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2012年1月4日水曜日

【連載】神聖かまってちゃん物語~第5話「サマ・ソニ・失・敗!!」~

神聖かまってちゃんのサマーソニック出演当日がやって来た。

NINE INCH NAILS、APHEX TWIN、MOGWAI、TAHITI 80、KASABIAN、神聖かまってちゃん。なんだろう、この浮いた並びは。これは現実なのか。海浜幕張駅に着いて会場に入っても、まだ夢としか思えなかった。「出れんの?!サマソニ?!」と。念のため頬を抓ってみたら痛かったので、現実だ。よそ見して歩くカップルに激突したら痛かったので、やはり現実だ。無事、「出るんか!!サマソニ!!」となった。
応募総数、2106バンド。その中の16組。この事実、簡単に受け入れられるはずがない。
神聖かまってちゃんが出演するステージへ向かう。早くも『いくつになったら』の歌詞通り、「東京のど真ん中で 何千人の前で 存在を見せてやる」ことになるのか。ここは千葉だけど。期待に胸を膨らませながらステージに着く。
うっわ、ちっちゃっ!
これ、いつものライブハウスと変わらない大きさじゃないか。SIDE-SHOW MARINEという名前だけあってSIDEの中のSIDE。客席は何千人も埋まらない。千葉の隅っこで何十人の前で存在を見せるだけだろう。
それでも、サマソニで演奏することに意義がある。彼らはこの日を境に"サマソニ出演者"という肩書きを一生得られるのだ。
待ち合わせ場所に着くと、遠くのほうにの子とmonoの姿があった。の子はノートパソコンを持ちながら歩き、monoはその傍を歩いている。アウトドアなのにインドアな姿はとにかく浮きまくってる。
みさこに撮影スタッフ用のリストバンドを受け取り、腕に巻く。そんなに多くはいないリスナー相手に配信し続け、こつこつとネットに曲をアップし、一ヶ月に一回程度のライブで活動してきたバンド。ついに迎えた最高の晴れ舞台を撮影する使命感に、腕が締め付けられる。

「9月のイベントのことですが、の子さんがまだ決断できてなくて…」
みさこの口から、9月21日の東高円寺UFO CLUBでのライブ出演についての話が出る。
僕の友人が企画したイベントで、オシリペンペンズ、水中それは苦しい、シャムキャッツ、チッツが出演する。一バンドが出演キャンセルになったので「代わりに出てくれるバンドはいないか」と友人に尋ねられたところ、神聖かまってちゃんを提案した。だが、オシリペンペンズとの共演ということでの子がかなり迷っているらしい。ライブ中に身体を切りつけたり髪の毛を切ったり消火器を噴射したりと、奇抜なパフォーマンスで知られる強豪相手に戸惑っているようだ。「私も緊張します…」とみさこも怖気づく。待てよ。の子も負けじと奇抜なことやってるじゃないか。彼がプレッシャーを感じているのは意外だった。でも、そりゃそうかも知れない。昔から好きだったバンドと突然の共演なんて覚悟が要るはずだし、そもそも奇抜と呼ばれるパフォーマンス自体、勇気でしかない。
そしてこの日、サマソニというまた巨大な強豪を目の前にしている。今、の子のプレッシャーは相当なものだろう。

とはいえ、の子は本番前に配信しながら会場を歩き回り、狂人の叫び声が聞こえると思ったらの子だった。といった現象もしばしば。彼にとっての本番はライブだけではない。すでに本番は始まっているようだ。
「コラーー!!神聖かまってちゃんという者ですが、皆さん来てくれたら嬉しいでーーす!!」
通行人に話しかけるも誰一人として反応せず、素通りしていく。パソコンを広げながら独り言のように呟いたり叫んだりする者には、誰も近づこうとしない。下北沢と全く同じパターンだ。いくらサマソニ出演者になったからといって、周囲の反応は変わらない。

出演時間になるまで会場をぶらついていると、電話が鳴る。「の子さんが撮影について話しておきたいことがあるみたいんで」とみさこに呼び出され、楽屋テントへ。
配信中の神聖かまってちゃんのメンバーがいた。出演中のバンドの演奏が音を遮るため、大きな声でリスナーと会話している。みさこに配信を預けたの子がこちらを振り向く。なにやら様子がおかしい。酔っ払ってるのか何なのか、目の焦点が合わないまま話しかけてくる。
「今日ニコニコ生放送やるんでノートパソコンで撮ってください。僕がステージから"たけうちぃー!!"って叫んでからノートパソコン投げるんで、客席でガシッとキャッチしてください」
無理すぎる。
の子は喋りながらなぜか座っているイスをガンガン殴っていた。これは怖い。手、絶対痛いだろう。彼にとっても神聖かまってちゃんにとっても、これまでの人生で最大級のイベント。一世一代なのかも知れないし、今後状況が大きく変わるかも知れない大事な日だ。彼はプレッシャーを乗り越えるために狂気を憑依させ、一生懸命に"の子"になり切ろうとしているように見えた。
ニコニコ生放送ということで、僕がパソコンを持ってリスナーと喋るのか。大丈夫だろうか。念のため、ビデオカメラはカバンに忍ばせてある。画面はカクカクな上にズーム機能もない配信映像だけど、彼ららしい撮影スタイルだ。時間が迫ると、ただ撮るだけの僕までもが緊張してくる。

やがて18時になる。神聖かまってちゃんの出番だ。

青みがかった空の下、遂にライブが幕を開ける。パソコンを受け取ろうと楽屋に向かうと、パソコン片手にの子がステージドリンクのペットボトルが入った容器に手を突っ込み、「イケメンスタイルになっとくぜ!」と水で髪の毛を整えていた。逆立った髪の毛で「よし、出陣!」と叫ぶ。サマソニ出演用の整髪料が水とは。
「ステージ上ではどうしても映すことができないっていう大人のルールがあったんで、客席からなら映せるということがあったんで、こっからは竹内さんに任せますね。竹内さんはニコ生とか詳しくないので、あまりいじめてあげないでくださいね」
優しく話しかけるの子からパソコンを受け取り、の子がウェブカメラの角度を変える。
と、その瞬間。
突然配信画面が止まり、黒くなる。
あ、あれ?
うろたえようが、の子は髪型共に戦闘モード。画面は真っ黒。気分は真っ青。一切何も操作していないのに、これはやばい。
「竹内なにした?」「おい竹内」「ちゃんとしろよ竹内」「たけうちたんちゅっちゅ」「竹内つかえねえな」「竹内仕事しろ」
大量のコメントが流れていく。配信上で竹内バッシングが開始され、リアルタイムで炎上する。リスナーからしてみたら竹内にパソコンを預けると言ってから止まったため、竹内を原因にするのは当然だ。弁解しようともパソコンの向こう側とは遮断されている。ニコニコ生放送について何一つ知識がないため、ステージにセッティングに向かうの子を急いで呼び止める。戦闘モードからスッと素に戻り、キョトンとした表情でパソコンを操作する。
「…かいどーー?おーーい、かいどーー?」
の子がmonoを本名で呼び、助けを求める。mono、セッティングでそれどころではない様子で「ああ?なんだこれ分っかんねえ…」と呟く。音声だけが復帰する。「こうなってしまったら音声だけでもいいから」といったコメントの通り、画面は止まったままの音声配信の撮影として、ステージ前に立つ。すると「時間やばい」「延長しろ」「延長しろ延長しろ延長しろ延長しろ延長しろ」とコメントが。
延長?なにそれやり方全然知らない。
焦りまくる。これで配信終わったら責任重大だ。唇が乾く。配信画面以上に、恐怖で頭が真っ暗になる。文字だけのバッシング・強制という状況に動揺。「更新押せ」というコメントに従い、『更新する』のボタンを押した途端、なぜかニコニコ生放送のトップページに画面が切り替わる。
青ざめた。なんとなく、「終わった」と感じた。ところで更新って何なんだ。
メンバーはすでにステージでセッティングをしており、もう誰にも頼ることができない。ステージ脇でスタッフにパソコンを預け、こんなこともあろうか(思っていなかった)と用意していたビデオカメラを取り出す。そのとき、ニコ生を見ていた友人からメールが。
「今、修羅場になってます笑」
ネット上では相当な竹内バッシングが行なわれているらしい。無理もない。配信が止まってしまったんだから。
「今からビデオカメラでちゃんと撮るんで、今日帰ったらすぐアップする!」
なんなんだこの会話。これが、サマソニでバンドを撮影する直前の出来事なのだろうか。
「あっ、そうなの?じゃあコメント書いて伝えておくよ!」
後に『竹内くんがビデオカメラで撮るそうだよ』と友人が書いてくれて、少なからず鎮火したようだ。

