あの出来事から、早2ヶ月。場所は同じ新木場STUDIO COAST。この日、岡村靖幸とのツーマン、NEXUS presents『岡村ちゃんとかまってちゃん』が開催された。
COASTの入り口を通ると、2ヶ月前の光景が思い浮かぶ。ライブでのケンカ後、気まずい雰囲気が漂う中、「複雑骨折っすわ…」と告げ、煙草を吹かしながら担架で運ばれていくの子さんを。煙草という余裕と、担架という危機。その両極端を同時に体現した彼の足は無事、大事に至らなかった。
monoくんがの子さんを殴り、みさこさんが怒鳴り、ちばぎんが体調不良。多くのファンが心配した。「これこそがかまってちゃん」「最低なライブ」「ロックだ」「こんなのロックじゃない」と、賛否両論。そしてニコニコ生放送のケンカの動画は再生回数を伸ばした。
そんな中、客席にいた一人の5才の女の子が「の子は、今、ひとりぼっちだと思うよ」と呟いた。
その子のお母さんのTwitterで知った。の子さんのことが大好きで大好きで、彼になりきったという写真が本当にかわいらしい。思いの丈を綴った手紙を直接渡すつもりだったけど、ライブ後はそんな空気ではなかった。すぐに諦めて、の子さんの心配をしたらしい。
状態として言えばそのとき、ひとりぼっちではなかっただろう。monoくんと一緒に病院に運ばれ、病院の廊下では「なんかこれ、一年ぶりだな」「…おう」といったヤンキー漫画みたいな会話でもしていただろうし、逆にmonoくんの殴った手のほうが以前骨折した手だったため、腫れて危険だったという。
でも、真相よりも、あのライブを観た一人の女の子の気持ちが妙に心に留まった。
の子さんの表現は、元々ひとりぼっちだった。
宅録音源もすべて一人で制作し、配信も一人で始めた。一人で2ちゃんねるに書き込みをし、一人で世界と向き合っていた。近頃の配信でも「配信を見てる人はだいたい一人で見てるんだよ。こっちがみんなでわいわいやってたらむかつくだろ!」と言い、バンドであっても、目の前に大勢のファンがいても、常に一人であること、一対一の関係を重んじているように思えた。ライブで配信中のノートパソコンの向こうに話しかけるのに必死な姿も、まさにそれを体現しているかのようだ。
女の子は、彼の心を見ていた。ひとりぼっちな気持ちを知っていたのだ。
あの日のステージは、ステージ上のの子さんがひとりぼっちに見えたかも知れない。
だけど2ヶ月後、ひとりぼっちには見えなかった。大勢の観客に向けて、メンバーやスタッフと一緒に、一人で作った世界をぶちかましていた。
撮影のため、ビデオカメラを背負って入る。入り口には劒さんとワーナー野村さんが。映画の話題になる。劒さんは『北の国から』になにかと絡めようとしていた。劒さんファンの女性に僕を紹介するとき、「この人は青ひげです!」と言った。夕方なので確かに青ひげになっていた。
ライブ前に楽屋へおじゃまする。いつもより楽しい雰囲気に感じた。イベントの都合上、配信はなく、メンバーもスタッフも常にリラックスしている印象だった。
スタイリストのスエタカさんが「の子くんが、『竹内さんにはお世話になってるから、監督した映画、仕方ないから観てあげようかな』って上から目線で言ってたよ!」と言うと、の子さんがイスから立ち上がって笑顔で首を横に振った。「まあ、言いましたけど」と言葉を添えた。monoくんが「あいつはジブリ映画とたけし映画しか観ないですからね」と告げ、みさこさんが「監督!握手してください!」と手を差し伸べ、ちばぎんは「俺、今日、異常に緊張してるんですけどどうすればいいすかね」と聞いてきたので脇腹を触った。
雰囲気がよかった。今年初ライブ前の楽屋は、穏やかな空気が流れているように思った。少なくとも前回のライブ後とはえらい違いだ。
