昨年3月、の子さんがおしっこを撒き散らしながら行なったライブも店長さんが「最高だったよ!」とステージ上のおしっこを拭きながら褒めてくれたこともある。配信に気を取られたり、めちゃくちゃなライブをやってもずっと応援してくれていたのが下北沢屋根裏。彼らを最も初期から知り、その魅力に気づいていた場所だ。
この日、音声録音のためにICレコーダーを置く場所をPAさんに頼むと、快く協力してくれた。さすが、やはり最高です。下北沢屋根裏。
小雨が降っていた。仕事の後、傘をさして歩いて下北沢の会場へ。カメラマンの方々はすでに場所を確保しており、この日は何台もカメラがあった。『の子さんドキュメンタリー』の丹羽貴幸さんが「あそこ空いてますよ」と教えてくれたのが、ちばぎん側のステージ端。いつも撮っている場所だ。そこを配慮して空けてくれたのか定かではないけど、ありがたかったです。
神聖かまってちゃんはリハーサル中だった。時間は開場ぎりぎり。この日本番では結局演奏しなかった『夜空の虫とどこまでも』を演奏していた。そして気づいた。「あれ、みさこさんが可愛い?」と。Daredevilのスエタカさんにスタイリングされたらしいこの日のみさこさんは、少しいつもと違う雰囲気になっていた。
荷物を楽屋に預け、いざ位置に。開場が始まり、客席が次第に埋まっていく。どうやらこの日、キャパを遥かに超えた200人を強引に収容するらしい。埋まっても埋まっても、後ろからお客さんが。
「ごめんなさい!前に詰めてください!」
劒マネージャーやスタッフの方々が何度も叫ぶ。しかし、前に詰める場所がない。どよめく客席。ステージから見ていると、次第に地獄絵図になっていく。ステージ上の端っこではその重圧がないため、丹羽さんには本当に良い場所を教えてもらいました。
完全にキツキツの状態の下北沢屋根裏。まだ冬の寒さが残る4月中旬、世田谷区のワンスペースは、日本、いや世界で最も暑くて熱い場所となったかも知れない。
客電が消え、いつもの登場SE『夢のENDはいつも目覚まし!』が流れる。下北沢屋根裏のステージには通路がなく、出演者は客席から来なければならない。カメラを客席後方に向けると、monoの顔だけがニュッと出ている。やはり、その存在感は計り知れない。
monoくんが歩くたびに人の波が動いていく。頭上にはノートパソコンが掲げられ、人の波を歩いてくるメンバー。途中握手を求められたり、名前を呼ばれたり。お客さんと距離が近い。というより、もはや肌と肌がぶつかり合っている。
の子がいち早くステージに到達する。「みなさんごめんね」と笑顔で謝る。人の波に埋もれ、へろへろになりながらメンバー全員がようやくステージに到着。
「いやいやいや。配信はどこやった?配信画面、切れてんじゃないの?ね、今日ちばぎんね、今日は下北屋根裏が狭すぎて、プロジェクターとかが置けなかったんだわ。ほんとごめんね。みんなにもレスとか見せて、言いたいことを見せられたらと思ってたんですけども…」
お客さんがあまりの人の重圧に、悲鳴にも似た歓声を上げている。明らかに異常な光景の中、特に気にも留めずにマイペースに配信のことを謝罪しているの子。
みさこ「大丈夫ですかお客さん!」
お客さん「大丈夫ーー!」
みさこ「手前の女の子が潰れそうになってる…!」
ちばぎん「めっちゃかわいそうなことになってる…」
の子「まあまあとりあえず。配信続いてんの?」
劔マネージャーが「みなさん、一歩ずつ下がってくださいー!」と観客にお願いをする。先ほどまでの「前のほうに詰めてください」が、「下がってください」。無理もない。というか、どうしようもない。最前列のお客さんはステージに上がり込むしかない姿勢になっており、いつかのフジロックのイギー・ポップのライブのようになるのか。
「いやいやいや!なんてったって、観客は前回1人とか2人、今やそれがこんなてんやわんや。皆さん本当にありがとうございますほんとに」
劔マネージャーが一生懸命、ケガ人を出さないように仕事をしている傍で、ステージではの子が自分らしくいつも通りやっている様が印象的だった。
ちばぎん「てかねー、これどう考えても人入れすぎでしょ!ホットスタッフ!しっかりしろよ!」
の子「お前が言えたことじゃねーだろ!ホットスタッフの人は頑張ってんだ!」
ちばぎん「はいそうですねすみません!」
の子「昨日のライブで喉がガラガラになっちゃった。ガラガラ蛇がやってくるー♪お腹を空かせてやってくるー♪」
突然、なぜかとんねるずの『ガラガラヘビがやってくる』を歌い出し、臨機応変にみさこのドラムとちばぎんのベースが対応。初めてのワンマンの1曲目が、まさかのとんねるず。
いまだ、客席は過酷な状況。それでも「そういやちばぎん。パソコンはどこにある?」との子はマイペース。ちばぎんが「あなたの真後ろにあります」と言うと、「ここではまずいんじゃないかい。ミスターK」と、なぜか竹内のほうを見て言い出す。ミスターK?