「どうも神聖かまってちゃんでーす。わざわざ青森からとか来てくれた方もいるらしいんですけど、あー、僕らはこっちから行く気がありません。これからも来てください」
の子が喋り始め、いよいよライブが始まる。
見渡すと会場には30~40人ほどの人だかりが。いつもの5倍ほどという、特別な状況だ。神聖かまってちゃんを一目見ようと駆けつけた人たちにとって、この瞬間はどれほど待ち望んでいたことだろう。
ちばぎんが「この後、ダブルブッキングで渋谷LUSHというところでもライブをやりまーす」と告げる。サマソニ後、渋谷でライブとは。まるで大忙しのバンドのようであるが、7月と8月のライブはこの日一回のみだ。今日、神聖かまってちゃんが伝説を刻み込むのだろうか。嵐を呼ぶのだろうか。期待は高まる。
が、次の瞬間、思いもよらないやり取りがステージで繰り広げられる。
劒マネージャーに耳打ちされたmonoの言葉で、会場全体にどよめきが走った。
「え?1曲しかできない?」
みさことちばぎんが動揺し、口を開ける。「えーーー!?」といったリアクションが客席に響き渡る。
どうやら、セッティングに費やした時間の関係で演奏時間が大幅に短くなったようだ。しかし、それに全く気に留める様子もなく、黙々とチューニングをしているの子。とはいえ全くチューニングができていない。ちばぎんにギターを預け、マイクを使って話し始める。

「はい!というわけで、なんかワケ分かんないところに集まっていただいた皆様、どういった縁なのか分かりませんが、これが一生に一度になるのかも知れません。祭りだ祭りだってごまかすわけにはいきませんが、ちょびっとでも、ちーーっとでも、ひっかかったら、覚えてくれたらいいかな、なんて思います。僕も、僕らの世代に、勢いあってガンガンガンガン!ロックンロールを伝えていけたらいいな、なんて思っています」

かっこいいことを言っているが、これはチューニングをしてもらっている最中だ。しかも1曲だけしかできないという状況で。
「何やる?」とmonoが演奏する曲を問いかけると「ブレイクダンス!」と言って踊り、ステージに倒れるの子。客席とステージの無気力な笑いが会場を包む。ちばぎんによるチューニングが終わり、ギターを受け取ったの子は「とりあえず『23才の夏休み』を…」と言うが、「だから1曲しかできねーんだって!『ロックンロール(は鳴り止まないっ)』しかできねーんだって!」とmonoが止める。の子、本当に状況を掴めていない様子だ。
の子が『23才の夏休み』に使用するヘッドセットをつけたまま、半ば強引に演奏が始まる。『ロックンロールは鳴り止まないっ』は彼らの代表曲であるが、の子の声が十分に出ない。途中から出てくるが、迫力は薄い。「鳴り止まないっ!」と言った後、客席に降りる。が、特に何をするわけでもなく、ステージにすぐに戻る。
不完全燃焼のまま、ライブは終了してしまう。
「はいこれで終わりだよーん」との子が残念そうに言い、突然キリッとした表情になる。
「みなさーん!サマーソニックフェスティバルで、何を観に行きたい!?」
の子が客席を睨みつけ、10数秒間、無言。「エイフェックス・ツイーン~♪」と、自分の答えを告げるの子。
これにて、神聖かまってちゃんのサマーソニックでのライブは終了。
これが『出れんの?!サマソニ?!』なのか。
まさに「?!」の状態のまま、あっという間に終わってしまった。

ライブ後、先ほどまでポツポツと小雨を降り落としていた空が一変する。突然の豪雨に見舞われ、雷と風が会場を襲った。山の天気のように急激に変化し、お客さんは一斉に雨宿りを始める。
悪天候のため、ライブを一旦中止する会場も。それを告げるアナウンスが虚しく響いていた。神聖かまってちゃんはギリギリ演奏できた。色んな意味でギリギリだった。それだけでも運が良かったのかも知れない。神聖かまってちゃんが嵐を呼んだ、というか実際に嵐が来てかなり困った。そんな光景が目の前に広がっていた。
マリンスタジアムの屋根の下で待機していると、向かい側のSIDE-SHOW MARINEの楽屋テントの下にの子の姿があった。あっけにとられた様子で人気のない会場を見渡し、雨を眺めていた。印象的だった。遠足が中止になったのを聞いた子どものように、妙に寂しくて素朴な姿だった。

しかし、この後は渋谷でもライブがある。深夜イベントの一番目の出番、23時頃に出演する。
当然、不完全燃焼なのはメンバーだけではない。渋谷LUSHに着くと、サマソニの会場でも見かけたお客さんがちらほら。皆さん、NINE INCH NAILS、APHEX TWIN、MOGWAIでもなく、SHINSEI KAMATTE-CHANを選んでいた。
それは間違った選択ではなかった。
ここで彼らはサマソニを挽回するような演奏をしたのだ。

1曲目の『ちりとり』から何かが違った。今までに観たことのないような神聖かまってちゃんの演奏であり、「しかしだ!あなたは僕の心までちりとっちゃったのです!」という声は幕張で聞いたものとはえらい違いだ。
5時間ほど前にやる予定だった『23才の夏休み』を披露。歌っている途中でズレ落ちたヘッドセットに怒り、勢い余ってなぜかマイクスタンドを蹴り倒すの子。『ロックンロールは鳴り止まないっ』ではギターを持ったまま客席にダイブ。そのとき、ナタリーの社長・大山卓也さんの脛にの子の頭が激突したようで、後にツイッターでつぶやかれていた。
の子はMCで「サマソニのことはもう忘れた!どうでもいい!」と言いながらも、「僕もエイフェックス・ツイン観ようと思ってたけど、ここ来ちゃってさ。ショック受けたんだ」と色んな未練を抱えている。不完全燃焼をすべて無かったことにさせるくらい、爽快な演奏が続く。
の子はまたもや自分でチューニングできず、ちばぎんに任せていた。その間、手持ち無沙汰になったステージではみさこが何気なくドラムでリズムを刻み、それに合わせてmonoが踊りながらラップ調に歌う。
「サマ・ソニ・失・敗!サマ・ソニ・失・敗!」
無気力な笑い声がライブハウスを包む。

最後は『夕方のピアノ』で「死ねーー!!」と何度も連発。「お前のことさぁーー!!」と叫び、鬼気迫る演奏を見せつけた。サマソニで嵐を呼んだ後、その嵐に乗って渋谷に来たかのような。雨と雷は落とさず、かっこいい音を落としていった。これこそが完全燃焼だ。「これをサマソニでやってくれたら…」と誰もが思ったに違いないだろうけど。予定調和ではないライブ。サマソニと渋谷のどちらも、間違いなく神聖かまってちゃんのありのままの姿だった。
渋谷LUSHは地下なので、配信はできない。客席最前でビデオカメラで撮影した。僕もサマソニを挽回したい気持ちがあった。配信の失敗は自分も関与している。2ちゃんねるでもこのように指摘されていた。

842 :無名さん:2009/08/07(金) 18:43:07
メンバーも竹内ももっとニコ生について勉強しとくべきだったな

一世一代の大イベントで、ちょうどライブだけが配信できないとは。遠方に住むファンの方々はパソコンの前でどれほど待ち望んでいたことだろう。反省の意を込めて、深夜イベントに居座ることなく、終電に飛び乗って家に帰る。さっそくサマソニ、渋谷LUSHのライブ映像をアップロード。
サマソニの動画は「文化祭レベル」「ヘタクソ」「こんなのでサマソニ出れんの?」などと叩かれたが、渋谷の動画は「サマソニリベンジ」といったタグがつけられて賞賛を浴びていた。
どちらもあるからこそ、神聖かまってちゃんなのかも知れない。たった一日で彼らの色んな面を目の当たりにし、配信というインターネットの荒波に巻き込まれた。
夜、サマソニに出る海外バンドよりも、このバンドを選んだのは正しかった。リアルとネットの狭間で揺れ動くこんなバンド、いまだかつてあっただろうか。その真髄をこの日初めて観た気がする。これほどまで刺激的な体験はないし、無気力な笑いに包まれることはない。
の子は配信の失敗を悔しがっている様子だったが、後に映像をアップロードできたことが嬉しかったようだ。ど素人のカメラマンの撮影を「マジでプロ並みです!」と褒めてくれて、こちらも嬉しかった。これは「プロではない」という意味でもあるが。

やがて、の子は9月21日のオシリペンペンズとの共演を決断する。

これがまさか、流血沙汰になるとは。


~続く~

2011年12月22日木曜日

【連載】神聖かまってちゃん物語~第4話「こんなの全然ロックじゃねえよ!!」~

神聖かまってちゃんがサマソニに?

