新宿LOFTの『謎の日』という謎に包まれたイベントに神聖かまってちゃんが。
出演は当日になるまで正式には発表されず、神聖かまってちゃんのメンバーが出るのも不明だった。結果、この日はメインステージに住所不定無職、神聖かまってちゃん、進行方向別通行区が出演。漢字が多い。
キラーチューンでエクスプロージョンしに来たという住所不定無職のライブを観るのは約1年ぶり。終盤の『あの娘のaiko』『住所不定無職のテーマ』の流れは相変わらず涙腺を刺激する。
次は神聖かまってちゃんの出番。
いつもの登場SEとは違う音楽が流れ、メンバーが登場する中、の子だけが来ない。なぜかmonoが全身スーツにサングラス姿。
一体、このバンドに何が起こったのか。
の子不在により、今年2月の柏のライブのように急遽"神聖こまったちゃん"が結成したのか。そしてmonoの格好は一体。
monoがギターをジャランジャラン弾く。彼が弾くたびに不安が募る。みさこが「誰…?誰だよ…?」とサングラス姿のmonoを指摘。やがてmonoの弾くギターがジャンジャン大きな音を立てて鳴り出し、monoがマイクに口を近づける。
「君はファンキーモンキーベイベーーー!!!」
どよめきが走る客席。
CAROLの『ファンキーモンキーベイビー』のカバーで幕を開けたライブ。mono、ちばぎん、みさこの3人で演奏される。戸惑いを隠しきれない様子の客席。。これが『謎の日』の正体なのか。なるほど、本番になったのにまだまだ謎だ。
しかもmonoは歌詞をあまり覚えていない。「ウー」とか「ラー」で見事ごまかされていた。
「こんばんわー。の子は今向かってきています。の子がいると思ったら大間違いなんだよ」
monoの口からの子不在の事実を知らされ、戸惑い気味に拍手する観客。monoのサングラスがライトに照らされてキラリと光るが、その中の目は確実に焦っているだろう。もしくは酒の力で紛らわせている。だが、今は骨折した手の治療中。酒は飲めないはずだ。ということは、かなり焦っている。
間髪入れず、ニルヴァーナな感じのギターがジャキンジャキンと骨折した手で鳴らされ、『Rape Me』が演奏される。
なんとまあ頽廃的なんだろう。色んな意味で。
ボーカルがいなくて、代わり歌っている。すごく困っている。骨折した手で弾いている。滑舌の悪い声。これは、何もかもがニルヴァーナを超えてしまっているのかも知れない。カート・コバーンよりも遥かにどうしようもない。カート運びのバイトを長年やっているmonoがカート以上のカートを運んできたように思える。
最後は「レイプミー!レイプミー!レイプミー!」と絶叫。まったく別の意味で圧倒されるものがそこにあった。
「どうもこんばんわー。"神聖こまったちゃん"です」
落ちついたテンションで喋り出すちばぎん。やはり、今日はこまったちゃんなのか。「3人で出るって決まったとき、やるの決まってたのは『ファンキーモンキーベイビー』だけだったんだよね」と。「うぇっ!!」と突然吐き出すように咳き込むmonoに、みさこが笑う。
ちばぎん「今日はどうしたんすか?」
mono「あ?今日はあれだよ、こんな格好したかったんだよ」
みさこ「『アウトレイジ』みたいなね」
mono「これで映画の話が来たらいいでしょ」
ちばぎん「来るの?それで」
「どうしようかね…」と困っているちばぎん。恐らく、この後に演奏する曲が一つもない状態。monoが突然、ステージから去る。「monoくんはどこ行ったの?」というちばぎんの問いに、「うんちじゃね?」とみさこ。
この沈黙と、間。
「まだ来ないわ」との子不在の状況を伝えに戻ってきたmono。ここからMCが続く。トークスキルが最近上達したというmonoに、みさこが「じゃあ見せて」と命令。
発揮しようとしたところ、monoの「今日は何を観に来たんですか?」という問いに、お客さんが「の子!!」と。「帰れ今すぐ!」と怒鳴る。これがトークスキルなのか。「俺、こんなスーツ着て、何やってんだって感じだよね」と続けるmonoに、ちばぎんが「で、トークスキルは?」と厳しく返す。
