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2010年12月27日月曜日

神聖かまってちゃん@恵比寿LIQUID ROOM

12月27日の恵比寿リキッドルーム。今年最後のライブにして、ワンマンライブ。
神聖かまってちゃんは史上最高のライブをぶちかました。
ほんの1年前、この光景を誰が想像できただろう。

『夢のENDはいつも目覚まし!』が流れ、メンバー全員が登場すると大歓声が響き渡る。メンバーの名を叫ぶ声。ドッと押し寄せる人の波。
の子はいつものニコニコマークが付いたサングラスを頭にかけ、レッドブルを飲みながら登場する。いつもの調子。別に特別なことはない雰囲気で喋り始める。

の子「ピーポー!ピーポー!聞いてるかい?」
mono「(の子に)そのサングラスかっこいいねー」
の子「バカじゃね?」
mono「うるせーよ」
ちばぎん「そんな感じで神聖かまってちゃんです、今日はよろしくお願いします!」

どんな感じで神聖かまってちゃんなのかはいつも分からないが、なんとなく、いつもそんな感じだ。デーーーン!!みさこのドラムとちばぎんのベースが響き、いつも通りのスタート。いつも通りのライブ。そのはずなのに、先にもう一度書いておきたい。
この日の神聖かまってちゃんのライブは、いまだかつて観たことがない興奮と熱気に包まれていた。彼らにとって史上最高のライブだった。

「アゴー!」「メリークリスマス!」などという混沌とした歓声に、「なんですかー。ご相談でも何でも受け付けますよー」と先日のクリスマス配信(mono、ちばぎん、みさこが『明石家サンタ』風に視聴者の不幸な話を聞く配信。竹内もいきなり電話をかけられ、いきなり電話を切られた)の名残があるようなことを呟く。

「じゃあ今日は年末か、いつだか分かんないけど俺クリスマスで止まっちゃった。クリスマス終わりを吹っ飛ばしましょう、悲しみを」
の子が呼びかけ、1曲目はライブ初披露の『白いたまご』
「できるか分かんないよ!練習したんだよ!」となぜか裏声でハードルを下げようとするの子であるが、アルバムの1曲目にもライブの冒頭にもふさわしい演奏だった。終盤は「今すぐにさ」と繰り返すの子とmonoのコーラス。ライブでどう再現するんだろうと気になっていた光景が目の前に。
演奏の出来に満足したの子は調子の良さそうな表情で、「あっちい!」と嬉しそうな悲鳴を上げ、「うっせえ!」といつもの調子でお客さんの歓声に答える。

次は『ベイビーレイニーデイリー』
の子が陽気に叫ぶ。「はーいもう最後なんで歌ってください!最初からベイビーレイニーチャララァ(聞き取れない)!」
ちばぎん「何言ってんのかわかんない」
みさこ「チャラララチャララー!」
お客さん「チャラララチャララー!!」
そのままバシッと勢いよく演奏に入る。この快感がたまらない。monoの弾くメロディが優しく、丁寧に歌い上げるの子のまっすぐと何かを見つめる目。神聖かまってちゃんの楽曲が改めてポップであり、美しい曲ばかりであることに気づく。
「そんな好きだから 雨の中の僕 女々しい自分を傘で隠さないよにーー!」
存分に叫んで終わる。「女々しい」は男のためにある言葉だとつくづく思う。

お客さん「アゴー!」
mono「アゴアゴさっきから何だよ!そんなこと言っていたらアゴが伸びるぞ」
の子「アゴより鼻なんだよこいつは」
ちばぎん「今更?」
mono「ニンニク鼻ニンニク鼻って配信で言われてたんだぞー」
ちばぎん「何?」
の子「何?」
mono「すいません」

演奏も調子いいが、MCもいい具合にディスコミュニケーション。の子がmonoに「さあ、今日も線を引きなさい」とセットリストの紙に演奏済みのタイトルに線を引くように促す。演奏し終わった曲をいつも忘却の彼方へ飛ばしてしまうの子のために、monoはこの日、キーボード&ギター&コーラス&線引きという4つのパートをこなしていた。
monoが「今日が今年最後のライブだよ」と告げると、「そんなん知らねーよ。俺はクリスマスで終わってんだよ」との子。よほど怨念があるのか、やたらクリスマスにこだわっている。

次は『制服b少年』
「これもピョンピョン飛び跳ねたらいいんじゃない?」と観客に促すの子。「(天井に)激突して刺さっちまえよ」と続け、ちばぎんが「そんなに跳ぶの?」とつっこむ。
CDで音源化されているわけでもなく、mp3やPVがアップされているわけではないのに、この曲で会場は興奮の渦に。ニコニコ動画にアップされている音源だけでこれほど盛り上がるライブこそが、神聖かまってちゃんのライブ。「ギョロッと!!」の部分のmonoの叫びが気持ちいい。
「僕の顔面がマジでクリスマス…クリスマスがぁまーぼくぁークリスマス」
後半の一部の歌詞がなぜかクリスマス仕様。ほんと、どこまで怨念があるのだ。の子のクリスマスへのしつこさに客席から笑いが起き、メンバーも笑顔に。

「みんな、座ろう。そしたら俺も座れる」
最近のライブでは定番となっている、の子のシットダウンプリーズ発言。「これは座れないわな…」とちばぎん。そこにみさこが「尻汗がやばい」と会話に入る。下品すぎる。客席からは「22時までやって!(ライブハウスの)消灯まで!」と声が上がる。
monoのアナウンスで、次は『ゆーれいみマン』。「おおーっ!!」という大きな歓声。更にの子がアジテーションする。

「もっと炸裂していきましょう。(monoを指差し)こいつは最近腕を骨折したらしいが、人生骨折してる奴がいっぱいいるんだから、こいつの腕をもっと骨折させていきましょう!!」

挑発されるのにも関わらず、monoは「お前うまいな。天才だよ」と評価。
『ゆーれいみマン』。もう何度、この曲を聴いただろうか。ひとりよがりで、自分しかこの世にいない気持ちになってしまうような言葉たちが、「さあいくぜ!変身っ!うーっ!ゆれい!!」という戦隊ヒーローばりの気合いで開き直ったかのような叫びに変わり、音楽に消化されている。後半の二度の盛り上がりがリキッドルームを熱気の渦に巻き込み、monoの腕をもっと骨折させる勢いだ。
「ですよね」の後のの子のギターを弾く姿がいつも以上にかっこいい。歌以外の場面で動きがキマっている彼を見ると、その日のライブが最高なものになると予感できる。

かっこいい姿を存分に見せたのにも関わらず、演奏後、「アゴが外れた!」とアゴを痛そうに触るの子。
「どうしよう…あ、こうすればいいよ!」とmonoがアゴをグーで殴るように、ジェスチャー付きで提案。結果、ステージ上にはアゴ先輩とアゴ後輩がアゴをグーで殴るという光景が広がり、「自虐してるみたい!」とみさこが悲鳴を上げる。客席からはタオルが投げられ、の子からの「タオルじゃ直らないよ」という冷静な意見に笑いが。

monoが「ちょっとローテンションではありますが、今回アルバムを出したってことでね、『芋虫さん』をやります」と言ったにも関わらず、キーボードの設定に遅れるmonoを見て、の子が「お前の人生が芋虫さんだクソッタレ。のろのろしやがって」と指摘。そして会場を見渡し、あることに気がつくの子。
「誰も刺さってねえじゃねえか!!!」
観客がピョンピョン跳ねて天井に突き刺さっている絵を想像していたらしいが、残念ながら全員無事だ。「そんなんで『芋虫さん』やったら…帰る…」と弱音を吐く。monoがキーボードの設定にまだ手こずっているため、メンバーとお客さんに罵倒されている。「僕も、もう辞めちゃおかな…」と更なる弱音を。
「じゃあ『最悪な少女の将来』やります」との子が言い、『芋虫さん』はいつの間にか幻へ。これはmonoに対する優しさと解釈してしまう。

「クリスマス、ヤなことがあったんなら歌ってやってください」との子。またもやクリスマスへの怨念をふわふわとした口調で言い捨て、『最悪な少女の将来』へ。
monoがギターを抱え、イントロがスタートするも、曲がフェードアウト。
の子はmonoが原因だと思い「こいつもうクビだろ!」と怒鳴り、monoは必死に否定。みさこは「ごめんごめん!!あたし!!」と謝り、の子は「お前らやる気あるのかよ!!」と叱る。
そしてちばぎんが「うん、やっとかまってちゃんらしくなってきたね!」と見事にまとめる。
そうか、今日は調子良すぎて何か違うと思っていたら、そういうことだったのか。かまってちゃんらしさが足りなかったのか。グダグダという名の。
「いいと思うよ」とちばぎんが落ち着かせ、かまってちゃんらしくなったとき、まさにかまってちゃんを象徴するかのような歌詞が並ぶ『最悪な少女の将来』が再開。
「最悪みんな死んでしまえ」と何度も叫び続けた後、「アゴが直った」との子。「隣のアゴ神様のおかげです」とmonoに感謝していた。

『さわやかな朝』へ。今のところ歌詞を正しく歌えているのを観たことないけど、「クリスマスなんかどうでもいいんだチクショー!!」と叫び、「今日も親父に怒られた!!」などと歌詞を変え、さわやかではない朝を怒鳴っていた。
最後の「さわやかな朝が、とても清々しいよ!!」という絶叫は、朝に対する喜びの叫びなのか、イラッとしている怒鳴りなのか。そのどちらでもなく、どちらでもあることこそが、神聖かまってちゃんを表しているかのようだ。

「ここで、また、練習してきた曲を、ここで、演奏、したいと、思います」となぜか「、」を多用した喋り方で『笛吹き花ちゃん』の始まりを告げるの子。
「今年の締めくくりということでね」
monoが笑顔での子に向かって話しかけるが、そのイスの座り方が大物プロデューサーのような雰囲気を醸し出していた。「なんでそんなにエラソーなの…?」とちばぎんが会場にいるすべての人の気持ちを代弁。その通り、monoのステージ上での佇まいは時折プロデューサーのように思える瞬間がある。それでも弾いてないときにウロウロと動き、酒を飲み、たまに弾く。何者なのだ。その姿は昨今のライブ会場のステージでは斬新すぎるものなのかも知れない。
「お前もう酔っ払ってるの?」との子。「飲んでますよー!」とmono。「そのまま飲んでどっか行っちゃってください」との子が冷たく言い放ち、演奏へ。
この曲をまともにライブで聴いたのは、4月の下北沢屋根裏の初ワンマン以来。あれからまた一段と成長しており、この曲を通してこの1年間のドラマが垣間見えた。"成長"と書くとどうもエラソーな言い方になってしまうけど、神聖かまってちゃんにおいては誰もがその言葉で表現したくなるドラマがある。それは当然、配信でライブ以外でも活動の日々をリスナーと繋げ、バンドが作られていく過程を自ら描き、それを見せてくれる彼らだからこそ、その言葉は適切となる。

続いては『ぽろりろりんなぼくもぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーん』。ライブで初めて聴く。「これは俺よりも歌詞を覚えてる奴が二人いると思うから、うん、歌詞なんて誰も覚えてないし」とハードルを存分に下げ、挙げ句の果てには、「まあ…優しくしてよ!」なんて言い放つ。ちばぎんが「みんな優しいと思います」とフォロー。
の子がギャギャギャギャギャン!とイントロのギターを2回鳴らし、みさこのバン!バン!バン!というバスドラに合わせてmonoがドス!ドス!ドス!とジャンプする。そしてちばぎんのベースがブゥンと低い唸り声を上げ、ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーん。擬音ばかりの文章になる。終盤のmonoのピアノのメロディがCDよりもアレンジが加えられ、キュンとさせる。何度でも思い出したい音だった。
「めっちゃいい曲!」と一人のお客さんが叫び、「ありがとう」というの子の声がエコーする。

その後は『スピード』。始まりはの子のボーカルから。心の準備して歌おうとするの子。が、monoなぜか「はい…」と何か言おうとする。
の子が「何?」、ちばぎんが「何ですか?」と冷たく反応。
monoが弁解している最中に、の子が「得体の知れないスピードでー」と唐突に歌い始める。急にも変わらず、メンバーも瞬時に演奏を開始。客席からは「オイ!オイ!」コール。曲がブレイクする場面では「の子ー!!」という歓声。再度ブレイクする場面で「の子ー!!」と客席から叫び声。「歌いづらいだろ!」とちばぎんが注意。そんなちばぎんをの子が「ぶち壊すな!」と更に注意。そんな2人でも、終盤のコーラスでの掛け合いはバッチリ。
「走れーーーー!!!」と絶叫して終わる。

「俺は今!俺は今っ!!俺は今ーーっ!!!」
の子が高揚したまま、客席に何かを訴えかけようとステージ前方に出てくる。 
「何も言うことがないっ!!!」
会場は笑いに包まれる。

の子「でもそういった、磁石のS極とN極?S極とN極は離れるか、N極とN極で磁場を感じます!」
みさこ「そっちは離れるなー」
mono「離れっちゃうよ!お客さんがね、離れていっちゃうよ」
の子「離れても俺は引き寄せるっ!!!」
なぜか急に名言のように。
会場が拍手と笑いに包まれるの子。かっこよくキマッたかと思いきや、「とりあえず、線引いていけよ」と冷静にmonoにセットリストの演奏済みの曲の線引きをお願いする。「引いてますよー!」と元気よく答えるmonoは、今までに演奏した曲が分かるように本当に赤いマジックで線を引いている。なんだこのバンドは。今更だが。

「この曲でみんな鬱になればいい!!」
キーボードの前に出てきたの子が言い、『黒いたまご』。今までに聴いた中ではダントツで一番の出来だ。最初から最後まで鳥肌が立ちっぱなし。今までの鳥肌をすべて否定したいくらい痺れたのだ。"痺れた"という言葉をこのときまで取っておきたかったと後悔するほど。
赤いライトに照らされたステージでは、の子がヘッドマイクをつけてイスに立って歌い、サビになるとキーボードの前に戻るという動作をする。
これこそが、すべての人に見せたい神聖かまってちゃんの真髄。神聖かまってちゃんを知らない人は、彼らのこういう部分を知らないだろう。
ボーカルエフェクターによって、性別はおろか、年齢さえ不詳になってしまったの子の声。キンキンと高音がリキッドルームに響き渡り、ゴォーーーオンと工場の機械音のような不気味な唸り声と、monoが弾くキーボードの切ないメロディが混じり合い、完全に一つの世界が作り上げられていた。内向的ではあるが、すべてをなぎ倒して破壊するようなパワー。それはの子の小さな部屋から広い世界に飛び出していた。