平均集客数7、8人のバンドなのに?ボーカルが警官に補導されたりするのに?ライブで『アラレちゃん音頭』を歌って踊ったりするのに?
信じられなかった。
『神聖かまってちゃん、サマソニ出演決定!!』
昼ご飯中、友人のmixiでそれを知ったとき、頬張っていた焼きそばを噴出しそうになった。ウソだろ、と。なぜなら数日前、劒さんに『出れんの?!サマソニ?!』オーディション時の話を聞いていたからだ。渋谷O-eastまで劒さんがベーシストのバンド・あらかじめ決められた恋人たちへのライブを客として観に行ったときのこと。
「いやー、の子くんがエフェクター全部家に忘れてきてね…」
うっわあ。なにやってんだ。人生一度あるかないかの勝負時になんでそんなことになるんだ。の子は『夕方のピアノ』をボーカルエフェクター無しで歌ったという。「死ねー!!」と生声で叫ばれるオーディションは一体どのような空気だったのか。こんなので受かるはずがない。投票数を多く獲得し、最終審査まで行けただけでもういいじゃないか。と、半ば諦めていた。それがまさかの。
「みっちー、あなたの目は正しかったね!」
劒さんからメールが届き、サマソニ出演決定という現実をようやく受け止めた。僕の目ではなく、審査員の目がぶっ飛んでいるのだろう。ライブを一ヶ月に一回やるかやらないかのバンドが巨大ロックフェスにいきなり出るなんて、夢のような話だ。
ポップカルチャーのニュースサイト・ナタリーでも取り上げられた。
『サマソニ一般応募枠にEES、神聖かまってちゃんら16組』
最も集客数の少ない無名のバンドが、なぜか記事のタイトルに。これはナタリーの社長・大山卓也さんがツイッターで「神聖かまってちゃんが気になる」と呟いたことが関係しているのだろうか。ナタリーに気に入られると、一気に飛び火しそうな予感がする。
その夜、神聖かまってちゃんは配信をしていた。サマソニ出演決定を告げるニコニコ生放送。そうなんだ。ほんとに出るんだ。うっわあ。リスナーからは「ぶちかませ」「伝説を作れ」「サマソニで脱げ」などと激励されていた。この状況、奇跡としか言い様がない。
みさこからメールが届く。の子がサマソニのライブをどうしても撮影してほしいという。その日、平日だ。出番は夕方頃らしいだけど、間に合うのか。仕事を休めるかどうかも分からない。その後、の子からも連絡があった。
「絶対やらかしますんで俺!!」
もう、仕事を休むしかなかった。その瞬間を見逃すわけにはいかないし、撮らない理由はない。

数日後、柏で再び神聖かまってちゃんのメンバーと会うことになった。
の子は僕の友人が某テレビ番組で取材されているのを偶然見たことがあり、興味を持っていた。その友人2人と僕とメンバーとで『飲み会配信』をしたいと打診され、行なうことに。
いやしかし、の子にとって"飲み会"なんて最も苦手な場じゃないのか。みんなでわいわいとする場なんて耐えられるのだろうか。だけどこの頃、彼は配信のネタを探しに探しまくっていた。ネタの一つとして捉えると、別に心配しなくてもいいのだろうか。
「竹内さん、本名とか働いてる会社の名前とか、配信で言っちゃマズイことってあります?」
千葉へ向かう前、の子から電話があった。配信に出てもいいか尋ねられ、意外な細かい気遣いと、律儀な態度に驚いた。配信やライブなどでは"キチガイ"と形容される行動もあるが、やはり彼は正常な意識を持っているのだろうか。そして「みさこって奴がいきなり喋るかも知れないんで、一応…」と、みさこがなぜか危険人物とされていた。

柏に着き、友人と合流。ちょうどその日、柏駅西口では『柏まつり』が開催されており、多くの家族連れで賑わっていた。大音量で音楽が鳴り、とにかく騒がしい。車道が渋滞しているようで、遅れて神聖かまってちゃんメンバーが到着。みさこだけがまだ少し遅れるという。
もはやサマソニ出演者となった神聖かまってちゃん。だけど、やはり柏の風景に馴染む、どこにでもいる若者たちに見えた。
唯一おかしいのは、開いたノートパソコンを手に持っていること。
そして、の子の腕。
ズタズタに切り刻んだ傷が大量にある。
ビックリした。遠くからでも分かる。畳の模様にも見えるくらいのおびただしい傷だ。木村カエランドで会ったときは一つも無かったのに、一体どうしたんだ。
少なくとも、転んで擦り剥いたような傷ではない。
アームカットというやつだ。
自ら切り刻んだものだと誰が見ても分かる。
以前、アームカットをするような女の子と一瞬だけ付き合っていたことがある。知り合ったのが春先だったので長袖を着ており、付き合うまでは気づかなかった。それはもう大変だった。躁鬱が激しく、1時間のうちに人格がころころと変わる。都合の悪い状況になると、「私、死ぬよ」と自分を人質にする。
早い話、"かまってちゃん"だった。
危険を察知してすぐに別れたが、その後、深夜にかかってきた電話は忘れられない。「竹内さん、月がキレイだよ」「竹内さんの家に包丁がなくて良かったね」と、ロマンチックと狂気を併せ持った内容にいちいち震えた。腕の傷を見たことにより、その恐怖を思い出してしまった。
「今日は飲みましょう!」
の子は笑顔で話しかけてきた。いかにもリア充感溢れる飲み会と腕の傷とのギャップは計り知れない。胸元にも切り傷があった。心の傷を視覚的に訴えかけているように思えた。傷の多さに圧倒され、触れることはできなかった。monoとちばぎんは以前から知っていたのか分からないが、普段通りにの子と接していた。
それにしても気になる。穏やかではない姿だ。見てるこちらがヒリヒリしてしまう傷だ。

ちばぎんがパソコンを設定し、柏駅前での配信が始まる。順番にパソコンを渡され、配信に出ることになった。その様子を少し離れたところで、手を後ろに組んでなぜか紳士的な表情で眺めるの子。授業参観に来た父親のような佇まいだった。
配信ではリスナーからの容赦ないコメントが流れる。の子は「ハゲ」、monoは「アゴ」、ちばぎんは「脱退しろ」、みさこは「黒乳首」と書かれようが、喋り続けなければならない。「新曲、いまいちだった」などと、アーティストがリスナーの正直な意見と向き合うことなんていまだかつてあっただろうか。恐怖も危険性もたくさんあるだろう。ウェブカメラの前に姿を現した瞬間、叩き台となる。僕が映ったときに流れた文字がそれを物語っている。
「いまのところイケメンなし」
本当にごめんなさい。

