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2010年3月14日日曜日

の子@ファッション誌『KERA』撮影

この日、の子さんは千葉県の自宅で『美ちなる方へ』『僕のブルース』『白いたまご』の3曲をアップロードした。同時刻、僕は神奈川県の自宅でそれを視聴した。

これからNHKの音楽番組に出演するようなミュージシャンが、これほどリアルタイムに音源をアップするというのは、まさに現代。とはいえ、そんなことをやるのは彼一人。しかも映像つき。そしてこれから会う人の表現を家にいながら知るという、まさに現代的な体験をした。
朝10時、休日の気だるい太陽の光を浴びるパソコンのYOUTUBEに流れていたのは、「出かけるようになりました」という歌詞と、青空。グッときた。という言葉にもう一段階あるとすれば、ググッときた。ググッとくるものは、ググッてもなかなか見つからない。実際に足を運ばなければ出会えない。出かけなければ、結局は快感を得るのは難しい。
今、まさに出かけるときだった。ファッション雑誌『KERA』のストリートスナップの撮影のため、Daredevilのスエタカさんにビデオカメラでの撮影をお願いされた。の子さんと原宿駅で待ち合わせするため、出かけた。

「出 かけるようになりました」とはいえ、の子さんは30分遅刻。「僕は早かったんですが電車が遅かった」という見事な言い訳メールが来た。それは仕方ない。登場した彼は、ファッション雑誌の撮影だというのに口元に唾液の塊のようなものを付着させ、赤ちゃんのようだった。そしてアゴには乳首のようなデキモノがあったが、チャームポイントとして捉えた。

二 人でDaredevilに向かうと、スエタカさんとコマツさんが今まさにの子さんのPVをパソコンで見ていた。"本人降臨"というやつだ。その本人は次の 瞬間、スエタカさんに見る見るうちにコーディネイトされていく。下から上まで、普段着ないような格好になっていく。いつも同じような服でライブをしている ため、その変化にはニヤニヤしてしまう。
僕はコマツさんにサングラスをかけさせられ、上着をコーディネイトされた。不気味な存在が鏡に映り、の子さんを撮影している。気持ち悪い光景だ。
の子さんは最初緊張していたのか、頬をピクピクさせて人形のように無言の状態が続いたが、スエタカさんが彼の目にアイラインを入れた瞬間に変わった。
「これ、マジっすか!」
の子さんは自分の顔の変化に感激していた。たしかに、ただでさえ眼力のある目のインパクトが絶大なものになっている。目をかっ広げるのが一つの個性だと思っていたけど、ここまでこだわっていたとは。ここからテンションが様変わりし、彼の美意識の強さを痛感した。

やがて『KERA』のカメラマンの方がいらして、撮影が始まる。スエタカさんの盛り上げ方と、コマツさんの雰囲気の作り方には圧倒される。これはの子さんが 信頼を置くわけだ。「普段のバンドの撮影のときと全然違いますわー」と、彼も感激している。僕も、ライブ以外で彼の表情を撮るのは初めて。これほどまで穏 やかな笑顔は新鮮だった。
「何か歌って」というスエタカさんの要望にも瞬時に応える。B'zの『Ultra Soul』と『LOVE PHANTOM』を渋谷のファイアー通り(消防署近くの路上)で熱唱する。その声はライブや路上ライブ配信とまるで変わらない。
「こういうのは得意分野なんで」
突然のボーカリストに感激した。表情の変わり方にもグッときた。「ライブが始まった」と思い、ドキドキした。何度、この人に感動してきたことなんだろう。いや待て。何を感動しているんだ。単にB'zを歌っただけだろう。

撮影が終わると、アイラインに興味津々なの子さんがスエタカさんにアイラインの入れ方を伝授されていた。されていた、と傍観視点ではあるが、その標本となったのは僕だ。「竹内くんでやったらいいじゃん」というアイデアにより、の子さんにアイラインを入れられる。
入れるのも初めてだし、入れられるのも初めて。
ま るで童貞と処女の関係性のような緊張感が僕の瞼に集中し、「ああ…」と喘いでみた。するとの子さんが「ああって!」とつっこむ。「ああ…」「ああって!」 「つっこむ」と、三つのキーワードからボーイズ・ラブしか感じられないかも知れないが、無事、竹内もアイラインを入られることに成功した。望んではいな かったが。化粧落としも用意されていないため、渋谷から50分間かけて帰路についたが、その間ずっとアイラインが入っていた。すれ違う人々は距離を置いたことだろう。

その後、なぜか僕が胸毛を晒すことになった。なぜか"T"の形をして生えているため、スーパーマンで言 うところの"S"みたいなものだ。タケウチマンはコマツさんに「ドラッグディーラー」「ポルノキング」「芋虫」と形容され、の子さんに「ロシアかなにかのマフィア」と呼ばれる。「だんだん顔に見えてきました」とまで言われる。
場が和んでくれるのであれば、本望だ。本毛だし。

それにしても、ファッション雑誌に"神聖かまってちゃん の子"というのがいい。彼もそれを狙っているのだろう。当たり前のように音楽雑誌に載るより、別の世界に足を突っ込むほうが面白い。それは撮影中、ずっと伝わっていた。だからこそ神聖かまってちゃんは枠に収まらないような印象を受けるのだろう。
そして、の子さんのビジュアルはやはり見事なものだった。これから女性ファンがもっと増えるのだろうし、色々なメディアが取り上げるのだろう。やはりロックミュージシャンはビジュアルが大切。アゴのイボはチャームポイントと捉えたい。

後日、神聖かまってちゃんはNHKの音楽番組『MJ』に出演した。
放送を自宅で見ていると、目に飛び込んできたものがあった。の子さんがカメラの目の前に立って「俺の時代であるのである!」と宣言すると同時にサングラスを外した瞬間、それは映った。


アイラインを入れた目だ。

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