mono「ミスターK?じゃなくて、ミスターTだ!」
の子「あ、そうだTだ。2ちゃんねるで有名なミスターT」
みさこ「どうせネットでも顔出ちゃってるから映しちゃっていいんじゃないですか」
mono「ミスターT!T!!あんたしかいねーんだよ!!」
なぜか竹内がノートパソコンをmonoから受け持ち、配信映像を担当することになる。ビデオカメラをちばぎんのアンプの上に置いた。ところで、「ミスターK」の「K」とは何だったのか。配信画面には「竹内」というコメントが嵐のように流れていく。よく分からないけど、勝手に感動した。ただノートパソコンを持つだけなのに。
の子「昨日もたくさん曲やって、ほんとバテてバテて、家帰って猫とずっとこうやってて、ほんとに猫に…。俺ほんと家で猫とこうやって…一睡もできなかった。昨日がワンマンならよかったのに」
mono「しょうがない、そろそろ曲やろうか!」
ちばぎん「ということで神聖かまってちゃんです!みなさん、よろしくお願いします!!」
デーーーーン!!!といつも通り、ちばぎんのベースとみさこのドラムが会場全体を揺らす。詰め詰めの客席からは大きな歓声が上がり、たくさんの手が上がる。
いや、ちょっと待ってくれ。ニコニコ生放送の画面、なんか止まってるぞ。それに「音がうるさすぎ」とコメントが流れている。配信やってことないから分かんない。ちょっと待ってください。一人で焦りつつ、近くにいるちばぎんに助けを求める。直してもらう。これはもはや、ベース&配信担当のちばぎんだ。頼りがいのある男だ。
「いやもうほんと、俺今日疲れてて…」との子が続けるが、ちばぎんが「そういう話は後にしましょう!」と進行させようとする。
「いや、そういうリアルも伝えていかないと。"の子落ちぶれたな"なんて言われると思いますけど。まあいつかはそうなると思いますけど。けど、今だけだ!ワンマンだからこそ、今だけだ!今が盛り上がればいいんだ!これから繋げていきましょう!いくぜ!『ゆーれいみマン』!!」
ダダッダッダッダダ!「うーっ、ゆれい!!」と始まり、初のワンマンライブが幕を開ける。
ちばぎんのベースアンプの上にビデオカメラを置いたのがまずかったのか、振動でビデオカメラが落下していた。後で映像を確認すると、「ゆれい!!」の直後にカメラアングルが床に急降下。その後はドラムセットの下に置いてあるペットボトルを映していた。壊れてなかった。
ペットボトルの水面は揺れていた。その振動が、このライブの激しさを静かに物語っていた。カメラの落下と、そしてペットボトル。ひょっとすると今までで一番、臨場感溢れるライブが撮れたのかも知れない。
配信画面には「竹内、お前はビデオカメラに専念しろ」などというコメントが。たしかに、この配信映像は音が割れまくっているみたいだし、カメラのズームも使えない。記念すべきワンマンライブを撮影するにあたっては、ビデオカメラのほうがいいのかも知れない。
ちばぎんにノートパソコンを預け、ビデオカメラを持ち直す。
の子「前のほうの人、大丈夫ですか?」
お客さん「ダイブするってレベルじゃねーぞ!!」
の子「えっ?ダイブするってレベルじゃねえ?当たり前だ、PS3買えるってレベルじゃねーぞー!!」
少し意味の分からない返しだが、客席からは「うえーーい!!」と歓声が。そしての子が親指を立てて、満面の笑み。この重圧と熱気に包まれた空間では、もはや何もかもが異常。
みさこ「皆さん、息できてますかー?!」
男性のお客さん「酸素たりねーー!!」
女性のお客さん「酸素ありますよー」
最前列の客の1人が酸素ボンベを持参しており、上に掲げる。笑いが起こり、和む客席。
みさこ「酸素持ってる人がいる!」
の子「酸素…?酸素って何だ?」
そしてギターの弦が切れていることに気づく。ちばぎんが「張り替えたら?時間長いし」と提案。の子と劒マネージャーがギターの交換をしている間、monoとみさことちばぎんが一瞬だけバンドを結成。3ピースの演奏で、何かの楽曲をカバーしていた。ニルヴァーナ?
