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2010年12月27日月曜日

神聖かまってちゃん@恵比寿LIQUID ROOM

12月27日の恵比寿リキッドルーム。今年最後のライブにして、ワンマンライブ。
神聖かまってちゃんは史上最高のライブをぶちかました。
ほんの1年前、この光景を誰が想像できただろう。

『夢のENDはいつも目覚まし!』が流れ、メンバー全員が登場すると大歓声が響き渡る。メンバーの名を叫ぶ声。ドッと押し寄せる人の波。
の子はいつものニコニコマークが付いたサングラスを頭にかけ、レッドブルを飲みながら登場する。いつもの調子。別に特別なことはない雰囲気で喋り始める。

の子「ピーポー!ピーポー!聞いてるかい?」
mono「(の子に)そのサングラスかっこいいねー」
の子「バカじゃね?」
mono「うるせーよ」
ちばぎん「そんな感じで神聖かまってちゃんです、今日はよろしくお願いします!」

どんな感じで神聖かまってちゃんなのかはいつも分からないが、なんとなく、いつもそんな感じだ。デーーーン!!みさこのドラムとちばぎんのベースが響き、いつも通りのスタート。いつも通りのライブ。そのはずなのに、先にもう一度書いておきたい。
この日の神聖かまってちゃんのライブは、いまだかつて観たことがない興奮と熱気に包まれていた。彼らにとって史上最高のライブだった。

「アゴー!」「メリークリスマス!」などという混沌とした歓声に、「なんですかー。ご相談でも何でも受け付けますよー」と先日のクリスマス配信(mono、ちばぎん、みさこが『明石家サンタ』風に視聴者の不幸な話を聞く配信。竹内もいきなり電話をかけられ、いきなり電話を切られた)の名残があるようなことを呟く。

「じゃあ今日は年末か、いつだか分かんないけど俺クリスマスで止まっちゃった。クリスマス終わりを吹っ飛ばしましょう、悲しみを」
の子が呼びかけ、1曲目はライブ初披露の『白いたまご』
「できるか分かんないよ!練習したんだよ!」となぜか裏声でハードルを下げようとするの子であるが、アルバムの1曲目にもライブの冒頭にもふさわしい演奏だった。終盤は「今すぐにさ」と繰り返すの子とmonoのコーラス。ライブでどう再現するんだろうと気になっていた光景が目の前に。
演奏の出来に満足したの子は調子の良さそうな表情で、「あっちい!」と嬉しそうな悲鳴を上げ、「うっせえ!」といつもの調子でお客さんの歓声に答える。

次は『ベイビーレイニーデイリー』
の子が陽気に叫ぶ。「はーいもう最後なんで歌ってください!最初からベイビーレイニーチャララァ(聞き取れない)!」
ちばぎん「何言ってんのかわかんない」
みさこ「チャラララチャララー!」
お客さん「チャラララチャララー!!」
そのままバシッと勢いよく演奏に入る。この快感がたまらない。monoの弾くメロディが優しく、丁寧に歌い上げるの子のまっすぐと何かを見つめる目。神聖かまってちゃんの楽曲が改めてポップであり、美しい曲ばかりであることに気づく。
「そんな好きだから 雨の中の僕 女々しい自分を傘で隠さないよにーー!」
存分に叫んで終わる。「女々しい」は男のためにある言葉だとつくづく思う。

お客さん「アゴー!」
mono「アゴアゴさっきから何だよ!そんなこと言っていたらアゴが伸びるぞ」
の子「アゴより鼻なんだよこいつは」
ちばぎん「今更?」
mono「ニンニク鼻ニンニク鼻って配信で言われてたんだぞー」
ちばぎん「何?」
の子「何?」
mono「すいません」

演奏も調子いいが、MCもいい具合にディスコミュニケーション。の子がmonoに「さあ、今日も線を引きなさい」とセットリストの紙に演奏済みのタイトルに線を引くように促す。演奏し終わった曲をいつも忘却の彼方へ飛ばしてしまうの子のために、monoはこの日、キーボード&ギター&コーラス&線引きという4つのパートをこなしていた。
monoが「今日が今年最後のライブだよ」と告げると、「そんなん知らねーよ。俺はクリスマスで終わってんだよ」との子。よほど怨念があるのか、やたらクリスマスにこだわっている。

