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2009年9月21日月曜日

神聖かまってちゃん@高円寺UFO CLUB

まさかの流血ライブ。
いや、まさかと言ったら嘘になる。の子さんはこのイベントの出演をずっと迷っていたらしい。オシリペンペンズとの共演だ。関西アングラの頂点とも呼べる彼らとの共演には覚悟が必要だったようだ。それほど、彼は一つ一つのライブに懸けていた。
今回のイベント『チーム変態』の企画者である友人が「一つバンドが出れなくなったんですが、竹内さん、何かいいバンドいないですかね」と相談を持ちかけてきたとき、迷わず出した名前が神聖かまってちゃん。こうしてこの日、彼らが出演することになった。

リハーサルから、神聖かまってちゃんはピリピリしたムードだった。
ドラムをミスったみさこさんに、の子さんが怒鳴る。それでもリハーサル後に楽屋に挨拶に向かうと、ニコニコと笑うみさこさんに強さを感じた。の子さんは相当精神的に追い詰めている様子で、呼びかけても2秒くらい気付かなかった。顔色が悪く、どんよりとした雰囲気なのは外見からも伝わる。そしてこの日、ライブ前に朝から自宅で単独で配信し、メンバーへの愚痴を呟いていた。
「僕、最近病んでますわ」
見るからに重たい病気を抱えているような彼の状態。この日の共演者である関西の友人バンド・チッツのボーカルも「思うてた以上にやばそうな人やわ」と言うほど。
シャムキャッツ、チッツのライブが終わり、神聖かまってちゃんは3バンド目の登場。UFO CLUBはステージにカーテンがあり、ライブが始まると幕が開くようになっている。チケットが売り切れ、会場はぎゅうぎゅう詰め。酸素が薄くなったライブハウスだが、この後、ますます二酸化炭素を感じさせる光景が広がってしまう。

幕が開き、神聖かまってちゃんのライブがスタート。
たくさんのお客さんの数に、それなりに「んんっ」といった表情でリアクションするの子。表情は死んでいる。ファンからの「の子ー!」「monoくーん!」といった歓声が聞こえ、monoは手を振って応えるが、の子は「うるせー!」と叫ぶ。「…ごめん、じゃあ初めに『ゆーれい未満』という曲をやります」と無気力に笑い、演奏へ。
「うーっ、ゆれい!」から始まる『ゆーれい未満』。まさにゆーれいと人間の狭間をいくようなの子のこの日の雰囲気は、いまだかつて観たことのないものだった。ビデオカメラで彼の顔面をズームすると、額には妙な血の塊が。何だこれ。そして着ている長袖のシャツ、腕の部分には血が滲んでいる。何だこれ。UFO CLUBの内装は真っ赤だから、それに合わせているのか。いや、でも血だ。
などと緊張感を覚えつつも、「ですよね」の後のmonoのキーボードがますます壮大な感じになっており、そのかっこよさに血を忘れる。いや、でもあれは血だ。

「人が多い!って感じです。こんな、マンタンで。皆さん相当ヒマなんかどうか分かりませんが、まあ、だいたいは僕らのファンじゃないってことは分かってるんで。お前ら全員食ってくってことで」

挑発気味のの子、長袖の服を脱ぎ始める。すると、生々しい腕の傷がズァーッと。その色は赤というより、真っ黒だ。最前列にいた女の子たちの様子が少しおかしくなる。の子はタンバリンを持ち、「じゃあ次は『学校に行きたくない』とか、そんな感じの曲をやります」とフラフラとステージを歩きながら呟く。
戸惑うメンバーたち。次の曲は予定と違っていたようだ。動揺するmonoを、の子が「この人はちょっと記憶障害があるので」とフォロー。ちばぎんが話を無理矢理合わすように、「そうだよ!もともと『学校に行きたくない』の予定だったんだよー。お前が悪いよー。」と、冗談っぽくmonoに言う。monoはギターを抱える。おお、monoギターは初めて観る。