劒さんに案内してもらい、誰もいないステージに向かう。カメラの位置を確保する。客席には大勢のお客さん。最近、下北沢屋根裏で彼らがライブしていた頃の夢を見た。あの頃からすると、意味が分からない。いまだに信じがたい光景だ。今、この状況のほうが夢のように感じる。
そして夢から覚ませるかのように、登場SE『夢のENDはいつも目覚まし!』が流れる。メンバーがステージに登場する。笑顔で元気いっぱいに駆け走るみさこ、バイトの先輩のような雰囲気で歩いてくるmono、落ち着いた様子でニコニコとお辞儀するちばぎん、そしてスタッフの阿修羅くんに肩車されたまま、鼻にティッシュを突っ込んだ状態のの子が。
こうして、神聖かまってちゃんの今年初のライブがスタートする。
「今日お集まりの岡村ちゃんファンの皆さんも、神聖かまってちゃんファンの皆さんもありがとうございますー!」
の子が肩車されたまま挨拶すると、大きな歓声が。続けて「時間が短いからお前ら凝縮させて全部発散させろ!」と観客に言うが、これは明らかにバンドがやることだ。ピョンピョンと飛び跳ね、歓声を受け止めるかのように両腕を伸ばす。スリッパを脱ぎ、裸足になる。今日のの子は最初からテンションが高い。だけど「じゃ今日はほんとに時間が短いので、100%でいきましょう」とちばぎんが言い、お客さんが演奏を促すと、「チューニングしてんだよ!」との子。いつもの調子でもある。子どものように無邪気に笑いながら、手をくねくね動かす。誰がどう見ても、大勢の観客を目の前にして楽しそうなの子の姿がそこにある。
「お前ら自身が主役だからな!えーと、『こねらじ』いきまーす…『ねこらじ』いきまーす!」
絶え間ない「の子ー!」という歓声。「うるせえ!喋りかけられてると演奏始めらんねーだろ!ライブ終わった後、飲みに行こう!」と嬉しそうに答え、「ひぃーふぅーみぃーニャー!」と掛け声を上げ、演奏がスタート。
冒頭からバッチリすぎる演奏。サポートバイオリンの柴さんが弾くメロディがドラマチックに彩る。演奏中もの子はステージの前に歩み寄り、手で観客を煽る。これほどまで手に感情が込められたミュージシャン、他にいるのだろうか。
「いいね、この調子でどんどんいくぞ。今日は岡村さんとやるってことでちゃんと挨拶したんですけど、いやーそれはもう、眼光がお互いガッてガッてして…負けてらんねーんだよぉーう!」
照れ笑いながら喋るの子。大きな歓声と拍手が響く。「まあ、色々ファンは分かれてると思いますけど、俺の力で巻き込んでやりますよ」と自信発言。イベント前のコメント動画ではほとんど喋らなかったが、ライブ本番では弾けまくり。
「で、次の曲なんだっけ?」との子が問い、ちばぎんが「『あるてぃめっとレイザー!』です」と答える
と、すぐにの子がイントロのギターを弾き始める。みさこがバシン!とドラムを叩く。曲紹介、そして演奏。こんなにサクサクといく流れは珍しい。
演奏途中、の子が勢い余ってギターを抱えたまま客席にダイブ。曲が終わる頃までずっと客席の中に埋もれたまま。やがてお客さんとスタッフによって担ぎ出される。みさこのドカドカドカドカ!と激しいドラムが続く中、ステージに舞い戻ってくるの子。その表情はニカッとした満面の笑みで、『カミスン!』でSMAPの中居正広と絡んだときに似た、なぜか狂気じみた目をしていた。
「いいですねー!まだ足りねー!もっともっとこい!」
時間さえあれば何回もダイブできそうなほど、テンションが上がりきっているの子。ステージをうろうろとする。「いやー久々のライブだから、初心を思い出してやべーな!」と叫ぶ。