次は『制服b少年』
「これもピョンピョン飛び跳ねたらいいんじゃない?」と観客に促すの子。「(天井に)激突して刺さっちまえよ」と続け、ちばぎんが「そんなに跳ぶの?」とつっこむ。
CDで音源化されているわけでもなく、mp3やPVがアップされているわけではないのに、この曲で会場は興奮の渦に。ニコニコ動画にアップされている音源だけでこれほど盛り上がるライブこそが、神聖かまってちゃんのライブ。「ギョロッと!!」の部分のmonoの叫びが気持ちいい。
「僕の顔面がマジでクリスマス…クリスマスがぁまーぼくぁークリスマス」
後半の一部の歌詞がなぜかクリスマス仕様。ほんと、どこまで怨念があるのだ。の子のクリスマスへのしつこさに客席から笑いが起き、メンバーも笑顔に。

「みんな、座ろう。そしたら俺も座れる」
最近のライブでは定番となっている、の子のシットダウンプリーズ発言。「これは座れないわな…」とちばぎん。そこにみさこが「尻汗がやばい」と会話に入る。下品すぎる。客席からは「22時までやって!(ライブハウスの)消灯まで!」と声が上がる。
monoのアナウンスで、次は『ゆーれいみマン』。「おおーっ!!」という大きな歓声。更にの子がアジテーションする。

「もっと炸裂していきましょう。(monoを指差し)こいつは最近腕を骨折したらしいが、人生骨折してる奴がいっぱいいるんだから、こいつの腕をもっと骨折させていきましょう!!」

挑発されるのにも関わらず、monoは「お前うまいな。天才だよ」と評価。
『ゆーれいみマン』。もう何度、この曲を聴いただろうか。ひとりよがりで、自分しかこの世にいない気持ちになってしまうような言葉たちが、「さあいくぜ!変身っ!うーっ!ゆれい!!」という戦隊ヒーローばりの気合いで開き直ったかのような叫びに変わり、音楽に消化されている。後半の二度の盛り上がりがリキッドルームを熱気の渦に巻き込み、monoの腕をもっと骨折させる勢いだ。
「ですよね」の後のの子のギターを弾く姿がいつも以上にかっこいい。歌以外の場面で動きがキマっている彼を見ると、その日のライブが最高なものになると予感できる。

かっこいい姿を存分に見せたのにも関わらず、演奏後、「アゴが外れた!」とアゴを痛そうに触るの子。
「どうしよう…あ、こうすればいいよ!」とmonoがアゴをグーで殴るように、ジェスチャー付きで提案。結果、ステージ上にはアゴ先輩とアゴ後輩がアゴをグーで殴るという光景が広がり、「自虐してるみたい!」とみさこが悲鳴を上げる。客席からはタオルが投げられ、の子からの「タオルじゃ直らないよ」という冷静な意見に笑いが。

monoが「ちょっとローテンションではありますが、今回アルバムを出したってことでね、『芋虫さん』をやります」と言ったにも関わらず、キーボードの設定に遅れるmonoを見て、の子が「お前の人生が芋虫さんだクソッタレ。のろのろしやがって」と指摘。そして会場を見渡し、あることに気がつくの子。
「誰も刺さってねえじゃねえか!!!」
観客がピョンピョン跳ねて天井に突き刺さっている絵を想像していたらしいが、残念ながら全員無事だ。「そんなんで『芋虫さん』やったら…帰る…」と弱音を吐く。monoがキーボードの設定にまだ手こずっているため、メンバーとお客さんに罵倒されている。「僕も、もう辞めちゃおかな…」と更なる弱音を。
「じゃあ『最悪な少女の将来』やります」との子が言い、『芋虫さん』はいつの間にか幻へ。これはmonoに対する優しさと解釈してしまう。