せっかく素晴らしい演奏だったというのに、演奏後、なぜかまた『黒いたまご』のイントロが自動再生される。焦って止めるmono。の子に必死に訴えかける。の子が「何だ?"止めたと思った"じゃねえ、ここで言うな!友達ん家かよ!俺ん家かよ!」と笑いを誘う。

そのまま位置を変えず、の子が「ベイビー悪い奴らはみんな友達ー。お前らいいやつらかも知れないけどー、悪い奴はみんな友達ー」と言いながら『夜空の虫とどこまでも』へ。客席からは手拍子が始まり、の子が踊るように、身体をクネらせながら言語不明な言葉を歌う。
その声が左から右へ、下から上へ。会場全体をうろうろしており、ちばぎんとみさこのドラムがドッシリと支え、一定のメロディをmonoが弾き続ける。この日、4人の演奏が最もバッチリキマった曲だ。特にドラムがドラマチック。終盤のドラムの叩きっぷりには自然と涙さえ出てくるほどかっこいい。なんだこれはと思った。神聖かまってちゃんのライブなのかと思った。当然、神聖かまってちゃんの音楽自体はかっこいいのだろうが、ライブでこれほどまでかっこよく表現されたことが、かつてあっただろうか。 

「サンキュー!」と気分がアガりまくったの子が言い、「サンキュー!サンキュー!」とリズムを取りながら言い続け、ちばぎんがそれに合わせてベースを弾き、ドラムが鳴る。
の子による即興ラップが開始される。かっこいいように見えて、歌詞をじっくり聴くと「おもちがおいしいー!おもちがおいしいー!」といったもの。
あーやっぱこれ、神聖かまってちゃんのライブだった。間違いないわ。
その間、monoがギターを持ち始める。それに気づいたの子が「お前、何逃げてんだよー。隠れてんだよー。何ギター持ってんだよー。ここは、こないだのライブの復讐じゃないのかよー」とmonoラップを促すかのように煽る。
mono「骨が治ったらやる」
ちばぎん「別にラップに骨は関係ないんじゃないの?」
お客さん「ラップに骨は関係ねーよー!!」
の子「ミスチル?」
mono「辞めたくなるから、やめてくれ…」

monoが本気で弱音を吐き、「まだやってない曲ってあったっけ?」との子が言うと客席からは「文房具ー!」「ロックンロールー!」などと声が。monoが「うるせえ!みんな死ね!」と突然叫び、「なんだ…?」と戸惑い気味にの子が言うと、「『死にたい季節』だ!!」と曲紹介のための暴言だと知らされる。
の子、「分かりづれーよ」と一蹴。
そのまま身体からホッカイロを取り外し、客席に投げる。ちばぎんが「ライブ中にホッカイロ貼ってたの!?」と戸惑う。「うるせえ…俺はライブ前、ずっと暗い部屋にいたんだ」との子が言い、monoが「『死にたい季節』だったんだな」と再び曲紹介に繋げる。「うるせえ!!」との子。

『死にたい季節』が始まる。
目をぱっちりと開け、高音のボーカルで歌い続けるの子。時折逆光でシルエットとなる姿の中に、色んな気持ちを投げ込んでしまう。言いたいこと、叫びたいこと、怒りたいこと、泣きたいこと。言葉にできないからこそ、歌になる。の子が作る音楽には、それが切実に込められているように思う。ハキハキとした声で喋るの子であるけど、言いたいことなんて1%も言えてないんじゃないかと思うことがある。
「僕はーはやくー死にたいー」と繰り返す後半、なぜか瞬きが激しくなる。終盤のドラムのスピードように。なんて美しいメロディなんだろうと、自然と目が潤んでしまう。

「ノリノリなんだ俺は。ピーポー、ニート、ノってるかい。そういった意味でいかれたニートをやりますよー。そんな感じでやっていこうと思いますー。来年どうなるかわからないー。PVを撮らなきゃいけないー。それはお前らの中に入っていけばーいいー!」

即興で歌い出し、そこにベースとドラムが乗っかる。そしての子が「イェーー!!」と叫び、観客が「イェーー!!」と返す。自然の成り行きでコール&レスポンス。「もっと、皆さん、地獄から這い上がるように声を出してみましょう」と冷静に提案し、再び「イェーー!!」「イェーー!!」の大声での会話が。

mono「いい声出たね」
の子「みんなのおかげだよ。…あ、そんなこと俺は言わないよ。俺のおかげだよ。俺の日々のケアのおかげだよ」
ドラム「バシーン!」
なぜかキメセリフを盛り上げるように、みさこがドラムを叩く。

「皆さんアルバム買ってくれてありがとうございます。僕がダメになったときは僕の懐にお金が入ってくるんで、これで生活していけばいいんで」
なぜかかなり悪人の顔になる。そして『ねこらじ』。キーボード、ベース、ドラムが一言ずつ呟くように始まるイントロのアレンジがあり、の子が「にゃー」と言って曲がスタート。
相当昔に作られた曲だそうだが、まさに神聖かまってちゃん・の子の現状を表しているような歌詞。「上へ、上へ、」と突き進む、の子のテーマソングのようにも思えてくる。

「次はあれだ、3人でやったらいいよ。『あるてぃめっとレイザー!』
monoがなぜか達観したような表情でステージを去り、の子が「じゃあ、骨折した奴はほっといて、いくぜ!!」と、mono以外の3人の神聖かまってちゃんで、曲が始まる。
3人といえば、の子以外のメンバーでの"神聖こまったちゃん"があるが、それとはまるで違う。なぜかしっかりとスリーピースのバンドとして成り立ってしまった前半、そして後半からmonoがキーボードの席に戻ってきて、演奏に加わる。トイレ休憩か何かだろうけど、なぜかこの展開がかっこよくなってしまっている。monoのありがたみが実感できるひとときだった。

そのまま盛り上がりを保たせるように、間髪入れずにの子がボーカルエフェクターで高音の声に。瞬時に『学校に行きたくない』へ。休むヒマなく、会場はタテノリと叫び声と、混沌の世界へ。
「計算ドリルを返してください!」とステージ上をうろうろとし、monoが酒ビンを持ちながらふらふらと。完全に酔っ払いだ。の子が喚き散らすように叫んでいる中、monoも「おかーさーーーん!!」と絶叫。そしての子が客席に2回ダイブ。ひょこんと器用にステージに戻り、「あーーーーー!!!」とのたうち回るの子。ステージの上は荒れまくり、スタッフの仕事が増える。マイクスタンドは何回転もして、元の位置から離れていく。カオスだ。
そんな興奮の渦の中、演奏直後にの子が呟いた言葉がこれだ。
「ティッシュが欲しい…」
いくらかっこよくキメても、次の瞬間には醒めさせる。このメカニズムは特許を取っていいくらい、神聖かまってちゃんならではだ。
の子はどうやら鼻水が止まらないらしく、鼻がトナカイのように真っ赤に。皮肉なことに彼が忌み嫌うクリスマスの名物キャラクター・トナカイに自らなってしまったの子。高音の声のまま「鼻水が…」と呟き続け、まるで少年のようだ。

ちばぎん「すみません、急なお知らせなんですが…あと1曲だそうです…」
お客さん「えーーーーーっ!!!!」
みさこ「急すぎるよー!!」
ちばぎん「あのね、スタッフの人もね、俺に言ってくるんだよね。俺が"えーっ!!"って言われなきゃいけないじゃん…でもね、今日たくさん曲を聴けたほうだと思うよー」

の子が「『通学low』やろう!」と提案し、みさこが「最後に『通学low』…?」と戸惑いながらも、珍しく最後が『通学low』
「前回、ヘドバン野郎になっちった。ヘドバン野郎に。ちくしょう。このヴィジュアル系のクソども」
の子がよく分からないことを呟きながら曲が始まる。照明が不気味に赤と緑を連続させ、いかにの子にとって通学路が恐ろしいものだったかを表現していたかのようだ。子どものような高い声から、悪魔のような低い声への行き来を繰り返す。子どもと悪魔との距離がまるで近く、まるでその二つが同じような存在にも思わせる演出だろうか。
「真っ黒な!顔をして!笑って!いるのだ!!」
マイクをステージ上にぶん投げ、終了。

「あの、もう1曲やっていいって」
ちばぎんの案内により、次がラス1。「リーダー何やるんすか?」「ロックンロール?ちりとり?」とちばぎんとみさこの声に、monoが「バカヤロー。ロックンロールもちりとりもやんねーよ。『いかれたNEET』だよバカヤロー」と答える。
の子「『いかれたNEET』やんなかったっけ…?」
mono「…やってねーよ。俺せっかくかっこよく言ったのに、やめてくれよの子ー」
ちばぎん「今のかっこよかったんだ…」
みさこ「それは気付かなかった…」
の子「鼻水が出るんだよ…」
この成り立っていない会話。の子との子の鼻水は相当マイペースだ。

mono「神聖かまってちゃん、来年もがんばります。2010年は僕らのマイペースさに付き合ってくれてありがとうございます。これからも、の子を見守ってやってくださいー」
の子「自虐ネタがウケると思ってんじゃねーよ、バカヤロー」
mono「自虐じゃねーよ!お前のことだよ!」

「の子を見守ってやってください」にドキッとさせられる。この二人、今年、ステージ上で何度ケンカしたことだろう。二度の殴り合いもあった。照れ隠しのようにの子が「バカヤロー」と言う。二人はそういう関係なのかも知れない。仲が良いと簡単には言いづらい、腐れ縁。
『いかれたNEET』のイントロが始まるが、すぐに停止。「おい!」とmonoがみさこに対してキレかけるが、何かに気づき、焦った表情をする。
そして、ちばぎんが解説する。
「あの、怒ったはいいけど、自分のミスだったらしいでーす」
monoを見守ってやりたい。
最後は『いかれたNEET』
初めてこの曲のPVを見たときの感覚を覚えている。の子の叫び声が聴こえる中、ひたすらタンポポを映している映像が印象的だった。寂しそうにも、凛々しいようにも思えるその姿。それは広いグラウンドの中、子どもたちが遠くのほうで楽しそうに走り回る場所で、の子が1人立ちつくしている姿にも似ていた。
そのタンポポは胞子をばらまくこともなく、白いたまごと黒いたまごを行き来する。日課と日記を続ける。歌をうたうという行為を。やがてmp3、YOUTUBE、ニコニコ動画にアップし、今がある。音楽の胞子は見事にばらまかれ、ここにいるたくさんの人に種を植え付けた。
ステージにいるタンポポは何台ものノートパソコンとエレキギターを観客の目の前で破壊し、そして今も。ピンク色のボディのストラトキャスターを曲の最後、床に思いっきり叩きつける。幾度となく叩きつけてきたギターであるが、ようやくネックの部分が折れ、破壊。
ちばぎんのベースで締められ、曲が終わる。「ありがとうございました!」との子が挨拶。

大きな歓声が鳴り止まない。の子がステージ前に来て、語りかける。
「今日は何日だ。そんなことはどうでもいいんです。年末なんてどうでもいいんです。日々がどうでもいいんです。またいつか、ネット上でもどこでも会える日が来れば」

「の子ーー!!」という歓声が続き、アンコールを呼ぶ手拍子が。幾度となくテンポが変わり、暗闇の中で手の音だけが続いている。すぐにメンバー全員がステージに戻って来る。

monoが観客からネックレスを指摘され、「何?これお揃いじゃねーよ」と答える。の子が「何がネックレスだこのやろー浮かれてんじゃねーよこのやろー。金品の話をするな!キラキラしたやつとかよー!」と息巻く。「ほんとにすみませんでした」と謝るmono。
の子は「何やるか決めてないんだけど…」と照れ笑いする。客席から「ぺんてるー!」という声がたくさん上がるが、の子が「『夕方のピアノ』いきます」と。「最後の最後なんで盛り上がってーエキスプロージョンするぞこのやろー」とボーカルエフェクターで声を変えながら喋り続ける。
『夕方のピアノ』が終わり、の子の「俺のアゴが外れた…!」という声がループ。monoが「29日には腕のギブスが外れるよ」と報告。ちばぎんが「なんか、ますます呂律回ってなくね?」と指摘。monoが「ごめんなさい」と謝罪。ちばぎんが「今日はありがとうございました」と感謝。

の子が「ぺんてる、ぺんてる、ぺんてる」と呟き続け、イントロが始まる。「大人になって、」と呟いた途端にジャーーン!!とギターが鳴る。
「ぺんてるに、行きました」
この瞬間に、何度ぶわっときたことだろう。鼻の奥がツンとして、またもや視界がぼやける。
「大人に、なりました」
キーーーンとハウリングの音が耳を突き刺しても、気にしない。『ぺんてる』の音の中に埋もれていく感覚だ。

の子は疲れからなのか、高揚した気分からなのか、言葉になっていない言葉をぱらぱらとばら撒いていた。
みさこが「あと1曲できませんかー。あっ、あと1曲できますか!」と喜び、monoが「今年の締めくくりということでね」と言い、ちばぎんが「今日だけじゃなく、今年1年ありがとうございましたって意味でね」と言い表す。

の子「はい、来年もライブとか、配信とか逃げたりしてやっていきますんで、多分。みなさんもがんばってください…がんばってくださいって意味わかんねー。ぼちぼちね」
mono「神聖かまってちゃんです、ありがとうございましたー」

「じゃあみなさん、最後なんでどんどん合唱しちゃってください!なんて言ったら『うっせーよこのやろー!』って思うかも知れないけど!俺も言われたら思うよ!でも仕方ねーんだ!俺の…もう…クリスマス…どうでもいいんだよ!!叫べ!!叫べ!!!叫べーーーー!!!!!」

そしてmonoがあのメロディを弾き始める。
何回聴いただろう。
遠くでイヤホンで聴いていても、近くでライブで聴いても、4人の音楽が鳴っている。客席からはたくさんの手が上がっており、明るいライトにステージがキラキラと輝いているように思えた。
mono→みさこ→ちばぎん→mono、みさこ→「昨日の夜、」での子。
僕はかつて自分が撮影していた順に目を移らせた。この曲の撮り方はある程度決まっていた。けれども目は、カメラと違い、ズーム機能がなければ、録画することもできない。人間は機械より劣っている。
でも、記録ではなく記憶がある。記録がなくても感情はある。
記憶と感情が作用し、カメラのレンズは潤んでぼけている。フォーカスがぼけた。ピントが合わない。水浸しになったカメラは使いものにならないが、涙でいっぱいになった目はまだ生きている。自分が人間である証拠だ。そして鳴り止まず、口は答える。人間の機能を存分に発揮した僕は、記憶と感情をフル活用させた。
『ロックンロールは鳴り止まないっ』
の子が歌っている通りに、歌い、呟いてしまう言葉。この目で撮影した動画はYOUTUBEにアップできない。それでいいと思っている。

