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2012年5月27日日曜日

神聖かまってちゃん@ROCKS TOKYO2012

神聖かまってちゃんが野外ロックフェスでトリ。昨年に続き、東京の新木場・若洲公園で開催されたROCKS TOKYO2012に今年も出演した。

この日の朝、の子は8ヶ月ぶりとなる新曲『おっさんの夢』をYOUTUBEにアップロードした。スーツ姿でサラリーマンに扮したの子がB'zの『love me, I love you』の稲葉浩志ばりのカメラ目線と動きで、大人になっても夢を追い続けることを歌っていた。

彼の状況は、この数年間で劇的に変化している。サイト『子供ノノ聖域』を立ち上げ、『23才の夏休み』などのPVを制作していたあの頃のような、趣味や衝動だけで音楽活動はもはやできなくなったのかも知れない。近頃の配信でも、自分一人のためだけにはやれないことばかりであると告げていた。楽曲を制作することが、自分だけでなく、メンバー、取り巻く人々、家族にも影響することをはっきりと自覚していた。
新曲は、彼が今"子どもの聖域"と大人の現実の狭間にいることを日記のように伝えているかのようだった。
それでも、彼の最近の発言で印象的だったものがある。

「最近のバンドは大人のすごさばっかりで、子どもの恐ろしさ、子どもの脅威、子どもの未知の凄さ、そういったものを見せつけられるバンドがいねえのよ!」

の子は父親に止められていたという自宅での配信を行ない、口の端っこに泡を溜めながらリスナーと会話していた。そして浴槽にまでノートパソコンを持ち込み、"風呂配信"をする。そこで股間が映ってしまい、BAN(ニコニコ動画の運営から配信を禁じられる)になってしまった。
これは大人のすごさとは真逆のことだろう。まるで子どものように一つのことに熱中し、ノートパソコンに向かって途切れることなく喋り続ける。メンバーとのケンカも、他のバンドへの挑発も、上へ上へと向かう野心も、子どものように大胆不敵に見える。
神聖かまってちゃんの活動は冒険活劇のようなものだ。まるでマンガのようなキャラクターがライブでも配信でもテレビでも暴れ、話題を作っていく。ここまでユニークなサクセスストーリーは珍しいだろうし、次のページをめくるのが楽しみになってしまう。

の子には新曲で歌われているような夢、やりたいことがまだまだたくさんあるのだろう。
その証拠に神聖かまってちゃんは最近、ニコニコ生放送だけでなく、YOUTUBE配信に手をつけ始めた。海外からのレスポンスも少なくはなく、より多い閲覧者数が見込める。先日のスタジオ配信も、外国人のリスナーを意識したような始まり方だった。ヘルメット姿にバズーカのようなものを抱えたの子が「ヘロー!ヘロー!アイアムランボー!アイアムランボー!アイアムランボー!オーウ!アイアムランボー!ウィーアーファッキンジャップバンドシンセイ・カマッテチャン!レイプ!オウ、レイプトカソンナンシチャダメ!ウィーアーファッキンジャップバンドシンセイ・カマッテチャン!アイアムランボー!アーユーラインボー?アイアムランボー!オーウオーケーオーケー!アイアムランボー!」と叫んでいたのだ。
より外に向けて配信するツールを選んだところから、まだまだ上に昇りつめようとする彼の意識の高さが伺える。また、今年のROCKS TOKYOは海外からPRIMAL SCREAMと、OasisやMy Bloody Valentineらが在籍したレーベル「クリエイション・レコーズ」の設立者アラン・マッギーも出演する。だからこそ、の子の野心はこの日もメキメキと芽生えているに違いない。