予備のピンク色のギターに持ち替えたの子。「前のほうの人、大丈夫?下北屋根裏でワンマンとか、アホだよな!!」と言い、笑いを誘う。
次は『天使じゃ地上じゃちっそく死』。
まさにちっそく死しそうな状況のライブハウスなのでタイムリーだ。ステージでさえ酸素が足りなくて、身体が自然に空気を取り入れようと、退屈でも何でもないのに無意識にあくびが出る。身体が言うことをきかない。こんなの初めてだ。「死にたいな」というより「死にそうな」空間。ちばぎんがベースを弾きながらクイッとメガネをかけ直す瞬間、汗でメガネがずれ落ちるほどの暑さを物語っていた。
「皆さんも死にたいって思ったりするときがあると思うんですけど、僕も今そんな気持ちなんですけど、そんな曲です」
の子、歌い終わる頃に解説。「それ何?曲終わった後に言うことなの?」と即座につっこむちばぎん。
の子「屋根裏さんでは普段やってない曲をやっていきたいです。ほんと久しぶりなんで。ね、今までたくさんお金をペイミーペイミー。5万とか、返しやがれこのやろー!!…って嘘ですよ。ほんとお世話になりました」
ちばぎん「ね、ほんとお世話になったよね。ステージでおしっこしたもんね」
の子「してねぇよ…し、してねぇよ!そんなことはよ!(最前列の客に)してないよね、そんなことは」
mono「いやー僕はそのとき真横にいたけど、したかなー。わかんねーなー。したような気がするんだけどなー…した後、配信で謝った気がするんだけどなー…」
の子「まあいいや。今日はどんどん曲をやっていきましょうー」
みさこ「ドラムはいつでもOKですよ!」
mono「よし!ドンとこい!ドンとこい超常現象!」
みさこ「何て?」
mono「うるせーバカクソ!!」
の子「mono君、いつもそうやってごまかすんだよな」
ちばぎん「うるせーバカクソ、で」
の子「そんなんで仁義が通るのかと思ってんのかよ!!」
mono「お前ね、たけし映画観すぎなんだよ。『アウトレイジ』一緒に観に行こうぜ」
の子「『その男、凶暴につき』は観たけど」
mono「それってあれだろ?子ども叩くやつだろ?(パンチするジェスチャー)」
の子「それ、くにお君じゃん」
mono「くにお君はこれじゃん(パンチするジェスチャーで、ちばぎんに確認する)」
ちばぎん「…こっち見んな」
いつもの調子のMC。客席が詰め詰めの会場でも、特別感のない神聖かまってちゃんのライブが続いている。
monoがキーボードの近くに置いてあるノートパソコンに向かって話しかける。
mono「配信大丈夫かなー!映ってるかー!」
の子「パソコンはまた『学校に行きたくない』のときに手に持つんで」
mono「で、またお前あれだろ?壊すんだろ?」
の子「しねーよ!!どんだけだよ、俺、どんだけニュージェネレーションなんだよ!その、新しい時代の申し子だよ!どんだけパソコン買ってんだよ!」
ニュージェネレーションとは、思いがけない単語。そして『笛吹き花ちゃん』へ。monoが「押してくれー!」と機材のボタン押しをの子に頼む。の子に「お前の仕事だろーー!!」とつっこまながら演奏へ。
中盤では歌詞を変えていた。
「春夏秋冬、秋冬!秋冬!秋冬!秋冬!秋が続くぜ秋が続くぜ秋が続く!そう!花ちゃんには春が来ないのさーー!!」
の子のアドリブの歌詞にはいちいち鳥肌が立つ。この後半の盛り上がり方は貴重だ。恐らくこの日でしか聴けないものがあった。昨年5月、ここ下北沢屋根裏で聴いたこの曲とは比べ物にならないほどのクオリティと勢い。そして客席の状態。
演奏後、スタッフから「前の人、下がってくださいー!」の指示。ちばぎんが「もう前の人、完全に(ステージに)座ってるからね」と。たしかに、客席に収まりきらずにステージに上がり、座り込んで観ている。
配信のコメントを読むの子。「ちばぎん先生ちょっと!"ノイズ直してください"って来てるんだよ!」と助けを求める。「無理だよ…」と答えるちばぎん。の子がマイクを使わずに喋るので、monoが客に気を遣ってマイクフォローしながらのMC。
ちばぎん「劒さん、今日何人入ってるんですか?」
劒「…200人」
