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2012年1月4日水曜日

【連載】神聖かまってちゃん物語~第5話「サマ・ソニ・失・敗!!」~

神聖かまってちゃんのサマーソニック出演当日がやって来た。

NINE INCH NAILS、APHEX TWIN、MOGWAI、TAHITI 80、KASABIAN、神聖かまってちゃん。なんだろう、この浮いた並びは。これは現実なのか。海浜幕張駅に着いて会場に入っても、まだ夢としか思えなかった。「出れんの?!サマソニ?!」と。念のため頬を抓ってみたら痛かったので、現実だ。よそ見して歩くカップルに激突したら痛かったので、やはり現実だ。無事、「出るんか!!サマソニ!!」となった。
応募総数、2106バンド。その中の16組。この事実、簡単に受け入れられるはずがない。
神聖かまってちゃんが出演するステージへ向かう。早くも『いくつになったら』の歌詞通り、「東京のど真ん中で 何千人の前で 存在を見せてやる」ことになるのか。ここは千葉だけど。期待に胸を膨らませながらステージに着く。
うっわ、ちっちゃっ!
これ、いつものライブハウスと変わらない大きさじゃないか。SIDE-SHOW MARINEという名前だけあってSIDEの中のSIDE。客席は何千人も埋まらない。千葉の隅っこで何十人の前で存在を見せるだけだろう。
それでも、サマソニで演奏することに意義がある。彼らはこの日を境に"サマソニ出演者"という肩書きを一生得られるのだ。
待ち合わせ場所に着くと、遠くのほうにの子とmonoの姿があった。の子はノートパソコンを持ちながら歩き、monoはその傍を歩いている。アウトドアなのにインドアな姿はとにかく浮きまくってる。
みさこに撮影スタッフ用のリストバンドを受け取り、腕に巻く。そんなに多くはいないリスナー相手に配信し続け、こつこつとネットに曲をアップし、一ヶ月に一回程度のライブで活動してきたバンド。ついに迎えた最高の晴れ舞台を撮影する使命感に、腕が締め付けられる。

「9月のイベントのことですが、の子さんがまだ決断できてなくて…」
みさこの口から、9月21日の東高円寺UFO CLUBでのライブ出演についての話が出る。
僕の友人が企画したイベントで、オシリペンペンズ、水中それは苦しい、シャムキャッツ、チッツが出演する。一バンドが出演キャンセルになったので「代わりに出てくれるバンドはいないか」と友人に尋ねられたところ、神聖かまってちゃんを提案した。だが、オシリペンペンズとの共演ということでの子がかなり迷っているらしい。ライブ中に身体を切りつけたり髪の毛を切ったり消火器を噴射したりと、奇抜なパフォーマンスで知られる強豪相手に戸惑っているようだ。「私も緊張します…」とみさこも怖気づく。待てよ。の子も負けじと奇抜なことやってるじゃないか。彼がプレッシャーを感じているのは意外だった。でも、そりゃそうかも知れない。昔から好きだったバンドと突然の共演なんて覚悟が要るはずだし、そもそも奇抜と呼ばれるパフォーマンス自体、勇気でしかない。
そしてこの日、サマソニというまた巨大な強豪を目の前にしている。今、の子のプレッシャーは相当なものだろう。

とはいえ、の子は本番前に配信しながら会場を歩き回り、狂人の叫び声が聞こえると思ったらの子だった。といった現象もしばしば。彼にとっての本番はライブだけではない。すでに本番は始まっているようだ。
「コラーー!!神聖かまってちゃんという者ですが、皆さん来てくれたら嬉しいでーーす!!」
通行人に話しかけるも誰一人として反応せず、素通りしていく。パソコンを広げながら独り言のように呟いたり叫んだりする者には、誰も近づこうとしない。下北沢と全く同じパターンだ。いくらサマソニ出演者になったからといって、周囲の反応は変わらない。