「今から俺、祭りの中で"あるてぃめっとレイザー!"とか叫んでくるんでちょっと待っててもらえますか?」
の子がノートパソコンを持ち、突如として『祭り配信』がスタート。祭りの中へと消えていく。monoとちばぎんも「すいませんね…」と言い残し、の子を見守るようについていく。子どもから老人までが輪になって踊る中へ向かっていく。「おしっこがー!おしっこがー!」などと楽しい祭りの風景をさぞかし一変させたに違いない。やがて約30分後、の子がなぜか上半身裸になって帰ってくる。思う存分に叫んできたのか、若干疲れている様子。それでも瞳孔は開き切っていた。
その後、大型チェーンの飲み屋に入る。の子はパソコンを手に持ち、上半身裸のままだ。店員さんが「着ていただかないと、ちょっと…」と入店を拒む。そこで、の子とちばぎんの言い争いが始まった。
「服着ろよ!」
「絶対着ねーよ!!」
説得するちばぎん。なぜか頑なに拒むの子。聞き分けのない子どもと、それに振り回される父親。そんな関係にも見えた。祭りの近くの飲み屋だけあり、次々と家族連れが入ってくる。その人々の目には、上半身裸、そして傷だらけの腕でノートパソコンを持っているの子の姿がどう映ったのだろう。あそこまで露骨に「見ちゃダメ!」といった様子で子どもの目を覆い隠す母親を初めて見た。正しいと思う。
店内が忙しいのもあり、やがて上半身裸のまま自然に入店することになる。店員さんに「あとで着るんで…」と小声でお願いし、ようやく本来の目的である『飲み会配信』の場へ。店の個室に入る。
が、電波が届かないのか、突然配信がストップする。戸惑うの子はmonoにパソコンを預け、配信を復帰させようとする。「なんだよこれ、分っかんねー」とmonoが困りながらパソコンをいじっていると、注文した飲み物が届く。
結局、配信は諦めることに。その瞬間、ちばぎんに電話で道案内されていたみさこがようやく駆けつける。なぜかボブのウイッグをつけており、配信に出る気満々だったようだ。見事に空回りしていた。

メンバーも飲み物もすべて揃ったということで、配信は無い、単なる飲み会が始まる。
まずは乾杯。彼らにはちょうど祝いごとがあった。
「サマソニ出演決定、おめでとうございまーーーす!!」
「うぇーーーい!!」
の子は元気いっぱいだった。腕の傷を忘れるくらいの笑顔を見せていた。
個室といっても隣には主婦グループのテーブルがあり、すでにアルコールででき上がっている。横から「おめでとーー!!」となぜか乾杯に参加してきた。
「サマーソニックって知ってるんですか?」
「知らなーーい!」
主婦たちは完全に酔っ払っている。ノリノリだ。旦那や子どもの愚痴などで盛り上がっていたのだろうか、彼女たちのチームワークは半端ない。「B'zとか出るんですよ」と教えると「すごーーい!」と反応。そこでの子が「俺、B'z大好きなんですよ!」とやたら主婦に絡もうとする。
「誰がボーカルなの?」と尋ねられると、「あの人なんですよ!」との子が僕を指差す。信じてしまった主婦の一人が興味津々に絡んでくるので、神聖かまってちゃんがいつの間にかギターボーカル・竹内、ベース・ちばぎん、ドラム・みさこというスリーピースバンドとして認識された。そのまま作り話を盛り上がらせ、ついにはスペイン語で歌うバンドに。「歌ってよー」と言われて困っていると、ちばぎんが助け舟を。
「ま、そんな感じのインストバンドです」
ボーカルはどうした。
「インスタントバンド?」
主婦は聞き間違えていた。

普通に飲み会として、メンバーと楽しいお酒を飲めた。サマソニ出演決定についての話から、昔のライブの話まで。の子は僕の友人と喋り続け、monoはノートパソコンをいじりながら会話に参加し、ちばぎんとみさこはよく笑っていた。

しかし、1時間ほど経過したあたりから、の子の様子が次第におかしくなっていった。

先ほどまで楽しそうにしていたはずなのに、ふと見ると、彼の身体が固まっている。
表情がフリーズしている。
パソコンで言うと砂時計が表れたような姿になっていた。
彼の手元には精神薬があった。楽しそうに喋るメンバーを虚ろな目で観察しており、不穏な空気が漂い始めていた。
メンバーと友人らも僕も、その空気を察知しつつも、どう接すべきなのか分からない様子だ。FMおだわらのラジオ出演同様、見るからに鬱状態。でもこの日は、収録時とは比じゃない。一触即発のムードがあった。導火線の短い爆弾が突然放り込まれたような飲み会になっていた。腫れ物に触れないようにする分、の子が孤立していくように思えた。
みさこはそれを気に留めながらも、笑顔での子に話を振る。
そこで爆発してしまった。

「ああ?なに見てんだ。なんだこのやろー。おい!ああ?!てめーらなんなんだよこのやろー!!ふざけんじゃねーぞこのやろーー!!!」

突然、の子の怒鳴り声が店内に響く。

一瞬で凍りつく空気。
静まる店内。
隣の主婦グループのグラスを持つ手が止まる。後ろの個室の家族連れも一斉に反応する。
それくらいの大きな声で、の子は怒鳴り散らした。
「おめーら、人がどんな気持ちなのかわかってんのかこのやろー!!」
ライブ中、いや、それ以上のシャウトが飲み屋を支配する。その怒りはメンバーに向けたものであるが、真意は掴めない。早く帰りたくなったのか、配信ができなかったことへの不満なのか、この空気が耐えられないのか。一体どうしたのだろうか。
模索する間もなく、の子は何度も怒鳴り続ける。
「なんなんだこれ!つまんねーよこのやろーー!!」
「俺だって早くお開きにしようと思ってたよ!!」
monoが反論する。の子の怒りは収まらず、歯を食いしばる。そしてまた怒鳴る。先ほどまでの表情とはまるで違っていた。monoからノートパソコンを奪い取り、配信していないのにも関わらずそのまま手に持って叫び続ける。
「なんでお前ら人の気持ち何もわかんねーんだよ!!」
「じゃあちゃんと言えよ!!」
ちばぎんも怒鳴って反論する。「言えよって、わかるだろ!!」と、の子は僕と友人の視線を気にしながらメンバーに訴え続けていた。何が言いたいのかは分からないが、苛立っている気持ちは十分伝わる。
その姿は見ていてヒリヒリする。恐さよりも切なさが勝っていた。みんな理解しようと思っているが、誰にも理解できない。本音を一言話せばいいだけなのかも知れないが、それが出来ないでいる。配信などではたくさん喋っているが、彼は実のところ、本当に言いたいことは何一つ言えていないのかも知れない。だから態度で示すが、相手には伝わらない。ただ、溜め込んだ感情が裂け目から沸騰し、ぶちまけられる。求める気持ちから生じる摩擦の火を、一人で起こしている。それが今、激しく燃え上がり、炎上している。メンバーも彼の気持ちを汲み取ろうとしているが、その量があまりも大きく、抱えきれないでいる。
腕の傷もその一つなのだろうか。
怒りでブルブルと震える腕が抱えるものは、ノートパソコンと傷。細い腕一本で、たくさんの表現欲求と大きな痛みをすべて背負っているようにも思えた。
突然の怒鳴り声で凍りつく飲み会。
こんな状況で不謹慎だが、なぜかライブを観ている感覚に陥ってしまった。

「こんなの全然ロックじゃねえよ!!!」

の子は大きな声で怒鳴り、個室を出ていった。

驚いた。
素でこんなことを叫ぶ人なんているのか。絵に描いたようなキャラクター。そしてなぜか胸に響く叫びセリフ。
映画でもライブでもない、日常で、こんな言葉が聞けるとは思わなかった。
まるで物語の中に放り込まれたかのようだ。
こんな状況で言うのもなんだが、痺れてしまった。

しかし、彼は出ていく方向を思いっきり間違えていた。

「出口逆だよ!!」
ちばぎんのツッコミが空しく響いた。これは恥ずかしい。の子は店の奥まで歩いていってしまった。せっかくかっこいいことを叫んだのに、逆方向へ歩いていくの子の姿を再び見ることになるなんて。隣の主婦グループは「なんなのかしら急に。カンジ悪いわ…」と場の空気を悪くさせたの子への愚痴をこぼしつつ、飲みを再開していた。
程なくして、の子の姿が。
なんと、再び個室に戻ってきた。