ちばぎん「200人?200人入るキャパじゃないでしょうどう考えても!」
みさこ「前は30人いても"今日はいっぱいだねー"って言ってたのに!」
monoがパーカッションをリズミカルに叩き、『自分らしく』へ。「そう、ポンポコ!!」との子が指示。「そうだよ、自分らしくだよ。自分らしく生きてなきゃ、どーすんだよ!」とmonoが煽り、このまま演奏に入ればかっこいいものの、虚しいくらいにの子のギターの音が出ず。
「なんで音出ないの?…あれ?出るじゃん」
ということで仕切り直し。「この憂鬱なときに出来た曲を、あなたの感性に叩き込めればいいと思っています!」と言い、歌に入る。
みさこが楽しそうに頭を振りながら笑顔で叩いていた。最後、の子が興奮のあまり、曲を終わろうとしない。、「男でも女になりたいとかそういうのがあるだろ!」と訴えかけ、まだギターを掻き鳴らし、「歌いたいのでーす」とずっと続ける。
の子が配信のコメントを読んでいる間、monoが「酸素ボンベ要る人ー?」と客席に呼びかける。状況が状況なので、みんなが助け合いの精神がライブハウス内で生まれている。妙な一体感がある。一緒に戦争や大災害を体験しているかのようだ。
しかし、こんな状況でもの子は配信を尊重している。もはや配信へのこだわりは、狂気にも似た執念だ。
そんな中、monoが「あの…タバコ吸っていいすか?」と客席に問いかける。「ふざけんなー!!」という答えに、「なんだよ!喫煙者だったら分かるだろ!」と反論。ちばぎんが「みんなだって吸いたいんだよ!」と的確な意見を。
「"見捨てないで"?なんだよ、見捨てねーよ…これがスクリーンで流せたらよかったんだけどなー」
の子が配信中のノートパソコンを持ちながら、『学校に行きたくない』へ。
monoがドラムスティックでシンバルをバシバシ叩いている。ふらふらと踊ったり、叩いたり。子どものようだ。そしての子がパソコンを持ったまま客席へダイブする。詰め詰めの客席が、ますますカオス状態に。ステージ前方が荒れまくり、の子の前髪もなぜか荒れまくり、七三分けみたいになる。
「あの、ここだけの話なんですけど。客席は冷房ついてると思うんですけど、ステージには冷房がついてないっていう。の子がリハ中に"喉が痛いから切れ"っていう。ほんと暑いんです!!」
ちばぎんから発せられた衝撃的な事実。だからステージもこれほどまで酸素がなくて、暑いのか。ビデオカメラがふやけて変形しそうなほどの熱気だ。
「え、暑いほうがいいんじゃないっすか?」
の子の思わぬ発言に、「そうだよ!暑さで、お客さんと一体感だよ!」とmonoが無理矢理合わせる。無理がある。
『通学low』へ。
「こんな曲やったことねーよ」との子が言い、monoが「ていうか俺、やることねーよ」と笑いを誘う。本当にやることがない。
monoはキーボードの周辺でスティックを振り回し、適度に暴れ、暴れすぎてメガネが落ちそうになるのをバシッと受け止め、その後は少しだけ控え目に暴れるという流れだ。
怪しい色をした照明と、の子のボーカルエフェクター使用の声で一挙にアングラ感が出る。途中からスピードが早くなるところがたまらない。
客席最前のほうに頭を埋め、「真っ黒な顔をして、笑って、いるんだ、クラスのみんながさ、クラスのみんながさぁああああ!!!」と、その声は子どものような声と悪魔ような声に行き来する。どちらも、ひょっとすると似たようなものなのかも知れない。良い意味でも、悪い意味でも。
最後は「通学ろぉおおおおーーー!!!」と叫んで終了。
の子「この曲、3回しかやったことなかったんだけどね」
みさこ「結構リアルな数字が!」
の子「ま、そんなバンドです」
みさこ「それが、かまってちゃんです」
mono「そりゃね、バンドやってたら『死にたい季節』もありますよ本当にね。僕なんか1度もないですけどね。だいたい、1日したら忘れるっていうね。メンバーの中では一番得した性格してます」
みさこ「ほんといいですねー」
mono「(の子に)お前なんかあれだろ?"monoくんはいいよなー鈍感で"とか言ってるんだろ?」
お客さん「鈍感ー!」