メンバーそれぞれに歓声が上がり、それに答える3人。「劒!劒ソード!エクスカリバー!チューニングされてねーぞこれ!」といつも通り、マネージャーにチューニングさせる。更に「どうなっちゃってんだよ劒!人生頑張れ!」と声をかける。
「配信できなくてごめんね」との子。「ここで言うことじゃないよね」とみさこがつっこむ。間を埋めるかのように、monoが「今年も頑張るぜ!」と言うとみさこがドラムで盛り上げる。「ちょっと待ってくださーい」との子が準備をしながら、「お前ら急げよ!時間ねーんだぞほんとに」とこっちのセリフを呟くが、ちばぎんが「そうなんですよ、時間がないんですよ」とうまく拾う。
「お前らもう奥まで全員、関係ねえ。言語とか関係ないから、ピョンピョン飛び跳ねろ!岡村さんのファンの方も、岡村さん自体も!」
の子がクスッと笑い、次は『ロックンロールは鳴り止まないっ』。
途中、「もっとくれ!もっとくれ!お前ら、もっと、衝動を、くれよ!」とアジテーション。どこまでもどこまでもアガりきる。この曲と出会って3年になるが、飽きることが一度もない。聴く場所、状況でまた印象が違うのだ。
「ロックンロールは、鳴り止まないっ!」
叫んだ後、ギターを思いっきり振り回し、マイクスタンドをなぎ倒すの子。マイクがちばぎんの近くにまで飛んでいくほどの勢い。ちばぎんにぶち当たらなくて本当によかった。最後、「鳴り止まないっ!」と叫んだ後の余韻。monoのピアノだけが残り、そこにの子のギターがギュワアアンと響き渡る。大きな爆発が起き、煙が上がったかのような迫力だった。
「まだ全然!…あれ?もう(ライブが)終わり?」
の子の呟きに、メンバー、観客ともにつっこむ。「次はあれなんだよね、ライブでやるのは初めてなんだよね」とちばぎんが告げる。
「ちょっとチューニングするから、つまんない話していいよ」との子が振ると、「monoくんの、つまんない話!」とまるで番組のコーナーのようにみさこが更に振り、monoが話し始める。「つまんない話、あるんだ…」とちばぎんが戸惑う。貯金が9000円であることの話。「僕はもう、バイトしよっかなーとか思って…」などと言うが、「monoくん何言ってんのか分かんねーよ!」とお客さんがいつも通りの野次を飛ばす。
「ほんとだよな!ま、そういったmonoくんの気持ちにもリンクするような曲なんですけど、まあ、バイトを探さないと、という曲です。『2年』」
の子の曲紹介に、どよめきが。未発表曲として知られている『2年』が初披露。が、みさこのカウント後、の子がセッティングを忘れ、中断。「えーーー!」という歓声に対し、「や、今のも曲のうち。オルタナティブミュージック」と説明するの子に笑いが起こる。仕切りなおしに。
『2年』は、の子が前身バンド・びばるげばる書店~神聖かまってちゃん結成頃の間、音楽配信サイトにMP3ファイルを置いたものが2ちゃんねるでファンに発掘され、それで知られるようになった曲。本人は気に入っていないようだけど、ファンの人によってPVが作られるほど人気は高い。
「2年後に 今の僕らを 笑い飛ばせるように」
歌詞の通り、2年後とは言わず、早くも2ヶ月後にあのときの神聖かまってちゃんを笑い飛ばせるかのようだった。聴く人それぞれの様々な2年前を笑い飛ばさせるほど、ポジティブな気持ちが向けられた曲。「負け組っ!」と言った後の高音のギター、「ホホウッ!」といったの子の裏声がファンキー。
「俺この曲大っ嫌いだったんだけど、なんか、ライブでやったらイイって思った」
ずっとやってほしかったとは、多くの人が思っていただろう。「イイヨ!」というお客さんの声。いつか、音源化してほしいです。