出演時間になるまで会場をぶらついていると、電話が鳴る。「の子さんが撮影について話しておきたいことがあるみたいんで」とみさこに呼び出され、楽屋テントへ。
配信中の神聖かまってちゃんのメンバーがいた。出演中のバンドの演奏が音を遮るため、大きな声でリスナーと会話している。みさこに配信を預けたの子がこちらを振り向く。なにやら様子がおかしい。酔っ払ってるのか何なのか、目の焦点が合わないまま話しかけてくる。
「今日ニコニコ生放送やるんでノートパソコンで撮ってください。僕がステージから"たけうちぃー!!"って叫んでからノートパソコン投げるんで、客席でガシッとキャッチしてください」
無理すぎる。
の子は喋りながらなぜか座っているイスをガンガン殴っていた。これは怖い。手、絶対痛いだろう。彼にとっても神聖かまってちゃんにとっても、これまでの人生で最大級のイベント。一世一代なのかも知れないし、今後状況が大きく変わるかも知れない大事な日だ。彼はプレッシャーを乗り越えるために狂気を憑依させ、一生懸命に"の子"になり切ろうとしているように見えた。
ニコニコ生放送ということで、僕がパソコンを持ってリスナーと喋るのか。大丈夫だろうか。念のため、ビデオカメラはカバンに忍ばせてある。画面はカクカクな上にズーム機能もない配信映像だけど、彼ららしい撮影スタイルだ。時間が迫ると、ただ撮るだけの僕までもが緊張してくる。

やがて18時になる。神聖かまってちゃんの出番だ。

青みがかった空の下、遂にライブが幕を開ける。パソコンを受け取ろうと楽屋に向かうと、パソコン片手にの子がステージドリンクのペットボトルが入った容器に手を突っ込み、「イケメンスタイルになっとくぜ!」と水で髪の毛を整えていた。逆立った髪の毛で「よし、出陣!」と叫ぶ。サマソニ出演用の整髪料が水とは。
「ステージ上ではどうしても映すことができないっていう大人のルールがあったんで、客席からなら映せるということがあったんで、こっからは竹内さんに任せますね。竹内さんはニコ生とか詳しくないので、あまりいじめてあげないでくださいね」
優しく話しかけるの子からパソコンを受け取り、の子がウェブカメラの角度を変える。
と、その瞬間。
突然配信画面が止まり、黒くなる。
あ、あれ?
うろたえようが、の子は髪型共に戦闘モード。画面は真っ黒。気分は真っ青。一切何も操作していないのに、これはやばい。
「竹内なにした?」「おい竹内」「ちゃんとしろよ竹内」「たけうちたんちゅっちゅ」「竹内つかえねえな」「竹内仕事しろ」
大量のコメントが流れていく。配信上で竹内バッシングが開始され、リアルタイムで炎上する。リスナーからしてみたら竹内にパソコンを預けると言ってから止まったため、竹内を原因にするのは当然だ。弁解しようともパソコンの向こう側とは遮断されている。ニコニコ生放送について何一つ知識がないため、ステージにセッティングに向かうの子を急いで呼び止める。戦闘モードからスッと素に戻り、キョトンとした表情でパソコンを操作する。
「…かいどーー?おーーい、かいどーー?」
の子がmonoを本名で呼び、助けを求める。mono、セッティングでそれどころではない様子で「ああ?なんだこれ分っかんねえ…」と呟く。音声だけが復帰する。「こうなってしまったら音声だけでもいいから」といったコメントの通り、画面は止まったままの音声配信の撮影として、ステージ前に立つ。すると「時間やばい」「延長しろ」「延長しろ延長しろ延長しろ延長しろ延長しろ」とコメントが。
延長?なにそれやり方全然知らない。
焦りまくる。これで配信終わったら責任重大だ。唇が乾く。配信画面以上に、恐怖で頭が真っ暗になる。文字だけのバッシング・強制という状況に動揺。「更新押せ」というコメントに従い、『更新する』のボタンを押した途端、なぜかニコニコ生放送のトップページに画面が切り替わる。
青ざめた。なんとなく、「終わった」と感じた。ところで更新って何なんだ。
メンバーはすでにステージでセッティングをしており、もう誰にも頼ることができない。ステージ脇でスタッフにパソコンを預け、こんなこともあろうか(思っていなかった)と用意していたビデオカメラを取り出す。そのとき、ニコ生を見ていた友人からメールが。
「今、修羅場になってます笑」
ネット上では相当な竹内バッシングが行なわれているらしい。無理もない。配信が止まってしまったんだから。
「今からビデオカメラでちゃんと撮るんで、今日帰ったらすぐアップする!」
なんなんだこの会話。これが、サマソニでバンドを撮影する直前の出来事なのだろうか。
「あっ、そうなの?じゃあコメント書いて伝えておくよ!」
後に『竹内くんがビデオカメラで撮るそうだよ』と友人が書いてくれて、少なからず鎮火したようだ。