本番前もYOUTUBEで配信し、ノートパソコンの前でリスナーのコメントを読んでいく姿はもはや恒例。
の子は楽屋近くで『ス-パーサイヤ人になるの子』というタイトルでエナジードリンク・MONSTERを飲み、上半身裸で「俺は今、スーパーサイヤ人だーー!!」などと異常なテンションで叫ぶだけの配信を行なう。悲しいくらい、子どもの恐ろしさだ。
偶然近くにいたROCKS TOKYOプロデューサー・鹿野淳氏に「俺は今、サーバーサイヤ人3だーーー!!」などと絡み、「気円斬!(クリリンの技)」と叫んで鹿野氏を倒そうとするが、あっけなく突き倒され、投げ飛ばされて負けてしまう。余裕で勝利の鹿野氏はダブルピース。子どもは何の脅威にもならなかった。andymoriが演奏する音が聞こえる中、まるで子どもの遊びに大人が付き合ってあげているような日曜日の憩いの時間が流れていた。
その後もメンバーと交互に配信し、ライブ本番は昨年同様に配信できないことから、出演時間が近づくとノートパソコンを楽屋に放置したままステージに向かう。こういうときはいつも、ちばぎんが配信をきちんと締めてくれる。

andymoriのライブが終わると、ベイサイドステージの客席は人数が一気にまばらになった。みんな、ウィンドステージのPRIMAL SCREAMや食事に向かったのだろうか。
空いた客席をいいことに前方に向かうと、うんこくさっ!そこにはなぜか牧場のにおいが漂っており、海の近くとは思えない環境がそこにあった。なんでこんなにおいがするのか。なんでうんこなんだ。もはやかわいい女の子のにおいを嗅ぐことで耐えるしか方法はなさそうだ。

18時過ぎ。神聖かまってちゃんのセッティングが着実と進んでいる。
ステージでは"男"と大きい字がプリントされたTシャツを着ている劒マネージャーとスタッフ・まきおくんが2人並び、"男"と"男"が真剣な表情で機材を見ていてなんだかすごく男らしいステージになっていた。

神聖かまってちゃんの出番は19時20分から。それなのに18時半すぎには大きな歓声が聞こえ、ステージにはメンバーが登場。まだ人が集まりきれていない会場が一気に湧く。
「まだセッティングだから…」とちばぎんがなだめる。それでもの子が登場すると、一気にライブが始まってしまう。
「今日はみんなの力を借りてやっていきましょう!」
いつもの真っ赤な服を着ているの子が宣言。歓声に対し、「当たりめーだー!」と叫ぶ。「当たりめーだろほんとによ」とmonoが同調し、なぜか和みのムードへ。
「いやいや、ちょっとサウンドテストをやります。こんなに集まっていただいて、ほんとにありがとうございます。ROCKS TOKYOで念願のトリを飾ることができて、皆様のおかげでございます」
monoが丁寧に挨拶していると、隣での子が「メガネかけてねーと、ボーカルエフェクター見えねーじゃねえか…」と呟く。「ボーカルエフェクター見えねーって問題じゃねえか…」とmonoが返すと、キーーン!とハウリング。「あれ?俺のせいか?失礼しました」と、今日はやけに喋る。が、酒が会話の潤滑油になっていても、その滑舌は相変わらず危うい。
「酔っ払ってますか?今日日曜だから酔っ払って家帰って寝て、明日また元気に仕事行ってくれたらいいと思います。ニートの人も大学生もいるかも知れないけど、ROCKS TOKYOを楽しんでいただけたらいいと思います」
monoの隣で黙々とチューニングしているの子。「の子さんだってチューニングするんですよ」と呟き、笑いが。「チューニングしなくても、ここに来れるんです」と目をカッと開いてキメポーズ。これまでのライブでも、ちばぎんや劒マネージャーがの子の代わりにチューニングする光景がしばしば。チューニングする姿が珍しいギタリストが見れるのは、神聖かまってちゃんのライブだけだ。
「だから今、バンド目指している人は頑張ってください。ま、メロディがすべて」
チューニングができなくても、ROCKS TOKYOのトリを飾れるらしい。メロディメーカーとして自信にあふれる発言で、まだ本番が始まっていない会場を盛り上がらせる。
そしてチューニングしたてのギターを弾き、即興で歌い始める。

「今回は雨じゃ~ないですね~ 去年のROCKS TOKYOは雨だったのさ~ だけど今回は雨じゃないのは~ これは神のおとしめし~ そんなことは知らないけど~ 今は流れにまかせて~ 僕は流れにまかせて~ そんなこと知ったこっちゃないけど~ 初めて観た人もこれまで観た人も~ この一瞬を確かめてください~」