一度イントロに失敗しつつも、『学校に行きたくない』は仕切り直した後に、スタート。
ギターを弾いているmonoを物珍しい目で見つつも、やはり気になるのはの子の腕。壮絶な傷跡だ。つい先ほど切ったばかりな様子で、出来立てほやほや感がある。
いつものようにステージで暴れ回るの子であるが、確実にいつもと違うことが起きている。
タンバリンを持つ手ではなく、もう片方の手に持っているもの。光ってる。 カミソリだ。刃物だ。キラキラと光り、「計算ドリルを返してください!」と叫びながら、僕の持つビデオカメラの目の前で振り回している。あぶねー!
「お前らさぁ!お前らさぁーーー!!」
の子、鬼のような形相で客席に向かって絶叫。怒りとか憎しみとか、そういうレベルではない。人間のあらゆる部分を超越したような迫力のまま、カミソリの刃を頭に掠らせる。グサッ。グサッ。またカミソリを頭に。グサッ。おいおいおい。グサッ。グサッ。
そして歌いながら客席に飛び込んでくる。すぐ横を飛んでいき、落下して倒れたときにまたグサッ。ステージに戻ってもグサッ。何度もカミソリで頭を切り、彼の顔面にズームアップする。
大流血。
血が目に入りそうなほど、口の近くまで垂れている。
「僕の計算ドリルを、、返してーー!!」
気の狂ったような表情で叫び、演奏が終わる。音が終わるのと同時に「あーー!!」と声を出し、そこにはの子の変わり果てた姿が…。
それでもの子は「ありがとうございますー」と穏やかな声で挨拶をする。なんなんだこれは。なんなんですかこれは。

会場の空気が一変する。何かとんでもないことが起きたような雰囲気になり、客席前方には少し空間ができる。最前列にいた女の子たちが逃げたのだ。
「の子ー!」と興奮しているお客さんもいれば、完全に引いて場所を移動したお客さんもいる。笑いが止まらない人もいれば、気分を悪くしている人も。こんな両極端な反応がみれるライブハウス、初めてかも知れない。
「いわば序曲だこれはー! この後、もっともっと凄いものが出てくるからぁー!!」
このとき、オシリペンペンズに対抗したパフォーマンスであることが分かった。
の子は『変態』というキーワードを含んだイベント名を意識してか、自分なりの『変態』を体現していた。威嚇するように客席を見つめるの子であるが、お客さんはそれに対抗する意識は一切見られない。ちばぎんが「この後出るバンドが絶対困るでしょそれ…お客さん、引いてるよ?」とバランスを保とうとする。こういう状況でもバンドにつっこみがいることに、妙な安心感を覚える。
の子以外のメンバー3人がセッションを始め、の子が煽情する。

「でも、こういう感覚を持つ人が集まる場所だと僕は思っていますー!! これが、UFOクラブの…『変態まつり』なのでありますー!!」

の子、イベント名を忘れて思い出したように叫んだが、全然間違えていた。マイクを頭にガンッ!とぶつけ、ますます威嚇。もう十分なくらい、一番の『変態』になっている。
「これで、やりたいことはやりましたっ!」
おどけた様子で笑顔になり、血まみれでひょこひょこと舞うの子。恐ろしい光景なのに平然としている姿はシュールだ。「僕はこのタンバリンを持って、リアム・ギャラガーみたいにやりたかっただけなんですけどね。」と言い、後ろで手を組んでちょっとだけオアシスのリアムの物真似を。
ちばぎんが「じゃあ新曲やりまーす」と進行させると、の子が「ちょちょ、ちょっと待ってくれっ!お茶を、用意してくれっ!」と突拍子もないことを言って止める。ちばぎんが「お茶!お茶をー!」とステージ脇に向かって叫ぶが、「嘘だよ!」との子。

「次は新曲で、死にたいなー。死にたいなー。あっ、『天使じゃ地上じゃちっそく死』という曲をやりますー」
の子による曲紹介で、『天使じゃ地上じゃちっそく死』をライブ初披露。
この曲が血まみれの状態で披露されるのは、かなり似合っている。顔面流血で「死にたいなー。死にたいなー」と、すごくタイムリーな話題だ。妙に説得力を持たせてしまっている。の子の顔面にズームすると、地獄絵図。プロレスを観に行ったこともないので、こんなに人が血を流しているのを生で観たのは初めて。しかも歌っているという状況。
撮影していると、いきなり背中に衝撃が。
振り返ると、女の子が倒れたようだ。後ろにいた僕の友人が慌てて抱きかかえている。なにこの状況。後で話を聞くと、どうやら血を見たせいか女の子が2人、ライブ中に失神したらしい。怖くて泣いた女の子もいたらしい。
なにそれ。すごい。そんなライブ観たことがない。失神した女の子らが無事でよかったので言わせてもらうけど、失神者が出るライブなんて観たことがない。すいません、貴重に感じてしまいます。とにかく音にも歌詞にも説得力がこれほどまで持つとは。ちっそく死とは、まさにこのこと。
「死にたい季節があるとすれば、死にたい季節がお前にもあるはずさぁーー!!」と、これまた物凄い形相で絶叫し、演奏は終了。
その後、「血を、流したことは、ずるい!」の子がかわいげに言う。何人かが大爆笑する。