「クリスマス、ヤなことがあったんなら歌ってやってください」との子。またもやクリスマスへの怨念をふわふわとした口調で言い捨て、『最悪な少女の将来』へ。
monoがギターを抱え、イントロがスタートするも、曲がフェードアウト。
の子はmonoが原因だと思い「こいつもうクビだろ!」と怒鳴り、monoは必死に否定。みさこは「ごめんごめん!!あたし!!」と謝り、の子は「お前らやる気あるのかよ!!」と叱る。
そしてちばぎんが「うん、やっとかまってちゃんらしくなってきたね!」と見事にまとめる。
そうか、今日は調子良すぎて何か違うと思っていたら、そういうことだったのか。かまってちゃんらしさが足りなかったのか。グダグダという名の。
「いいと思うよ」とちばぎんが落ち着かせ、かまってちゃんらしくなったとき、まさにかまってちゃんを象徴するかのような歌詞が並ぶ『最悪な少女の将来』が再開。
「最悪みんな死んでしまえ」と何度も叫び続けた後、「アゴが直った」との子。「隣のアゴ神様のおかげです」とmonoに感謝していた。

『さわやかな朝』へ。今のところ歌詞を正しく歌えているのを観たことないけど、「クリスマスなんかどうでもいいんだチクショー!!」と叫び、「今日も親父に怒られた!!」などと歌詞を変え、さわやかではない朝を怒鳴っていた。
最後の「さわやかな朝が、とても清々しいよ!!」という絶叫は、朝に対する喜びの叫びなのか、イラッとしている怒鳴りなのか。そのどちらでもなく、どちらでもあることこそが、神聖かまってちゃんを表しているかのようだ。

「ここで、また、練習してきた曲を、ここで、演奏、したいと、思います」となぜか「、」を多用した喋り方で『笛吹き花ちゃん』の始まりを告げるの子。
「今年の締めくくりということでね」
monoが笑顔での子に向かって話しかけるが、そのイスの座り方が大物プロデューサーのような雰囲気を醸し出していた。「なんでそんなにエラソーなの…?」とちばぎんが会場にいるすべての人の気持ちを代弁。その通り、monoのステージ上での佇まいは時折プロデューサーのように思える瞬間がある。それでも弾いてないときにウロウロと動き、酒を飲み、たまに弾く。何者なのだ。その姿は昨今のライブ会場のステージでは斬新すぎるものなのかも知れない。
「お前もう酔っ払ってるの?」との子。「飲んでますよー!」とmono。「そのまま飲んでどっか行っちゃってください」との子が冷たく言い放ち、演奏へ。
この曲をまともにライブで聴いたのは、4月の下北沢屋根裏の初ワンマン以来。あれからまた一段と成長しており、この曲を通してこの1年間のドラマが垣間見えた。"成長"と書くとどうもエラソーな言い方になってしまうけど、神聖かまってちゃんにおいては誰もがその言葉で表現したくなるドラマがある。それは当然、配信でライブ以外でも活動の日々をリスナーと繋げ、バンドが作られていく過程を自ら描き、それを見せてくれる彼らだからこそ、その言葉は適切となる。

続いては『ぽろりろりんなぼくもぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーん』。ライブで初めて聴く。「これは俺よりも歌詞を覚えてる奴が二人いると思うから、うん、歌詞なんて誰も覚えてないし」とハードルを存分に下げ、挙げ句の果てには、「まあ…優しくしてよ!」なんて言い放つ。ちばぎんが「みんな優しいと思います」とフォロー。
の子がギャギャギャギャギャン!とイントロのギターを2回鳴らし、みさこのバン!バン!バン!というバスドラに合わせてmonoがドス!ドス!ドス!とジャンプする。そしてちばぎんのベースがブゥンと低い唸り声を上げ、ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーん。擬音ばかりの文章になる。終盤のmonoのピアノのメロディがCDよりもアレンジが加えられ、キュンとさせる。何度でも思い出したい音だった。
「めっちゃいい曲!」と一人のお客さんが叫び、「ありがとう」というの子の声がエコーする。

その後は『スピード』。始まりはの子のボーカルから。心の準備して歌おうとするの子。が、monoなぜか「はい…」と何か言おうとする。
の子が「何?」、ちばぎんが「何ですか?」と冷たく反応。
monoが弁解している最中に、の子が「得体の知れないスピードでー」と唐突に歌い始める。急にも変わらず、メンバーも瞬時に演奏を開始。客席からは「オイ!オイ!」コール。曲がブレイクする場面では「の子ー!!」という歓声。再度ブレイクする場面で「の子ー!!」と客席から叫び声。「歌いづらいだろ!」とちばぎんが注意。そんなちばぎんをの子が「ぶち壊すな!」と更に注意。そんな2人でも、終盤のコーラスでの掛け合いはバッチリ。
「走れーーーー!!!」と絶叫して終わる。