mono「うるせー!鈍感だよ!」
お客さん「ブサイクー!」
mono「うるせー!!」
次は『死にたい季節』。「いくよー」というみさこの合図に、「待ってー!」とmono。突然財布を取り出す。ちばぎんが「財布からピック取り出すって…て、10円玉じゃねーかそれ!」と反応。「ピックあげるよ」と優しさのちばぎんにより、曲がスタート。
「すごいね、熱気でメガネが曇ってきたんだけど」
熱気のあまり、ステージ上にも影響が出始めたようだ。「ドラムのシンバルも曇りが凄いんですけど…」とみさこ。「ベースのネックもすべすべになってる…」とちばぎん。被害報告が次々と。
mono「ほんと今日、気をつけて帰ってね。来てくれた人、ほんとアイラブユーだわほんと」
ちばぎん「ありがとうございます!」
お客さん「ゆきやー!」
mono「おい!!」
みさこ「ゆきやー!かいどうゆきやー!!」
ちばぎん「テライケメンな名前だな…」
『美ちなる方へ』の演奏へ。「ワン、ツー、スリー、フォ!!」と元気よくみさこのカウントで始まる。ライブで聴くのは2回目。やっぱり、他の曲よりも新鮮に思う。PVを何度も見たせいか、曲の途中では何度も電車の中の風景が思い浮かぶ人も多いはずだ。
曲が終わってからも、キラキラとした音がなぜか続いていた。
みさこ「その音は何ですか!?」
mono「俺が作ったんだよ!」
みさこ「そうですね…」
ちばぎん「はい、今のは、mono君が作った音がずっと続いていて、それを止めるのをミスって、ごまかしたね」
「お前さあ、俺ら24才になってしまったけど、ちょっと23才の思い出を蘇らせてみようじゃねーか」
monoがの子に曲紹介をふる。
「え、それガチの話じゃなくて?」
「いやいや、ガチじゃなくてね…は?なんだよ?何を言うつもりだったんだ!お前ガチで言うなよな、ほんとに」
monoが突然必死になる。ちばぎんが「何を握られてんだ…?」とみんなが思っていることを代弁してくれる。すると客席から男性の声で「風俗だろぉ!?」と。
mono「あぁ!?なんつった!?」
お客さん「風俗だろぉ!?」
の子「風俗は俺だったんだこのやろぉお!!こいつは行ってないんだよ!!」
mono「俺も行きましたよ!行きましたけど…」
の子「俺が連れてったんだコノヤローー!!!」
かばい合う二人。これが24才のリアルな姿だ。
「まあ、風俗もロックンロールですよ」
の子が無理矢理絡めて曲紹介し、『ロックンロールは鳴り止まないっ』へ。先ほど、monoが明らかに『23才の夏休み』に繋げるMCをしたはずなんだけど。
「MD聴いたときの、90年代のあの気持ちが、蘇ってくるんだよおおっ!!!」
の子が叫んで終わる。この部分はアドリブで変えられて叫ばれるので、毎度の楽しみになってしまう。
その後は『いかれたNeet』へ。
monoが酸素ボンベを吸いながらお茶目な弾き方をしている。みさこの後ろ、下北沢屋根裏のステージ後方の壁に花の形をしたライトが照らし出される。終盤のちばぎんの「とぉおお、おおおおー!!」のコーラスが気持ちいい。
最後はの子がギターのネックを持ち、ボディを上にしてヒョコヒョコと踊る。「ニートの曲でしたー。僕もいつかまたニートになりますけど」と締める。
「あのー、ニコニコ動画とかにライブ映像をアップしてくださる竹内さんいう方がいらっしゃるんですけど、今日その方が最後になるということで。ほんとに、かまってちゃんは竹内さんがいないとここまで来れていないって本当に思ってるんで、ちょっと皆さん、竹内さんに拍手を!」
ちばぎんが竹内を紹介する。ビックリした。まさか、これほど至近距離で名前を呼ばれるとは。一斉にこちらに視線を向けるお客さん。
「ありがとうーー!!」「竹内ーー!!」「ちんぐーーーー!!!」
の子「竹内ーー、竹内ありがとーー」
mono「竹内さんありがとうー!早くやめてー!」
の子「てめえ何言ってんだよ!(monoの頭を殴る)それはマジでキレるわ」
竹内「いやーでもほんとにそ…」
みさこ「神聖かまってちゃんの存在を本当に色んな人に広めてくれて…」