「来年もみなさん、がんばっていきましょう!精神病の奴は、あんまり精神薬飲みすぎるなよ」
の子が妙に説得力のある優しい助言を残し、リキッドルームにはmonoが弾くキーボードのメロディだけが残る。
マイクを使わず、生声で「とりあえずありがとうございました!!」とステージで叫ぶの子。

ライブが終わった。全20曲。過去最多だ。
最後、の子さんは本当にいい表情だった。

今年の初め頃、解散しそうなムードがあった。不安なときもあった。
1月の新代田FEVERから、渋谷duoのあたり。monoくんがライブ終了後、無事に終わることができて安心したのか「よかったー!」と抱きついてきたことをよく覚えている。
不穏な空気を幾度となく続けてきた。メンバーも、劔マネージャーも、スタッフも乗り越えてきた。昨年4月からこのバンドを観続け、撮影してきた。ドラマがあった。成長と発展と酒とアゴと感動のドラマだ。の子さんの小さな部屋から大きな舞台へ。ヒリヒリとしたムードも、和気藹々としたムードも、神聖かまってちゃんだった。
この日、このバンドの活動を追ってきて本当に良かったと思った。今年最後にふさわしい、史上最高のライブになった。

2階のロビーで劔さんに出くわし、「今日、良かったでしょー…あー…ほんと彼らの曲はいい曲なんですよ!」と改めて実感しており、ガッツポーズを見せていた。こんなに生き生きとした劔さんを見るのは初めてかも知れない。
「もう、今日死んだっていいでしょ!」と冗談を言っていた。
楽屋に行き、メンバーや関係者に挨拶に行った。雑誌『GiGS』に載っている機材紹介の竹内の写真について、ちばぎんとみさこさんに「きもい」「こわい」と口々に言われる。monoくんには「変な人が来たー」と言われる。の子さんには「前から思ってたんですが、ロシア人みたいですね」と言われる。
『GiGS』の野口さん、『劇場版・神聖かまってちゃん』のスチール写真のカメラマンのタイコウさん、パーフェクトミュージックの増本さん、ワーナーミュージック・ジャパンの野村さんも、なんだか嬉しそうな表情というか、今日が祝いの日のようだった。Daredevilのコマツさんもスエタカさんも、「今日、ようやくバンドが動き始めた」「ロックンロールが遂に鳴った」と表現していた。その通りだと思った。

ロックンロールヒーロー・の子は頭にサングラスをかけていた。ステージとはまた違う表情を見せていた。
「今年はありがとうございました」
まるで社交辞令のような言葉を僕は言ってしまったけど、本当にそう思った。僕は手を差し出して、握手した。
実は初めて握手した。
彼はやっぱりヒーローなのだ。みんなの、誰かの、そして自分にとっての。
神聖かまってちゃんの歴史は、まだまだ終わらない。

2010年12月27日 恵比寿リキッドルーム
〈セットリスト〉
1、白いたまご
2、ベイビーレイニーデイリー
3、制服b少年
4、ゆーれいみマン
5、最悪な少女の将来
6、さわやかな朝
7、笛吹き花ちゃん
8、ぽろりろりんなぼくもぎゃぎゃぎゃぎゃーん
9、スピード
10、黒いたまご
11、夜空の虫とどこまでも
12、死にたい季節
13、ねこらじ
14、あるてぃめっとレイザー!
15、学校に行きたくない
16、通学LOW
17、いかれたNEET
(アンコール)
1、夕方のピアノ
2、ぺんてる
3、ロックンロールは鳴り止まないっ

2010年12月22日水曜日

神聖かまってちゃん@恵比寿LIQUID ROOM

神聖かまってちゃん、恵比寿リキッドルームでワンマンライブ。

この日はアルバム『つまんね』、『みんな死ね』の発売日。遂にメジャーデビューを飾った神聖かまってちゃん。渋谷のタワーレコードに寄ると、1階のフロアに響き渡る『いかれたNEET』。ちゃんとコーナーも設けられていた。少し入り浸っていると、試聴する人が何人もいた。
今年何本か行なわれたワンマンライブは、バンドのひとつの区切りを表しているような存在だ。4月、9月、11月、そしてこの日。それぞれ、何かしら活動史に刻み込む特別なライブだったように思う。

ビデオカメラを持っていた。というのも、来年1月26日にSPACE SHOWER TVで放送される松江哲明監督によるテレビ番組『極私的神聖かまってちゃん』の撮影を監督から頼まれた。自主的な撮影を辞めたというのに、撮影を続けている。批難されるべきだ。だけど断る理由もない。でも「僕が撮ります」とは言い出せない。自分なんかがずっと撮ってていいのか、という臆病な気持ちが僕にビデオカメラを手放せた。だが、今月8日に初めての子さんの家におじゃまさせてもらい、そこで話した内容はズーンと自分の心に問いかける何かがあった。
神聖かまってちゃんは歴史に刻み込まれる存在だ。それを記録し、伝えなくては。と、少しばかり、考えが変わってきた。そのときに松江監督から頼まれたのは、何か意味がある。もっとプロのカメラマンにも頼めただろうに。松江監督は神聖かまってちゃんと僕との関係性を大事に思っているように思えた。

『極私的神聖かまってちゃん』は神聖かまってちゃんリスナーによる渋谷WWWでのライブまでの道程を、『マグノリア』ばりのオムニバス方式で描く。女優の臼田あさ美さん、写真家の梅佳代さん、タレント・漫画家の浜田ブリトニーさんもその一人として出演。そして番組の題字は園子温監督によるもの。松江監督から「壁紙にどうぞ」と写メが送られてきたのを見て驚いた。

開演前、恵比寿に向かう前に渋谷で観た映画『キック・アス』について、松江監督と楽屋で話した。1月1日元旦の深夜に放送されるテレビ朝日『お願いランキング』に松江監督が出演し、『キック・アス』を推すらしい。僕は学費が払えずに半年で中退したけど、松江監督は日本映画学校の先輩。『教育者・今村昌平』という本を頂いた。映画学校の創設者・イマヘイがいかなる思いで映画人を育てようと思っていたのかが分かる本だった。
「YOUTUBEで色んな人が撮影した色んなバンドのライブ映像見たけど、竹内君のが一番いい。俺が同じようなことをやろうと思っても出来ないよ」
松江監督にそう言われたのは本当に嬉しかった。激しいパン、音に合わせて動く、ズームを多用する。僕の撮影の方法は変だ。だからこそ活躍しているプロの映画の人から認めてもらえたのは、誇りに思う。がむしゃらに好きなものを追いかけてきただけなので、僕が最も憧れる"映画"というものを作っている人からの言葉は嬉しく、励みにしたい。
松江監督のブログでも僕が撮る神聖かまってちゃんの映像について触れてくれています。
http://d.hatena.ne.jp/matsue/20101224

監督から「撮影、続けなよ」とアドバイスを受ける。"自分なんかが撮っていいのか"という気持ちは少なくなってきた。色んな人が言ってくれるように、神聖かまってちゃんを2009年の春から知り、ライブ撮影を続けていたのは僕しかいない。
いつかまた、撮影の日々ができたらな。なんて思うだけ、思ったりしている最近です。

客席に誰もいないリキッドルーム内で、撮影する場所を決める。この感覚は久しぶりだ。
やがて開場時間になり、ステージと客席の間に位置をとる。隣にはNHKの巨大なビデオカメラが。僕のカメラは小さい。この日はTBSのカメラも入っているようだ。
照明が消え、登場SE『夢のENDはいつも目覚まし!』が流れ、歓声が上がる。メンバーが登場し、の子が威勢よくマイクを握り、喋る。
「おい、お前ら!僕は今病んでるんですが、今日は盛り上がりましょう!」

「今日はワンマンということで、ありがとうございます。配信とかできなくてすみませんね」と続ける。の子が登場してすぐにこんなに喋るのはちょっと珍しいかも知れない。
そもそも、登場してすぐにメンバーが長々と喋るとか。他のバンドではあるのだろうか。最近、いわゆる"普通"がますます分からなくなってきた。
「そんな感じで神聖かまってちゃんです!!」
ちばぎんが挨拶し、デーーーーーン!!とドラムとベースが鳴る。ギターとキーボードが鳴らされたことは、いまだかつて無いに等しい。

「最初だけだよ、B'zみたいに"ようこそ"みたいなのは。これからどんどん、冷めて、冷めていくからね。よし!みんな!僕が電波を飛ばすんで!!」
冷めていくと言うが、この日は本当に盛り上がっていた。
「やってない曲をやっていきます!できない曲があります!」
の子はテンションが高い。「雨が降っているということで、皆さんもそういう経験があるでしょう。俗に言う、リア充というものの不幸!」という曲紹介から、『ベイビーレイニーデイリー』へ。
「僕一番好きな曲なんだよなー」と呟いた。「だいたい6曲目くらいから疲れます!」と宣言し、みさこが「チャララチャララー!」と掛け声をし、神聖かまってちゃんのライブはスタートする。
終盤のmonoのキーボードのメロディが切ない。CDのほうが遥かに出来が良いと思う。ライブで演奏するたびに育った曲のように思える。最後、の子のソロのようになる部分がキマっていた。その後のの子のテンションを見る限り、今日は絶好調だ。

「俺のは大丈夫でーす!25日にはギブスが外れて何とかなるんで!」
骨折した手を見せるmono。ギターの音がおかしいの子は「いや!ギターなんかコードさえ弾ければいいですよね!」と。「ちばぎんはなんで俺の絵をステッカーに描いたわけ?」とmonoがちばぎんに尋ねる。
「何言ってんのかわかんないですけど…」
ちばぎんの返しに、客席から歓声が。ワンマンだけあって、メンバーの個性がよく分かっている会場。ある意味内輪ではあるが、神聖かまってちゃんにとって居心地のいい空間は観ていて気持ちいい。

2曲目は『あるてぃめっとレイザー!』。相変わらずこの曲の前半はmonoのやることがないため、ふらふらとキーボードの付近を動いている。後半から演奏に参加する瞬間は、『自分らしく』の後半にキーボードを弾き始めるときのかっこよさに似ている。

みさこが「早い曲苦手ですね…疲れた…」と弱音を吐くと、「疲れた?疲れたとかふざけんな!!お前プロだろ!プロ風俗嬢…じゃねえや!」との子が叱る。レッドブルをゴクッと飲むの子。「初めてライブを観に来た人いますかー」というの子の問いに、ちらほらと手を上げるお客さん。の子に話しかけるが、「しゃべんなよ…いや、しゃべんなよじゃねーや。どうしてそういうこと言ったんだろ…」と反省するの子に笑いが。
ギターをちょろっと弾いてコードを確認するの子に、ちばぎんが「それ意味あった?」と尋ねる。「意味あるだろ!なんで俺が意味のないことするんだよ!」と反論する。

テンションが高いまま、『美ちなる方へ』の演奏へ。
が、monoがミスをし、『夜空の虫とどこまでも』の最初の「ファー」という音が流れる。戸惑う会場内。「おいおいおい!どこまでゲンナリなんだよー!」との子。ちばぎんが「みんながこの瞬間を楽しみにしていたんだよ」などとmonoを責める。「一気にテンション下がってごめん!」と謝る。

「時間は、22時になったら消灯しちゃうみたいだけど。まあ、気楽に。お客さんは立ってるからね。まあ、こうキチガイっぽいふりをするけど、お客さんを気遣う。そんな、の子。ヨロシク」

の子、キチガイとキヅカイの意思表示。大歓声。かっこよくキマったのにも関わらず、まだ話し続けようとしたときにみさこがドラムを始め、「おいっ!」と戸惑うの子。
『美ちなる方へ』は完璧の演奏だった。今までにライブで聴いたこの曲の中で、一番だった。

の子「皆さんはお酒飲んでたりするんですか?今のナウいピープルは?」
お客さん「ワンドリンクオーダーだから!」
の子「ワンドリンクオーラ?ポケモン?」
お客さん「ゆきやー!飲んでるー?」
mono「飲んでるよー!そのせいでさっきミスった!ごめんなさい!」
の子「あんまり酒がきかなくなったんだよな!だからうちのバンドは、monoゴーレムがさ」
mono「なに言ってんだお前!」

その後も「monoゴーレム」を連続するの子。「最近配信がよくなった」という話をしたようだが、monoはそれを勝手に「褒めてくれた」と解釈。「ちばぎーん、俺を褒めてくれよ」とmonoが言うが、ちばぎんは「死ね」で一蹴。

次は『最悪な少女の将来』
「これさー!PV作りたかったんだけどさー!色々、大人の事情とかなんだかんだで、そんなことどうでもいいんだけど!アルバム出た日ってのがいいのかも知れないな。これは精神病の曲であって…」
突然、大声を張り上げるの子。 
「お前らーーーー!!精神病かーーーー!??」
観客は「おおおーーーーっ!!!」と呼応する。そこでの子が「うるせえ!!!俺は精神病だ今ーー!!だまれーーーーっ!!!!」と反撃。意味が分からない掛け合いから演奏が始まる。と思いきや、せっかくこの勢いなのにチューニングを始めるの子。
「ここで始まったらかっこいいのにな」と言いながら。「これは前回の大阪に引き続き、2回目です」と。
初めてライブで聴く『最悪な少女の将来』。「最悪みんな死んでしまえ!」と歌った後、「俺は今、そんな気分なんだよ!!」と叫んでいた。

「アルバム聴いたよーー!!」
客席からの声。「そう、今日アルバムの発売日なんだよな。緊張して何喋っていいかわかんないんだよ」との子。みさこが「ね、超緊張するね」と。「おめでとーーーー!」と客席から。
の子「次は?」
mono「次はね、『学校に行きたくない』」
の子「"次は?"とか言ってたらお客さんに飽きられちゃうんだよな!イスとか用意してあげればいいのに!筋肉少女帯みたいに。10曲目くらいになったら疲れてきて、"なんだこんなバンドか"って思われる。でも、目に叩きつけております!損はさせます!!」
mono「ギターは大丈夫か?」
の子「おかしいんだよ!」
mono「何がおかしいんだ?」
の子「劔が」
ちばぎん「劔はおかしい」
mono「うん、劔は顔がおかしい。俺が言えたことじゃないけど」