「俺は今!俺は今っ!!俺は今ーーっ!!!」
の子が高揚したまま、客席に何かを訴えかけようとステージ前方に出てくる。 
「何も言うことがないっ!!!」
会場は笑いに包まれる。

の子「でもそういった、磁石のS極とN極?S極とN極は離れるか、N極とN極で磁場を感じます!」
みさこ「そっちは離れるなー」
mono「離れっちゃうよ!お客さんがね、離れていっちゃうよ」
の子「離れても俺は引き寄せるっ!!!」
なぜか急に名言のように。
会場が拍手と笑いに包まれるの子。かっこよくキマッたかと思いきや、「とりあえず、線引いていけよ」と冷静にmonoにセットリストの演奏済みの曲の線引きをお願いする。「引いてますよー!」と元気よく答えるmonoは、今までに演奏した曲が分かるように本当に赤いマジックで線を引いている。なんだこのバンドは。今更だが。

「この曲でみんな鬱になればいい!!」
キーボードの前に出てきたの子が言い、『黒いたまご』。今までに聴いた中ではダントツで一番の出来だ。最初から最後まで鳥肌が立ちっぱなし。今までの鳥肌をすべて否定したいくらい痺れたのだ。"痺れた"という言葉をこのときまで取っておきたかったと後悔するほど。
赤いライトに照らされたステージでは、の子がヘッドマイクをつけてイスに立って歌い、サビになるとキーボードの前に戻るという動作をする。
これこそが、すべての人に見せたい神聖かまってちゃんの真髄。神聖かまってちゃんを知らない人は、彼らのこういう部分を知らないだろう。
ボーカルエフェクターによって、性別はおろか、年齢さえ不詳になってしまったの子の声。キンキンと高音がリキッドルームに響き渡り、ゴォーーーオンと工場の機械音のような不気味な唸り声と、monoが弾くキーボードの切ないメロディが混じり合い、完全に一つの世界が作り上げられていた。内向的ではあるが、すべてをなぎ倒して破壊するようなパワー。それはの子の小さな部屋から広い世界に飛び出していた。

せっかく素晴らしい演奏だったというのに、演奏後、なぜかまた『黒いたまご』のイントロが自動再生される。焦って止めるmono。の子に必死に訴えかける。の子が「何だ?"止めたと思った"じゃねえ、ここで言うな!友達ん家かよ!俺ん家かよ!」と笑いを誘う。

そのまま位置を変えず、の子が「ベイビー悪い奴らはみんな友達ー。お前らいいやつらかも知れないけどー、悪い奴はみんな友達ー」と言いながら『夜空の虫とどこまでも』へ。客席からは手拍子が始まり、の子が踊るように、身体をクネらせながら言語不明な言葉を歌う。
その声が左から右へ、下から上へ。会場全体をうろうろしており、ちばぎんとみさこのドラムがドッシリと支え、一定のメロディをmonoが弾き続ける。この日、4人の演奏が最もバッチリキマった曲だ。特にドラムがドラマチック。終盤のドラムの叩きっぷりには自然と涙さえ出てくるほどかっこいい。なんだこれはと思った。神聖かまってちゃんのライブなのかと思った。当然、神聖かまってちゃんの音楽自体はかっこいいのだろうが、ライブでこれほどまでかっこよく表現されたことが、かつてあっただろうか。 