彼はイライラした様子で「なんなんだ…なんなんだよちくしょう…」と呟きながら、片手でズボンのポケットを弄り始めた。
すると皺くちゃの千円札が二枚出てきた。それをテーブルの上に無造作を置く。
これは会計か。出口を間違えたのをいいことに、律儀にも飲み代をわざわざ払いに戻ってきたのか。

「人生は一度きりしかねえんだよ!!!」

再び大きな声で怒鳴り、個室を出ていった。

が、また出ていく方向を思いっきり間違えていたのだ。

「出口逆だよ!!」
再びちばぎんのツッコミが。
まさかの天丼。
今度はさすがに笑いが生まれ、場の空気が和らいだ。

怒りをぶちまけた熱血人生劇場が、いつの間にかコントに。
これはの子の天然なのか、それとも場の空気を悪くしたせめてもの償いなのか。突然のサービス精神に度肝を抜かれた。せっかく痺れたのに、感動を返してくれ。そして行き止まりに気づいたのか、数秒後に逆方向に歩いていく彼の姿。それはなんとも情けなく、おかしい。そして妙に愛おしかった。
緊張感を覚えた分、同じくらいの安堵感を得た。そして苦い気持ちになった分、同じくらい笑ってしまった。
なんなんだ、この人は。

「すいませんね。俺ら、追っかけないといけない感じなんで…」
ちばぎんが謝り、メンバー3人が席を立つ。ノートパソコンを持ったまま店を出ていったの子を追いかけるという。重たい空気を背負いながら荷物をまとめるmono、ちばぎん、みさこ。の子が置いていった皺くちゃの札に重ね、会計を先に払おうとする。の子のあまりの癇癪が気になり、ちばぎんに尋ねた。
「こういうことって、よくあるんですか?」
「まあ、年に何回かって感じですね…」
ため息まじりに呟いた。monoは「はーー」と落ち込んでいる様子で、みさこは何も言わずにそのまま出ていった。結局、みさこのボブのウイッグは何の役割も果たしていなかった。
こうして、神聖かまってちゃんが嵐のように去っていった。

その後、友人2人と先ほどの出来事を語り合った。
あれは一体何だったのか。何に対して怒ったのか。二度目の出口の間違えはわざとなのか。いや、あれは実は配信が止まっていなくて、作為的なものだった。いやいや、配信はやっぱり止まっていた。天然だろう。いや、計算だろう。というかそもそも、みさこのボブのウイッグは一体何だったのか。
「なんだか、ライブ観てるような感覚だったね」
「怒鳴り声は恐かったけど、なんか、かっこよかった」
話題は尽きなかった。
そんな中、突然、の子が個室に戻ってくる。
ものすごいスピードで歩いてきたが、とてつもなく神妙な面持ちだった。
「さっきはマジですいませんでした…いやほんと、マジですいませんでした…」
傍に座り込み、何度も何度も謝ってくる。「いやいやいや」とこちらもなんとなく謝る。彼の本心に気づかなかったのはメンバーだけでなく、当然僕らにも責任がある。それでも「ほんとすいませんでした…」としきりに謝り続け、こちらが申し訳なくなってくる。
たったの数時間で、の子のあらゆる表情を見てしまった。
不器用だが、自分の感情に素直だ。はつらつとした笑顔と、震えるほど怒りに満ちた顔。飲み会と、腕の傷。あらゆる両極端がそこにあり、バランス感覚さえ感じた。ライブのような迫力だった。生々しい人間模様を見た。神聖かまってちゃんを知って初めて、の子の心の痛みを感じてしまった。
「じゃあ、メンバーが車で待ってるんで…また会いましょう」
の子は後悔と反省に包まれたような表情のまま、個室を出ていった。

あっという間に過ぎていくすべての出来事に、ただただ圧倒された。
音楽とは関係ないところなのかも知れない。
単なるワガママなのかも知れない。
だけど、あそこまで人との摩擦を肌で感じさせる人を見るのは初めてだ。それほど自我があり、求めていることが大きいのだろう。それが音楽に繋がっている。『いかれたNeet』で歌われている通り、の子の音楽は日記そのものだ。人間性や精神、記憶や想像すべてが直結しているように思う。
ますます、神聖かまってちゃん、そしての子という人が気になった。追求したくなった。
僕と友人らは見事に終電を逃し、ネットカフェで一夜を過ごす。ネットの神聖かまってちゃん関連の掲示板で見る限り、やはり配信は個室に入った時点でストップしていたようだ。
「こんなの全然ロックじゃねえよ!!!」
「人生は一度きりしかねえんだよ!!!」
あれは演技でも何でもなかった。
の子は本当にロックを求めていた。そして、誰にだって人生は一度きりしかない。どちらも間違いではないのだ。
あの叫び声を、きっと忘れることはないだろう。

やがて朝になる。
始発で帰ろうと、外に出た。昨晩の祭りの賑やかさとは打って変わり、柏駅周辺は静寂に包まれていた。そこら中にゴミが散らばり、空は青く、夏の朝日が光り輝く。日光により、一瞬で退色したかのような駅の看板。荒れてはいるが、どこか清々しい。
まるで台風が去った後のようであり、神聖かまってちゃんが去った後のようだった。

その台風はやがて巨大な暗雲と嵐を引き連れ、千葉県の幕張に到達する。

サマーソニック2009の当日がやって来た。


~続く~

2011年12月11日日曜日

【連載】神聖かまってちゃん物語~第3話「なんで俺だけグラサンかけてんの!?」~

劒さんは神聖かまってちゃんにかまおうとしていた。

今度、会社をやるらしい。マネージメントの仕事を始めるそうで、名刺を貰う。そこには『恋愛研究会。』と書かれていた。これは劒さんが大阪時代から所属していた集団の名前でもある。あの頃から絶対恋愛を研究する気ないだろうと思えるイベントばかりやっていたけど、まさか会社名になるとは。
劒さんとは、お互いが上京する前からの知り合いだ。いつの日か、東京の街で自転車を二人乗りしたことがある。
「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかなあ」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」
金子賢にも安藤政信にも程遠いビジュアルの二人だが、渋谷から下北沢までの道すがら、映画『キッズリターン』のセリフを呟いてみた。
「もう終わっちまった…とかだっけ?」「始まっちゃいねー。とかでしたっけ?」
二人ともうろ覚えだった。終わっても始まってもいないストーリー。それは都会に出てきた二人にも言えることだし、下北沢・渋谷屋根裏でしかライブをやらない神聖かまってちゃんにも言えることなのかも知れない。
スーツをビシッと着込んだ大人が携わるより、劒さんのようなクセ毛の人が関わるほうがきっと面白い。そして才能を見抜く人だ。また、ステージ映えするベーシストでもある。
「仕事として、面白い人たちをマネージメントしていこうと思っててね」
劒さんが神聖かまってちゃんに興味を持ったことが何よりも嬉しかった。僕は、上京するときの深夜バスの車中、彼が「都会でも頑張ってね。」と一言メールを送ってくれたことを忘れていない。
渋谷LUSHのカウンターで、僕が勝手に作った"神聖かまってちゃん宅録音源CD-R"を渡した。1曲目が『雨宮せつな』という、こだわりの選曲だ。ここに神聖かまってちゃんの魅力が詰まっている。
後日、劒さんからあのときのように一言メールが送られてきた。
「23才の夏休み、最高。」
こんなメール、いまどき高校生でも送らないだろう。どれだけ分かりやすい反応なんだ。それほど、気に入ったということなのだろう。

その頃、サマーソニック2009の一般公募枠のイベント『出れんの!?サマソニ!?』に神聖かまってちゃんが出演の応募していた。ある程度の順位まで上りつめると、次の審査にいけるらしい。
だが、応募のプロフィールにはなぜか『ガールズバンド』と書かれていた。ガールは一人しかいないだろ。しかも『平均集客数…7、8人』とはバカ正直すぎる。
この人ら、本気でサマソニに出る気あるのか?
それでも、mixi日記で投票を促した。それはもう、強引だ。お節介そのものだ。
「"投票する"を押すのです。押すだけでいいのです。押しましたか?おっ、いいですね!最高です!あなたとは一生関係が続きそうです!よろしくお願いします!」
胡散臭い業者のようなことをした。なぜなら、とにかく大舞台で彼らを見たかったのだ。しかし、いまだ知る人はほとんどいないバンド。7、8人しかお客さんが来ないバンドがサマソニに出るなんて絵空事だ。