完全に停止状態のライブハウス。これほどキツい状況での神聖かまってちゃんのライブ、久しぶりだ。いや、これは神聖こまったちゃんだ。本当にこまっている。
劔マネージャーが出てくる。「えっ、ほんとにやるんですか?」とちばぎんが言い、ステージにマネージャーが演奏で参加という新しいバンドの形が今ここに。「あらかじめ決められた恋人たちみたいにやればいいんですよ」と漠然としたmonoの提案で、客席に笑いが。
「あらかじめ決められてたんですよ!!」
monoがキメ台詞のように吐き捨てる。
劔マネージャーが準備するのに10秒カウントを始めるみさこ。10秒を超えても準備ができない劔マネージャーに、メンバーが容赦なく演奏を開始する。
ちばぎんが「劔さん、約束の時間です」、みさこが「劔さん、焦ってる顔似合いますね」と焦らせる。顔をブンブン振り回して取り乱す劔マネージャー。ベランダにいる小鳥のような動きをしている。「がんばってー」と声援が聞こえるも、ステージ上はまだ困りに困り果てている。
こうしてmono、ちばぎん、みさこ、劔マネージャーの"神聖こまったちゃん"で『23才の夏休み』が演奏されることが決まった。
劔マネージャーはベース。いくらベーシストでも、普段演奏していない曲をぶっつけ本番でやるとは、ムチャ振りすぎる。演奏されたのはいいものの、誰もボーカルをとろうとしない状態。そんなインストで始まり、途中からみさこがドラムを叩きながら歌う。歌詞をほとんど覚えていないようで、「らららー」とごまかす。monoの『ファンキーモンキーベイビー』と同じスタイルだ。の子だってちゃんと歌えていないことがたまにあるが。
女の子ボーカルの『23才の夏休み』は新鮮だった。しかもゆるい。声が上ずっているときもある。なんなんだ。今日は一体なんのバンドのライブを観に来てしまったんだろう。
「ありがとうございまーす。言っとくけど、『謎の日』なんてこんなもんだからな」とちばぎんが自分たちをフォロー。みさこが「あとで握手会しよう」とライブのハードルを下げようとする。
そして劔マネージャーがステージを離れると、の子の登場。
来ていたのか。大歓声が上がり、ようやく"神聖かまってちゃん"がステージに。
mono同様、なぜかサングラスをかけている。いつものニコニコマークの柄の緑色サングラスではなく、黒くて大きなサングラス。往年のロックスターのような風貌だ。
ようやく来た!というムードで拍手喝采。
「トイレ行ってくるわ!!」
の子、まさかの退場。会場は爆笑に。
「台本なんてないからね。真剣だよ真剣。それで歌える俺は、カリスマとしか思えないね」
monoがこのイベントのことを語った上、自らの才能を讃える。ちばぎんの「そうね、トークスキルもあるしね」と心のない声が響き渡る。客席からは「滑舌悪い!」と正しい反応が。
「私ね、このLOFTってところはトラウマスポットですよ。あの昔ね、このLOFTでmono君との子さんが殴り合ったんですけど、私もね、ウィスキーちょっともらっちゃったもん。お客さんにあんな野次を飛ばされるライブをやってしまったってことが、もう死にたくなった」
突然、語り出すみさこ。それに対し、「何?私はちゃんとやりたかった、みたいな?」とmonoが突っかかる。そこにの子がトイレから舞い戻ってくる。「でもよく来てくれたよ!ほんとに」とmonoが褒める。当然のことなのに、の子に拍手が。
「俺がいない間、どうだった?…お前誰だ?」
サングラス、スーツ姿のmonoの正体を疑うの子。「場所間違えてるよ?もう2階か3階上のホストクラブじゃないの?」と。「ホストが骨折するかよ…」とmono。
どうやらOasisのカバーをやるためにサングラスを着用したというmonoとの子。それをあからさまに正直に喋っていくのも、の子らしい。
の子「今日は一体何なんだよまったく」
mono「今日は『謎の日』なんだよ!スクリーンにも書いてあっただろ?」
