梅雨が通り過ぎ、夏真っ只中な季節到来の7月18日。今回は神聖かまってちゃんのライブレポートではなく、の子ライブのレポートになります。
andymoriのボーカル・小山田壮平さんが埼玉県の坂戸市で行なわれるお祭りに出演するということで、絶好のお祭り日和の晴れ空の下、新宿駅南口でお祭りに向かうご一行と待ち合わせ。集まったのはDaredevilのスエタカさん、コマツさん、グラサンをかけたカメラマン佐藤さん、そのお子さん・ケンシロー君(小4)。
そして神聖かまってちゃんのボーカル・の子さんが待ち合わせ予定時間の30分後、改札前に登場。
昨晩イライラして寝付けずにいじっていると、アゴのイボがますます肥大化したそうだ。確かに大きかった。乳首にも見える。猥褻物のようでもあるけど、なぜか愛おしい存在。しかし先端に若干の汁らしきものが付着しており、SFホラー的要素が夏の青空の下にあった。
このメンバーで新宿駅から池袋駅まで行き、乗り換えて坂戸駅まで。約55分、小学生からの子さんまで、不思議な面子での旅となりました。
ケンシロー君と、お互い最近観た映画『トイ・ストーリー3』の話をずっとしていた。
「あのね、アンディとモリーがいるんだよ」
映画の登場人物にそういった名前がいることで、"andymori"にしたのかな。と思ったけど、後でお父さんにAndy Warholとmemento-mori(死を想え)から来ているみしを教えてもらう。の子さんに『借りぐらしのアリエッティ』を一緒に観に行こうと誘われるも、彼のレコーディング中の中休みと僕の休みが被らないため、行けない。惜しかった。
ケンシロー君に「(お父さんみたいに)カメラやらないの?」と聞くと、「ううん」と首を横に振りました。の子さんが「カメラなんてやんないほうがいいよ」と忠告すると佐藤さんがギョロッと反応し、こっちを見た。サングラスの中の目はどんなのだったのだろうか。
この日、普通にお祭りを楽しむ予定ではあったが念の為にビデオカメラをカバンの中に入れていた。何が起こるか分からないため、の子さんと行動するときは常に持参していたほうがいいだろう。
全員で前方車両に向かって歩いていくと、なんと今日の出演者である小山田さんが偶然同じ電車に乗り合わせていた。どんな偶然なんだ。「えー」「すごい」「なんでー」などと和気藹々と盛り上がっていると、電車が坂戸駅を見事に通り越してしまう。どんな失態なんだ。いいオトナが6人、乗り過ごしてしまった。小4のケンシロー君はどう思ったのだろう。
北坂戸駅で東京方面の電車を待つ。こんな無駄な時間もたまにはいいものです。
無事、電車は埼玉県の坂戸駅に到着。のどかな雰囲気で、静かな街並。
到着後、なぜかの子さんの落ち着きがなくなった。そわそわしている様子。どうやら、電車内での会話で小山田さんのライブに飛び入り参加が決定したようだ。普通に遊びに来たつもりが、突然の出演決定。
普段からステージに全力を注ぐ彼が単なる"余興"をするはずがない。急に"本番"という大きなプレッシャーが圧し掛かり、先ほどまで普通の青年の目をしていたが、突然本気の眼差しに変貌した。
この変化の瞬間を見れたのは刺激的だった。普通のお祭りだけど。
お祭り会場に着くと、小さなお子さんからお年寄りまで、地元民の方々で埋め尽くされていた。お祭り内のライブイベント主催者の久保田兄弟が知り合いなので挨拶し、佐藤さんに缶ビールをおごっていただく。
スエタカさん、コマツさん、の子さん、竹内の4人でテント下のイスに座る。の子さんは"町おこし"というキーワードがずっと気になっていた。そして人々の様子を眺めていた。
「今日出たら絶対アウェイじゃないすか。潰すしかないじゃないすか」
いつの間にか彼の中でテーマが"町つぶし"になっていた。神聖かまってちゃん・の子らしいテーマだ。次第に緊張感が漂い始める表情。これは決してお祭りに来た若者の顔つきではない。一人だけお祭りの意識の違う人間がここに潜り込んでしまった感は否めない。
小学生の神聖かまってちゃんファンの女の子が近づいてきた。お母さんが「ほら」と挨拶をさせたがっていたが、小学生特有の照れなのか正直さなのか、「早く帰りたい」と女の子は言う。の子さんは「俺と一緒じゃん!」と興奮していた。
小山田さんのステージは17時頃にスタート。まだまだ空は明るく、まるで日中のような夏の夕方。とても居心地のいい空間を、ビデオカメラで撮影した。