「おとしめし」って一体何だろう。「お召し物」?「貶めし」?思いついた言葉を綴って歌うのは昨年の本番前と同じ。今年は晴天バージョンとして、暮れゆく青空に似合っていた。
「やべえ、おしっこ行きてえ…」
当然かっこよく続けるはずもなく、笑いを誘う。「音合わせ1曲やる?何やろうか?」との子が言い、『ベイビーレイニーデイリー』の演奏を決める。
「お前ら、分かるだろ?ちゃららちゃらら、いくぞ!」
本番さながら、の子が観客を煽る。会場にはまだ十分にお客さんが集まっていないけど、みさこの掛け声の後、観客の「ちゃららちゃららー!」という声は青みがかった空に響き渡った。
「雨が降ってなーい~ ROCKS TOKYOでも~ 今年は僕は~ 去年のようにやってやる!」
こちらも晴天バージョンであるかのように替え歌し、それと同時に宣言していた。
時間の都合もあってか、途中で演奏を止める。「今日はノリノリだぜ」との子が楽しそうに振舞う。「とりあえず今日は…」と話し始めるの子に、ちばぎんが「え?下がんないの?」と止める。
「バカヤロッ。立ったからには下がる武士がいるか!」
の子の返答に、ちばぎんがプフッと笑う。「あ、そうか俺、トイレ行くんだ。ハハッ」との子も笑い、ステージの雰囲気がすごくいい。近頃の配信でもそうだけど、ここ最近のメンバーの雰囲気はかなり穏やかに思える。それがセッティングの姿でも十分表れていた。
「まー最後なんでみんなはっちゃけてカモンカモンカモンー!イヤッハーイ!」
すこぶる調子の良さそうなの子の叫び声に、みさこがパシャーン!とシンバルを鳴らして盛り上げる。

「アラン・マッギーいるかい?アラン・マッギーかどうか知らねーけどもほんとによー、そんなイギリスか世界か知らねーけども、日本にもこういうバンドがいるんだバカヤロー!」

Stickam、peercastを経て、ニコニコ生放送、Ustream、そして最近ではYOUTUBE。配信が一般化される前からひたすら配信活動に身を投じてきた神聖かまってちゃんというバンドのスタイルは、世界で他に存在するのだろうか。"インターネットポップロックバンド"と自ら名乗る独自性を見せつけるにも、この日は配信を禁じられている。ステージでは"ポップロックバンド"として勝負することになる。
それでも「叩きつけてやるぜ!よろしく」とクールにキメてその場を去るの子から、確信が持てる。自意識と自我と自己顕示と自信といった自ブランドすべてで挑み、インターネットという彼らの最大の武器がなくても、音楽だけで正々堂々と勝負することに。世界に叩きつけるのだろう。アラン・マッギーが観ているかは分からないけど。
世界は関係なくとも、ロックフェスは神聖かまってちゃん目当てではないお客さんの目と耳にも入る機会。の子がそういう場で自分を存分に発揮しないわけがない。

やがて19時20分になる。太陽は完全に沈み、空には月の光だけが目立つ。転換中のステージの照明が落ちると、辺り一面は真っ暗に。歓声が沸き立ち、登場SE『夢のENDはいつも目覚まし!』が流れる。
たくさんの手拍子を前に、メンバーが再び登場する。みさこがSEのリズムに合わせて、軽快にドラムを叩く。

「やってきた!この夜中、テンション上がるぜ。マジで。鹿野ありが…鹿野とか言っちゃった。鹿野さんありがとうございます!ただ、ありがとうございますって言うのは最後だ」

ROCKS TOKYOのプロデューサーである鹿野淳氏に感謝の意を表するの子。夜の光景に感動している様子で、辺り一面を見渡している。
「見せつけてやる。アラン・マッギーだかボビー・ギレスピーだか観てるか知んねーけども、そんなことはどうでもいい。集まってくれている方ありがとうございます。ありがとうございます、マジで」
「めっちゃ後ろまでおるで!」
観客の多さにちばぎんが関西弁で感動する。「最高の夜にしようぜ」との子が言い、即座にちばぎんが「そんな感じで神聖かまってちゃんです!よろしくお願いします!」と恒例の進行を始め、リズム隊が重低音を鳴らす。
こうして神聖かまってちゃんにとってのロックフェス初のトリ、"見せつけてやる"ライブがスタートする。