「サンキュー!」と気分がアガりまくったの子が言い、「サンキュー!サンキュー!」とリズムを取りながら言い続け、ちばぎんがそれに合わせてベースを弾き、ドラムが鳴る。
の子による即興ラップが開始される。かっこいいように見えて、歌詞をじっくり聴くと「おもちがおいしいー!おもちがおいしいー!」といったもの。
あーやっぱこれ、神聖かまってちゃんのライブだった。間違いないわ。
その間、monoがギターを持ち始める。それに気づいたの子が「お前、何逃げてんだよー。隠れてんだよー。何ギター持ってんだよー。ここは、こないだのライブの復讐じゃないのかよー」とmonoラップを促すかのように煽る。
mono「骨が治ったらやる」
ちばぎん「別にラップに骨は関係ないんじゃないの?」
お客さん「ラップに骨は関係ねーよー!!」
の子「ミスチル?」
mono「辞めたくなるから、やめてくれ…」

monoが本気で弱音を吐き、「まだやってない曲ってあったっけ?」との子が言うと客席からは「文房具ー!」「ロックンロールー!」などと声が。monoが「うるせえ!みんな死ね!」と突然叫び、「なんだ…?」と戸惑い気味にの子が言うと、「『死にたい季節』だ!!」と曲紹介のための暴言だと知らされる。
の子、「分かりづれーよ」と一蹴。
そのまま身体からホッカイロを取り外し、客席に投げる。ちばぎんが「ライブ中にホッカイロ貼ってたの!?」と戸惑う。「うるせえ…俺はライブ前、ずっと暗い部屋にいたんだ」との子が言い、monoが「『死にたい季節』だったんだな」と再び曲紹介に繋げる。「うるせえ!!」との子。

『死にたい季節』が始まる。
目をぱっちりと開け、高音のボーカルで歌い続けるの子。時折逆光でシルエットとなる姿の中に、色んな気持ちを投げ込んでしまう。言いたいこと、叫びたいこと、怒りたいこと、泣きたいこと。言葉にできないからこそ、歌になる。の子が作る音楽には、それが切実に込められているように思う。ハキハキとした声で喋るの子であるけど、言いたいことなんて1%も言えてないんじゃないかと思うことがある。
「僕はーはやくー死にたいー」と繰り返す後半、なぜか瞬きが激しくなる。終盤のドラムのスピードように。なんて美しいメロディなんだろうと、自然と目が潤んでしまう。

「ノリノリなんだ俺は。ピーポー、ニート、ノってるかい。そういった意味でいかれたニートをやりますよー。そんな感じでやっていこうと思いますー。来年どうなるかわからないー。PVを撮らなきゃいけないー。それはお前らの中に入っていけばーいいー!」

即興で歌い出し、そこにベースとドラムが乗っかる。そしての子が「イェーー!!」と叫び、観客が「イェーー!!」と返す。自然の成り行きでコール&レスポンス。「もっと、皆さん、地獄から這い上がるように声を出してみましょう」と冷静に提案し、再び「イェーー!!」「イェーー!!」の大声での会話が。

mono「いい声出たね」
の子「みんなのおかげだよ。…あ、そんなこと俺は言わないよ。俺のおかげだよ。俺の日々のケアのおかげだよ」
ドラム「バシーン!」
なぜかキメセリフを盛り上げるように、みさこがドラムを叩く。

「皆さんアルバム買ってくれてありがとうございます。僕がダメになったときは僕の懐にお金が入ってくるんで、これで生活していけばいいんで」
なぜかかなり悪人の顔になる。そして『ねこらじ』。キーボード、ベース、ドラムが一言ずつ呟くように始まるイントロのアレンジがあり、の子が「にゃー」と言って曲がスタート。
相当昔に作られた曲だそうだが、まさに神聖かまってちゃん・の子の現状を表しているような歌詞。「上へ、上へ、」と突き進む、の子のテーマソングのようにも思えてくる。

「次はあれだ、3人でやったらいいよ。『あるてぃめっとレイザー!』
monoがなぜか達観したような表情でステージを去り、の子が「じゃあ、骨折した奴はほっといて、いくぜ!!」と、mono以外の3人の神聖かまってちゃんで、曲が始まる。
3人といえば、の子以外のメンバーでの"神聖こまったちゃん"があるが、それとはまるで違う。なぜかしっかりとスリーピースのバンドとして成り立ってしまった前半、そして後半からmonoがキーボードの席に戻ってきて、演奏に加わる。トイレ休憩か何かだろうけど、なぜかこの展開がかっこよくなってしまっている。monoのありがたみが実感できるひとときだった。