次は『天使じゃ地上じゃちっそく死』。先ほどの前向きな歌とはうって変わり、「死にたいな」を連呼する。スタッフのまきおくんがギターで参加し、男4人が並ぶ中、後ろでみさこがドラムを豪快に叩く。後半に進むにつれてどんどん激しい叩きっぷりになっていき、普段はふわふわにこにこしているみさことは思えないほどかっこいい瞬間がたくさんある。ちばぎんのコーラスも終末感たっぷり。
最後は「死にたいっ!」と叫び、マイクをぶん投げるの子。monoのマイクを奪い、また叫ぶ。そしてまたマイクをぶん投げる。演奏が終わってもの子の「あ゛ーーーー!!」という叫び声だけが残る。
「あ、ありがとうございます」と素に戻る。なぜか親指を立てたりと、死に向かう予感がまったくない絶好調な自分を観客に見せびらかしていた。
「すごい、この、白い(客席の上に浮かんでいる湯気のようなものを差して)熱気が、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンみたいな…どう?」
マイクスタンドを直している劒さんに話しかける。気づかない劒さん。昨年のROCKS TOKYOでもあったように、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの例え話が再来。「そんなもん超えてるよ!」というお客さんに声に、「甘えんなーー!!」という返答。それがアジテーションとなり、「おーーーっ!!」と歓声が上がる。続けて「ギネスいくぞ!」と謎の挑戦に、戸惑い気味に「おーーーっ…?」と歓声が。「やかんが沸騰してカップラーメンができるくらいの…」と更に戸惑わせる。
「えーっと、次は『花ちゃんはリスかっ!』です」とちばぎんが進行させると、またも大きな歓声。の子が「これはお前らが歌え。俺が歌詞覚えてないとかじゃなくて、それはな、ザクッといってる奴が、マジで。別にザクッていってなくても、心のザクッとか、仕事でも、上司を叩き切る感じの、うん」と言葉を添える。
セッティングにもたつくの子。「の子しっかりしろ!」というお客さんの声に、「俺がしっかりしたら、このバンドどうなっちゃうんだよ。分かるっしょ?」と返答。ごもっともでもある。それでも「任せとけ」と呟き、バイオリンとキーボードが怪しく切なく響き渡り、『花ちゃんはリスかっ!』へ。
悲しみを狂気に乗せたような疾走感。『笛吹き花ちゃん』の花ちゃんが成長し、笛の代わりに刃物を手に入れた。「咲き誇れ」と言わんばかりに、ステージが照明により花びらみたいなピンク色で覆われた。美しいようで、まるで腕を刃物で裂き誇った血であるような。「非国民英雄花子!」の瞬間の高揚感といったら。終盤に向けての盛り上がりがたまらない。最後はギターをステージ上にぶん投げ、またもやダイブ。
monoのキーボードが鳴る中、の子が客席の上で浮いていた。紫色の照明の効果もあって、ゾクゾクする光景だった。
狂気に包まれた演奏であったにも関わらず、ステージに戻ってくるとパンツ姿になっているの子。笑いが起きる。「全部脱げよ!」というお客さんの声に、「やめて!そんなこと言っちゃダメだから!喜んで脱いじゃうから!」とみさこが焦る。
「なーに入れてんだよ!」との子が着ている服のフードから、あるものを取り出す。
「抹茶ようかん入れてんじゃねーよ!」
なんと、ダイブしたときにフードの中に抹茶ようかんを入れられていたの子。「こんな甘ったらしいもん入れてんじゃねーよ!そんなに食べてほしかった?」と戸惑う。
「ワンマンじゃなかったらあっという間に終わっちゃうから、まあ、ワンマン来てくれたら、もっとやろうぜ。岡村さんのファンの方も気に入ってくれたら、はい」
