橋/THE GIRL
・ランドリーガール - 中沢結 in 川崎/THE GIRL × himegoto
・"二次元"ハイブリットガール コスプレイヤー/DJ/歌手 MONICO/THE MUSIC
・30万店舗超!平成生まれの起業家 - BASE株式会社 代表取締役CEO 鶴岡裕太/THE MINDMAP
・インターネット×ロックバンド - 神聖かまってちゃん Vo. の子/THE MUSIC

2017年6月1日木曜日

映画『20センチュリー・ウーマン』レビュー


マイク・ミルズ監督の映画『20センチュリー・ウーマン』のレビューを書きました。「AM」に掲載されています。

母子の新しい愛情表現を描く傑作!子の幸せを願う女性たちの優しい視点が最高だ『20センチュリー・ウーマン』
https://am-our.com/love/54/14252/

(一部抜粋)
 思春期の頃に母親と完全に分かり合えた人なら、この作品は他人事になる。完全になんて無理じゃないだろうか。分かり合えたかどうかなんて、その時に分かるものでもない。むしろ大人になってから、いかに母親を分かってあげられなかったかがよく分かる。

 心から愛する息子と分かり合えない時、母親がどんな想いで息子を見つめるのか。ドロシアのように、子どもの教育を若い女の子に託すなんて、とんだ責任放棄と思うかもしれない。でも、自らの立場を譲ってまで近づきたいと願う、息子との“距離”がそこにあった。


2017年5月4日木曜日

映画『カフェ・ソサエティ』レビュー


ウディ・アレン監督の新作『カフェ・ソサエティ』のレビューを書きました。「AM」に掲載されています。

夢の街“ハリウッド”でさえも結構ダサい恋愛をしている『カフェ・ソサエティ』
https://am-our.com/love/54/14182/

(一部抜粋)
 ハリウッドの恋愛事情なんて一般人の私たちとは別世界で、お金持ちの価値観なんて常識とかけ離れている。
 ……なんて思っていたら大間違い。ここで描かれるハリウッドはウブな青年もプレイボーイな業界人も全く同じ。

2017年4月6日木曜日

映画『夜は短し歩けよ乙女』レビュー


森見登美彦原作×湯浅政明監督の映画『夜は短し歩けよ乙女』のレビューを書きました。「AM」に掲載されています。

人気小説が星野源主演でアニメ映画化!痛々しい作戦で恋は実るか『夜は短し歩けよ乙女』
https://am-our.com/love/54/14109/

(一部抜粋)
 めくるめく季節を色彩豊かな景色に、たった一夜を一ヶ月にも一年にも変えてしまう。“黒髪の乙女”は振り向くことなく、“先輩”が勝手に永遠を感じるその風景を颯爽と歩いていく。
 その感情を覚えると世界が揺らぐのだった。恋愛ファンタジーというより、恋愛がファンタジー。当たり前で、時に意外なことに気付かせてくれるのだった。

2017年3月31日金曜日

うp完了→フリースタイル エレベーターチャレンジ(GOMESS×KAIRI)


フリースタイルラッパー・GOMESSとヒューマンビートボックスチャンピオン・KAIRIの「アソビ」の動画を制作しました。
Audiの新車「Q2」キャンペーンサイトに掲載されています。

フリースタイル エレベーターチャレンジ
https://q2-katayaburu.jp/newactivity/50


2017年3月30日木曜日

映画『ムーンライト』レビュー


アカデミー賞作品賞を受賞した、バリー・ジェンキンス監督の映画『ムーンライト』のレビューを書きました。「AM」に掲載されています。

アカデミー賞で話題騒然!孤独な男を唯一照らす月明かり『ムーンライト』
https://am-our.com/love/54/14085/

(一部抜粋)
 自分探しだったり、自分の居場所を求めて彷徨い続ける人を鼻で笑う人がいるかも知れない。
 だが、とことん存在を否定され、家庭でも学校でも行く宛てを失い、孤独に打ちひしがれた人が必死に求めることを、どうか笑わないであげてほしい。
 そんな主人公が涙を流し続ける『ムーンライト』が自分とは全く関係ないと言える人は、よほどの幸せ者だろう。

 