「では1曲目聴いてください。『美ちなる方へ』!」

清々しくスムーズに曲紹介し、演奏を促すの子。しかし、monoがミスをする。演奏中断。これは神聖かまってちゃんにとってはお決まりの展開ではあるが、この絶好調なテンションでのまさかの失敗に「えええーっ…」と戸惑う観客。
monoが両手を合わせて謝り倒す横で、他の音が鳴り止んでもギターを弾き続けるの子。それに合わせてちばぎんもベース、みさこもドラムを再び鳴らし始め、の子はそのまま歌いだしの「なるべく楽しいふりをするさ誰だって~」を歌い、なるべく楽しいふりをする。いや、本当に楽しいんだろう。薄ら笑みを浮かべながら、即興で歌を続ける。

「きっとこんなこともあるんだ~ 仕方ないのさ~ お前のせいだけど俺はお前のせいにはしないぜ~ フェスってのはこーゆーもんなのさ!何があるかわかんねー!はははっ!」

笑い声を吐き出したところで、ちょうどmonoのセッティングが完了。ちばぎんがすかさず「『美ちなる方へ』聴いてください!」と入れ、無事に演奏が再開。monoが観客の心の隙間を埋めようとしたのか、「うええい!うえええい!」と謎の雄たけびを上げる。キーボードから離れ、ステージを自由に舞う。一番失敗した人が一番楽しそうに踊っている。
後半のリズム隊がうねうねと心地良い低音を響かせ、客席では一挙にモッシュゾーンが作られる。の子が2つのマイクを使い分け、地声とボーカルエフェクターの合わせ技が炸裂。それはまるで、人々が日々対面する"リアル"との子の世界観でもある"ホーリー"を行き来するかのようで、monoがミスしたことなんてすぐに忘却の彼方へ。彼らの今日のチームワークの見事さに、1曲目から早くも心を奪われてしまう。
「オーケー!」との子が叫び、演奏が終わる。大歓声に包まれるベイサイドステージ。

「間髪入れねえ、間髪入れねえ。お前らの精神を解き放て、この夜に!」
ベースとシンバルがの子の煽りを盛り上げ、ステージはすでに最高潮。「じゃあ、いくぜ。一緒に『あるてぃめっとレイザー!』だ」と言うと歪んだギターを轟かせ、間髪入れずに『あるてぃめっとレイザー!』へ。

ここでもmonoはキーボーディストという概念を吹き飛ばし、精神を解き放つようにステージ上で暴れまくる。彼がこのバンドのリーダーであることを思い出させるほど、の子以上に目立つ。初見の人の感想が最も気になる部分だ。だって、演奏するメンバー3人の真ん中で酔っ払いがフラフラと1人暴れているんだもの。
「おしっこがー!おしっこがー!」と叫ぶの子。そういえばここにはうんこのにおいがあった。もはや、おしっこどころかうんこが漏れそうなほど解き放たれている。このにおいはそういう意味だったのか。うんこは空気を読んでいたのだ。
途中、みさこのドラムがいつもと違い、予期せぬアドリブでドキドキさせる。間奏ではの子がギターを振り回し、マイクスタンドをなぎ倒す。急いでスタッフが直しに入る。間奏が終わるとmonoがキーボードを演奏し、この日ようやくミュージシャンとしての一面を見せる。
最後はの子がステージから落下し、姿を消す。「あ゛ーーーーっ!!!」と姿なき絶叫が、夜の東京の空に響き渡る。

「夜空が、キレイだね…これちょっと、B'zの稲葉が言ってたから僕も言いたかっただけなんだけど。星空がキレイだね…星がねーじゃねーかコノヤロー!」

月は美しく輝いているけど、星が一切見えないのがやはり東京の空。ちばぎんがベースでリズムを取り、それに合わせてmonoがパーカッションを鳴らし、みさこがドラムを叩き始める。そしての子が思いついた言葉を吐き出していく。