6月25日、渋谷屋根裏で神聖かまってちゃんのライブがあった。
前回以上に興味を示してくれた人が多く、CD-Rを配った甲斐あってか、10人くらいの友人がライブを観に来てくれた。みさこに自慢げにそれを言うと、「竹内さんのお友達って病んでるんですね!竹内さんも病んでるんですね!」とまさかの反応を満面の笑みで言われた。
客席には劒さんの姿もあった。Perfect Musicという会社の社員の方を2人連れていた。僕は前回同様、ビデオカメラを後方から回し、神聖かまってちゃんのライブを撮影した。
これがもう、ある意味歴史に残るようなライブになった。
彼らは30分の枠であるにも関わらず、55分間もライブをした。しかし、演奏したのはたった4曲。の子が『アラレちゃん音頭』を踊ったり、monoとフリーラップバトルしたりと、とにかく自由気ままなライブだ。
の子はmonoに対し、「人生が中途半端!」「23年間生きてきて、お前は一体何をした?」と挑発。ラップバトルというより、単なる口ゲンカみたいだ。そして最終的にの子が放った言葉に、会場が笑いに包まれた。
「これが…ジャズだ!!」
なんかもう、めちゃくちゃだ。そのとき、劒さんの笑い声も聞こえた。

ただでさえ時間をオーバーしたライブをしているのに、ライブ後もずっとステージに居座ろうとするの子。彼をmonoとちばぎんが必死に取り押さえ、楽屋に連れていく。
「違う…もっと…触れ合いたかったんだよぉ…」
ステージ脇から聞こえるの子の声が切ない。ライブハウスは終始笑い声に包まれた。今までに見たことのない、グダグダなライブ。いや、これはライブなのだろうか。かっこよく言えば既成概念をぶち壊され、かっこ悪く言えばいい加減なコント。それでも、の子の個性がガンガン発揮されていたのは間違いない。これこそが、神聖かまってちゃんのライブの真髄でもあった。
最後はmonoがステージの中央で土下座し、謝罪。素晴らしいオチだった。

終演後、劒さんにみさこを紹介する。Perfect Musicの方々が神聖かまってちゃんと接触していた。
「これは10年に1度とか、そういうレベルではない才能。すぐに飛び火しますよ」
社員の方が言っていた。その方はポリシックスやレミオロメンを発掘した人と聞いていた。そういったグループと同じように、神聖かまってちゃんの名前が今後広まっていくのだろうか。
劒さんとの子のやり取りは印象的だった。
「君と友達になりたい」
「でも僕メール返事するの遅いし…mixiやってないし…」
なんなんだこの会話。

やがて、劒さんは本格的にかまい始めるようになった。"友達"になるための第一歩として。
千葉県の柏まで神聖かまってちゃんに会いに行くという。電話でそれを聞いた僕も、なぜか同行させてもらうことになった。
神奈川県からはるばる千葉県へ。電車に揺られて辿り着いた柏駅。
そこには神聖かまってちゃんのメンバー全員が集っていた。駅前の風景に馴染んでおり、普通の若者に見えた。
みんなで近場の居酒屋に入る。ラジオ収録以来、神聖かまってちゃんのメンバーと何もイベントがないところで会うのは初めてだった。みさこ以外の男性メンバーが全員喫煙者で、タバコの煙が遠慮なく充満していた。みさこが少しかわいそうに思えた。
2軒ハシゴして合計4時間ほど、ゆっくりと食事をし、お酒を飲んだ。
「この人は信頼できる人なんで…」
メンバーに劒さんを紹介した。劒さんとつながりのあるバンドとしてオシリペンペンズなどの関西のバンドの名をあげると、の子は大きく反応していた。世代が近いせいか、聴いてきた日本のバンドが似ているように思った。
劒さんは彼らのマネージャーになる第一歩として、まずは仲良くなろうとしていた。仕事の話というよりも、趣味や世間話を中心に話していた。対バンしたいバンドや、お互いの歴史など。なんでもない話だが、神聖かまってちゃんが好きな僕にとってはどれも興味深い話ばかりだ。
神聖かまってちゃんにはニートもいればフリーターもいて、会社員もいる。なんとなく、現代の若者がそこに集約されている気がした。monoはおとなしく、みさこはよく笑い、ちばぎんは気遣いができ、の子はバンドの舵取りをしていた。それぞれの役割とキャラクターがはっきりしているようにも思えた。
「撮ってくれた映像、あれ、めちゃくちゃ良かったっす。マジでありがとうございます」
YOUTUBEにアップした6月25日のライブ映像について、の子は律儀にお礼を言ってくれた。好きで撮ってるだけなので、まさか気に入ってもらえるとは思っていなかった。
の子はあれほどまでの魅力的な楽曲を、無料でネットにアップしている。「5000円くらい払いたいですよ」との子に言うと、「ええっ!うえっ!そんなこと言われたん初めてですよ…」と必要以上に顔を赤らめ、隣にいたちばぎんに助けを求めていた。結局、お金がなかったので払わなかった。

全員がリラックスして、色々な話をした。
の子がちばぎんにキラカードを借りパクしたまま再会した頃の話や、僕が以前ナンバーガール時代の田渕ひさ子のギターソロの映像を編集してアップした動画を、出会う前からの子とみさこがYOUTUBEで見ていた話まで。
そして、いつしか未来の展望の話になった。
劒さんが「いつか、ひきこもりの人をライブに来させましょう!」と語っていた。
ラジオの収録のときのような不穏な空気はなく、終始、和やかでいいお酒が飲めた。
神聖かまってちゃんにとって、良い夜になったのだろうか。そして、劒さんはの子と"友達"になれたのだろうか。
帰り道の電車内、劒さんが「どういうバンドと対バンしたらいいかな?」と尋ねてきた。
「toddleとか、前野健太とか、チッツとか…」「全部あなたの好きな人たちじゃないですか!」「でも、ロックフェスとかバンバン出れたらいいですね」
未知数の可能性を秘めたバンドの物語は、まだ始まったばかりだ。

その夜、神聖かまってちゃんの男性メンバー3人がの子の家で配信をしていた。みさこは翌日の仕事のため、欠席していた。
彼らは最近、配信媒体をPeercastからニコニコ生放送に移行した。そのせいか、Peercastのリスナーからは「戻ってきてほしい」「裏切り者」といったコメントが沢山寄せられていた。先日のみさこの単独配信は、合計来場者数が初めて1000人を突破していた。
配信はとても楽しそうな雰囲気で、柏での飲み会のことを伝えていた。の子は酒に酔ったのか、異常なほどハイテンションで「テカチュー(恐らく『ポケモン』のピカチューのこと)」と何度も叫んでいた。
その様子を見る限り、彼らにとって楽しい夜になったように思えた。神聖かまってちゃんにとって、新しい展開が生まれた。それを伝えるような配信だった。

一週間後。の子とmonoが、晴れて神聖かまってちゃんのマネージャーとなった劒さんに誘われて、横浜赤レンガパーク野外特設ステージで行なわれる木村カエラの野外イベント『GO!5!カエランド』に足を運ぶことになった。
ちばぎんとみさこは仕事の都合により行けなかった。劒さんの人脈により、ゲスト入場に。劒さんは「音楽をやっていて他のミュージシャンと繋がると、こうやってゲストとして入場することもある」ことを神聖かまってちゃんに伝えたい気持ちと、あと普通に木村カエラのライブを楽しみたかったようだ。ありがたいことに、これまた同行させてもらうことになった。
桜木町駅に待ち合わせの時間を守ってやって来たのは、monoと僕だけだった。
の子は一番遅れてやって来た。なぜかサングラスをかけており、海外の来日スターのような佇まい。一方で、遠足をずっと楽しみにしていた少年のようでもあった。避暑地に向かう観光スタイルにも見える彼の第一声は、半ば期待通り。
「おせーよ!!」
こっちのセリフだ。
「なんで俺だけグラサンかけてんの?!」
それもこっちのセリフだ。