の子がセッティングしている間、ちばぎんがベースをゆるく弾き、みさこのファッションチェックが。着ている白いワンピースはティッシュをイメージしているらしい。
「お前、そんなんじゃなくて、もっと原始的なMCを。原始時代の、原始の源の、原始のDNA部分を彷彿とさせるような。うん。次の曲はそんな曲です」
誰もが理解できない曲紹介をするの子。『自分らしく』のドラムとパーカッションが始まると、リズムに合わせながら軽快に「男は!"ウッホッ、ウッホッ"!、女は!"いやーん"!」と掛け声を要求する。手拍子と歓声に包まれ、そのまま曲へ。
の子の歌が始まると、monoがパーカッションを叩かずにスティックを持ちながら両手を上げて踊り、ステージを歩き回る。それを見たみさことちばぎんが笑顔になり、とてつもなくピースフルな雰囲気の演奏に。歌の合間にはの子が「ウッホッ!ウッホッ!」と掛け声を促し、みさこはずっとニコニコしている。monoはウィスキーを飲む。ちばぎんもの子の元気良さそうに歌っている姿を横目に笑う。こんなに楽しそうに演奏しているメンバーは珍しいくらい。もはや12月の新木場と全然違いすぎて、笑いがこみ上げるくらい。2ヶ月前の僕らを笑い飛ばしすぎ!
ちばぎんの「あーはんあーはん」コーラスタイムが終わるとき、monoがパーカッションからキーボードに移行。この瞬間がいつもたまらない。しまいにはミラーボールが回り出し、STUDIO COASTの壁を小さな光が乱反射する。キラキラとした光景に包まれ、なんなんだこの幸せな空間は。ここまであらゆるものが相乗効果となって輝きまくってる神聖かまってちゃんのライブは、ひょっとすると初めてかも知れない。
演奏が終わると、「レッツゴー!」と叫ぶの子。終わったのにレッツゴーとは、さすがです。
ちばぎんが『いかれたNEET』のベースを始めると、「え?もう最後?はえーよ!」との子。ペットボトルの水を頭からかぶり、それを見てmonoが笑う。
なんだなんだ、このピースフルな雰囲気。まだまだ止まらないぞ。ちばぎんがニコニコしながらベース弾いてるよ。みんなが笑っているよ。お日様も笑いそうなほど、ここまで『サザエさん』のオープニングのような神聖かまってちゃん、いまだかつてあっただろうか。あったかも知れないけど、その記憶を更新させるくらい、この日のライブは気持ちいい。
立ち上がり、ふにゃふにゃした動きでキーボードを弾くmono。最近は酒を飲んでもそれほど気分が乗らないように見えていたけど、気持ちよさそうに演奏している彼の姿が印象的だった。向こう側の照明が太陽、monoの顔の輪郭が月のようで、皆既月食に見える瞬間も多々あったが、それほど物珍しくて美しい光景だった。
ベースとキーボードだけになる部分、いつもはギターを振り回して暴れるの子だけど、このときは大人しくずっとマイクスタンドの前に立ったまま「いかれたニィーートォーー!」と叫び続けていた。いつもは危険を察知してステージ脇にスタンバイするスタッフの方々も拍子抜けするくらい、何も起きなかった。これがこの日、最も印象的なシーンだった。激しいアクションをする必要もないほど、すでに歌と演奏、場の空気でテンションが表現されているかのようだった。
「いやー、わかんねえけど、ハッピー…楽しい」
演奏後、本当に楽しそうに、笑顔で喋るの子。このときばかりは、彼は確実にひとりぼっちではなかった。
「えっとー、次の曲で最後ですー」
ちばぎんが告げると、お決まりの「えーーーっ!」というどよめきと、の子の「はえーよ!」。「みさこー!」という歓声に対しても「二曲ー?」と、どう聞き間違えたらそうなるのか、の子の"もっとやりたい病"が発症中だ。「実は、次が最後ではないんです」と紳士的なボイスで言い始める始末。思えば前回の新木場は、こういったまだまだやりたい気持ちが災いした。