の子「俺じゃねーよ!」
mono「わかってるよ!」
の子「俺のせいでもない。彼のせいでもない。会社のせいでもない。ただ、やるだけ!」
なぜか突然かっこいいっぽいことを言ってしまい、会場に拍手が。いやいやいや。なにか間違っている。
満面の笑みを浮かべたの子に、ちばぎんが「この笑顔…」と形容。「でも俺、できるかわかんないよ」との子が弱音を吐きつつ、Oasisの『Rock'N' Roll Star』のカバーを演奏することを告げる。
「こんなに密集してるの久々だからなー。モッシュして圧迫すんなよ。あのよく2ちゃんとかにあるグロい死に方したリスト。あそこに載るなよ」
の子らしい客への配慮。「Oasisのカバーで圧迫死するの?」とちばぎん。「うん、神聖かまってちゃんのライブで圧迫死とかリストに載るなよ」との子は続ける。
「僕、80。monoくん、120」と、何かのパーセンテージを告げて、の子の曲紹介によってOasisの『Rock'N' Roll Star』のカバーを。
の子のギュイーーーンと鳴るギターから始まる。聞き慣れているのか歌い慣れているのか、自分の曲かと思うほどちゃんと歌えている。合間にmonoのコーラスが入る。なんだかカラオケの個室を覗いてしまった感も否めないけど、の子ボーカルのOasisは新鮮。英語歌詞を歌う姿自体、レアといえばレアだ。
「よし!!みんな!!座れ!!座ったら、僕が、だいたい、2時間くらいやってやろう!!立たれると…何かやらなきゃって感じになってしまう…!!」
の子、演奏後にお客さんに指示。前に詰め掛けて人で密集しているライブハウス。座れるわけがない。
monoの姿に「お前なんつー格好してんだほんとに」と今更ながら戸惑っているの子。「Oasisで、いいの?」との子が客席に問いかける。「こんな共通認識はないですよ」と。お客さんの一人が手で反応するも、「お前手振っても無駄だぜ、一人だもん。こんなに人いるからな」とお客さんの反応を気にするの子。
ここでmonoから重大発表が。
「あと2曲で終わり」
客席からどよめきの声。「いや、それはない」との子が言い、劔マネージャーがの子にステージ脇から話しかける。恐らく本当にあと2曲なのだろう。の子は「何?ラーメン屋が閉店する?」と聞き間違える。
普段ライブでは演奏しない曲をやると宣言するの子。「俺たちがライブで演奏しない曲、2度とやらない曲をやっていこうと思います。はい、だからある意味、幸福だと思います。はい。幸福だと思います。はい」とケンカを売っているような態度で客席に話しかけ、笑いが起きる。
「そんなんでもよかですかー!?」との子が問いかけ、同じくOasisの曲から今度は『Rockin' Chair』のカバーが演奏される。
2番はmonoが歌う。しかしそこにの子が華麗に割り込み、またの子ボーカルになる。そこをmonoがコーラスに回り込む。その機転の利き方が、2人の関係性を表している。と言えばいい感じに聞こえるけど、ただ単に気まぐれなのだろう。
演奏後、気持ちが良かったのかゴキゲンな様子で「あるあるー」と言うmono。「じゃあ最後はかまってちゃんの曲やって締めよっか」と言うと、「ふざけんな」との子。「だってもう時間ないんだよー」という話に。
「じゃあアンケートで決めよう。(これから出る)進行方向…方向音痴の人はこう。神聖かまってちゃんの人は、こう」
アンケートの挙手の仕方を客に促すも、よく分からない。「わかりにくいよ!」とちばぎん。
「楽しい?」
客席に尋ね、笑いを誘うちばぎん。次の曲の演奏が始まっているのにも関わらずの子は客席に挨拶を続け、メンバーに「うるせえっ!」と怒鳴る。
久しぶりに演奏される『夜空の虫とどこまでも』。ただし、演奏がいきなりストップ。「お前ら、早い!もっとさ、アインシュタインでもわかんないことがあるんだよ!!」との子が訴え、「わかったわかった、もう一回やろう」とmonoが言い、演奏再開。