劒マネージャーが話題になったところで、の子が「『さわやかな朝』とか、どう?」と次にやる曲を提案。客席から「(CDが)すごい良かったよ!!」という声。なぜか「うるせえ!!」と悪態をつくの子。「あ、うるせえとかごめんなさい…」とちゃんとあとで謝り、「けど、今ハードル上げんなよ!ハードルはむしろ下げろ!!」と、そういうことか。

の子「でもmono君、酒飲んであれだから、別の酒飲んでみたら?」
mono「酒飲まねーと、お前とケンカしたくないんだよ前みたいに!!」
お客さん「ひゅーーー!!」
の子「…ケンカしないよ」

清々しい会話から『さわやかな朝』へ。
「歌詞、あんま覚えてないけど」と更にハードルを下げたの子、「イラッとすんなホント」と呟いてからギターをジャンジャン鳴らす。たしかに2番の歌詞は怪しいけど、「僕は何をすればいいかわかんない。僕はそんなんだ、いつまで経ってもわからないー!!」と即興で歌詞を作っていた。

MCではみさこが空気を読めないということが話題に。客席から「みさこーー!」という声。
の子「まあ半分半分でしょう。ここ最前列の女の子とかの半分くらいは"こいつ地獄に落ちればいいのに"とか思ってると思います」
みさこ「天国いきましょう天国!」
の子「いや、でも何があるんでしょうね!やってない曲は」
突然、話題は次の曲へ。
の子「こうやって、間があると怖いんです。アルバイトでも、深夜バイトでも、休憩中に変な警備員と2人きりになって…なんかその沈黙が怖いんです!」
お客さん「わかる!」
の子「わかるでしょ?でもワンマンなんで、そんな感じなんです!」

次が『通学LOW』だというのに、またmonoが間違えて『笛吹き花ちゃん』の最初の部分が流れる。「『笛吹き花ちゃん』はまだ全然できないから、次回に」との子。
そして『通学LOW』へ。の子がボーカルエフェクターによってキンキンに高くなった声で「みんな、ヘドバンをやれ!」と指示する。リキッドルームの照明は色とりどりのカラーでステージ上を染め、の子の顔が緑から赤、様々な色へ変化していく。そして子どもの声から悪魔のような声まで、色んな声に変わっていくボーカル。
「真っ黒な!顔をして!笑って!いるんだ!」
何人かが叫んでいるかのように、人格が様々に移り変わるようで、怖く、そしてかっこいい。胸ぐらを掴んでくるかのような迫力だ。

「『あるてぃめっとレイザー!』は?」
今までに演奏した曲を完全に忘れているの子。「季節を変えるような曲を…」と言うと、客席から「待ってた!聴きたかったんだよ俺!」という一人のお客さんの声が映えまくっていた。
mono、次の曲の準備にとりかかろうとするが、他のメンバーにはそれが一体何の曲なのか分からない。
ちばぎんが「あの、リーダー、次の曲が何なのか教えてもらっていいすか…自分だけ把握されても…」と困り果て、monoが「多分、『死にたい季節』!」と無責任に答える。
多分が確定となり、『死にたい季節』が始まる。いつ聴いてもゾクゾクする。死にたい様子を一切見せず、元気いっぱいに演奏を終える。

の子「家では元気じゃないけどな…」
mono「家では元気じゃないのか…」
の子「家で元気とか、おかしくね?だってパソコンこうやって、こたつ入って、カタカタカタカタ!ってやって」
mono「そろそろお前、ギター降ろしたら?」
の子「じゃあ次はポジションチェンジするんで」

キーボードの前にやってきたの子。「でも怖いよ!僕、ずっと『黒いたまご』とか逃げてきたんで」と言いつつ、ばっちりとかっこいい演奏を見せてくれたこの曲。

お客さん「の子ガンバー!」
ちばぎん「あのね、かまってちゃんのお客さんね、"がんばれ!"って応援してくれるんだよね。他のバンドでは見たことない…」
の子「でもね、曲が好きで、配信見てる人なんかは、"がんばれ!"って思うかも知れないですよね」
お客さん「ちばぎんもがんばって!エロゲ!」
ちばぎん「は?何言ってんの?」
お客さん「ごめん!ごめん!」
ちばぎん「…許す」

突然のエロゲ発言に戸惑うちばぎん。エロゲをやっていることを某雑誌のインタビューで答えていたせいか。
こうしてようやく始まった『黒いたまご』は音源にはない新しい音が入っており、よりディープな世界観に。ヘッドマイクを装着し、自由に動き回って歌うの子。彼がキーボードを弾く姿はいつもなぜか特別のように感じる。

「の子すげえ!」「天才!」
客席から大きな歓声が。照れながらの子が「僕はすごくない…って言ったってさ、どうしようもないよね。こういうときはさ、monoくんが"俺がスゴイんだよ!"とか言ってmonoラップを始めたらいいのに!」と言う。そこで"スゴイんだよ"の事例として、monoが楽屋の壁を殴って骨折したニュースが、音楽ニュースサイト・ナタリーで1位になったことを自慢げに伝える。

ちばぎん「えっ、1位になったんですか!」
の子「これはお客さん、どう思いますか!?自分で言うのは、どう思いますか!?」
お客さん「かわいいーー!!」
ちばぎん「"かわいい"って…」
の子「"かわいい"って!笑っちゃうわ!!」

の子はそのままキーボードの前に立ったまま、次は『夜空の虫とどこまでも』へ。そして客席に尋ねる。
「アルバム買った人はー、えーっと、"ぱぁーー"(手を上げる動き)っとやってくださーい」
「はーーーい」と大勢が手を上げる。
「うわっ!うわーーーっとぉ!!マジか!!こんなに!!売れてんなぁあ!!」
戸惑いながら、ものすごく嬉しそうなの子。ちばぎんが「の子さん、デイリー8位らしいです」と告げると、大歓声が。
の子、テンションがめちゃくちゃ高い。喜んでmonoの肩に手をやり、微笑ましい光景に。「アゴで木琴叩けよ」などと反応に困るようなことを言いながら、『夜空の虫とどこまでも』の演奏へ。
『黒いたまご』『夜空の虫とどこまでも』は二曲続けて演奏されるべきなのかも知れない。それはの子がキーボードの位置からわざわざ動かなくて済むという意味もあるけど、今月の新宿LOFTで続けて演奏している姿を観て、何か得体の知れない興奮を味わったからだ。
この曲を聴いたことは何度もあるけど、この曲ほど音源と違う何かがあるのは珍しい。神聖かまってちゃんの曲で最もライブ映えする曲だと思う。

「ライブバージョンすげえいい!!」
お客さんの声に、の子が「それはお前がここにいるから!!」と答える。絶妙な会話だ。

ちばぎん「今日はみなさん、ほんと来てくれてありがとうございます。えーと、これで晴れて、メジャーバンドですか」
みさこ「いぇい!ふぅふぅー!メジャーふぅふぅー!!」
お客さん「印税!!」
ちばぎん「印税?…入るわけねーだろそんなん…」
みさこ「ほんとね、貧困層だよね」
mono「『いかれたNEET』やりましょうか」
の子「『あるてぃめっとレイザー!』はやったのか?」
mono・ちばぎん・みさこ「やった!!」
の子「えー、みんな覚えてる?やったのー?しかし、この不況な世の中で、僕は…さあ、こんなことを言うと、みんな僕を見てくる。"さて、こいつは名言を言うんではないか"…でも、言わない!何もない!最近あることは、クリスマスシーズンということで、ポップコーンを買ったんだよな。千葉ニューのイオンで」
みさこ「ポップコーン全然クリスマス関係ない…」
の子「うるせえんだよ!!あったんだよ!!」
みさこ「そうな…」
mono「うるせーバカヤローって言うと、みさこさん縮こまっちゃうんだよな」
の子「お前が一番言ってんじゃねーか!!」

『いかれたNEET』の演奏へ。最後、monoのキーボードとちばぎんのベースだけになる部分で、の子がギターをぶんぶん振り回し、今にも床に叩きつけそうな雰囲気。結果、壊すこともなく、ギターを肩に乗せ、客席に丁寧にお辞儀するの子。

mono「ギター壊すなよ。最後の一本なんだから」
の子「みんな、お年玉もらえますか?」
お客さん「もらえない!」「あげるほう!」
の子「うそ、画鋲でも入れておけば」
ちばぎん「今、『バトルロワイアル』って声が聞こえたんだけど…あ、mono君、次の曲教えてください」
mono「秘密にしといたほうがいいだろ!」
ギターを持ち出すmono。
の子「では『怒鳴るゆめ』やりまーす」

どうやらmonoの思っていた曲とは違っていたようで、恥ずかしそうにギターを降ろすmono。ちばぎんが「秘密にしといてよかったね…」と呟く。
バシッとキマった演奏が終わり、歓声が鳴る。
「いかんせん上手くいったんじゃね!お客さんの、なんかこう、相乗効果で。NASAの」
の子が嬉しそうにはしゃぎ、そのままのテンションで「次は『ねこらじ』やりまーす」と告げる。monoはまたまた次にやる曲の予想が外れ、ギターを降ろす。「予想が外れてる!!」とmono。

「よし!!mono君の骨の骨折をもっとボロボロにさせるように、みんなもこーーーい!!monoくんの骨折をもっとボロボロに!いくぞーーー!!ねこらじだーーーーーっ!!!」

の子の突然の絶叫により、monoの骨折を激しくするための『ねこらじ』がスタート。mono、苦笑い。上へ、上へ、上へ、骨折がひどくなっていくのだろうか。そんな感じです、なのか。

演奏が終わり、monoがまた『笛吹き花ちゃん』の最初の音を鳴らしてしまう。
「それ出来ないんだよ…あ、俺か」
どうやらの子が間違えて音を流してしまったらしい。「えーーーっ」と客席。そしてまだ流れ、先ほどのmonoの曲予想のハズレといい、しつこい天丼が繰り返される。

の子「もっともっと、mono君の骨折を粉砕していきましょう!」
mono「そんなこと言うなよ!これ、あと一歩でメスが入れられるところだったんだよ」
みさこ「手術することなりそうだったんだね」
mono「あと一歩で手術するとこだったんだよ」
ちばぎん「うん、ごめん。あんま興味ない」
の子「だってお客さんが興味ないんだもん!"こいつ何言ってんだー"って感じで見てる。半分聞き取れてない!」
mono「たぶんね、僕がもっと日本語勉強すればいい…」
の子「うん、こういうのはスタジオ配信でやればいいね」

『いくつになったら』の演奏へ。
「僕はいつか 東京のど真ん中で 何千人の前で 存在を見せてやる」が実現した今。グッとくるものがある。が、そのすぐ後に歌詞を間違えた。「僕はいまや ローソンのど真ん中で 何千人の前で」と歌ってしまい、どんなローソンなのかと思う。その後は「らーらーらららー」とごまかす。客席から笑い声が。
の子はまだ古い記憶の中で「あんな大人になりたくない」と言っているのだろうか。この会場にいる誰もがそれを疑ってしまうほど、今、割といい大人になっているの子。客席には憧れの目での子を見ている人ばかりだ。

「この曲をやったのは、あれだね。君がとん汁を食っていたときだよね。だから1年ぶりくらいかな!」
の子、monoが食っていたとん汁で過去を思い出す。mono、の子に「おもしろトークをしろ」と指示され、みさこが「mono君の、おもしろトーク!」とタイトルコールのように喋る。
ムチャ振りされたmonoだが、なぜかそれに応じる。
「隣の家に囲いができたんだってね。"へ~、かっこいい"」
このひねりが何ひとつないトークに、沈黙が。その後、「イェーーーー!!」と歓声が。優しい環境だ。
「monoくん、そんなことはどうでもいいんですけど、あと2曲らしいです」
ちばぎんが告げ、客席から先ほどの「イェーーーー!!」から「えーーーーっ!!」に様変わり。

『天使じゃ地上じゃちっそく死』の演奏へ。
「これはえーっと、もうこんなにいっぱいいる中、赤坂まで聞こえるくらいの"死にたいなあ"と歌いましょう。ワンマンなんだから勢いでいいんだよ!!」
の子が喋っている間、みさこがタイミングを誤り、曲を始める。「空気読めよ!!」と叱るの子であるが、はっきり言って誰もの子が喋り終わるタイミングを掴めるはずがない。の子に「お前の空気って何だよ!」とごもっともなmonoの意見。
そして演奏を再開。赤坂まで聞こえるだろうか、"死にたいなあ"が。

の子「えーっと、いきます。『通学LOW』」
ちばぎん「やった」
の子「やった?マジで?」
mono「やった!マジでやった」
ということで『学校に行きたくない』へ。最初、の子が即興で歌い出すところをちばぎんがベースを弾き始め、そのまま曲へ突入する瞬間がかっこいい。
「計算ドリルを!!」「返して返して!!」などとmonoがコーラス、という絶叫で声を添え、中盤は「おかーーーさーーーーん!!」と絶叫している。の子はダイブし、ステージに戻ってきて「おかーーーさーーーん!!」と何度も絶叫。身体の中にあるものをすべて吐き出すかのような声を出し、ずっと叫んでいる。積もり積もった感情をぶつける演奏だった。演奏後、ありとあらゆるものが荒れまくったステージの上。

「ありがとうございました!あれ、ちょっと休んでくる。今やると、ひどい曲になっちゃうから」
マイクを放り投げて、ステージを去るの子。もはやアンコールを完全に予期しているような言い方なので、客席からアンコールを呼ぶ拍手が鳴り止まない。
「アーゴ!アーゴ!アーゴ!」
まさかのアゴコールが炸裂し、その後は「ネオニー!ネオニー!ネオニー!」という出演者ではないの子の飼い猫の名前が響き渡る。恐らく、千葉ニュータウンの団地で寝ているだろう。その後は「アゴー!」という声が再び。monoは大人気だ。

こうしてステージにはネオニーではなく、アゴ、そしてちばぎんとみさこの姿が。
mono「アンコールありがとうございます!あー、息上がっちゃったよ。下北屋根裏以来だ。酸素ボンベが回ってきたの、思い出すなあ」
お客さん「なんつった!?」
mono「あ!?」
聞き取れないお客さんにキレるmono。そこにの子が濡れた状態でステージに戻ってくる。
の子「水もしたたる…」
mono「いい男!!」
の子「水もしたたるいい男になろうとしたら、こうなった」
水を頭からぶっかかっただけだ。
mono「いや、いい男だよお前!」
の子「うるせえ!!でも今日、病んでるほうがいいライブできるなこれ。今日、来てよかったんじゃね?」