だけど、の子はそのまま「次の曲は『ぺんてる』」と自ら演奏を促した。自分だけでなく、メンバーも観客もハッピーで楽しい気持ちを持続させるかのように。
最後は『ぺんてる』。再びミラーボールが回り出し、会場全体が光で彩られる。の子がステージの前のほうに歩き出し、歓声を受け止める。すると一人のお客さんを見て、「あれ?お前、2年前くらいに俺のことぶん殴ろうとした奴じゃね?」と言い、笑いを誘う。そこからのジャカジャーーン!が気持ちよくキマり、何の陰りもない、一寸の不安もない演奏になった。
みさこが気持ちよさそうに目を閉じて顔を振りながら叩き、monoとちばぎんが俯きながら丁寧に弾き続け、そこにの子の「大人に、なりました」という言葉が。
「僕は、大人になりました。どうしようもない風に吹かれて、今も、現在進行形で、大人になってしまっているのです。だけど、俺は、あのときのこの曲を作った頃の俺を思い出すために、あのときに帰れる気がするのです。俺はだから、そう、」
の子の語りはいつだって自分のことである。だけど、なぜか聴く人の記憶や思い出の中にまで入り込んでしまう。『ぺんてる』を聴いたときの気持ちを思い出す。音楽を聴くとき、いつだって風景がある。それは街だったり、部屋だったり。誰かと一緒にいたり、いなかったり。イヤホンで音楽と向き合うと、いつだってひとりぼっちだ。の子の歌は、ひとりぼっちで作ったものだからこそ、ひとりぼっちの誰かに響く。ライブ会場は人がたくさんいるけど、いつだってひとりぼっちにさせてくれる。一対一の会話なのだ。
僕は、演奏中のの子の顔をズームアップで撮っていた。ズームをゆっくり引いていくと、ミラーボールで彩られた会場、たくさんの観客、メンバー、スタッフの姿が映っていく。の子がだんだん、ひとりぼっちじゃなくなっていく。それは4年前の彼では想像できなかったことだろう。4年後に、あのときの自分を笑い飛ばすかのように、の子の「ぺんてるに!」と叫んでいた。死にたいと思っても、腕を切り刻んでも、自殺しちゃうぞと叫んでも、ハッピーで楽しい気持ちはいつか来るかも知れないということを、それを希望にも勇気にも変えてくれることを証明するかのようだった。
の子の後ろで、ちばぎんと向かい合って演奏しているmono、その二人を見ているみさこ。時にどうしようもなく、どうにもならない4人だけど、最高の瞬間がある。それは観ている人にとってもそうであるように、誰にとってもあり得ることだ。
神聖かまってちゃんはいつだって人間くさい。最低なときも最高のときもあるからこそ、この日のライブを素晴らしく思える。当たり前のことだ。誰もが日常で体験するような陰と陽が、12月と2月の新木場で繰り広げられていた。
演奏後、メンバーがステージから去っていく。一人だけ残ってギターを弾き続けるの子。
「今日はすごい、なんか盛り上がりました」
そして歌い始める。聴いたことのない曲だった。未発表曲を一人でギターをかき鳴らし、歌っていた。しっとりした曲で、寂しげな歌詞。途中、ぼそっと呟く。
「こういうときが一番、こういうときが一番、ひとりになれるから、俺は大好き」
誰がどう見ても、気持ちよさそうな"ひとりぼっち"だった。本当に一人きりで、部屋にいるような雰囲気で、ひたすらギターを弾いて歌っていた。の子らしい、の子にしかできないステージだった。
「ごめん、チューニングずれた」との子が言った隙に劒さんが止めに入る。「また今度ね」と素直に応じ、ステージ前に歩み寄るの子。「いくぜ、いくぜ」と言い、キレイな弧を描いてダイブするの子。多くのお客さんに担がれ、楽しそうな表情のの子。まだまだテンションが収まり切らないようで、幕が閉まったステージと客席の間でお客さんと触れ合う。ちばぎんも止めに入る。