そのまま盛り上がりを保たせるように、間髪入れずにの子がボーカルエフェクターで高音の声に。瞬時に『学校に行きたくない』へ。休むヒマなく、会場はタテノリと叫び声と、混沌の世界へ。
「計算ドリルを返してください!」とステージ上をうろうろとし、monoが酒ビンを持ちながらふらふらと。完全に酔っ払いだ。の子が喚き散らすように叫んでいる中、monoも「おかーさーーーん!!」と絶叫。そしての子が客席に2回ダイブ。ひょこんと器用にステージに戻り、「あーーーーー!!!」とのたうち回るの子。ステージの上は荒れまくり、スタッフの仕事が増える。マイクスタンドは何回転もして、元の位置から離れていく。カオスだ。
そんな興奮の渦の中、演奏直後にの子が呟いた言葉がこれだ。
「ティッシュが欲しい…」
いくらかっこよくキメても、次の瞬間には醒めさせる。このメカニズムは特許を取っていいくらい、神聖かまってちゃんならではだ。
の子はどうやら鼻水が止まらないらしく、鼻がトナカイのように真っ赤に。皮肉なことに彼が忌み嫌うクリスマスの名物キャラクター・トナカイに自らなってしまったの子。高音の声のまま「鼻水が…」と呟き続け、まるで少年のようだ。

ちばぎん「すみません、急なお知らせなんですが…あと1曲だそうです…」
お客さん「えーーーーーっ!!!!」
みさこ「急すぎるよー!!」
ちばぎん「あのね、スタッフの人もね、俺に言ってくるんだよね。俺が"えーっ!!"って言われなきゃいけないじゃん…でもね、今日たくさん曲を聴けたほうだと思うよー」

の子が「『通学low』やろう!」と提案し、みさこが「最後に『通学low』…?」と戸惑いながらも、珍しく最後が『通学low』
「前回、ヘドバン野郎になっちった。ヘドバン野郎に。ちくしょう。このヴィジュアル系のクソども」
の子がよく分からないことを呟きながら曲が始まる。照明が不気味に赤と緑を連続させ、いかにの子にとって通学路が恐ろしいものだったかを表現していたかのようだ。子どものような高い声から、悪魔のような低い声への行き来を繰り返す。子どもと悪魔との距離がまるで近く、まるでその二つが同じような存在にも思わせる演出だろうか。
「真っ黒な!顔をして!笑って!いるのだ!!」
マイクをステージ上にぶん投げ、終了。

「あの、もう1曲やっていいって」
ちばぎんの案内により、次がラス1。「リーダー何やるんすか?」「ロックンロール?ちりとり?」とちばぎんとみさこの声に、monoが「バカヤロー。ロックンロールもちりとりもやんねーよ。『いかれたNEET』だよバカヤロー」と答える。
の子「『いかれたNEET』やんなかったっけ…?」
mono「…やってねーよ。俺せっかくかっこよく言ったのに、やめてくれよの子ー」
ちばぎん「今のかっこよかったんだ…」
みさこ「それは気付かなかった…」
の子「鼻水が出るんだよ…」
この成り立っていない会話。の子との子の鼻水は相当マイペースだ。

mono「神聖かまってちゃん、来年もがんばります。2010年は僕らのマイペースさに付き合ってくれてありがとうございます。これからも、の子を見守ってやってくださいー」
の子「自虐ネタがウケると思ってんじゃねーよ、バカヤロー」
mono「自虐じゃねーよ!お前のことだよ!」

「の子を見守ってやってください」にドキッとさせられる。この二人、今年、ステージ上で何度ケンカしたことだろう。二度の殴り合いもあった。照れ隠しのようにの子が「バカヤロー」と言う。二人はそういう関係なのかも知れない。仲が良いと簡単には言いづらい、腐れ縁。
『いかれたNEET』のイントロが始まるが、すぐに停止。「おい!」とmonoがみさこに対してキレかけるが、何かに気づき、焦った表情をする。
そして、ちばぎんが解説する。
「あの、怒ったはいいけど、自分のミスだったらしいでーす」
monoを見守ってやりたい。
最後は『いかれたNEET』
初めてこの曲のPVを見たときの感覚を覚えている。の子の叫び声が聴こえる中、ひたすらタンポポを映している映像が印象的だった。寂しそうにも、凛々しいようにも思えるその姿。それは広いグラウンドの中、子どもたちが遠くのほうで楽しそうに走り回る場所で、の子が1人立ちつくしている姿にも似ていた。
そのタンポポは胞子をばらまくこともなく、白いたまごと黒いたまごを行き来する。日課と日記を続ける。歌をうたうという行為を。やがてmp3、YOUTUBE、ニコニコ動画にアップし、今がある。音楽の胞子は見事にばらまかれ、ここにいるたくさんの人に種を植え付けた。
ステージにいるタンポポは何台ものノートパソコンとエレキギターを観客の目の前で破壊し、そして今も。ピンク色のボディのストラトキャスターを曲の最後、床に思いっきり叩きつける。幾度となく叩きつけてきたギターであるが、ようやくネックの部分が折れ、破壊。
ちばぎんのベースで締められ、曲が終わる。「ありがとうございました!」との子が挨拶。