2017年3月29日水曜日

うp完了→GOMESS「情景 -総集編- 」


GOMESSのアルバム『情景 -前篇-』と『情景 -後篇-』の楽曲を繋ぎ合わせたダイジェスト映像を制作しました。

GOMESS「情景 -総集編-』
https://www.youtube.com/watch?v=WDjMDIZpdkI


2017年3月24日金曜日

映画『T2 トレインスポッティング』レビュー


ダニー・ボイル監督の新作『T2 トレインスポッティング』のレビューを書きました。「AM」に掲載されています。

まさかの20年ぶり続編!裏切り者が帰ってきた『T2 トレインスポッティング』
https://am-our.com/love/54/14069/

(一部抜粋)
 20年前、あなたはどこで何をしていただろうか。スコットランドの“奴ら”はドラッグに明け暮れて、欲に溺れていた。一緒に歳を食った。いつの間にか中年になった。シワも増えて髪の毛も減ったが、決して変わらないものがある。
 ここ一年間に公開された数十年ぶりの続編作品なんて比じゃない。同監督・同キャストが再集結した意味は大きい。この同窓会は想像以上に痛快だ。映像表現の幅が拡がり、前作を遥かに凌ぐ疾走感に溢れている。

2017年3月18日土曜日

映画『ひるね姫』神山健治監督インタビュー


映画『ひるね姫~知らないワタシの物語~』の神山健治監督にインタビューしました。「AM」に掲載されています。

「父にも物語があった」二世代へ捧ぐ『ひるね姫~知らないワタシの物語~』神山監督インタビュー
https://am-our.com/love/110/14057/

(一部抜粋)
 基本的にはココネと同世代の人に観てもらいたいなって思って作っています。さっきも言ったけど、僕も高校生くらいの頃って自分の両親にストーリがあるなんて、あんまり考えていなくて、どちらかというと自分のことでいっぱいいっぱいでしたよね。だけど、父親や母親にも自分と同じ年齢の時があったはずだよなぁということに気づくタイミングがあると思うんですね。

2017年3月17日金曜日

映画『おとなの事情』レビュー


パオロ・ジェノヴェーゼ監督の新作『おとなの事情』のレビューを書きました。「AM」に掲載されています。

あなたのスマホ、人に見せられますか?仲良し男女7人が秘密の暴露で崩壊する『おとなの事情』
https://am-our.com/love/54/14045/

(一部抜粋)
 こんな経験はないだろうか。「こんな動画撮ったんだよね」って友人に携帯を見せている時、ふと見られたくない通知が表示されて気まずくなったり。彼氏と携帯で撮った写真を見せ合いっこしている時、別の男性からLINEが届いたり。
 見られた方も見せられた方も、あえて触れないようにしていても気になってしょうがない。本作はそんな“携帯あるある”と、それにまつわる“おとなの事情”を余すことなく描き切っている。

2017年3月16日木曜日

映画『ひるね姫~知らないワタシの物語~』レビュー


神山健治監督の新作『ひるね姫~知らないワタシの物語~』のレビューを書きました。「AM」に掲載されています。

ヒロインはいつも爆睡中?夢と現実をまたぐ父と娘の愛『ひるね姫~知らないワタシの物語~』
https://am-our.com/love/54/14040/

(一部抜粋)
 世界中どこのヒーロー/ヒロインを探しても、“爆睡中”に活躍するキャラクターはいない。女子高生・森川ココネはまさにそれ。誰もが眠る時に見る夢をモチーフに、その夢と現実とが交差する近未来、というより“近々”未来だ。
 あと3年後、東京オリンピックが開催される2020年を舞台にしたSFアクションアニメが誕生した。

2017年3月9日木曜日

うp完了→笹口騒音ハーモニカ - プロポーズ〜ぐるぐる回る〜言葉狩りの詩 2017.2.28 渋谷CLUB QUATTRO


笹口騒音の『大笹祭~笹口騒音8と4分の1才生誕祭~』のライブ映像をアップロードしました。

笹口騒音ハーモニカ - プロポーズ〜ぐるぐる回る〜言葉狩りの詩 2017.2.28 渋谷CLUB QUATTRO
https://www.youtube.com/watch?v=l3gwzfVGW6w


2017年3月6日月曜日

うp完了→笹口騒音&ニューオリンピックス - (OVER THE) RAINBOW TOKYO 2017.2.28 渋谷CLUB QUATTRO


笹口騒音の『大笹祭~笹口騒音8と4分の1才生誕祭~』のライブ映像をアップロードしました。

笹口騒音&ニューオリンピックス - (OVER THE) RAINBOW TOKYO 2017.2.28 渋谷CLUB QUATTRO
https://www.youtube.com/watch?v=ubFZGXpZQ5g