こうして、神聖かまってちゃんのライブは終了。
最初から最後まで、ハッピーで楽しいライブでした。
神聖かまってちゃんの後は、岡村靖幸のライブ。
ベースの低音が会場全体を揺らし、ステージの中央で踊り、シャウトし、歌う岡村靖幸のエンターテイナーっぷりはなんなんだろう。突き抜けていて、一人の人間でこれほどまで表現できるかと思うほど、圧倒的な力を感じた。遠くから観ていたけど、すぐ近くでやっているような、そんな迫力でした。
かまってちゃんのメンバーも岡村靖幸のライブを観ていた。バイオハザードの洋館の一室みたいな部屋で、カーテンに首を突っ込んで観ているちばぎん。部屋からはお尻と足だけしか出ていなかったので、ものすごく後ろからカンチョーしたかった。の子さんはなかなか楽屋に姿に現さないほど、岡村さんのライブを見入っていたようだ。
この日、ずっと会いたかった人がいた。
くるみちゃん。「の子は、今、ひとりぼっちだと思うよ」と呟いた5才の女の子。そのお母さんと連絡を取り合い、ロビーでお会いする。前回はの子さんに直接会って手紙を渡せなかったので、今回こそ、の子さんに会ってほしいと思っていた。
神聖かまってちゃんの世界観は観点、部分、印象、様々あるけど、"子ども"という部分は重要だと思っている。『ぺんてる』も『ちりとり』も『夕方のピアノ』も、あの頃の記憶を蘇らせる。「なんなんですかこれは」といった言葉にならない感情は、大人になった今、なかなか思い出せないもの。
だからこそ、くるみちゃんが抱く神聖かまってちゃんへの気持ちがものすごく気になる。視点が鋭いのだ。お母さんがTwitterに書いていた、くるみちゃんのかまってちゃん論にも心をうたれた。これは僕なんかがこういうブログで長々と書くのとは比べ物にならない。くるみちゃんにしか表現できないもの。何よりも説得力がある。想像でもある。それはまるで、小さな事実なんて簡単に変えてしまえるほど、大きな気持ちではないかと思っている。
お母さんに声をかけ、お父さんを紹介していただく。お父さんは演出家、美術家の飴屋法水さん。初対面のくるみちゃんは僕を見るなり、「わーー」「ぎゃーー」などと笑って親しく接してくれた。怪獣とでも思ってくれたのだろうか、割と戦闘態勢の絡み方だった。そして怪獣は倒された。くるみちゃんが天使すぎたからだ。地上じゃちっそく死するはずのない天使。大きくてつぶらな瞳。小さいのに妙な存在感。小さな巨人だった。
「の子はどこにいるの?」
素朴な声で尋ねてきた。そして猫のぬいぐるみを差し出してきて、「ネオニー!」と叫ぶ。これはやばい。ネオニーだこれは。なんたるかわいさ。この子は心の底からの子さんのことが大好きだ。なんたって、初めて書けるようになった字が『のこへ』らしい。
の子さんはずっと岡村さんのライブを観ているようで、楽屋にはいなかった。「今ね、の子さんはどっかに遊びに行ってるよ」と答えた。後でワーナー野村さんに告げ、案内してもらい、ついにくるみちゃんはの子さんに会った。バイオハザードの洋館の一室みたいな部屋で。
どうしても映像に収めたかったので、ビデオカメラを取りに戻った。後から部屋に入ることになった。するとすでにの子さんがサインを書いており、その傍でくるみちゃんがピョンピョン飛び跳ねていた。そこにmonoくんが高音を発しながら一緒にピョンピョン飛び跳ねており、怪獣VS天使みたいな寸劇になっていた。みさこさんは「かわいいいい」と悲鳴を上げ、の子さんはずっと落ち着いた様子で丁寧にサインを書いていた。スタッフの成田くんが「これはいい光景ですよー。ハイロウズがバックで!」と言っており、STUDIO COASTの会場内はなぜかザ・ハイロウズの『青春』が流れていた。