「どうも神聖かまってちゃんでーす。わざわざ青森からとか来てくれた方もいるらしいんですけど、あー、僕らはこっちから行く気がありません。これからも来てください」
の子が喋り始め、いよいよライブが始まる。
見渡すと会場には30~40人ほどの人だかりが。いつもの5倍ほどという、特別な状況だ。神聖かまってちゃんを一目見ようと駆けつけた人たちにとって、この瞬間はどれほど待ち望んでいたことだろう。
ちばぎんが「この後、ダブルブッキングで渋谷LUSHというところでもライブをやりまーす」と告げる。サマソニ後、渋谷でライブとは。まるで大忙しのバンドのようであるが、7月と8月のライブはこの日一回のみだ。今日、神聖かまってちゃんが伝説を刻み込むのだろうか。嵐を呼ぶのだろうか。期待は高まる。
が、次の瞬間、思いもよらないやり取りがステージで繰り広げられる。
劒マネージャーに耳打ちされたmonoの言葉で、会場全体にどよめきが走った。
「え?1曲しかできない?」
みさことちばぎんが動揺し、口を開ける。「えーーー!?」といったリアクションが客席に響き渡る。
どうやら、セッティングに費やした時間の関係で演奏時間が大幅に短くなったようだ。しかし、それに全く気に留める様子もなく、黙々とチューニングをしているの子。とはいえ全くチューニングができていない。ちばぎんにギターを預け、マイクを使って話し始める。

「はい!というわけで、なんかワケ分かんないところに集まっていただいた皆様、どういった縁なのか分かりませんが、これが一生に一度になるのかも知れません。祭りだ祭りだってごまかすわけにはいきませんが、ちょびっとでも、ちーーっとでも、ひっかかったら、覚えてくれたらいいかな、なんて思います。僕も、僕らの世代に、勢いあってガンガンガンガン!ロックンロールを伝えていけたらいいな、なんて思っています」

かっこいいことを言っているが、これはチューニングをしてもらっている最中だ。しかも1曲だけしかできないという状況で。
「何やる?」とmonoが演奏する曲を問いかけると「ブレイクダンス!」と言って踊り、ステージに倒れるの子。客席とステージの無気力な笑いが会場を包む。ちばぎんによるチューニングが終わり、ギターを受け取ったの子は「とりあえず『23才の夏休み』を…」と言うが、「だから1曲しかできねーんだって!『ロックンロール(は鳴り止まないっ)』しかできねーんだって!」とmonoが止める。の子、本当に状況を掴めていない様子だ。
の子が『23才の夏休み』に使用するヘッドセットをつけたまま、半ば強引に演奏が始まる。『ロックンロールは鳴り止まないっ』は彼らの代表曲であるが、の子の声が十分に出ない。途中から出てくるが、迫力は薄い。「鳴り止まないっ!」と言った後、客席に降りる。が、特に何をするわけでもなく、ステージにすぐに戻る。
不完全燃焼のまま、ライブは終了してしまう。
「はいこれで終わりだよーん」との子が残念そうに言い、突然キリッとした表情になる。
「みなさーん!サマーソニックフェスティバルで、何を観に行きたい!?」
の子が客席を睨みつけ、10数秒間、無言。「エイフェックス・ツイーン~♪」と、自分の答えを告げるの子。
これにて、神聖かまってちゃんのサマーソニックでのライブは終了。
これが『出れんの?!サマソニ?!』なのか。
まさに「?!」の状態のまま、あっという間に終わってしまった。

ライブ後、先ほどまでポツポツと小雨を降り落としていた空が一変する。突然の豪雨に見舞われ、雷と風が会場を襲った。山の天気のように急激に変化し、お客さんは一斉に雨宿りを始める。
悪天候のため、ライブを一旦中止する会場も。それを告げるアナウンスが虚しく響いていた。神聖かまってちゃんはギリギリ演奏できた。色んな意味でギリギリだった。それだけでも運が良かったのかも知れない。神聖かまってちゃんが嵐を呼んだ、というか実際に嵐が来てかなり困った。そんな光景が目の前に広がっていた。
マリンスタジアムの屋根の下で待機していると、向かい側のSIDE-SHOW MARINEの楽屋テントの下にの子の姿があった。あっけにとられた様子で人気のない会場を見渡し、雨を眺めていた。印象的だった。遠足が中止になったのを聞いた子どものように、妙に寂しくて素朴な姿だった。

しかし、この後は渋谷でもライブがある。深夜イベントの一番目の出番、23時頃に出演する。
当然、不完全燃焼なのはメンバーだけではない。渋谷LUSHに着くと、サマソニの会場でも見かけたお客さんがちらほら。皆さん、NINE INCH NAILS、APHEX TWIN、MOGWAIでもなく、SHINSEI KAMATTE-CHANを選んでいた。
それは間違った選択ではなかった。
ここで彼らはサマソニを挽回するような演奏をしたのだ。