「夏ではないですが…」
monoが曲紹介をし、『23才の夏休み』へ。mono、客席からの反応に感動したのか「こんな歓声をかけてもらったことが、人生で何度あったか…」と言う。
「みんなで歌えば、俺の歌詞の間違えはごまかせる!!」
『23才の夏休み』が、今、この冬真っ盛りの時期に演奏される。もう2度と来ない夏休みに、何度思いを馳せたことだろう。でも、いつかまた夏休みが来るかも知れない。いつも来てほしいと思ってるくせに、実際に来たら怖い。そんな葛藤を吹き飛ばす演奏がそこにあった。
何度、この曲をライブで聴いてきたことだろう。あらゆる試行錯誤を繰り返し、今の状態になった。音源のような疾走感を出すために、コーラスも色々と変貌を遂げてきた。その過程を思い出すのは、神聖かまってちゃんの約1年半のドラマを回想することに繋がる。

「ワンマン来てくれてありがとうございます!『ちりとり』やりまーーす!」
の子の合図で、最後の曲『ちりとり』へ。
最初のベース、ドラム、ギターが始まる瞬間。この曲のみさこのドラムの叩き方は、全身を使っている。感情的に思う。そして僕のすぐ後ろで観ていた松江監督がの子と一緒に「バカなんです」と呟いた。噴きそうになった。の子は歌詞を間違えていた。「先帰っていいよ、なんて言っちゃいました。このバカヤローが女々しいんだよ!!」と叫んでいた。
ギターのストラップが外れ、直しに来ないのに怒ったのか劔マネージャーに対し「仕事しろよ!!」と叫ぶ。それでも自分でストラップを直し、「なんなんですかこれはー!!」の後はギターの演奏を再開させる。
「僕はあなたのことを忘れたけども、奥までちりとりたいのです。いつか僕にも奥までちりとりたい人が現れる…」
最後の呟きが切なかった。monoのキーボードとの子のギターだけが残り、余韻をたっぷり残したまま、神聖かまってちゃんのライブは終了しようとする。
彼が望んでいなくとも、多くの人がちりとられただろう。

「もう一回!もう一回!」というダブルアンコールを呼ぶ歓声が。
「当たり前じゃねえか!予定調和じゃねえか!ワンマンだぜ!!」
の子が返事するが、ステージにはの子だけ。「…俺だけしかいねーじゃねーか!!」と叫ぶ。するとメンバーが戻ってくる。

みさこ「もう1曲やっていいってさ」
mono「お前の頑張りを見ててくれたんだよ」
ちばぎん「monoくん、いいから早くやろうぜ!」
mono「この曲頼り、っていうわけでもないけど…」
そんな言葉で、だいたい分かる。
みさこ「この曲に今年1年、お世話になったからね」
mono「神聖かまってちゃん、ワンマンライブ…(言いかけるが、遮られる)」
ちばぎん「楽しかったですか!?」
客席「おーーーー!!!」
ちばぎん「はー、よかった。大阪みたいになったらどうしようかと思ってた」

言いかけたmono、今度はしっかりと「どうもありがとうございました。神聖かまってちゃんで、『ロックンロールは鳴り止まないっ』です」と告げる。
大歓声が巻き起こる。
「また来てください、ってのもあんまり言いたくないけど…」
の子が恥ずかしながら言っていると、もう何百回聴いたことだろう、monoのキーボードのメロディが。
たくさんの人が拳を上げ、歌っている様子。
「次はももいろクローバーなんてどうでもいい。今、盛り上がれ!!」
の子が煽情する。来年2月にももいろクローバーとの渋谷AXでの対バンが発表されたばかり。今というか、今すぐ、今すぐ、叫んでいた。
「MDを聴いてた頃に、MDを聴いてた頃に、僕の中の原点に戻れる気がするから、鳴り止まないのですーーーー!!!」
最後、の子はドラムセットのシンバルを鳴らす。ライブが終了する。

全18曲。たっぷりと神聖かまってちゃんを堪能できる時間となった。4月のワンマンと比べても2曲増え、グダグダな時間もほんの少し減ったように思う。

撮影を終え、ロビーに。汗まみれの人ばかり。お客さんは神聖かまってちゃんと同じくらい燃え上がり、楽しんでいた。久々にビデオカメラで撮影した僕の腕はとにかく痛い。だけど、ばっちりとキマったライブを撮影できた喜びをかみ締めていた。
メンバーに挨拶をし、リキッドルームを去る。
次は、今年最後の神聖かまってちゃんのライブ。またもや、ワンマン。今日があまりにも素晴らしすぎたから、次はどうなるのか。
ここは、ぜひとも更新してほしいところです。

2010年12月22日 恵比寿リキッドルーム
〈セットリスト〉
1、ベイビーレイニーデイリー
2、あるてぃめっとレイザー!
3、美ちなる方へ
4、最悪な少女の将来
5、さわやかな朝
6、通学LOW
7、死にたい季節
8、黒いたまご
9、夜空の虫とどこまでも
10、いかれたNEET
11、怒鳴るゆめ
12、ねこらじ
13、いくつになったら
14、天使じゃ地上じゃちっそく死
15、学校に行きたくない
(アンコール)
1、23才の夏休み
2、ちりとり
(ダブルアンコール)
ロックンロールは鳴り止まないっ

2010年12月8日水曜日

の子宅@千葉ニュータウン

「ふざけんな!!!!!
音楽で世界が変わらなくても僕は自分が変われればいいんだ!!!!
自分という存在が何もないそれ以下の
クズのぽんぽこ太郎なんだ僕は!!!!!!!!!!!!!
なんで貴様に黙って勉強して世界を見ろとか
指図されなくちゃいけないんだよ!!!!!!!!!!!
今までそうやって僕は自分をだめにしてきた!!!!!!!!!
給食食った後のあの心臓がはき出そうになるくらいの思いが
ずっと続いてるんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

僕にしたらここで殺されるって言われる事も
批判されることもすべてがリアルなんだよ!!!!!
多分僕に嫌悪感を抱いてる人も現実で会ってたら
『あっ、そうなんですかー』で終わってるとこを
ここだと『むかつく、殺す』とリアルな返答がくるんだ!!!!!!
ライブってのは僕にとっては場所なんてどこでもいい
ライブが起こるのはライブハウスって
考え方自体おかしいんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!」

2年半前、2ちゃんねるのとあるスレッドでこのような書き込みを続ける人がいた。
自ら制作した楽曲をリンクし、
「だっせぇ曲w」
「音楽のレベルははっきり言ってひどい」
「君は本物の凡人で何もできない人間だよ」
このようなひとつひとつの批判と罵倒に対し、律儀に返答していた。彼は常に叫んでいた。「!」で埋め尽くしていた。たった1人で、孤独に、何かに立ち向かうとしていた。

「キチガイのフリした凡人で何が悪い!!
僕は特別になりたいんだ!
他になにもできないし何もないし結婚もできないし人生なんてなにもない!
音楽がなかったら本当になーんもないんだ!!!!」

それは、とてもイタイ行為に思われるのかも知れない。
バカなのかも知れない。病んでいるのかも知れない。結局は、無意味なのかも知れない。それでも彼は、自分で探し当てた新しい音楽表現の方法を見えない誰かに向かって提示した。

「あっじゃあインターネットを使ったアイディアを一つだすよ
僕はライブをする時家から出るのが
本当にめんどくさいと思ってたんだ!
だから家からインターネットを通じて
ライブ感をいかに伝えられるかを考えた!!
今の時代の子供は
自分からライブハウスに行くやつなんてそうはいないでしょ!??
ロッキン音ジャパン祭りとか行くとか
好きな彼氏のバンド見に行くとかなら別だけどさ
僕みたいな誰にも興味をもたれない人間が
いかにオナニー現場をみせれるかをこの蛆虫脳みそが考えたんだよ

色々ぐーぐるってリアル動画配信サービスとかを見つけたんだよ!
みんなここで家からライブすればいいんじゃないかな!!?

これならバンドメンバーいなくても一人でできるよ!!!!!!!
あとは己の技量次第じゃない!!?
この前僕がためしにライブするよってなのって
自分の曲でライブやったんだけど音ズレが激しいらしいから
ちょっとむずかしかったよ!!

知らない人につまんねって言われた!!傷ついた
でもうまく使えばうまい事できると思うよ☆^@^ 」

12月8日はジョン・レノンの命日。
僕は東日本橋から北総線に乗り換え、千葉ニュータウン中央駅に降り立った。
そして、音楽がなかったら本当に何もない、そして知らない人から"つまんね"と言われ続けた、彼の家に訪れた。

駅からは遠く、タクシーを使わなければならなかった。彼の家付近に着くと、似たような5階建ての団地が整然と並んでおり、近くには小学校があった。男児たちの乾いた笑い声が響いており、穏やかな風景でありながらも、なぜか殺風景にも思えた。

彼の家は団地の一室。玄関のドアを開けると、笑顔で迎えてくれた。
「はい、帰ってください!」
そんなジョークを交えつつも、きちんと部屋を片付けようとした形跡があり、なぜかお香まで炊いていた。いい匂いが充満していた。
そして部屋に入ってまず目に飛び込んできたのは、殴ったり蹴ったりしたのか、ボロボロに突き破られたふすま。家に火をつけようとでもしたのか、そこには焼け焦げた跡もある。
僕はビデオカメラを回していた。撮りたかった。なぜなら、彼にとってここはひとつのライブ会場だから。そして、彼のライブをずっと撮影してきたからだ。



パソコンの画面を見つめる彼の姿。
リビングにはボロボロに大破したノートパソコンがソファに立てられてあり、その下にノートパソコンが2台転がっており、テーブルの上には常用しているパソコンが開かれていた。
奥には『MUSIC STUDIO』とラベルの貼られたドアの向こうに、彼が作曲や宅録に使用する部屋があり、たくさんのキーボードやギターが置かれている。

「竹内さん、一回くらい来てるかと思ってましたよ」
「お菓子とか食べます?そこらへん自由に撮っといていいっすよ」
取材中もリビングに戻るたびに妙に気遣ってくれて、なんだか申し訳なかった。そして、部屋に入ってから僕はずっと感激していた。なぜなら約1年半前、彼がこの部屋で1人で作った音楽に魅了され、現在でも毎日のように彼の音楽を聴き続けているからだ。

彼はボロボロのふすまに指差して、「撮っていいっすよ、こういうのとか」と笑った。僕は「もはやアートですね」と言った。彼は笑いながら、「歴史です」と答えた。
彼にとっての歴史とは何だろう。
ボロボロのふすまの穴の向こうは真っ暗だった。それを絶望の暗闇と捉えるのか、未知であり美ちなる宇宙と捉えるのか。その答えを見出す一つの手かがりとなるCDが、12月22日に発売される。




そのタイトルは『つまんね』。

2ちゃんねるで『つまんね』と言われ続けた彼は、"の子"と名乗り、"神聖かまってちゃん"というバンドで遂にメジャーデビューした。
CDジャケットには、亡き母と一緒に写っている幼き日の彼の姿。そして背面にはウルトラマンレオの人形の前で光線を出すポーズをとる幼き日の彼の姿があり、1曲目の『白いたまご』のカウントを刻むベースが終わった途端にパアァーと広がる音の世界に、何も感じずにはいられない。

深夜から朝方に向かうようなアルバムに思えた。『さわやかな朝』ではかつての父と母との朝の光景が歌われ、「何かが違うと思っても 朝はね ニコニコしているぞ」といった叫び声が、なぜか物悲しく、切ない。
ボーカルエフェクターを多用し、子どものような声で歌う彼が作る音楽には、小学生の感性があらゆるところに感じられる。かわいさ、素直さ、残酷さ、愛くるしさが全部詰まっている。これを特別な感性だとは思わない。誰もが通ってきた義務教育期間、小学生、幼少の記憶を蘇らせる。インストゥルメンタルの『夜空の虫とどこまでも』は夜の暗闇に、言葉のない空白に、どこまでも続く着地点のない行き先に、自分自身の記憶を自由に投影することができる。

「死にたい」と連呼し続ける『天使じゃ地上じゃちっそく死』の直後、『美ちなる方へ』という微かな笑い声から始まる曲がある。皮肉や嘲笑にも受け取れるし、純粋な衝動を素直に表現したようにも感じ取れる。それは彼の「死にたい」が「生きたい」にも聞こえるのと同じで、生きることがやがて死ぬことである事実とも同じだ。表裏一体であることは音楽だけに留まらず、彼自身の存在に対しても言えることなのかも知れない。
「君には見せたい素顔があると思います」
「悲しい顔を君には見せたいと思います」
素直であることが、いかに『かまってちゃん』になってしまうのか。まるですべての自己表現活動が実のところ、単なる"かまってちゃん"なのではないかと気づかされそうなほどに、『つまんね』というタイトルが心に突き刺さってしまう。

やがて朝になる。
最後の『聖天脱力』は「おはようございます」という呟きから始まり、鳥の鳴き声、ヤカンの水が沸騰する音といったそんな朝の生活音が、夜更かししたときにTV番組『めざニュー』を見てしまったときの憂鬱な感情を思い出させてくれる。
「これからおやすみの方も…」
真っ暗の空の朝、おやすみも、おはようもしたくない気分。脱力感。そうでない方にとっても、そのような方にとっても、そんなありふれた世界を"世界観"と呼ばせるほどの音楽が、ここにある。




もう一枚のタイトルは、『みんな死ね』。

攻撃的なタイトルとは裏腹に、『自分らしく』『怒鳴るゆめ』『いくつになったら』『口ずさめる様に』などといった希望を含んだ歌詞がある楽曲が並んでいる。
その中でひと際目立つのが精神病の女の子のことを歌った『最悪な少女の将来』であり、彼が実際に服用しているとされる精神薬・リーゼが歌詞に登場し、「山手線に飛び込みそうな」少女はまるで自分のことでもありそうで、だからこそ、運命を呪って天空にどうしようもない怒りをぶつける『神様それではひどいなり』の凶暴さが映え、「神様、てめー、ぶっ殺してやる!!!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!!!」という歌詞が単なる攻撃的な言葉にも思えず、切なさのほうが勝っているように感じてしまう。それはアルバムに収録されていないシングル曲『夕方のピアノ』の"佐藤"への「死ね」についても言えることで、アルバムのタイトル『みんな死ね』についても言えることだと思う。
やり場のない苦しみが、希望の中に散りばめられている構成。
総じて言えることは、"切ない"のだ。