くるみちゃんはの子さんにも「ネオニー!」と猫のぬいぐるみを渡した。「あ、じゃあこれ、ネオニーの友達として持って帰っていい?」と冗談を言うと、「いやー」と奪い返した。「かわいい…」との子さん。くるみちゃんはあっちこっちに飛び跳ねる。まるでこの日のステージ上でのの子さんみたいだ。しかし、の子さんとうまく目を合わせられない。ずっと恥ずかしそうにしていた。
「ありがと。また会おうね」
の子さんが優しく語りかけ、くるみちゃんの頭を撫でる。このとき、先ほどまでのステージのの子さんが子どものようで無邪気だったのを完全に忘れてしまった。
「前回の新木場も来てくれてたんだけど、それどころじゃなかったんで」とワーナー野村さんが言葉を添えると、みさこさんが気まずそうに笑った。くるみちゃん、お母さん、の子さん、みさこさんが一つに収まったカメラの画面。なんだか、胸いっぱいの気持ちになった。
機材が撤収されていく会場。神聖かまってちゃんは関係者に挨拶をしていた。帰り際に挨拶をしようと思い、飴屋さんご一家に会いに行く。すると、くるみちゃんが僕の後をついてきた。「ふぃー!」と楽しそうに絡んでくる。「の子は?の子は?」と聞いてくる。「また会いたくなった?」と尋ねると、こくりと頷く。「またの子に会いたい。の子はどこにいるの?」なんて言ってくる。
楽屋に戻ると、そのままついてきた。お母さんにくるみちゃんを任された僕が「ついてきちゃいました…また会いたいみたいです」と言うと、くるみちゃんの頭を撫で、頬っぺたをぷにぷにしてあげるの子さん。そこにちょうど撃鉄の天野ジョージ氏が挨拶に来て、の子さんが「俺、子どもできたんすよ」とくるみちゃんを紹介。天野ジョージ氏は「えっ、結構大きい…」と冗談に冗談を重ねた感想を述べていた。
せっかくの子さんに会っているのに、うまく感情が表現できないくるみちゃん。持っていた笛を突然ピー!ピー!と吹き始め、言葉にできない気持ちを表そうとしているようだ。それを見て笑うの子さん。吹き続けてやれ、笛吹きくるみちゃん。笛吹きの名に恥じぬように。
結局何も出来ず、落胆した様子のくるみちゃん。それを近くにいた阿修羅くんに言うと、ものすごく優しい笑顔でくるみちゃんを見つめていた。「お母さんとお父さんに会いたい」と言うので、呼びに行く。
去り際、切ない目をしたくるみちゃんが印象的だった。
なんだか、一度しか会ったことがないのに言うのもなんですが、くるみちゃんには圧倒的なパワーを感じる。一体なんなんだろう。この日のことは、あと10年、20年以上もずっと忘れずに覚えておきたい。きっと大切な記録になるでしょう。
行きは晴天だったのに、帰りは雨だった。
の子さんに去り際、「竹内さん、『スター・ウォーズ』を超える映画を期待していますよ」となかなかいじわるなことを言われ、劒さんに「青ひげさん、雨が降ってるんで気をつけて!」と言われ、STUDIO COASTをあとにする。
神聖かまってちゃんの今年初ライブ。"ハッピーで楽しい"は、今年中続くのだろうか。正直、良い予感しかしないライブでした。
2012年2月24日 新木場STUDIO COAST
<セットリスト>
1、ねこらじ
2、あるてぃめっとレイザー!
3、ロックンロールは鳴り止まないっ
4、2年
5、天使じゃ地上じゃちっそく死
6、花ちゃんはリスかっ!
7、自分らしく
8、いかれたNEET
9、ぺんてる
10、(未発表曲)
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