大きな歓声が鳴り止まない。の子がステージ前に来て、語りかける。
「今日は何日だ。そんなことはどうでもいいんです。年末なんてどうでもいいんです。日々がどうでもいいんです。またいつか、ネット上でもどこでも会える日が来れば」

「の子ーー!!」という歓声が続き、アンコールを呼ぶ手拍子が。幾度となくテンポが変わり、暗闇の中で手の音だけが続いている。すぐにメンバー全員がステージに戻って来る。

monoが観客からネックレスを指摘され、「何?これお揃いじゃねーよ」と答える。の子が「何がネックレスだこのやろー浮かれてんじゃねーよこのやろー。金品の話をするな!キラキラしたやつとかよー!」と息巻く。「ほんとにすみませんでした」と謝るmono。
の子は「何やるか決めてないんだけど…」と照れ笑いする。客席から「ぺんてるー!」という声がたくさん上がるが、の子が「『夕方のピアノ』いきます」と。「最後の最後なんで盛り上がってーエキスプロージョンするぞこのやろー」とボーカルエフェクターで声を変えながら喋り続ける。
『夕方のピアノ』が終わり、の子の「俺のアゴが外れた…!」という声がループ。monoが「29日には腕のギブスが外れるよ」と報告。ちばぎんが「なんか、ますます呂律回ってなくね?」と指摘。monoが「ごめんなさい」と謝罪。ちばぎんが「今日はありがとうございました」と感謝。

の子が「ぺんてる、ぺんてる、ぺんてる」と呟き続け、イントロが始まる。「大人になって、」と呟いた途端にジャーーン!!とギターが鳴る。
「ぺんてるに、行きました」
この瞬間に、何度ぶわっときたことだろう。鼻の奥がツンとして、またもや視界がぼやける。
「大人に、なりました」
キーーーンとハウリングの音が耳を突き刺しても、気にしない。『ぺんてる』の音の中に埋もれていく感覚だ。

の子は疲れからなのか、高揚した気分からなのか、言葉になっていない言葉をぱらぱらとばら撒いていた。
みさこが「あと1曲できませんかー。あっ、あと1曲できますか!」と喜び、monoが「今年の締めくくりということでね」と言い、ちばぎんが「今日だけじゃなく、今年1年ありがとうございましたって意味でね」と言い表す。

の子「はい、来年もライブとか、配信とか逃げたりしてやっていきますんで、多分。みなさんもがんばってください…がんばってくださいって意味わかんねー。ぼちぼちね」
mono「神聖かまってちゃんです、ありがとうございましたー」

「じゃあみなさん、最後なんでどんどん合唱しちゃってください!なんて言ったら『うっせーよこのやろー!』って思うかも知れないけど!俺も言われたら思うよ!でも仕方ねーんだ!俺の…もう…クリスマス…どうでもいいんだよ!!叫べ!!叫べ!!!叫べーーーー!!!!!」