『ベイビーレイニーデイリー』は素朴な感情を歌ったラブソング。
6月の梅雨時期に作られた曲であることから、雨がテーマになっている。"傘"が心の壁のようにも感じられ、「雨が降ってたほうが 人たちは生きやすい」と、客観的に見た街の光景の中に自分自身がいるようで、僕だって、あの人だって、お互い傘を広げると邪魔になってしまう。狭い路地に入ればぶつかってしまう。そんなこと、誰でも知っている。「あえて言わないだけです」という言葉と、シンプルなピアノのメロディが繰り返される最後は、フェードアウトで終わることこそが正しいのかも知れない。

「僕はいつか 東京のど真ん中で 何千人の前で 存在を見せてやる」
『いくつになったら』の彼による自作PVは昨年2月にYOUTUBEにアップロードされた。
「自分という存在が何もないそれ以下のクズのぽんぽこ太郎」
彼が書き殴る先はもはや2ちゃんねるではなく、何千人、もしくは何万人の聴衆の前なのかも知れない。そんな過去の約2年間のドラマが、このアルバムのクライマックスで思い出させてくれる。




彼は機材のひとつとして、自分のビデオカメラを紹介していた。

そして、テーブルの上に置いてあるパソコンを操作し、「これでPVを作ったりしています」と映像編集ソフトと、数々の楽曲PVの素材映像を見せてくれた。
ここからすべてが始まったのだ。
このパソコンから作られたものがインターネット上で公開され、遂にはメジャーデビューに辿り着いたと言っても言い過ぎではない。そして神奈川県に住む僕のパソコンにも映り込み、実際にライブハウスに足を運ぶことになった。

『僕のブルース』の未公開カット、彼の祖母が映った映像、『黒いたまご』で通院していた精神病院で許可を得て撮影したシーン、ガラクタの山の上でギターを弾く女の子、『美ちなる方へ』の自転車で走るカット、彼の父が撮影した映像…すべて貴重な映像素材だった。

「そこで、弾いてくんね?」
ガラクタの山の上でギターを抱えるみさこさんに対し、優しい声でディレクションしている彼の演技指導の言葉が映像から聞こえてきた。
「ここを、こう撮ると…、逆光が…、いい…」
時間帯、季節、ロケーションに感動している彼の純粋な感嘆の独り言が映像から聞こえてくると、笑いが込みあげてきた。彼は本当に映像を作るのが好きなんだな、と思い、面白くなった。
「PVを作って、ようやく完成」
インタビューや配信などでも公言しているほど、彼の宅録音源はPVが制作されて、ようやく一つの作品となる。

『GiGS』の編集・野口さんが「ここまで見せたのって、初めて?」と聞くと、彼は「内容見せたのは初めてですね」と言い、「いや、竹内さんがせっかく来てくれたんで」と答えた。一時期、僕が撮ったライブ映像は彼に編集してもらい、彼にアップロードを任せていた時期があった。だからこそ、彼の映像を編集する場所を見せてもらえたのは嬉しく、自分にとっては神聖かまってちゃんの活動を追ってきて、約1年半、ひとつの到達点に辿り着いた気にもなった。

取材が終わり、少しばかり昔話に花を咲かせた。
「竹内さんが初めてライブ観たんって、いつでしたっけ?」
忘れもしない、昨年4月。
大阪の友人に『神聖かまってちゃん』を教えてもらい、YOUTUBEのPVを見て、下北沢屋根裏に足を運んだ。客は7、8人。それでも彼は今と変わらないパフォーマンスをしていた。中学生のように素朴な外見でありながら、まるで大物アーティストのような振る舞いをステージで見せていた。楽曲の素晴らしさとは裏腹のシュールなライブの光景に感動し、そして翌月から「撮っていいですか?」とメンバーに尋ね、ビデオカメラで彼らのライブを撮り始めた。

「初めて撮ったライブがだいぶ変わったもので…」
僕は、昨年5月のライブについて語った。彼が作った映像をスクリーンに投影しながら、VJ機材を使用し、映像と同期したライブだった。あのとき、『ちりとり』の歌詞が映画のエンドロールのように下から上へスクロールする映像をバックに彼が歌う姿が忘れられない。
「『ちりとり』良かったっすね!」
彼もあのときのライブのことをよく覚えていた。


そのまま『おいしい牛乳』を飲みながら、
穏やかな様子で語りかけてくれた。

「ぶっちゃけ、俺らの力じゃないんですよ。もともとは俺らがやってるのかも知れないんですけど、ネットの、竹内さんが上げてくれた動画とか、配信上げてくれている録画とかの重要さは俺も分かってるんで。竹内さんのああいった節があってどんどん広まっていった、って意味でそういったことで、全然、ほんと、俺らの力じゃないんですよ」

常に「俺は周りの人に恵まれていただけなんです」と繰り返し、感謝の気持ちを述べていた。おいしい牛乳を飲みながら。
「俺は楽曲よりも、ここに至るまでのプロセスが一番重要で、そこが一番面白いと思ってるんですよ。マジで、竹内さんはそのくらい貢献してるんで」
感謝。おいしい牛乳。感謝。おいしい牛乳。を続けていた。ときおり、おいしい感謝。牛乳。おいしい感謝。牛乳。かと思うくらい、おいしい牛乳をおいしそうに飲みながら感謝を続けていた。
彼は感謝を飲み、僕は牛乳されていた。本当に嬉しかった。
僕は、彼が自分のことをどう思っているのかなどは正直それほど重要ではなかった。彼の作家性、表現への気違いにも似た執念を心から尊敬しているからこそ、そんな彼の活動を伝えることだけが目的だったため、別に感謝されなくてもいいと思っていた。それはきっと、配信動画をアップしている人も同じ気持ちだと思う。だからこそ、一回一回のライブ映像に肉体的にも精神的にも疲れるくらい、カメラのパンやタイミングにも気を遣っていた。曲を聴き込み、構成や展開を熟知しているつもりでいたからこそ、音になるべく同期した撮り方をずっと考えていた。今年4月の渋谷屋根裏と下北沢屋根裏のライブ映像は、1年間撮影してきた集大成のものが撮れたように、誇りに思っている。

彼も感謝してくれているのかも知れないけど、僕のほうが、このバンドにずっとずっと感謝している。

神聖かまってちゃんのおかげで色んな貴重な体験をし、面白い人たちにも出会うことができた。
今でも新しい出来事があると、自分のことのように嬉しい。
自分自身も撮影に関しても雑誌で記事を書くことも勉強になり、何よりも"好き"という感情から始まった行為でドラマが動き出したことに、映画以上のストーリーを楽しんでいた。スクリーンという小さな枠に留まらない、神聖かまってちゃんの映画。それは映画化されることとは関係なく、彼らの配信こそがすでにドキュメンタリーだと思っているし、何よりも、2ちゃんねるで書き殴っていた彼の発言を思い出す。

「色々ぐーぐるってリアル動画配信サービスとかを見つけたんだよ!
みんなここで家からライブすればいいんじゃないかな!!?」

その活動がいまだに続いており、彼の歌詞にある「誰彼理解できないことに 金と時間を費やそう」を続けていたことによる"神聖かまってちゃん"のプロセスを、2年半前に自ら予期していたことに感動を覚えてしまう。
そして彼の音楽は宅録から、バンド音源になった。

「これならバンドメンバーいなくても一人でできるよ!!!!!!!」

そんなことを言っていた頃から、バンドとしてかっこいいCDが出来たことに、心から感動した。初めて『つまんね』『みんな死ね』を聴いたとき、嬉しくて、気分が盛り上がって、部屋の中をウロウロした。僕は気持ち悪い奴になった。すぐそこに、の子さんがギターを弾き、叫び、monoくんが酔っ払いながらキーボードを弾き、ちばぎんが冷静にベースを奏で、みさこさんがドカドカとドラムを叩いているように思える。
僕はよく、最前列で彼らの姿を撮っていた。
近くで鳴る音も、CDで聴く音も変わりない。近くで、すぐ傍でも、そして遠くにいても、叫んでいる。『ロックンロールは鳴り止まないっ』の歌詞のように思えた。

僕は存分に客観性を失い、偏愛を持っている。神聖かまってちゃんについて、残念ながらそうなってしまっている。

彼の要望で「竹内さんも機材として紹介したい」となった。ちょうど僕が彼に向けていたビデオカメラは、ずっと神聖かまってちゃんを撮影してきたカメラだった。カメラマン佐藤さんが「機材になって」と冷静に指示してきた。野口さんも「じゃあ竹内さん、機材でお願いします」と冷静に頼んできた。
の子さんはその様子を見て、後ろからケラケラと笑っていた。
「でも、俺としてもここはちゃんと紹介したいんで」
撮影が終わると、冷静になって野口さんに話していた。12月27日発売の音楽雑誌『GiGS』に僕がなぜか機材として紹介されることになった。恐らく、写真が載ってしまうことになってしまう。シュールだと思う。神聖かまってちゃんだからこそ、そうなってしまうんだと思う。

アルバム収録曲の『美ちなる方へ』のPVがワーナーミュージック・ジャパンの公式でアップロードされた。

この映像には、彼の生活圏内の風景が映し出されている。「半径何メートルの世界」という、小さな世界を表現する言葉がある。しかし、その半径何メートルかの世界が、『MUSICA』『ミュージックマガジン』『GiGS』などの多くの雑誌の表紙、渋谷AXや恵比寿リキッドルームなどの大きなライブ会場、NHKやフジテレビなどのTV出演に繋がることなんてあるのだろうか。
あったのだ。
小さなパソコンから、それは始まった。
千葉ニュータウンの街から、すべてが始まった。
あの小さな部屋から、ボロボロになったふすまの暗闇から、歴史は始まったのです。





「出かけるようになりました」

どこに出かけようとも、今後も神聖かまってちゃんを見続けていきたいと思っています。

2010年12月4日土曜日

神聖かまってちゃん@新宿LOFT

新宿LOFTの『謎の日』という謎に包まれたイベントに神聖かまってちゃんが。

出演は当日になるまで正式には発表されず、神聖かまってちゃんのメンバーが出るのも不明だった。結果、この日はメインステージに住所不定無職、神聖かまってちゃん、進行方向別通行区が出演。漢字が多い。
キラーチューンでエクスプロージョンしに来たという住所不定無職のライブを観るのは約1年ぶり。終盤の『あの娘のaiko』『住所不定無職のテーマ』の流れは相変わらず涙腺を刺激する。

次は神聖かまってちゃんの出番。

いつもの登場SEとは違う音楽が流れ、メンバーが登場する中、の子だけが来ない。なぜかmonoが全身スーツにサングラス姿。
一体、このバンドに何が起こったのか。
の子不在により、今年2月の柏のライブのように急遽"神聖こまったちゃん"が結成したのか。そしてmonoの格好は一体。
monoがギターをジャランジャラン弾く。彼が弾くたびに不安が募る。みさこが「誰…?誰だよ…?」とサングラス姿のmonoを指摘。やがてmonoの弾くギターがジャンジャン大きな音を立てて鳴り出し、monoがマイクに口を近づける。
「君はファンキーモンキーベイベーーー!!!」
どよめきが走る客席。
CAROLの『ファンキーモンキーベイビー』のカバーで幕を開けたライブ。mono、ちばぎん、みさこの3人で演奏される。戸惑いを隠しきれない様子の客席。。これが『謎の日』の正体なのか。なるほど、本番になったのにまだまだ謎だ。
しかもmonoは歌詞をあまり覚えていない。「ウー」とか「ラー」で見事ごまかされていた。

「こんばんわー。の子は今向かってきています。の子がいると思ったら大間違いなんだよ」
monoの口からの子不在の事実を知らされ、戸惑い気味に拍手する観客。monoのサングラスがライトに照らされてキラリと光るが、その中の目は確実に焦っているだろう。もしくは酒の力で紛らわせている。だが、今は骨折した手の治療中。酒は飲めないはずだ。ということは、かなり焦っている。

間髪入れず、ニルヴァーナな感じのギターがジャキンジャキンと骨折した手で鳴らされ、『Rape Me』が演奏される。
なんとまあ頽廃的なんだろう。色んな意味で。
ボーカルがいなくて、代わり歌っている。すごく困っている。骨折した手で弾いている。滑舌の悪い声。これは、何もかもがニルヴァーナを超えてしまっているのかも知れない。カート・コバーンよりも遥かにどうしようもない。カート運びのバイトを長年やっているmonoがカート以上のカートを運んできたように思える。
最後は「レイプミー!レイプミー!レイプミー!」と絶叫。まったく別の意味で圧倒されるものがそこにあった。

「どうもこんばんわー。"神聖こまったちゃん"です」
落ちついたテンションで喋り出すちばぎん。やはり、今日はこまったちゃんなのか。「3人で出るって決まったとき、やるの決まってたのは『ファンキーモンキーベイビー』だけだったんだよね」と。「うぇっ!!」と突然吐き出すように咳き込むmonoに、みさこが笑う。

ちばぎん「今日はどうしたんすか?」
mono「あ?今日はあれだよ、こんな格好したかったんだよ」
みさこ「『アウトレイジ』みたいなね」
mono「これで映画の話が来たらいいでしょ」
ちばぎん「来るの?それで」

「どうしようかね…」と困っているちばぎん。恐らく、この後に演奏する曲が一つもない状態。monoが突然、ステージから去る。「monoくんはどこ行ったの?」というちばぎんの問いに、「うんちじゃね?」とみさこ。
この沈黙と、間。
「まだ来ないわ」との子不在の状況を伝えに戻ってきたmono。ここからMCが続く。トークスキルが最近上達したというmonoに、みさこが「じゃあ見せて」と命令。
発揮しようとしたところ、monoの「今日は何を観に来たんですか?」という問いに、お客さんが「の子!!」と。「帰れ今すぐ!」と怒鳴る。これがトークスキルなのか。「俺、こんなスーツ着て、何やってんだって感じだよね」と続けるmonoに、ちばぎんが「で、トークスキルは?」と厳しく返す。
完全に停止状態のライブハウス。これほどキツい状況での神聖かまってちゃんのライブ、久しぶりだ。いや、これは神聖こまったちゃんだ。本当にこまっている。