ちばぎん「喋ってんだろーー!!竹内さんがーーー!!」
竹内「いやいやいや…特に役に立ってないと思うんですけど…」
mono「竹内さん、アイラブユー!」
みさこ「アイラブユー!」
mono「キッカケをほんとくれた方だと思うんで、ほんと。みなさんに知ってもらえることになったのも、竹内さんがちょっとくらいある…」
みさこ「ちょっとじゃないよー、ビッグな力ですよー」
竹内「ほんと、すいませんなんか」
会場から大きな拍手が起こる。なんだ、この光景は。神聖かまってちゃんのいつもの現場じゃない雰囲気になっている。
mono「泣け!今すぐ泣け!」
ちばぎん「…こいつほんと失礼だよねー!!今まで散々お世話になった人にこうしてね、ウィスキー片手にね。死んだほうがいいんじゃないの!?」
mono「いいですよ僕は、死んだほうがいいキャラでいきますよー」
ちばぎん「死ねよ…」
みさこ「これからもお時間あるとき、ライブ来てくれると、幸いです!撮らなくてもさ、よろしくお願いします。これからもセクハラします」
竹内「あ、はい…」
この日で撮影を終える宣言をし、ここまで神聖かまってちゃんのメンバーがMCで言ったり、ライブ前後に声をかけてくれたりするとは思わなかった。
自分ではただ単に好きで撮影し、アップロードを続けていた。それは無名、有名は変わりない。ただ、神聖かまってちゃんを知ってほしかった。当初は誰も興味を示さず、悔しい思いをした。今や、NHKに出たことによってその名前は多くの人に知れ渡った。神聖かまってちゃんのメンバーは良いように言ってくれるが、やはりテレビの力が絶大だと思う。これからは有名になるため、竹内のカメラのインディーズ感より、もっといい映像がある。そう思い込んで、撮影をやめようと思った。
monoもああいう風に見えて、いつもの神聖かまってちゃんのライブのMCの雰囲気を保とうとバランスをとってくれていた。本当、いい人ですよ、monoくんって。
「歌詞できてないけどなー!」と言い、超絶レアな『肉魔法』へ。
ライブでは初めて聴く。「肉体 ひとつ犠牲にすれば」というサビのメロディがかっこいい。そのへんのロックバンドがやってそうでやってない、かなり正統派のロックチューンではないだろうか。
やはりこの曲はmonoがやること無し。スティックをくるくる頭上で回して、これは楽器の担当でいうと何と呼べばいいのか。いつも思う。ある意味、斬新なスタイルだ。熱い演奏の中、ステージの上で何もやっていない人が真ん中にいるバンドなんて、今までに観たことがない。
そんなmonoも後半からはキーボードを弾き始め、バンドメンバーが4人に。デモ音源よりも圧倒的にかっこいい演奏だった。やはりバンドは確実にいい。
演奏後、monoが「みさこさん、後でスティック代払うわ…2本も折った…」と謝る。
そのまま『ちりとり』へ。
「しかしだ!あなた僕の心までちりとっちゃったのです!そう、それはかけがえのないものであって、だから今しかない!今しかないんだ!ちりとってやりたいんです。あなたを!今しかないから、今しかないから、今しかないから。ちりとってやりたいんです。お前とお前も、今しかないから、ちりとってやりたいんです」
最後、の子はこう叫んだ。真っ直ぐと何かを見つめていた。
演奏後、客席最前にドッと重圧が。の子が手を差し伸べて、最前のいる客の手に触れていく。「ありがとーー!」とお辞儀をする。
の子「さあ、そろそろやる曲がなくなってきたぞ」
ちばぎん「そうですねー。あ、ちなみに僕ら帰る道(ステージ通路)がないんでアンコールとか無いですからね」
お客さん「ええーーっ!!」
ちばぎん「だって、はけられないじゃん!」
の子「あ、でも下北屋根裏いいですね。ここまで近くて、親近感が。ここまで親近感があるライブハウスなんてないですよ、今まで」
ちばぎん「狭いからね」
の子「うん。"の子ーーの子ーーの子ーー!!""の子がいねーーぞーー!!"ってね、今まで色んなライブハウスで色んなことがあったんですけど」
みさこ「色々ありましたね」
の子がセットリストの紙を見て、次にやる曲を決める。「『ぺんてる』でいい?じゃあ、『ぺんてる』やりますか」と言うと、客席から大きな歓声が。