なんとなく、の子は「やりすぎたか…」と思ったように見えた。本人としてはこれくらいやるのが『変態』イベントとして当たり前だと思ったのではないだろうか。オシリペンペンズにとってはこれくらい、なんてことはない。それを熟知してるからこその流血。彼なりに考えたパフォーマンスが、狂気の沙汰に捉えられていることの焦りをの子の言動から感じた。
「血を流したことはずるい」なんて、優しい解説だ。ちょっと、彼の身体を犠牲にした根性に感動してしまった。

「最近、インターネット活動が低下気味な僕らです。まあ、こう効率のいいMCができるのはちばぎんとmonoくんなんですけどね。みさこさんはあれだよ」とみさこに釘をさす。「まあ、来週にはワンマンバンドをやるんで。そのときは16曲くらいやるんで」との子が言い出すと、ちばぎんが「ワンマンライブね」とつっこむ。最後の曲『ロックンロールは鳴り止まないっ』へ。
「リアル世界でがんばってる神聖かまってちゃんであります」との子が言い、monoがイントロのピアノを始める。
血まみれで歌うこの曲は新鮮だ。「何がいいんだか全然わかりません」の部分でニコッとした笑顔。怖いけど、愛嬌がある。絶妙なバランス感覚がステージにある。
最後はマイクから音が出なくなったの子が、ギターを抱えながら激しく飛び跳ねる。最前列のお客さんが危険を察知したのか、グッと身を引いた。の子はそれに気付いたかのように、突然優しい表情になり、お辞儀する。
monoのピアノが鳴っている間、へこへことお客さんに礼をし続けるの子。
「血が、弱いひとは、すみませんでしたー!!」
まさかの謝罪。ステージ前方で土下座をするの子。
「この後も、オシリペンペンズとか、水中もぐもぐ苦しいとか、もっとすごいバンドが出るので!」
礼儀正しく挨拶をして、終了。
カミソリで自ら頭を切った人とは思えない、紳士的な終わり方だった。大胆なことをした後、謝ったり、冷静さをちゃんと保ったりする。これはバランス感覚だろう。ステージに立つ人なら誰しも必要とする感覚ではないだろうか。

カミソリと流血は、の子なりの『変態』イベントで共演者に対抗するためのパフォーマンスだった。ライブ前の緊張感は強豪・オシリペンペンズとの共演へのプレッシャーにしか思えなかった。
もちろん、バンドは演奏や歌でその実力を発揮するものだろう。だけど、この日の彼には目先にあるパフォーマンス帝王への対抗心がリードしていた。
「最悪」「大嫌い」「二度と観ない」
この日のライブ後、友人も見知らぬ人も、このような感想を述べる人は少なくはなかった。
だけど、それもすべて彼が予測していた反応だろう。どこか変態になり切れず、自分のパフォーマンスを「ずるい!」と評し、「すみませんでした!」と謝る。確実に客観視していた。

神聖かまってちゃんのライブ後の会場は、妙な空気に包まれていた。あんなものを見たら、すぐには現実に戻れない。
幾度となくゴリ推ししていたら、ライブを観に来てくれたライターの九龍ジョーさんは「めちゃくちゃ面白かった!」とCDまで買って大満足。こういう反応の人が頼もしい。面白い以外の何者でもないでしょう。
ロビーにいると、顔面血まみれのの子が登場する。一気に道をあけるお客さん。「オシリペンペンズを観ましょう!」と爽やかに話しかけてきた。ライブ前よりも元気になっていたかも知れない。
の子はこの日の朝、「今日は自分の中のロックというものを叩きつけます」となぜか僕に決意表明のようなメールを送ってくれた。だからこそ、ジーーンと感動するものがあった。このパフォーマンスが何の意味があるのかは分からないけど、彼の異常なまでの表現根性は、誰も真似できないだろう。
この日、『変態』を守ったのは神聖かまってちゃん、の子だけだった。

そもそも、あんなに流血しているのに会場を笑わせて、和ませるのが見事すぎる。動揺することなくライブを進行させることができたちばぎんも、大きな存在だと思う。

2009年9月21日 東高円寺UFO CLUB
〈セットリスト〉
1、ゆーれい未満
2、学校に行きたくない
3、天使じゃ地上じゃちっそく死
4、ロックンロールは鳴り止まないっ

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