「自分らしく、いけばいいのです、学校で、バカにされても、バカにされても、このライブステージでは、お前みたいな明るさを出せない奴も、ここでは、自分らしくいこうじゃないか!」

それは観客に向けているようで、自分のことを言っているかのようだ。だから彼の吐き出す歌詞が多くの人の心を突き刺すのだろう。その証拠として、大きな歓声の返事があった。
「日だまりの夢みて~」からパシャーン!とシンバルが響き、始まった『自分らしく』。いつもよりスピードが速い。の子の歌詞は間違え気味で危ういし、時折日本語として成立しない。それでも妙に説得力があるのはなぜだろう。ちばぎんの「1、2、3、4」というコーラスの直前に、の子が珍しく「はい!」とフォロー。ちばぎんがコーラスするとき、の子が若干ちばぎんを見るのが印象的だ。
後半はサポートバイオリンの隼人さんとmonoの奏でるメロディがばっちり絡み、の子がライブ前に言っていた「ま、メロディがすべて」の説得力がここに。しかしながらやはりの子の歌詞は危うく、ちばぎんが原曲通りの歌詞でコーラスするが噛みあわない。恒例のことだけど、戸惑う様子もなくコーラスを続けるちばぎんはさすが。自分らしすぎるの子についていき、テンション持続させようとするメンバーの姿は決して無視できない。
「やべー!いい感じに暗くなってきた!」
子どものように景色に感動するの子。ちばぎんが「いい感じに暗くなってきましたねー」と添える。

「どんだけ後ろのほうまで(お客さんが)いるんだよ。神聖かまってちゃんはもっともっと上にいくぜ。もっと違うステージに行くんだよ、来年。俺はな、もっともっと上に行きたいんだよ。こんないかれたニートだけど、そこから這いつくばっていくような奴がよ、この中にもいるだろ!」

ちばぎんが『いかれたNEET』のベースを鳴らしている中、観客を煽るの子。ROCKS TOKYOでは昨年と違って、今年はトリ。同じステージだったけど来年はどうなるのか。それはこの日のライブが一つの答えを出しているのかも。
「いかれたニィィイイーーーートォオーーーーー!!いかれたニィィイイーーーートォオーーーーー!!」
喉が潰れるような歌い方で何度も叫ぶの子。この曲のPVを思い出す。の子とmonoが近所で撮影し、作った映像。千葉の片隅に、どこにでもいるようなフリーターとニートの若者2人。その2人の前で大勢の観客が拳を上げ、指を差す。たんぽぽが寂しく揺れ、ティッシュが風に舞うだけの約4年前の映像とは明らかに違った光景が目の前にある。
歌は、何年経っても同じ言葉で歌われる。だけどその時々の状況はまるで違う。の子の中で心境は変わったのだろうか。本当にニートだった頃と、ミュージシャンとしてお金を稼ぎ、仕事をしている今。この数年間で、これほどまで状況が変わった人は珍しいだろう。
最後、ベースと鍵盤が余韻を与える中、の子がギターを振り回す。ピンクの蛍光色のギターは夜に映える。それはポーンと飛び、ステージ下に落下していく。
「ここはどこだ?」と現在位置を確認するの子。「ロックストーキョー、ロックストーキョー」とmonoがカタコトの英語の発音で返す。今、2人はあの映像の中にはいなくて、ROCKS TOKYOにいる。

ちばぎんがベースを鳴らし、『夜空の虫とどこまでも』のイントロが。このロケーションに最適、最高、最重要な曲がきた。キーボードの前に向かうの子。怪しく光る緑色のライトに照らされながら、観客に語り始める。