ステージドリンクとして2リットルのお茶をグビッと飲む小山田さんに客席から笑いが。「飲み物、これしか置いてなかったんだ」と笑いながら答える。
「革命を起こすんだ~♪」
坂戸市、のどかな町の小さなお祭り会場に響き渡る小山田さんの歌声。革命に起こす武器はアコースティックギター一本とマイク一本。じっくりと聴き入るお客さん。『グロリアス軽トラ』『16』が特にグッときて、友人・長澤知之について歌ったという『ともゆき』という曲が印象的だった。
ライブが終盤に差し迫った頃、小山田さんが遂にあの男を紹介する。
「最後に、俺の友達をステージに上げたいと思います。神聖かまってちゃん、の子!」
お客さんがどよめく。この晴天の下、物静かな町のお祭りに"神聖かまってちゃん"と"の子"というキーワードが浮きすぎている。全くアウェイという状況でもなく、大歓迎の会場だ。
拍手と歓声がわき上がる中、の子さんが走り幅跳びのようにステージに走り込み、不時着。転げる。いつもの感じ。これだ。これこそがライブだ。の子さんはもう"の子"になっていた。神聖かまってちゃんのライブのような目つきになっていたのだ。
「お前ら!この町には、熱気が足りない!活気が足りない!そして…俺が足りない!」
思えば小山田さんのライブ中、コマツさんに「の子くんが後ろにいるよ」と教えてもらって振り向くと、完全に俯いて自分の世界に閉じこもっている彼の姿があった。
たしかにこのとき、町には"俺"が足りなかったし、の子自身にも"俺"らしさが足りなかった。ステージに上がったときこそが、の子になるのだ。
の子のアジテーションにより、会場は大盛り上がり。
先ほどまでじっくり聞き入っていたお客さんたちが声を上げて笑っている。彼がマイクを握って喋り始めたその瞬間、神聖かまってちゃんのライブが始まる予感がした。
「いいかお前ら!これから町おこしをするのであって…腹から声出せ!あーー!!」
「あーー!!」
まさかのコールアンドレスポンス。お客さんの反応も早くて素晴らしい。
ビデオカメラを客席に向けると、佐藤さんがこちらを向いて笑っている。嬉しそうだ。そうだ、この光景。やはり、の子という人を撮影するとテンションが上がってしまう。
「の子ーーー!」
神聖かまってちゃん目当てで来たお客さんは誰もいないはずなのにわきあがる歓声。
「うるせえ黙れ!!」
の子はいつもの調子で反応する。絶対、嬉しいだろうに。
小山田さんが『Stand By Me』をギターで弾き始め、の子×小山田壮平というまさかのデュオが坂戸市で繰り広げられた。
「ウェンザナイ!!ハズカム!!」
もはや歌うというか叫び散らしているの子に、会場では笑いが絶えない。それに動じないで安定し、マイペースに歌っている小山田さん。いい意味でアンバランスで、正反対な二人だ。不良と優等生という言うべきだろうか。どちらも背負っているものは音楽だったりするのに。次世代のロックンロールスターの突然の共演は、恐らく二度と観る機会がないだろう。
「拍手じゃねえよ!歌えよバカヤロー!」
吠えつつも、の子は嬉しそうに思えた。先ほどまでのおとなしい青年から、突然スターになった。この切り替わり方はかっこいい。時折倒れながら歌ったりして、先ほどまでの閉じこもった姿が嘘のようだ。
彼は自分が楽しむより、誰かを楽しませることに命を懸けている。それは彼のことが好きな人なら、誰もが知っていると思う。そのために突如決まったお祭りの飛び入り参加でも、もはや鬱と言わんばかりに塞ぎ込んだ後、溜め込んだパワーをステージに叩きつけようとしている。
結果、会場は笑いと拍手に包まれて大盛り上がり。少しばかり感動を覚えてしまいます。
「いいかお前ら!俺は千葉県からやって来た、この町をおこさせるためにやって来た、精霊だ!」
精霊と小山田さんのデュオは、そのままビートルズの『Blackbird』の演奏へ。
小山田さんの囁くようなギターの上に、ポール・マッカトーニーのような囁くようなボーカルとは全く違うの子の完全に疲れ切った声が乗っかる。これはある意味、『Blackbird』の新しい解釈だ。
寝転がり、なんだか死にそうな感じで、気怠く歌う。
先ほどまでのテンションとの違いに客席から静かな笑いが起こり、「しんみりしてんじゃねーよコノヤロー!!」との子が叫ぶと再び会場がわき始める。
歌っている(というか死にそうな声で呟いている)最中、の子がステージ後ろの道路で自転車にお子さんを乗せて歩くおばちゃんに反応。会場と道路を隔てるフェンス越しに、おばちゃんが苦笑いでの子に応えている。