1曲目の『ちりとり』から何かが違った。今までに観たことのないような神聖かまってちゃんの演奏であり、「しかしだ!あなたは僕の心までちりとっちゃったのです!」という声は幕張で聞いたものとはえらい違いだ。
5時間ほど前にやる予定だった『23才の夏休み』を披露。歌っている途中でズレ落ちたヘッドセットに怒り、勢い余ってなぜかマイクスタンドを蹴り倒すの子。『ロックンロールは鳴り止まないっ』ではギターを持ったまま客席にダイブ。そのとき、ナタリーの社長・大山卓也さんの脛にの子の頭が激突したようで、後にツイッターでつぶやかれていた。
の子はMCで「サマソニのことはもう忘れた!どうでもいい!」と言いながらも、「僕もエイフェックス・ツイン観ようと思ってたけど、ここ来ちゃってさ。ショック受けたんだ」と色んな未練を抱えている。不完全燃焼をすべて無かったことにさせるくらい、爽快な演奏が続く。
の子はまたもや自分でチューニングできず、ちばぎんに任せていた。その間、手持ち無沙汰になったステージではみさこが何気なくドラムでリズムを刻み、それに合わせてmonoが踊りながらラップ調に歌う。
「サマ・ソニ・失・敗!サマ・ソニ・失・敗!」
無気力な笑い声がライブハウスを包む。

最後は『夕方のピアノ』で「死ねーー!!」と何度も連発。「お前のことさぁーー!!」と叫び、鬼気迫る演奏を見せつけた。サマソニで嵐を呼んだ後、その嵐に乗って渋谷に来たかのような。雨と雷は落とさず、かっこいい音を落としていった。これこそが完全燃焼だ。「これをサマソニでやってくれたら…」と誰もが思ったに違いないだろうけど。予定調和ではないライブ。サマソニと渋谷のどちらも、間違いなく神聖かまってちゃんのありのままの姿だった。
渋谷LUSHは地下なので、配信はできない。客席最前でビデオカメラで撮影した。僕もサマソニを挽回したい気持ちがあった。配信の失敗は自分も関与している。2ちゃんねるでもこのように指摘されていた。

842 :無名さん:2009/08/07(金) 18:43:07
メンバーも竹内ももっとニコ生について勉強しとくべきだったな

一世一代の大イベントで、ちょうどライブだけが配信できないとは。遠方に住むファンの方々はパソコンの前でどれほど待ち望んでいたことだろう。反省の意を込めて、深夜イベントに居座ることなく、終電に飛び乗って家に帰る。さっそくサマソニ、渋谷LUSHのライブ映像をアップロード。
サマソニの動画は「文化祭レベル」「ヘタクソ」「こんなのでサマソニ出れんの?」などと叩かれたが、渋谷の動画は「サマソニリベンジ」といったタグがつけられて賞賛を浴びていた。
どちらもあるからこそ、神聖かまってちゃんなのかも知れない。たった一日で彼らの色んな面を目の当たりにし、配信というインターネットの荒波に巻き込まれた。
夜、サマソニに出る海外バンドよりも、このバンドを選んだのは正しかった。リアルとネットの狭間で揺れ動くこんなバンド、いまだかつてあっただろうか。その真髄をこの日初めて観た気がする。これほどまで刺激的な体験はないし、無気力な笑いに包まれることはない。
の子は配信の失敗を悔しがっている様子だったが、後に映像をアップロードできたことが嬉しかったようだ。ど素人のカメラマンの撮影を「マジでプロ並みです!」と褒めてくれて、こちらも嬉しかった。これは「プロではない」という意味でもあるが。

やがて、の子は9月21日のオシリペンペンズとの共演を決断する。

これがまさか、流血沙汰になるとは。


~続く~

2 件のコメント:

  1. たけうちんぐさん、明けましておめでとうございます。今年も昨年以上のご活躍を期待しております。
     私はこのサマソニのライブ動画を見てかまってちゃんのファンになりました。大事な動画です。この動画を見ることが出来て本当に良かった。ありがとうございます。
     たけうちんぐさんが当時ニコ生について知識が無かったというのがかなり意外です。

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  2. あけましておめでとうございます!そのように言っていただいて嬉しいです。励みになります。
    サマソニの動画がキッカケだったんですね。当時(今もですが…)は散々に言われ様でしたが、何かしらお役に立てて嬉しいです。伝えてくださって、ありがとうございます!
    ニコ生はあの頃、未知の領域でした。今はある程度馴染みましたが、当時はニコ生という文化自体、新しく感じてました。あのまま配信を成功していれば、今ある動画が無かったと思うと…分からないものですね。

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