「いやあ、夜空だねえ。今はもう、トリップになってもいいんだぜ?音楽で。ドラッグなんていらねえ。ドラッグなんかそんなんクソだ。ドラッグなしでトリップになろうぜ」

「俺が恥ずかしい踊りをしてやるから、みんなも踊れ!」と言い、ブレイクダンスなのかなんなのか分からない踊りでやはり一番トリップしている。神聖かまってちゃんのライブは、の子が楽しい気分でいると観客も楽しくなる。これはまるで父親、母親のような心情なのかも知れない。それでも、子どものようでありながら、時折ギョッとするようなかっこよさを見せつけるの子。
「お前、ちょっとだけラップやってろ」
の子が突然monoに促し、monoが困りながらもラップを始める。かつては必死に拒んでいたが、この日はささやかながら披露。
「YO、YO、YO…」と呟くと、客席から「YO!YO!」と大きな反応が。「神聖かまってちゃんを知ってるかーい?俺の名前はmonoだよー」とゆるーく自己紹介。
最近では映画『サイタマノラッパー』に出演したり、そのイベントに出てDJをしたりと、エミネムをリスペクトするmonoならきっと究極のライムを見せつけるはずだ。鹿野淳氏は神聖かまってちゃんを"グランジの日本的解釈"と表現したが、レペゼン千葉としてmonoはエミネムの千葉的解釈を叩きつけるはずに違いない。
「俺はモーノ フロムトーキョー より遠ーいよ このかいじょーう」
なぜか東京出身になっていた。
「酔っ払ってるからあんまほふほふほふ…」
しかも聞き取れない。
「monoくん、夜空の虫と、どこまでも、そう、俺はそう、どこまでも虫になる、このROCKS TOKYOで、むしろお前らに火をつけてやる」
の子がリズムに合わせながら、monoに語りかける。思えば、『夜空の虫とどこまでも』はmonoが名づけたタイトルらしい。インスト曲のイメージを夜と虫に定着させた功績は、今、夜空を目の前にして明らかになった。
が、またもmonoが決定的なミスをする。曲に入るところで「ポンッ、ムホッ、ポンッ」とmonoのキーボードがマヌケな音を鳴らし、さすがのの子の戸惑う。その場ですかさずmonoの頭を叩き、monoがまたまた謝罪。一番キメるべきところで見事なテンドンをかましつつも、無事に演奏がスタートする。

緑色のライトが無数にステージを照らし、深緑の森の中にいるような、大自然を味方につけたかのようなステージ。ボーカルエフェクターによって高音になり、「らー、らー、らー」とこだまするその声は、どこかしら小学生の合唱にも聞こえるという懐かしさもある。森の中で思いついたメロディであると、の子が配信か何かで語っていた。
この日のハイライトとも言える、歌詞を一切必要としない、感覚だけが頼りの表現。ここでのの子はよく言われている、誰かの代弁者でも、社会不適合者の心の声でもない。メロディだけで十分説得力のあるミュージシャンとして、堂々とその存在を見せつけていた。
一度演奏が終わりを見せたが、の子がリズムに乗りながらみさこに振り返り、指で演奏を指示。そして約7分間にも及ぶロングバージョンの『夜空の虫とどこまでも』がどこまでも続いた。夜と虫を味方につけていたのだ。
最後はの子のキーボードからサックスのような管楽器系の音が鳴り、ホーンホーン…と余韻を与える。虫の命は短い。息絶えるように乱れたメロディであるが、それがまるで音楽でのダイイングメッセージに思えてくる。

「いやあ、この時間やべーな!どんだけトリップしてんだ。みんなどーだい?その、クルクル具合はどうだい?クルクル具合はどーだいみんな!」

"クルクル具合"という独特な表現に戸惑いつつも、反応する観客。そして「このまま流れでいきたいんだよ、神聖かまってちゃんは、流れというものを覚えたんだよ」ということは、やはり。打ち込みの音がドンッドンッとリズムを刻み、そのまま『黒いたまご』へ。
青い照明がクルクルと回転し、メンバーが時折シルエットになる。ステージでは輪郭だけが動き、神聖かまってちゃんをタダモノではない存在にさせる。1番から2番までの間のmonoのピアノが切ないメロディで、サビの「どうしようもないだろうね」の声が混沌としている。
演奏後のの子は歌詞のように黒々と笑うことはなく、真っ白く、純白にさわやかな笑顔を見せていた。本当に気持ち良さそうだ。