劔マネージャーが出てくる。「えっ、ほんとにやるんですか?」とちばぎんが言い、ステージにマネージャーが演奏で参加という新しいバンドの形が今ここに。「あらかじめ決められた恋人たちみたいにやればいいんですよ」と漠然としたmonoの提案で、客席に笑いが。
「あらかじめ決められてたんですよ!!」
monoがキメ台詞のように吐き捨てる。
劔マネージャーが準備するのに10秒カウントを始めるみさこ。10秒を超えても準備ができない劔マネージャーに、メンバーが容赦なく演奏を開始する。
ちばぎんが「劔さん、約束の時間です」、みさこが「劔さん、焦ってる顔似合いますね」と焦らせる。顔をブンブン振り回して取り乱す劔マネージャー。ベランダにいる小鳥のような動きをしている。「がんばってー」と声援が聞こえるも、ステージ上はまだ困りに困り果てている。

こうしてmono、ちばぎん、みさこ、劔マネージャーの"神聖こまったちゃん"で『23才の夏休み』が演奏されることが決まった。
劔マネージャーはベース。いくらベーシストでも、普段演奏していない曲をぶっつけ本番でやるとは、ムチャ振りすぎる。演奏されたのはいいものの、誰もボーカルをとろうとしない状態。そんなインストで始まり、途中からみさこがドラムを叩きながら歌う。歌詞をほとんど覚えていないようで、「らららー」とごまかす。monoの『ファンキーモンキーベイビー』と同じスタイルだ。の子だってちゃんと歌えていないことがたまにあるが。
女の子ボーカルの『23才の夏休み』は新鮮だった。しかもゆるい。声が上ずっているときもある。なんなんだ。今日は一体なんのバンドのライブを観に来てしまったんだろう。

「ありがとうございまーす。言っとくけど、『謎の日』なんてこんなもんだからな」とちばぎんが自分たちをフォロー。みさこが「あとで握手会しよう」とライブのハードルを下げようとする。

そして劔マネージャーがステージを離れると、の子の登場。
来ていたのか。大歓声が上がり、ようやく"神聖かまってちゃん"がステージに。
mono同様、なぜかサングラスをかけている。いつものニコニコマークの柄の緑色サングラスではなく、黒くて大きなサングラス。往年のロックスターのような風貌だ。
ようやく来た!というムードで拍手喝采。
「トイレ行ってくるわ!!」
の子、まさかの退場。会場は爆笑に。
「台本なんてないからね。真剣だよ真剣。それで歌える俺は、カリスマとしか思えないね」
monoがこのイベントのことを語った上、自らの才能を讃える。ちばぎんの「そうね、トークスキルもあるしね」と心のない声が響き渡る。客席からは「滑舌悪い!」と正しい反応が。

「私ね、このLOFTってところはトラウマスポットですよ。あの昔ね、このLOFTでmono君との子さんが殴り合ったんですけど、私もね、ウィスキーちょっともらっちゃったもん。お客さんにあんな野次を飛ばされるライブをやってしまったってことが、もう死にたくなった」
突然、語り出すみさこ。それに対し、「何?私はちゃんとやりたかった、みたいな?」とmonoが突っかかる。そこにの子がトイレから舞い戻ってくる。「でもよく来てくれたよ!ほんとに」とmonoが褒める。当然のことなのに、の子に拍手が。

「俺がいない間、どうだった?…お前誰だ?」
サングラス、スーツ姿のmonoの正体を疑うの子。「場所間違えてるよ?もう2階か3階上のホストクラブじゃないの?」と。「ホストが骨折するかよ…」とmono。
どうやらOasisのカバーをやるためにサングラスを着用したというmonoとの子。それをあからさまに正直に喋っていくのも、の子らしい。

の子「今日は一体何なんだよまったく」
mono「今日は『謎の日』なんだよ!スクリーンにも書いてあっただろ?」
の子「俺じゃねーよ!」
mono「わかってるよ!」
の子「俺のせいでもない。彼のせいでもない。会社のせいでもない。ただ、やるだけ!」

なぜか突然かっこいいっぽいことを言ってしまい、会場に拍手が。いやいやいや。なにか間違っている。
満面の笑みを浮かべたの子に、ちばぎんが「この笑顔…」と形容。「でも俺、できるかわかんないよ」との子が弱音を吐きつつ、Oasisの『Rock'N' Roll Star』のカバーを演奏することを告げる。
「こんなに密集してるの久々だからなー。モッシュして圧迫すんなよ。あのよく2ちゃんとかにあるグロい死に方したリスト。あそこに載るなよ」
の子らしい客への配慮。「Oasisのカバーで圧迫死するの?」とちばぎん。「うん、神聖かまってちゃんのライブで圧迫死とかリストに載るなよ」との子は続ける。
「僕、80。monoくん、120」と、何かのパーセンテージを告げて、の子の曲紹介によってOasisの『Rock'N' Roll Star』のカバーを。

の子のギュイーーーンと鳴るギターから始まる。聞き慣れているのか歌い慣れているのか、自分の曲かと思うほどちゃんと歌えている。合間にmonoのコーラスが入る。なんだかカラオケの個室を覗いてしまった感も否めないけど、の子ボーカルのOasisは新鮮。英語歌詞を歌う姿自体、レアといえばレアだ。

「よし!!みんな!!座れ!!座ったら、僕が、だいたい、2時間くらいやってやろう!!立たれると…何かやらなきゃって感じになってしまう…!!」
の子、演奏後にお客さんに指示。前に詰め掛けて人で密集しているライブハウス。座れるわけがない。
monoの姿に「お前なんつー格好してんだほんとに」と今更ながら戸惑っているの子。「Oasisで、いいの?」との子が客席に問いかける。「こんな共通認識はないですよ」と。お客さんの一人が手で反応するも、「お前手振っても無駄だぜ、一人だもん。こんなに人いるからな」とお客さんの反応を気にするの子。

ここでmonoから重大発表が。
「あと2曲で終わり」
客席からどよめきの声。「いや、それはない」との子が言い、劔マネージャーがの子にステージ脇から話しかける。恐らく本当にあと2曲なのだろう。の子は「何?ラーメン屋が閉店する?」と聞き間違える。
普段ライブでは演奏しない曲をやると宣言するの子。「俺たちがライブで演奏しない曲、2度とやらない曲をやっていこうと思います。はい、だからある意味、幸福だと思います。はい。幸福だと思います。はい」とケンカを売っているような態度で客席に話しかけ、笑いが起きる。
「そんなんでもよかですかー!?」との子が問いかけ、同じくOasisの曲から今度は『Rockin' Chair』のカバーが演奏される。
2番はmonoが歌う。しかしそこにの子が華麗に割り込み、またの子ボーカルになる。そこをmonoがコーラスに回り込む。その機転の利き方が、2人の関係性を表している。と言えばいい感じに聞こえるけど、ただ単に気まぐれなのだろう。

演奏後、気持ちが良かったのかゴキゲンな様子で「あるあるー」と言うmono。「じゃあ最後はかまってちゃんの曲やって締めよっか」と言うと、「ふざけんな」との子。「だってもう時間ないんだよー」という話に。
「じゃあアンケートで決めよう。(これから出る)進行方向…方向音痴の人はこう。神聖かまってちゃんの人は、こう」
アンケートの挙手の仕方を客に促すも、よく分からない。「わかりにくいよ!」とちばぎん。

「楽しい?」
客席に尋ね、笑いを誘うちばぎん。次の曲の演奏が始まっているのにも関わらずの子は客席に挨拶を続け、メンバーに「うるせえっ!」と怒鳴る。
久しぶりに演奏される『夜空の虫とどこまでも』。ただし、演奏がいきなりストップ。「お前ら、早い!もっとさ、アインシュタインでもわかんないことがあるんだよ!!」との子が訴え、「わかったわかった、もう一回やろう」とmonoが言い、演奏再開。
再び始まった『夜空の虫とどこまでも』。ちょうど1年ぶりにライブで聴く。相変わらずボーカルエフェクターを使ったの子のボーカルのメロディが美しい。雰囲気が良く演奏が終わったけど、「はえーよ!!」と終わり方にキレるの子。

「ラス1お許しが出ました!」とみさこが告げ、もう1曲できるとのこと。の子はそのまま位置を変えず、続けて『黒いたまご』を。
最初はキーーーーン!という音がうるさかったが、途中から演奏がノッてくる。。2番は間違えて1番の歌詞が歌われていたけど、関係ない。ようやく神聖かまってちゃんのライブ、いや、ライブハウスによくあるライブの光景になってきた。まさか、最後の最後で。

ライブハウスの転換SEが入り、神聖かまってちゃんのライブの終わりを告げていた。しかし、の子はまだまだやる気満々。最後の最後に気合いのスイッチが入ってしまったの子に、朗報が。
ちばぎん「もう1曲やっていい、って!」
mono「はい、今度こそ最後の曲」
の子「はえーよ!」
mono「早くねーよ!時間は待ってくれねーんだよ!」
の子「は?ニートだったら時間も何も関係ねーよ」
mono「お前は関係ないかも知れないけど、これはみんなの時間なんだよ!」
の子「相対性理論観たい人とか?」
mono「そう!相対性理論じゃないけど!」

こうして鳴り出すのは『ロックンロールは鳴り止まないっ』
だが、の子の歌い方がNHKの『MJ』に出演したときのように変だ。明らかにやる気がない歌い方。周囲から笑い声が聞こえる。こんなに覇気の『ロックンロールは鳴り止まないっ』は今年2月にこの場所で聴いた覚えがある。LOFTではの子を鳴り止ませる何かがあるんだろうか。
「ここでこの曲を持ってくることが、逃げ!」
の子が間奏でこう発言。「いつまでも、いつまでも、いつまでも、くれヨォ~~」と声が裏返っているのには会場が爆笑。
そして「いますぐ、いますぐ、叫ぶよ」の「いますぐ」をなぜか延々とループさせて歌い、演奏が終わってもずっと「いますぐ」を繰り返している。「いま」がどんどん遠ざかっていく。「すぐ」の瞬間が多すぎる。しかもギターまでも同じ部分を繰り返し、まるでロボットがシステムエラーを起こしたかのような状態だ。

ちばぎんが「ありがとうございました神聖かまってちゃんでした!」と挨拶をするが、の子が「バカヤロー!終わんねーよ!!」と返す。
「え、マジこんなんでいいの…?」とステージに一人残ったの子が客席に問いかけ、撤収が始まってもまったく退こうとしない。降ろされたスクリーンと客席の狭間でお客さんとコミュニケーションをとっていた。
最後になってようやくエンジンがかかってきたようだ。この人のテンションは予測がつかない。だからこそ面白いのだけど。
降ろされたスクリーンには『謎の日』と書かれてあった。出番が終わってからも、いまだ謎のままです。

トリの進行方向別通行区分のライブが終わってから、ライブハウスの客席にはの子さんの姿があった。ファンに囲まれ、丁寧にサインに応じていた。昨日の代官山でのライブでもそうだけど、最近はちょっと満足がいかなかったライブの後のサービス精神が半端ない。ライブ本編とのバランスは大丈夫なのだろうか、と思いつつ会場を後にする。
次は、恵比寿リキッドルームでのワンマン二本。今年の神聖かまってちゃんの総決算になるに違いないが、どのようなライブをするのか。昨年以上にスリリングな神聖かまってちゃんの物語。それはメンバーさえも予測がつかないものであることは間違いない。

2010年12月4日 新宿LOFT
〈セットリスト〉
1、ファンキーモンキーベイビー(CAROLカバー)
2、Rape Me(NIRVANAカバー)
3、23才の夏休み(神聖こまったちゃん)
4、Rock'N' Roll Star(Oasisカバー)
5、Rockin' Chair(Oasisカバー)
6、夜空の虫とどこまでも
7、黒いたまご
8、ロックンロールは鳴り止まないっ

2010年12月3日金曜日

神聖かまってちゃん@代官山UNIT

代官山UNITの『モテキナイト』に神聖かまってちゃんが。森山未來主演のテレビ東京系のドラマ『モテキ』のイベント。

出演は神聖かまってちゃん、難波章浩(Hi-STANDARD)、向井秀徳アコースティック&エレクトリック、TOKYO No.1 SOUL SET、Half-Life。DJに、エレキコミックのやついいちろう、ドラマ出演者の野波麻帆、浜野謙太(SAKEROCK、在日ファンク)。


この日、楽屋配信には向井秀徳さんが登場。の子さんと一緒にNUMBER GIRL時代の『omoide in my head』を弾き語りしたり、『INUZINI』を披露したり。みさこさんに「あなた、変に色っぽいですね」と絡んだり。向井秀徳節を炸裂しており、の子さんはいつものハチャメチャな調子を抑え、本当に尊敬している相手であることが伺える反応をしていた。それでも配信のコメントに気を取られて会話ができておらず、リスナーからは「向井さん、すいません」と向井さんを気遣うコメントが多数寄せられていた。
一緒に歌うときも、歌詞を微妙に覚えていて歌っていたの子さんが印象的だった。いつもだとめちゃくちゃやるのに。本当にNUMBER GIRLが好きな人だったんだなとよく分かる。

神聖かまってちゃんの前は向井秀徳のライブ。NUMBER GIRL時代の『TATTOOあり』の演奏には驚いた。田渕ひさ子のギターソロの部分を口で歌っていたことにも。耳を突き刺すような鋭いギターの音や物語を綴るような歌詞は、NUMBER GIRLから10年経っても変わらない。
MCでは、今年の夏のライジングサンロックフェスティバルで宮藤官九郎に『モテキ』の存在を教えてもらい、知らない間にNUMBER GIRLの楽曲が使われていたことを。「知らないっすよー」って言っていたら隣に偶然、ドラマのディレクターの大根仁がいたという。「すみません」と謝られ、自分も「すみません」と謝ったという話で会場を笑わせていた。

イベントは代官山にふさわしく、VJとDJが鳴り響く。神聖かまってちゃんのライブが始まるとは思えない代官山!な雰囲気に圧倒された。
メンバーがステージにセッティングに入ると、妙な安心感がある。申し訳ない。セッティングが終わり、しばしの沈黙の後、登場SE『夢のENDはいつも目覚まし!』が流れる。こうして代官山をただの山か何かにしてくれた。

神聖かまってちゃんは生配信しながらのライブ。これまでもそうだったが、最近ではより一層配信ライブが当たり前になってきている。
『夢のENDはいつも目覚まし!』の音楽に合わせてみさこがドラムを叩いている。
mono「どうもみなさん、こんばんわー」
の子「あ、あ、マイクロ、チェックを。マイクロチェックを。僕は難聴なんで、もっと返しをくれたらありがたいですー」
ちばぎん「というわけで神聖かまってちゃんですー!」
いつも通り、デーーーーン!!とベースとドラムが鳴り響き、歓声が上がる。