そしてmonoがあのメロディを弾き始める。
何回聴いただろう。
遠くでイヤホンで聴いていても、近くでライブで聴いても、4人の音楽が鳴っている。客席からはたくさんの手が上がっており、明るいライトにステージがキラキラと輝いているように思えた。
mono→みさこ→ちばぎん→mono、みさこ→「昨日の夜、」での子。
僕はかつて自分が撮影していた順に目を移らせた。この曲の撮り方はある程度決まっていた。けれども目は、カメラと違い、ズーム機能がなければ、録画することもできない。人間は機械より劣っている。
でも、記録ではなく記憶がある。記録がなくても感情はある。
記憶と感情が作用し、カメラのレンズは潤んでぼけている。フォーカスがぼけた。ピントが合わない。水浸しになったカメラは使いものにならないが、涙でいっぱいになった目はまだ生きている。自分が人間である証拠だ。そして鳴り止まず、口は答える。人間の機能を存分に発揮した僕は、記憶と感情をフル活用させた。
『ロックンロールは鳴り止まないっ』
の子が歌っている通りに、歌い、呟いてしまう言葉。この目で撮影した動画はYOUTUBEにアップできない。それでいいと思っている。

「来年もみなさん、がんばっていきましょう!精神病の奴は、あんまり精神薬飲みすぎるなよ」
の子が妙に説得力のある優しい助言を残し、リキッドルームにはmonoが弾くキーボードのメロディだけが残る。
マイクを使わず、生声で「とりあえずありがとうございました!!」とステージで叫ぶの子。

ライブが終わった。全20曲。過去最多だ。
最後、の子さんは本当にいい表情だった。

今年の初め頃、解散しそうなムードがあった。不安なときもあった。
1月の新代田FEVERから、渋谷duoのあたり。monoくんがライブ終了後、無事に終わることができて安心したのか「よかったー!」と抱きついてきたことをよく覚えている。
不穏な空気を幾度となく続けてきた。メンバーも、劔マネージャーも、スタッフも乗り越えてきた。昨年4月からこのバンドを観続け、撮影してきた。ドラマがあった。成長と発展と酒とアゴと感動のドラマだ。の子さんの小さな部屋から大きな舞台へ。ヒリヒリとしたムードも、和気藹々としたムードも、神聖かまってちゃんだった。
この日、このバンドの活動を追ってきて本当に良かったと思った。今年最後にふさわしい、史上最高のライブになった。

2階のロビーで劔さんに出くわし、「今日、良かったでしょー…あー…ほんと彼らの曲はいい曲なんですよ!」と改めて実感しており、ガッツポーズを見せていた。こんなに生き生きとした劔さんを見るのは初めてかも知れない。
「もう、今日死んだっていいでしょ!」と冗談を言っていた。
楽屋に行き、メンバーや関係者に挨拶に行った。雑誌『GiGS』に載っている機材紹介の竹内の写真について、ちばぎんとみさこさんに「きもい」「こわい」と口々に言われる。monoくんには「変な人が来たー」と言われる。の子さんには「前から思ってたんですが、ロシア人みたいですね」と言われる。
『GiGS』の野口さん、『劇場版・神聖かまってちゃん』のスチール写真のカメラマンのタイコウさん、パーフェクトミュージックの増本さん、ワーナーミュージック・ジャパンの野村さんも、なんだか嬉しそうな表情というか、今日が祝いの日のようだった。Daredevilのコマツさんもスエタカさんも、「今日、ようやくバンドが動き始めた」「ロックンロールが遂に鳴った」と表現していた。その通りだと思った。

ロックンロールヒーロー・の子は頭にサングラスをかけていた。ステージとはまた違う表情を見せていた。
「今年はありがとうございました」
まるで社交辞令のような言葉を僕は言ってしまったけど、本当にそう思った。僕は手を差し出して、握手した。
実は初めて握手した。
彼はやっぱりヒーローなのだ。みんなの、誰かの、そして自分にとっての。
神聖かまってちゃんの歴史は、まだまだ終わらない。

2010年12月27日 恵比寿リキッドルーム
〈セットリスト〉
1、白いたまご
2、ベイビーレイニーデイリー
3、制服b少年
4、ゆーれいみマン
5、最悪な少女の将来
6、さわやかな朝
7、笛吹き花ちゃん
8、ぽろりろりんなぼくもぎゃぎゃぎゃぎゃーん
9、スピード
10、黒いたまご
11、夜空の虫とどこまでも
12、死にたい季節
13、ねこらじ
14、あるてぃめっとレイザー!
15、学校に行きたくない
16、通学LOW
17、いかれたNEET
(アンコール)
1、夕方のピアノ
2、ぺんてる
3、ロックンロールは鳴り止まないっ

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