「ほんとにすごいたくさん人いるなー」とmono。の子は「豆粒みたいになってんぞおい!」と、米粒ではなく豆粒なのかと。「暑い」と言うの子に、「季節も変わりますからねえ」とmono。「バカヤロー!季節なんか関係ねー。夏よりも今のほうが熱くないと意味ねーんだよ!」と、の子らしい返事を。
「みさこー!」という歓声に、monoが「みさこー、お前喋ってなくねー?」と振る。「もうすぐお祭り終わっちゃうよ?こんなんでいいの?どんどん盛り上がって汗かいて、みんなぶっ倒れるくらいの勢いでいきましょうよ!」とみさこが珍しく煽り、そして珍しくの子がみさこに同調する。
「ほんとだぜ!一回きりなんだからなライブは。二度とねーんだ!この瞬間は!だからお前もこの瞬間で、むかつく奴に対して吐き出してやってください」

『夕方のピアノ』が始まる。ステージが真っ赤な照明に染まり、夕方になる。
キンキンに高くなった声で「死ねーーー!!!」がROCKS TOKYOの会場に響き渡り、monoの鍵盤の高音連打がまるでスーパーマリオがコインを大量に取ったかのようなラッキーなサウンドでブチ上がらせる。終盤はちばぎんがベースを大きく振り降ろし、みさこが普段のふわりとした印象を覆す殺気溢れるドラミングでギャップを与える。
「死ねよクソッ!」との子がマイクをぶん投げ、monoのピアノが寂しく鳴り、演奏が終わる。ロックフェスを下校時間に変えてくれた。の子は再びギターを鳴らし、「死ねよ佐藤、死ねよ佐藤…お前、そろそろ死んでんじゃね?ハハッ」と不敵な笑みを浮かべる。歌で復讐していた。あの帰り道に見た夕日ではなく、無数の照明のバックに。ランドセルではなく、ギターを背負っていた。

「さすがROCKS TOKYO…やっぱROCKS TOKYOが合うのかな。皆さんのおかげでもあると思います。俺のこと嫌いな人もいっぱいいると思うんですけど、俺はそれを信じられないんだけどねーっ!まあどうでもいいんだけど、来てくれて本当ありがとうございます」

の子が礼儀正しく挨拶し、「セッティングするから漫才しといて」と他のメンバーにムチャ振り。当然のごとく戸惑う3人だけど、その5秒後にはの子が「じゃあいきまーす」と次の曲を促す。最後は『ぺんてる』

monoがステージ中央の前方に立ち、完全にフロントマンと化している。ジャーン!とギターが勢いよく、タイミングよく鳴り響き、の子の「ぺんてるに、いきました」という声とともに観客が拳を上げる。
歌詞はいきなり間違えておばちゃんのくだりを歌っていたが、いつも規則正しく正確に歌うことばかりがすべてではなく、そんなことも歌詞の通り「どーでもいいー」くらいに気持ちいい空間だった。
「大人に、なりました」の瞬間、monoがマイクを客席に向けた。そこから繰り広げられる打ち込みのキラキラした音と、mono、ちばぎん、みさこの演奏と、の子の語り。ぞくぞくっと鳥肌が立つのは海辺の会場の気温のせいではないはず。
1学期、2学期、3学期に収まらず、4学期、5学期、6学期との子の日々は続いている。誰しも大人という称号をきちんと与えられる機会はない。煙草を吸ったら、ビールを飲んだら、20歳になったら、子どもができたら。それぞれ感覚として"大人"を捉え、大人のふりをするしかない。だけど、の子は明らかに1年前や2年前のの子ではない。それは今朝アップされた新曲『おっさんの夢』からも汲み取れるように、あの頃から確実に時間は経ち、年をとっている。
「ぺんてるに、ぺんてるに、」と、真っ直ぐと前を見つけて歌い続けるの子の姿は印象的だった。ぺんてるという場所は、帰る場所なのか、進むべき場所なのか。