再び始まった『夜空の虫とどこまでも』。ちょうど1年ぶりにライブで聴く。相変わらずボーカルエフェクターを使ったの子のボーカルのメロディが美しい。雰囲気が良く演奏が終わったけど、「はえーよ!!」と終わり方にキレるの子。
「ラス1お許しが出ました!」とみさこが告げ、もう1曲できるとのこと。の子はそのまま位置を変えず、続けて『黒いたまご』を。
最初はキーーーーン!という音がうるさかったが、途中から演奏がノッてくる。。2番は間違えて1番の歌詞が歌われていたけど、関係ない。ようやく神聖かまってちゃんのライブ、いや、ライブハウスによくあるライブの光景になってきた。まさか、最後の最後で。
ライブハウスの転換SEが入り、神聖かまってちゃんのライブの終わりを告げていた。しかし、の子はまだまだやる気満々。最後の最後に気合いのスイッチが入ってしまったの子に、朗報が。
ちばぎん「もう1曲やっていい、って!」
mono「はい、今度こそ最後の曲」
の子「はえーよ!」
mono「早くねーよ!時間は待ってくれねーんだよ!」
の子「は?ニートだったら時間も何も関係ねーよ」
mono「お前は関係ないかも知れないけど、これはみんなの時間なんだよ!」
の子「相対性理論観たい人とか?」
mono「そう!相対性理論じゃないけど!」
こうして鳴り出すのは『ロックンロールは鳴り止まないっ』。
だが、の子の歌い方がNHKの『MJ』に出演したときのように変だ。明らかにやる気がない歌い方。周囲から笑い声が聞こえる。こんなに覇気の『ロックンロールは鳴り止まないっ』は今年2月にこの場所で聴いた覚えがある。LOFTではの子を鳴り止ませる何かがあるんだろうか。
「ここでこの曲を持ってくることが、逃げ!」
の子が間奏でこう発言。「いつまでも、いつまでも、いつまでも、くれヨォ~~」と声が裏返っているのには会場が爆笑。
そして「いますぐ、いますぐ、叫ぶよ」の「いますぐ」をなぜか延々とループさせて歌い、演奏が終わってもずっと「いますぐ」を繰り返している。「いま」がどんどん遠ざかっていく。「すぐ」の瞬間が多すぎる。しかもギターまでも同じ部分を繰り返し、まるでロボットがシステムエラーを起こしたかのような状態だ。
ちばぎんが「ありがとうございました神聖かまってちゃんでした!」と挨拶をするが、の子が「バカヤロー!終わんねーよ!!」と返す。
「え、マジこんなんでいいの…?」とステージに一人残ったの子が客席に問いかけ、撤収が始まってもまったく退こうとしない。降ろされたスクリーンと客席の狭間でお客さんとコミュニケーションをとっていた。
最後になってようやくエンジンがかかってきたようだ。この人のテンションは予測がつかない。だからこそ面白いのだけど。
降ろされたスクリーンには『謎の日』と書かれてあった。出番が終わってからも、いまだ謎のままです。
トリの進行方向別通行区分のライブが終わってから、ライブハウスの客席にはの子さんの姿があった。ファンに囲まれ、丁寧にサインに応じていた。昨日の代官山でのライブでもそうだけど、最近はちょっと満足がいかなかったライブの後のサービス精神が半端ない。ライブ本編とのバランスは大丈夫なのだろうか、と思いつつ会場を後にする。
次は、恵比寿リキッドルームでのワンマン二本。今年の神聖かまってちゃんの総決算になるに違いないが、どのようなライブをするのか。昨年以上にスリリングな神聖かまってちゃんの物語。それはメンバーさえも予測がつかないものであることは間違いない。
2010年12月4日 新宿LOFT
〈セットリスト〉
1、ファンキーモンキーベイビー(CAROLカバー)
2、Rape Me(NIRVANAカバー)
3、23才の夏休み(神聖こまったちゃん)
4、Rock'N' Roll Star(Oasisカバー)
5、Rockin' Chair(Oasisカバー)
6、夜空の虫とどこまでも
7、黒いたまご
8、ロックンロールは鳴り止まないっ
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