この日、monoは手にギブスをはめていた。先日の渋谷WWWで終演後、激昂して楽屋の壁を殴って骨折。ナタリーのニュース記事にもなった。キーボードを弾けるのだろうかとファンを不安な気持ちにさせてしまったmonoのキーボードの傍には、いつものウィスキーの瓶が置かれていない。

mono「おーし今日も張り切っていきましょうか。今日僕、酒飲んでませーん。俺の様子見て、わかるでしょ?呂律が、いつもよりは回ってない」
ちばぎん「なんだよ、いつもより回ってない、って」
mono「あれ?いつもよりは回ってない、る?…なんで無反応なんだよ」
結局、酒を飲んでなくても滑舌は同じなのだ。
mono「この前のWWWと全然反応違うぞお前ら!もっともっと煽ってこいよ!」
お客さん「何言ってんのかわかんねーよ!」
mono「はいすいませんでしたー」

「1曲目、『ベイビーレイニーデイリー』」と曲紹介するmonoだが、の子は「お前が言ったからといって俺がやるとでも」と言いかけた。「だって俺、昆虫採集してるんだよ」と意味不意なことを言い続けつつも、「『ベイビーレイニーデイリー』やりまーす。なんでこの曲やるのかと言うと、単純に、好きだから!メロディが!」と昆虫採集をやめて、無事演奏へ。
「メロディいいよなぁ、なんだろうなぁこれ…自己満足?うるせえ!!」
みさこの「チャララチャララー」の掛け声から、『ベイビーレイニーデイリー』が始まる。monoはギブスをはめていても、ちゃんと演奏できている。むしろ酒を飲んでいないせいか、いつも以上に丁寧に弾けていた。

mono「はい、続いては、『モテキ』といえば『ロックンロール』~」
みさこ「いつかちゃんが歌ってくれたね」
『モテキ』の第6話『ロックンロールは鳴り止まないっ』で、女優の満島ひかり演じる"いつか"がこの曲をカラオケで熱唱するシーンがある。
mono「いつもより舌が回んないよーほんとに」
ちばぎん「別にいつもだろ…」
mono「(の子に)お前何してんの?」
の子「『さわやかな朝』のためにカポを探してる」

次は『さわやかな朝』ではなく、いつかちゃんも歌った『ロックンロールは鳴り止まないっ』。monoの最後のキーボードが美しく終わる。

ちばぎん「mono君、弾けるじゃん!」
mono「なんとかね…」
の子「まあでも、案外弾けてないよな!」
mono「カポ見つかった?」
の子「はあ?うるっせえ!…あ、うるせえじゃねえや。(劔マネージャーに)カポは見つかりましたかー?」

劔マネージャーにカポ探しをお願いしていたの子。「神聖かまってちゃんのライブなんかマンネリなんだよ!明日の『謎の日』にはまあ、やってない曲をやると思いますけどね」と2曲目が終わった時点で、翌日のライブのことを告げる。

の子「そのときにはアンケートをやろうかと。"何がクソだったか"とかね」
mono「アンケート?牛丼屋のあれか?」
の子「…うん、牛丼屋のあれ。頭いいね」
monoの意味不明な返しにきちんと反応してあげるの子。前回のケンカもあってか、この日は仲が良い。ケンカするだけ仲が良いという、まさにその光景だ。そしてカポが見つかったということなので、『さわやかな朝』へ。
ライブでは初披露となる。
「ホーー」とキレイな音がmonoの弾くキーボードから鳴り、穏やかな曲調にも関わらず「イラッとするなぁほんと!!」というの子の絶叫から始まる。2番、の子が歌詞を飛ばして忘れてしまい、歌わずにしばらくインスト状態が続く。逆にそれが味になっていた。
「僕はイラッとするんです。電車に乗っても、僕はどうしようもないんです。僕はもうどうすればいいのか分からないこの日常の中をいく。そう、僕は今…」
即興で歌っていた。そこから持ち直し、また2番の歌詞を挑戦するも、1番の歌詞を繰り返してしまっていた。
「どうしようもないんだ僕はほんと!!」
即興の歌詞から、本当にどうしようもない気持ちが伝わる。この曲の持つ爽やかさと鬱屈した感情のバランスが際だっていた。最後は「うああーー!!!」と絶叫しながらギターを一人弾き続け、弾き語りのような状態に。スポットライトはの子だけに当たり、なぜか感動的な終わり方に。めちゃくちゃな歌詞だったけど、着地点は見事。

歌い終えた瞬間にどこからともなく、低くて渋い声が。
「彼は私の中で、ゆっくり動いて…」
ちばぎんが「えっ、今の何…?」と戸惑う。会場の空気も「えっ…?」というものに様変わり。どうやらこれは、神聖かまってちゃんの出番の後にイベント側が流すSE(豊川悦司の雑誌『an・an』付録の朗読CD。猥雑な内容)だったそうだけど、このタイミングで流れてしまったらしい。

みさこ「ほんとに今の何…?」
の子「これは、僕のアドリブが、呼び出した…」
ちばぎん「呼び出したんですか!」
の子も若干戸惑っている様子で、「うそです。偶然です」と返す。あまりにも絶妙なタイミングでお茶を濁したトヨエツ。声が良すぎる。
mono「続いては『美ちなる方へ』」
の子「monoくん、酒飲んでないせいか、ちょこちょこ、八百屋の前に立っている感じ」
おそらく、声がいいという意味かと思われる。
の子「そういうmonoくんが、俺は好きなんだよ」
「フゥー!!」という観客の声。渋谷WWWとは正反対の二人だ。
mono「…へいいらっしゃい」
"八百屋の前に立っている人"を再現するmono。優しさに満ち溢れている。

『美ちなる方へ』が始まる。が、演奏が途中で止まる。の子がギターを弾いてないためだと思うが、ちばぎんが「monoくん、やっぱり酒飲んでんじゃないですか!」とごまかす。の子は「いや、大丈夫」と再開させるように指示。
後半に入る前、の子がギターをジャッ!ジャジャッ!とかき鳴らす瞬間がたまらないしかし、後半はリズムがおかしいのか、何がおかしいのか、演奏がグダグダに。楽器が次第に演奏をやめていき、フェードアウトするかのように終了。

の子「…どうしちゃったんだい」
mono「知らないよ?どうしたんだろ。どっちがズレてたの?」
の子「俺はみさこさんがズレてたんだと思う」
みさこ「えっ?」
の子「お客さんは、みさこさんがズレてたと思った?」
ちばぎん「う~ん…次の曲いきましょっか!」

ちばぎんの「monoさん、次何の曲ですか?」という問いに、「次は…ちまったよぉ」と聞き取れない口調で何かを話す。それに対して「酒飲んでる?」「何言ってんのかわかんねーよ!」というお客さんの野次。「てめーら何なんだよマジで」と半分キレかけるmono。
「こんなね、途中で曲やめて笑ってくれるお客さん、いないよ?」
ちばぎんのごもっともな意見に、笑う客席。「いい曲が台無しだ!」という愛情のあるお客さんの声に、「ほんとだ!」との子。「すいません、僕が謝ります!」とmono。「さすがリーダー!」「さすがアゴ!」と優しい観客の声。だが、「拍手されるために言ったわけじゃねーんだ!」とまた怒るmono。なんなんだ。

mono「次は『いかれたNeet』をやります」
の子「次は『夕方のピアノ』を」
mono「なんだよ!結局俺の言ったこと意味ねーじゃねえか!」

と言いつつもの子は「次何だっけ…」という様子。monoがすかさず「『夕方のピアノ』だろ!?」と指摘。「この曲が最後です」とちばぎんが告げると、客席から「えーーーっ!!」という声。「じゃあワンマン来いよ!」とちばぎんが半分キレ気味に返す。
こうして『夕方のピアノ』が演奏される。後半のの子のギターのチューニングが怪しいが、そのぶんギターを強引に掻きむしり、この曲がより一層エモーショナルなことに。もともと、正確に弾かれてもなんだか違うような曲にも思えるからこそ、それでいいのだろう。でも、そう言ってしまうと何でもアリになってしまう。
演奏後、ローテンションのの子とmonoの会話が見事だった。

の子「1曲目何やったっけ…?」
mono「1曲目は『ベイビーレイニーデイリー』」
の子「だよね。次は?」
mono「2曲目は『ロックンロール』やった」
の子「それで?」
mono「『さわやかな朝』やった。で、4曲目は『美ちなる方』はやった…か言えないかも知れないけど。で、5曲目、『夕方のピアノ』。5曲!」

ライブの最後のMCとは思えない、たった5曲の振り返りをのんびりと。最後の曲が終わったのにも関わらず、「じゃあ、バンドじゃやってない曲をやろう」との子が言う。
「えーと、じゃあ神聖かまってちゃんでした。ありがとうございました…」とちばぎんが小声で言い、みさことちばぎんのドラムとベースが鳴る。

ちばぎん「の子がそう言うかも知れないけど、俺はね、の子の向こう側でスタッフの人がこれ(両腕で×マーク)しているのが見えるんでね」
の子「いや、知りません」
mono「バイバーーイ」
観客「えーーーーっ!!」

神聖かまってちゃんだけを観に来た人は、たった5曲という印象になる。いや、『美ちなる方へ』を抜かすと4曲か。観客は物足りなさを態度で表していた。メンバーが退場する中、の子だけがギターを持ち、ステージに立っていた。
「ただ、私のもうひとつの入口に、彼の堅いペニスが…」
先ほど『さわやかな朝』演奏後に間違えて流されたトヨエツ朗読CDが今度はフルで流され、神聖かまってちゃんの出番の終わりを告げた。トヨエツの卑猥なセリフに笑う客席。そんな中、ステージにただ一人残ったの子がギターを弾き始める。
観客はの子の演奏に合わせて手拍子をする。その一方でトヨエツが「君のアナルはいい締まりだ」「やらしいピンク色だ」と言っている。
トヨエツの"アナル"発言連発の卑猥なホモ朗読に爆笑する客席。の子は気に留めず、笑うこともなく、ずっと自分の世界に入り込み、叫んでいる。
切ないメロディだった。聴いたことのない曲だった。新曲なのだろうか。「僕はー、今ー、今ー」という歌詞だった。トヨエツの卑猥な言葉に惑わされることもなく、ただ真っ直ぐに何かを歌い続けていた。
彼のソロ演奏は珍しかった。一人、スポットライトを浴びて、みんなが笑っていることに一切反応せず、真剣に歌っている姿がなんだか印象的だった。
学校のようにも思えた。クラスで一人、みんなが笑っていることに無反応で、ノートにひたすら絵を描いている休み時間。みんながグラウンドに遊びに行ったけど、一人で教室に残って絵を描いている。そんな孤独ゆえの創作のように見えた。
お客さんに物足りない思いをさせたからこその行為なのか、不完全燃焼だったことの償いなのか、単に歌いたかっただけなのか。トヨエツ VS の子。笑いと切なさの対決は、圧倒的に切なさのほうが勝っていた。
またもやグダグダであり、どうしようもなかったライブが、最後は妙な感動を与えていた。

終演後、Daredevilのコマツさんに連れられて代官山UNITのスタッフ専用エレーベーターへ。
扉が開くと、カメラマン佐藤さん、andymoriのボーカル・小山田壮平さんが。ちばぎんが機材置き場で一人、ひたすら機材を撤収している。他のメンバーはどうしたんだろうか。ちばぎん一人に任せているのかな、と少し不安に。これこそ、教室で一人で絵を描いている人だ。それでもちばぎんは、無言のまま「モンハン買っちゃったー」という表情でPSPを取り出してきた。単なる自慢だ。

しばらくすると、の子さんが裏口から出てくる。開かれたノートパソコンを片手にしていたが、配信はしていない様子。冬場なのに半袖で寒そうだ。
小山田さんと無言で見つめ合う。の子さんは疲れなのか、精神的なものなのか、かなりテンションが低い。特に会話をする様子もなく、佐藤さんに写真を撮られる2人。の子さんは小山田さんに気を遣っていたように思えた。自分の今の気分がそうではないからこそ、ただ見つめることで会話しようとしていた気がする。分からないが。

その後、なぜかの子さんと二人きりになった僕は、非常階段で長々と話す。最近のこと、12月末に発売されるアルバムのこと、『GiGS』の取材で彼の家に向かうこと…
「竹内さん、俺ん家来るんですよね?」
二人きりで話すのは久しぶりだった。昨年は何度かあったけど、彼を取り巻く環境は今とは明らかに違う。大物になり、雑誌やテレビなどで大きく取り上げられることになった。それでも、の子さんの根本的な部分は変わらないのか。出会った頃と同じような接し方をしてくれていた。
僕は彼には敬語を使ってしまう。いまだに"さん"づけだ。それだけ尊敬している。単にタメ口と"くん"づけにするタイミングを失っただけでもあるが、やはり彼に馴れ馴れしくするのは違う気がする。
話していると突然、裏口のドアが開く。共演の向井秀徳さんが「やっほ」という顔で、の子さんと僕を見てきた。

の子「今度、『GiGS』に載るんですよ」
向井「『GiGS』ってあの化粧系の?」
の子「今度俺ん家来てくださいよ」
向井「おう、いくいく。でも千葉やろ?千葉はなー…遠いわ」

向井秀徳さんの「化粧系の?」というボケに気付かず、華麗にスルーしてしまっていた。それほど、疲れていたんだろうか。
二人はガッチリ握手した。9年前、ナンバーガールに熱狂していた自分にとって、この光景は奇跡だ。向井さんはわざわざの子さんに挨拶し、丁寧に別れの挨拶をした。認めているということだろう。
そして向井さんが締めたドアが、こちら側からは開かないことが判明した。「向井さんに閉じ込められた!」と焦った二人は非常階段を上り、「外に出られなくなったらどうしよう…」と困っていた。なんだか小学校の階段のような、可愛らしいことなっていた。
無事、なんだか分からないどこかのカフェに辿りついた。
「すいません、外ってどうやったら出られます?」
突然、半袖でしかもノートパソコンを片手にしている人に話しかけられ、戸惑っている様子の女性店員さん。笑顔でしっかりと教えていただいた。申し訳ありませんでした。

それにしても今日のライブの最後の弾き語りの曲にはグッときた。歌詞を完成させて、音源化してほしいと思った。
しかしそれに対抗していたトヨエツの朗読CD、あれは一体何だったんだろう。

2010年12月3日 代官山UNIT
〈セットリスト〉
1、ベイビーレイニーデイリー
2、ロックンロールは鳴り止まないっ
3、さわやかな朝
4、美ちなる方へ
5、夕方のピアノ
6、の子即興曲

ライブ配信動画