の子はその後、存分に暴れて疲れたのか、体育座りで冷静な表情に。そして曲が終わる寸前、マイクをステージ床に置いて突然走り出す。
「おばさん!!」
先ほどのおばちゃんに向かって走り始めて、フェンスをピョーンと乗り越え、笑いに包まれたままライブが終了。
の子さんが走り出したとき、佐藤さんもカメラを持って猛ダッシュ。佐藤さんに倣って、僕も道路までビデオカメラを回しながら走る。ステージに戻ってきたの子さんが小山田さんとガッチリと抱擁する瞬間を捉えられた。
「僕はえーっと、えーーっと…ねっ!」
言葉が思い浮かばず、逃げるようにステージを去るの子さん。余興のようで余興ではない、いつも通りのライブ。彼にとって、初めて青空の下でお客さん相手に歌ったのではないだろうか。
しばらくして楽屋(といっても、お祭り会場近くの喫茶店の奥の部屋)に向かうと、の子さんが満面の笑みで座っていた。疲れていながらも終始、「あー楽しかった!」と連呼。
お祭りに行くことも急遽決まったし、小山田さんと同じ電車に乗り合わせたのも偶然だった。飛び入り参加することも突然で、僕がビデオカメラを持っていたことも偶然。急遽、偶然、突然、それらすべてを兼ね揃えた光景を目の当たりにし、それを映像に収めることができた。
の子さんはずっとそれを強調し、「もう今年の夏の一番の思い出ができてしまいましたわ…」と、珍しいくらいに感激していた。
「というか、人生で一番楽しかったっすわ…」
自身の人生さえも、軽く振り返っていた。
思えば、これほど楽しそうな表情のの子さんを見るのは、初めてかも知れない。お客さんが意外にも盛り上がってくれていたことと、何よりもいつも以上に自由で快適にステージに立てたことが嬉しかったようで、僕が撮ったテープを巻き戻して見ながら、感慨に耽っていた。
「いや、マジで竹内さんがいてくれて良かったですわ。この映像、俺が普通に何度も見たいですもん」
こう言ってくれたこの日、なんとなく、神聖かまってちゃんを撮影してきて良かったと思った。僕としても、ちょっとした一つの物語の着地点のように思えた。
そうか、の子という人を撮ることが好きなんだ。ということがはっきり分かった日になった。
の子さんは疲れて早く帰りたがっていた。完全にお祭りを楽しみに来たというより、ライブしに来た人の感覚だ。彼について、会場を出ようとする。当然、サインや写真を求められていた。
なんとなく、の子さんの後ろでひょこひょこ歩き回る小さな子が可愛かった。それだけ地元感溢れるロケーションであり、人の温かさが実感できる空間。
お祭り会場の中でたくさんの人に囲まれるの子さん。応じられたことにはすべて応えようとする彼だけに、自分の気分とは裏腹なこともしなければならない。若干、表情が曇りがちになってきていた。
「出ましょうか!」と僕に呼びかけ、脱出するかのように走り出すの子さん。先ほどのおばちゃんを追いかけるときのようにフェンスを飛び越える。アクション映画スターのような動きをしていた。僕も一緒に飛び越えて、道路へ。
しかし立ち止まり、「あ、小山田さんに挨拶…」と言い始めた。律儀すぎる。「小山田さんに挨拶行けますかね?」と尋ねられた佐藤さんの「うん…がんばろう!」という意味不明な助言で、また会場に姿を現し、小山田さんとがっちり握手する。
佐藤さんの写真には二人がピースサインをする姿がばっちり収められ、僕のビデオカメラにも収めることができた。
帰りの池袋駅までの電車内でも、の子さんは「いやー、今年の夏はもうこれで終わりましたわ。サマソニより絶対楽しいっすわ」と満足げ。池袋駅でお別れをする際、遠くからの彼の言葉が印象的だった。
「今日はほんと、運命でした!」
神聖かまってちゃんと知り合って、色んなシーンを見てきた。刺激的なこと、笑いを堪えられないくらい楽しいこと、解散しそうなくらいギリギリの空気だったこと。この日一日は、いまだかつて味わったことのない夏の一日だった。
『23才の夏休み』から、の子さんは25才の夏休みへ。
サマーソニックの出演も控えていることだし、ひどすぎる夏休みではないことだけは確かです。はーしりだーすー、と思わず口ずさむ。
忘れられない一日となりました。
2010年7月18日 埼玉県坂戸市七夕まつり
〈セットリスト〉
1、Stand By Me(カバー)
2、Blackbird(カバー)
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