何万人もの観客が一つの会場を目指して歩いていた。行き先は"カエランド"。その入口はなぜか口の形をしていた。そうなると出口は肛門なんだろうか。
大勢の聴衆に紛れて、の子とmonoが広大な会場を眺めている。
やがて木村カエラのライブが始まった。
自分たちはCブロックにいたが、木村カエラが「Aブロックの人ー!」と呼びかけると「わーーー!」との子が叫ぶ。違うよ。「Bブロックの人ー!」と呼びかけても「わーーー!」と叫ぶ。違うって。完全に浮いていた。そして肝心の「Cブロックの人ー!」と呼びかけると、叫ばず。無表情で固まっていた。なんなんだこの人は。

ライブは夕方から夜まで続いた。途中、の子らと離れ離れになったが、最終的には同じ場所に合流して落ち合うことに。の子は知らぬ間にメガネを着用しており、「いやー、あまりにもライブが良かったんでそのへんでメガネ買ってきましたわ」と。物販で売ってるわけがない。
その後は会場外に設置されていた"誰でも木村カエラになれる"といった顔ハメ看板で、monoが顔をはめた。残念ながら木村カエラにはなれなかった。
テントで食事し、神聖かまってちゃんの配信や音楽についてゆっくり語り合った。劒さんに「今度お金払うから、二人にビールおごってやって」と頼まれたので、おごった。その後、劒さんからお金を払われることはなかった。
monoは、話しかけなければ一切言葉を発しないほどのシャイボーイだ。の子は必要以上に気を遣う人のように思えた。配信は、時折言葉が刃のように飛び込んでくる。それを自ら受けて立ち、やり抜くのは勇気でしかないのだろう。 木村カエラのライブ会場にいる観客の中で、誰よりも普通に見える二人だが、他の人には出来ないようなことをやっている。危険な思いをした配信や、これまでの活動のこと、そして木村カエラのライブの感想を話し合った。
この日のライブは当然、木村カエラが目当ての人ばかりだ。
だけど、僕にとっては神聖かまってちゃんが一番のスターだ。誰にも信じてもらえないだろうが、この中学生のような青年と、アゴが長い青年が、スターなのだ。横から見ると二人とも三日月に似てるとかではない。
彼らがいつか、あのステージに立つべきなのだ。
木村カエラのライブ中、ここで神聖かまってちゃんが演奏する姿を想像していた。
『いくつになったら』の歌詞を思い出す。

「僕はいつか 東京のど真ん中で 何千人の前で 存在をみせてやる」

いつか、それが現実になる日が来るのだろうか。
の子とmonoは「横浜の街をもう少し楽しみたい。あと、バーで飲みたい」とムーディーなことを言っていたので、そのままお別れする。時間は22時過ぎ。二人とも千葉に帰る気はあるのだろうか。

数日後、仕事の昼休み。
会社でご飯を食べながらボーッとmixiを覗いていると、友人の書き込みに思わず噴出しそうになった。
待ち望んでいたことなのに、思わず目を疑った。

『神聖かまってちゃん、サマソニ出演決定!!』


~続く~

2011年10月29日土曜日

【連載】神聖かまってちゃん物語~第1話「死ねー!!」~

"かまってちゃん"はこの世の至るところに存在する。

誰かから突然電話がかかってくる。
「ちょっと聞いてよ」と話し始める。用事があるわけでもなく、人は電話をかける。
誰かに話を聞いてほしい。自分のことを分かってほしい。存在を知ってほしい。
生き物はすべて、生まれて、死ぬ。食べて、寝て、繋がって、それだけで十分なはずだ。それでも、自己顕示欲というものはなぜか日々拡大していき、時代とともにそれが反映される場所が多くなった。
ブログ、ミクシィ、ツイッター。
すべては一人でいるときに更新され、 話す相手がいなくとも、そのときの気持ちや状況がインターネット上に流れていく。それが問題になったり、事件になったり。出会いがあったり、距離が生まれたり。
すべては"かまってちゃん"であるからこそ、人と人との間には絆ができたり、亀裂が入ったりもするだろう。
母親を求めて子どもが大声で訴えかけるように、赤ん坊が泣くように。
愛がなければ生命は誕生しないし、殺人も起きない。愛ゆえにかまってほしく、かまわれないとき、人は暴発してしまう。
人類は皆、少なからずは"かまってちゃん"であるはずだ。
そんな人間の普遍的な性質を体現するバンドがいた。
それが"神聖かまってちゃん"だ。

「なにそれ?し、ん、せ、い?かまってちゃん?」
2009年3月。友人からの電話で初めてそのバンド名を聞かされたとき、鼻で笑った。なんて奇をてらった名前なんだ。
だけど、その友人が日本のインディーバンドを薦めることは今までになかった。
「このボーカルの"の子"って奴、俺はすごい奴やと思ってるんやけど」
友人自身もかまってちゃんなんだろう。自分の大好きなバンドを薦めてくるなんて。
だけど、Perfumeを誰も口にしたことがない頃から絶賛し、映画から音楽、文学から漫画まで、幅広く日本のカルチャーのアンテナが鋭い友人のバトンは、正しいはず。きっちり受け取りたいと思った。
電話中、YOUTUBEで検索した。
すると『夕方のピアノ PV 神聖かまってちゃん』という動画が出てきた。

「死ねよ佐藤 おまえのために 死ねよ佐藤 きさまのために おまえはいつでもやってくる しらない嘘をついて 死ね 死ね 死ね 死ねー」



なんなんだこれは。
この歌っている人は"佐藤"と一体何があったのだ。変声期前の子どもような甲高い声で、延々と「死ねー!!」と連呼していた。ここまで率直に「死ね」という言葉が何度も繰り返される曲は初めて聴いた。
そして、夕暮れの空をずっと映している中に「死ね」が響くことにセンスを感じた。
「あっ…その曲から聴いてしもたん?俺的には『ロックンロールは鳴り止まないっ』から聴いてほしかったんやけど…」
友人としては、『夕方のピアノ』を聴くと僕に引かれると思ったらしい。残念ながら、惹かれてしまった。
夕暮れを映すカメラが大きく揺れ、感情を表しているように思った。終盤、ボーカルの叫び声がリコーダーの音に変わる。途中にランドセルを背負った登校もしくは下校中の小学生の後ろ姿の映像が挿入されており、この曲は小学生時代の何かを思い出させてくれた。
「死ね」なんて最近、口に出したことない。
だけど小学生の頃、何度か口に出した覚えがある。
給食袋を蹴ってくる奴。いきなりボールをぶつけてくる奴。順番を抜かす奴。意味もなくケンカをふっかけてくる奴。
そして、お母さん。
単なる憤りからくる「死ね」もあれば、愛ゆえに、愛を求めるがあまりに感情的になって「死ね」と口にした覚えがある。実際、そこまで真剣に死ねだなんて思っていない。だからこそ言葉だけが鋭く尖り、相手にはぶつかってしまう。
そのとき、『夕方のピアノ』のような夕暮れ空が広がっていたかも知れない。遠くで誰かがリコーダーの練習をしていたかも知れない。そして下校時間、音楽室から流れてくるピアノの音を思い出した。
この曲は暴力的でもなく、攻撃性を帯びているわけではない。
小学生の頃を思い出し、切なくなってしまった。
途端に、この楽曲を作った"神聖かまってちゃん"が気になって仕方なかった。