の子「いやーでも、今日お集りの方で、初めて観た方も…あ、いねーのか。でもまたなんか、これで、こいつらもういいやって思った方も含めて、ありがとうございます!がんばっていきます。人生の哲学的なことを歌った曲です」
mono「(ギターに向かって)なんだこれ?チューナー反応しろよバカヤロー」
の子「それは君が選ばれし者じゃないからだよ。ね、最近『ワンピース』ばっか読んでね。『ワンピース』読んだ後はすごい機嫌がいいんですよmono君。ジュースおごってくれたりとかして。『ワンピース』全巻読破した後とか、メールで『の子ー!の子ー!ライブハウスまでの道のりはここだぞー!』って詳細教えてくれたり」
mono「それはお前が辿り着くように送ったんだろ!」
の子「道、あんなの一直線だよ!!」
mono「いや、お前が辿り着けないと思ってたんだよ!いつもケンカしてるけどさ、ありがとうくらい言ってくれよ、な!」
の子「(無言でmonoを見つめている)」
mono「なんだよ!死ぬ前に言われるのかな…」
そして演奏がスタート。しかし仕切り直し。チューニングが合ってないままmonoがギターを弾こうとする。ちばぎんが「チューニングめちゃくちゃじゃん!ちゃんと合わして。もしくは、弾かないで」と厳しいことを。「なんで合ってないんだろ…」と、一瞬弾いてみた曲がニルヴァーナ。客席から「アゴバーナ!!」という歓声が。
「次で最後の曲でーす。『ぺんてる』」
ジャカジャーーーン!!と始まるところが。「ぺんてるに、いきました」の瞬間が。印象的なギターのフレーズが。ずっと「ぺんてるに!ぺんてるに!」って言い続けておいてほしいくらい、グッとくる演奏だった。ビデオカメラに映る彼らの表情はキラキラしていた。人間の目とは違い、カメラはズームができる。それが画面いっぱいに映し出されると、なぜか演出にもなる。なんでもない風景が感動的になるのは、映像でも、音楽でも、演出することができる。
演奏を終え、最前列のお客さんの手に触れていくの子。
の子「ありがとうございます!えーと…どうすんの?僕としては体力がなかなか続きました。昨日より。昨日なんかどうでもいい、明日には明日の風が吹く。今日には今日の風が吹く!」
mono「お前には珍しい考え方だね」
の子「考えって何?"詩的なこと"って言えよ」
アンコールを呼ぶ観客の声。「もう遅いよ時間!21時50分だよ!終電なくなるよー!」とmonoが言うが、「大丈夫だよー!」「余裕だよー!」と客席から声。
『夕方のピアノ』は仕切り直しがありながらも、そのまま演奏へ。「はい、はい、悪いやつはみんな友達ー」との子が言いながら。
「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ね!」と、いつもながら歯切れのいい叫び声。「佐藤!」「佐藤!!」「佐藤ーーー!!!」という高音の絶叫はいつも物悲しく、monoの切ないキーボードのメロディが続く中、の子が「佐藤…」という呟き、声を響かせている。
次は『23才の夏休み』。
の子が「ぴょんぴょん盛り上がってくれたらいいと思います!」と言うと、演奏が始まると本当にライブハウスが若干揺れるくらいお客さんが一斉に飛び跳ねる。手を上げる人。一緒に歌う人。この熱い中、意識がもうろうとしそうな空間であるにも関わらず、色んな楽しみ方で盛り上がっている。ここにいる人は本当に神聖かまってちゃんが好きなのだろう。自分も含めて。
夏以上に暑い空間は、演奏している人以外も妙な達成感さえ味わうことのできるはず。いわば耐久ライブだ。それでも、まだまだ終わってほしい。そう思った人は多いだろう。
ビデオカメラは熱気のせいか、オートフォーカスがぼやける。の子の顔の輪郭が薄れ、まるで涙で視界が滲んだような映像に。客席にカメラを向ける。一つ一つの手が神聖かまってちゃんに向いている。ライブではよくある光景。ライブではだいたいよくある光景。
でも、こんな光景は初めて観た気になった。
「色々あると思うけど、海水浴とか行ったら気分転換にもなると思うから、鬱病でも!」