「ぺんてるにまた僕は行きたいのです」
の子がボソッと呟く。「ありがとうございます神聖かまってちゃんでした!」とちばぎんが即座にグレートエスケープするかのごとく挨拶し、デーーーン!!とリズム隊が鳴らしてライブの終わりを告げる。
「バカヤローまだ終わってねーだろ!」との子が歯向かうが、どうやら時間らしい。の子が帰りたがらないのはお決まりだ。劒マネージャーが止めようとすると「劒うるせえっ!」と抵抗するも、警備の集団に捕まえられて強制退場させられた昨年と違い、今年は自ら退場しようとする。そして、礼儀正しく挨拶する。
「後ろのほうにいる方もありがとうございます」
これが「大人に、なりました」ってことなのか。
神聖かまってちゃん像として、自由に、子どものように、破天荒にやることが神聖かまってちゃんらしいと思う人も当然いると思う。だけど、の子は明らかに次のステップに進もうとしている。プラスチックの牙((c)フットボールアワー後藤輝基)をときに取り外し、ミュージシャンとして確実に成長していくように見えた。思い通りにならないことに怒りや苛立ちに身を任せるだけではない。不屈な精神と卑屈な精神は大きく違う。神聖かまってちゃんは生き物で、常に進化していた。
だからこそ、『ぺんてる』はこれまで以上に説得力を増している。大人になることへのちょっとした寂しさも、受け止めるべき現実も、この1曲に表れていた。
これほどまで、曲がそれを歌う人の精神と結びつくことそう多くはないと思う。の子が歌うと、昔書いた日記を読み返すような作業にはならない。いつだって"今"になる。

メンバーがステージから去ると、鹿野淳氏がマイクで挨拶をする。「ベイサイドステージ、これにて終了です」と言うと、客席から「ええーーっ…」とため息が。「ごめんなあ、時間の都合もあって」と説明があり、ROCKS TOKYOのベイサイドステージとともに、神聖かまってちゃんのライブが終了する。

気がつけば、うんこのにおいもしばらく忘れていた。同じ悩みを抱えた人はいるだろうと思い、ツイッターで「ベイサイド うんこ」「BAYSIDE うんこ」「かまってちゃん 牧場」などと検索するが、出ず。帰宅後、ツイッターで同調してくれる人がいてくれて安心した。
どうでもいいか。神聖かまってちゃんはうんこのにおいをも吹き飛ばすほどの、次のステップへ向かうライブをした。
この日、5月27日は下北沢屋根裏で初めてライブを撮影した日からちょうど3年だった。あの頃とは比べ物にならないほど、彼らの目の前の光景も、彼ら自身も変わってきた。それでも変わらない何かを確実に持っているからこそ、その先の光景を見ていきたいのです。

終演後、再び楽屋で配信するメンバー。
ちばぎんがすかさず「ありがとうございます神聖かまってちゃんでした!」 と潔く引き下がったのは、アンコールができると思っていたかららしい。
andymoriのボーカル・小山田壮平氏も配信に登場する。「みさこを抱いてやれ」というコメントに対してmonoが「そんなもったいない、こんなゴミクズ」とひどいことを。の子と一緒に『Blackbird』を歌うシーンもあり、2010年の埼玉県坂戸市の夏祭り以来の出来事が。
の子は他の出演者を配信に呼ぼうと考えるが、スガシカオがすでに帰ったことに「空気読めねえなあ」とプラスチックの牙をむき出した。やっぱりまだまだ子どもの聖域にいるかのように、の子の発言はいつまでも自由だ。ライブ直後の彼は疲れている様子で、「一郎(サカナクション)を呼んでくる」と言い、その場を去る。

結局山口一郎氏を連れてくることなく、みさこが1人で配信を続け、スタッフのまきおくんにバトンタッチし、のほほんとした雰囲気のまま神聖かまってちゃんのROCKS TOKYO2012は暮れていく。

2012年5月27日 ROCKS TOKYO2012
<セットリスト>
1、美ちなる方へ
2、あるてぃめっとレイザー!
3、自分らしく
4、いかれたNEET
5、夜空の虫とどこまでも
6、黒いたまご
7、夕方のピアノ
8、ぺんてる

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