「これはおもしろい!やばいな!」と友人に言い、他の楽曲もYOUTUBEにPVが上がっているため、電話を切って片っ端から再生した。
『ロックンロールは鳴り止まないっ』のPVを見た。
なんなんだ、この歌詞の乗せ方と、初期衝動を蘇らせるかっこよさは。
往年のロックミュージシャンの映像と誰かの目のアップとが交互に挿入されている映像。それだけで忘れかけていた何かを目覚めさせるような演出になっており、手作り感溢れ、素人感満載の映像なのに、訴えかけてくるパワーが半端ない。
ほとんどが何かしらの権利に違反している映像だ。勝手に流すとYOUTUBEで削除されるようなものなのに、これらの映像でなければ決して表現できないものが目に飛び込んできた。
このバンド、一体何なんだ?
インターネットで検索をする。『子供ノノ聖域』という自主的に作ったサイトが見つかり、すべてが表示されるのに何分間かかかるほど、重い。必要以上にYOUTUBEの動画を埋め込み、半ば暴力的なレイアウトになっている。
画像を見つけた。
これが、初めて見た神聖かまってちゃんの画像だった。


メンバーは4人。
幼稚園からの同級生であるの子、mono、ちばぎん。後からメンバー募集で加入したみさこ。曲、そしてPVはすべて、この後ろでヘナッとした表情で突っ立っている男、の子が制作しているらしい。
後日、彼らのことを教えてくれた友人から電話がかかってきた。
そこで気になることを尋ねた。
「の子って、何才?」

彼は2才だった。
とはいえ、実際の年齢ではない。友人が彼らを知ったのは、2ちゃんねるの『ニュー速』と呼ばれるスレッドで、の子が『2才』というコテハン(固定ハンドルネーム)で書き込みを続けていたのを目撃したからだ。
『バンド板は本当低脳しかいないよね』
などとケンカを売ったスレッド名を立ち上げ、そこで自ら制作した曲のPVを貼り付けては批判・中傷を受けていた。無理もない。ケンカを売れば買われるのは当然のことだ。
友人は生粋の2ちゃんねらーであり、当然、売られたケンカを買うような目線で2才を見ていた。しかし、開いてみたその楽曲が予想外にキャッチーで、自分でも不思議なくらいに魅力にとりつかれていったという。
「その頃、ほとんどが否定側にいたのに、どんどん肯定側が増えていく光景が面白かった」
友人が話すのは、インターネット上の話。
そもそも、2ちゃんねるはイメージとしては少し恐い場所だ。好きなバンドのスレッドを見ては、悪口や批判ばかり。心を痛めるのを覚悟で覗くことが多かった。2才はそんな場所で宣伝をし、自己顕示の塊のように書き込みを続けていた。
まさに「かまってちゃん」だった。
だけど彼のバンドが「神聖かまってちゃん」。
それについては誰も批判できない。納得できるバンド名だったのだ。

「キチガイのフリした凡人で何が悪い!!
僕は特別になりたいんだ!
他になにもできないし何もないし結婚もできないし人生なんてなにもない!
音楽がなかったら本当になーんもないんだ!!!!」

2才はまるで本当に2才ではないかと思うほど、赤ん坊が泣いて母親に訴えかけるように、見えない相手にかまってもらおうとしていた。
空しさや、悲しみさえ感じさせる。
バカなのかも知れないし、イタイのかも知れない。
だけど、気持ちがむき出しなその書き込みの数々には、心を打つものも少なくはなかった。
「いまやライブハウスに行くような若者は少ない」
これには激しく同意した。
かねてからライブを観たり撮影するためにライブハウスに行くことが多い僕は、この事実には何度も直面した。
ほんとに一部の限られた人間しかいない。
好奇心旺盛なのか、貪欲なのか、はたまた日常に不満で、自分に付加価値が欲しいのか、ライブハウスに行くような人は非常に珍しい人種だと思っていた。
そこで2才はひとつの方法を提示していた。

「あっじゃあインターネットを使ったアイディアを一つだすよ!☆
僕はライブをする時家から出るのが本当にめんどくさいと思ってたんだ!
だから家からインターネットを通じてライブ感をいかに伝えられるかを考えた!!

今の時代の子供は自分からライブハウスに行くやつなんてそうはいないでしょ!??!?!?!
ロッキン音ジャパン祭りとか行くとか好きな彼氏のバンド見に行くとかなら別だけどさぁwwwwwwwwwwwwwwwwww
僕みたいな誰にも興味をもたれない人間がいかにオナニー現場をみせれっるかをこの蛆虫脳みそが考えたんだよ

色々ぐーぐるってリアル動画配信サービスとかを見つけたんだよ!
みんあここで家からライブすればいいんじゃないかな!!?!?!?!

これならバンドメンバーいなくても一人でできるよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あとは己の技量次第じゃhない!!?
この前僕がためしにライブするよってなのって自分の曲でライブやったんだけど音ズレが激しいらしいからちょっとむずかしかったよ!!
知らない人につまんねって言われた!!傷ついた
でもうまく使えばうまい事できると思うよ☆^@^
ここだよ☆http://www.stickam.jp/

これはまだニコニコ生放送やUSTREAMが一般化されていない頃、2008/05/27の書き込み。
彼はリアルタイム動画配信を薦め、Stickamから、やがてPeercastというマイナーな配信サービスで顔を出し、スタジオ練習風景を流し、歌を歌い、ライブをした。
これが、神聖かまってちゃんの歴史の始まりだった。

宅録で制作した楽曲のみならず、宣伝もすべて自宅から発信していく。
「家でライブ」 というその方法に興味を持った。
やがて彼は家から飛び出し、ノートパソコンを片手に配信を始めた。
YOUTUBEには、彼が新宿や渋谷でゲリラライブを敢行し、注意に来た警察官ともみ合う配信動画が上がっている。
警察官との会話の合間にも「DO,DA~♪」と歌っていた。
危ないし、おかしい。
だけど、すごくおもしろいよ、この人。

ライブの予定を見ると、一ヶ月に一度のペースでしか行なっていない様子だった。
情報を得ようとmixiで検索しても、『神聖かまってちゃん』コミュニティの参加人数は120人程度。PVがこれほどあり、『ロックンロールは鳴り止まないっ』の再生回数は1万回を超えているのに。それほど知られていないのだろうか。
早く彼らの姿を肉眼で見たい。
そう思い、4月23日の下北沢屋根裏のライブに足を運んだ。

仕事帰り、予約をせずに向かった。屋根裏の受付で目当てのバンド名を店員に尋ねられた。
「"神聖かまってちゃん"です…」
正直、恥ずかしかった。
周囲にはいかにもバンドマンな雰囲気の人たちがいる中、これほどまで一般的なバンドマンのイメージとはかけ離れたバンド名はない。あと30分で神聖かまってちゃんのライブが始まるらしい。受付の用紙を見ると、彼ら目当てで来た人は僕を入れて3人。人気、ない!そしてライブハウスに入ると、人、少ない!
自分を含めて7・8人くらいしかいないライブハウスは久しぶりに見た。
神聖かまってちゃんの時間が迫ってきても、恐らく対バンのバンドマンだと思われる人が何人か入ってくる程度。純粋なお客さんが少ない分、恐くなった。演奏後、拍手でも歓声でも、何かしらリアクションする人が少ない分、心細かった。
そんなことを思っていると、ライブハウスには似つかわしくない風貌の少年が入ってきた。
白シャツを着ており、どこにでもいそうな雰囲気の男の子だった。
開いたノートパソコンを片手に持ち、その顔はパソコンに光に照らされている。
そして彼は笑いながらパソコンに向かって喋っていた。
彼が神聖かまってちゃんの"の子"である。

まるで少年のように小柄なの子は、前のバンドの演奏が終わると、客席からステージに上がり、独り言をつぶやいているようにパソコンに向かって話していた。今までにライブハウスで見たことのない、異様な光景だった。
mono、ちばぎん、みさこもステージに上がり、セッティングをしている。の子はギターのセッティング以上に、パソコンに気を取られてずっと夢中で会話していた。
まるでパソコンが友達のように見えた。
音を鳴らし、確認する。
さあ、間もなく神聖かまってちゃんのライブが始まる。あの曲はやってくれるのか、どんなライブになるのか、何を見せてくれるのか。
まるで10代の頃に戻ったかのように、初めての神聖かまってちゃんのライブにドキドキしていた。
の子は突然服を脱ぎ始めた。
神聖かまってちゃんのライブが遂に始まった。

「裸になって何が悪い!!!」

の子は全裸だった。


~続く~