の子がこう言って締める。彼が言うと説得力がある。
「叩きつけるだけです!初めてのワンマン!!」
そして最後の最後は、『あるてぃめっとレイザー!』の演奏。
途中、ギターを置いてパーカッション機材を置いていた台に上るの子。「みなさんで、一斉のーせっで、あるてぃめっとレイザーを叩きつけましょう!!」と言い、「あるてぃめっとレイザーーー!!!」と絶叫。
の子の思っていたタイミングとみさこが叩きタイミングが違っていたようで、「ちょいちょいちょい!お前、みんなが"あるてぃめっとレイザー!"って言ったら、止まるんだよ。お前のドラムなしで。それが、清々しいんだよ!」と指示。
「じゃあカウントするから"あるてぃめっとレイザー!"って叫んでくださーい!ワンツースリーフォー!!」
「あるてぃめっとレイザーーー!!!」
こうして、ライブが終わる。
の子は最後のくだりに少し満足がいかなかったのか、それとも名残惜しいのか、よく分からない表情でステージに佇んでいた。
客席が空くまで、ステージに残るメンバー。突然ユンケルを取り出してグビッと飲むの子。
「これね僕ね、ユンケルからCM来ると思ってね。ユンケル、効くんです」
ユンケルのCMかと思うくらい、ユンケル推しの語り。
神聖かまってちゃんの初ワンマンライブが終わりました。
とにかく、すべてを出し切った。今自分のできるすべてを映像に撮った。だけど、あくびが止まらない。身体が酸素を欲していて、眠たくもないし退屈もしていないのに、自然にあくびが出る。こんなのほんと、初めてです。どれほど身体が弱いのか。
お客さんが会場をあとにし、客席にスタッフ以外誰もいなくなり、楽屋へと向かう。の子さんとmonoきかがいた。monoくんが僕に気付き、「竹内さん!ここ座ってください!」と言ってくる。「なんでやめるんですか!」と怒る。酔っ払っている様子だ。
そこに、の子さんがなだめるように話に入ってくる。
「いやいや、またいつでも、撮りたいときに撮りに来てくださいよ。ひょっこり。ひょっこりひょうたん島で」
ひょっこり、ひょうたん島って。
自主的な撮影は終えても、また何かあれば撮影するかも知れないし、自分ではずっと神聖かまってちゃんのことが好きなのは変わりないので、たいそうなことではなかった。いつかまた、撮るかも知れない。誰かに頼まれたら撮るし、1年後くらいにはまた撮っているかも知れない。
だけど、神聖かまってちゃんはもう手の届かないところにいくはずだ。
ただ、一つの区切りとして、この日は本当に撮影できて良かった。
ちょうど1年前の4月に神聖かまってちゃんのライブを観に来て、好きになり、そしてその1年後のこの日、ライブ映像の撮影を終えた。
1年間のドラマとして、1つの着地点に思えた。ありがとうございました。いつか、ひょっこりひょうたん島で撮りに参ります。それがすぐ後になるのかも知れないし、分からないけど。島だし。
ちなみにこの日演奏された曲は、全部で16曲。
この数は、昨年9月の流血ライブのMCで「来年くらいには、ワンマンライブをやりますので。そのときは16曲くらいやりますので」と言った通りなのだ。本人は完全に無意識だったと思うが、この偶然の一致に少なからず感動を覚えました。
2010年4月16日 下北沢屋根裏
〈セットリスト〉
1、ゆーれいみマン
2、天使じゃ地上じゃちっそく死
3、笛吹き花ちゃん
4、自分らしく
5、学校に行きたくない
6、通学low
7、死にたい季節
8、美ちなる方へ
9、ロックンロールは鳴り止まないっ
10、いかれたNeet
11、肉魔法
12、ちりとり
13、ぺんてる
<アンコール>
1、夕方のピアノ
2、23才の夏休み
3、あるてぃめっとレイザー!
僕が初めて見たかまってちゃんのライブ映像は竹内さんが撮ったものだと思います。今では就活が嫌になると見てます。ありがとうございます。ひょっこりひょうたん島でまた撮ってくださるとうれしいです^^
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