たけうちんぐ最新情報


⬛︎ たけうちんぐ/竹内道宏と申します。ライターと映像作家をやっております。 プロフィールはこちらをご覧ください。
⬛︎ 文章・撮影などのご依頼・ご相談はこちらのメールアドレスまでお気軽にお問合せください。takeuching0912@gmail.com
⬛︎ YouTubeチャンネルはこちら→たけうちんぐチャンネル/Twitterアカウントはこちら→

2016年4月3日日曜日

BABYMETAL WORLD TOUR 2016 in The SSE Arena, Wembley @ UK(Live Viewing) - 「たとえ世界がひとつにならなくても」

(イギリス・BBC Radio1 Rock Show 公式Twitterより)


"世界をひとつに"なんて、幼い頃は信じていたかも知れない。

「世界が平和になりますように」とか「友達100人できるかな」とか、部屋の中でゴロゴロと少年マンガを読んでいた夢見がちな頃はぼんやりと思っていた。
それでも、部屋から外へ飛び出すといつの間にかそんな希望は消え去っていた。
学校のクラスでさえ不可能だった。同じ人種なのにたった数十人でも争いごとが絶えない。陰で悪口を放ち、罵ることで溜飲を下げ、憎しみが連鎖する。テレビのニュースを見るといつでもどこでも血が流れている。ネットを開くと今日も誰かが誰かの揚げ足を取っている。嫉妬、炎上、ブロック。誰かを嫌うための新たな飛び道具が生まれていき、人が人を傷つけ続けている。
夢を見ること、それさえも持てない。光と闇の狭間、一人になる。 世界がひとつになんて、なりっこない。
そもそも、そんな夢想家の戯言に唾を吐きかけたいくらいに思うようになった。

でも。それでも。デモじゃない。「でも」だ。朝方6時頃にスクリーンに映し出される光景は、首を横に振っていた。「でも」と訴えかけていた。もちろん首を縦にも振っていた。ヘドバンしていた。
そこは異国の地。12,000人収容の巨大なアリーナ。その客席でたくさんの国旗が上がる。世界各国から来た人たちがそれぞれの国旗を掲げている。360度回転するセンターステージ。そこから見渡す少女たちの姿が映る。その目は潤んでいるように見える。その光は失いかけていた希望を取り戻すかのように力強く、決して消えることのないような確信を抱いていた。
こんなの初めて。こんなに凄いの初めて。って感想をBABYMETALで何度味わえばいいんだろう。日本人未踏のステージで繰り広げるメタル・オペラ。何度も時が止まるような感覚を味わい、非常識を常識に変えるような光景に息をのんだ。
まるで夢を見ているような、そういう気分だった。「でも」、普段は眠っている深夜4時半から朝方6時半にかけて見たものは夢なんかじゃない。
場所はロンドン・ウェンブリーアリーナ。2016年のBABYMETALのワールドツアーの幕開けは、決してひとつになるはずのない世界への希望に満ち溢れていた。

こんな時間にお台場に向かうなんて。まるで大晦日のようだ。22時頃に身支度を整える。普段なら生気を失った顔つきになる時間帯なのに、抑えきれない高揚感が笑顔にする。日出ずる国からロンドンへ想いを馳せ、Zepp Divercity Tokyoで行われるライブビューイングへ向かう。
半年以上前からロンドン・ウェンブリーアリーナでのワンマンライブの開催が発表され、BABYMETALの公式Twitterでは幾度となくそのチケットの購入を促すアナウンスがされていた。
正直、さすがに埋まらないだろうと思っていた。同じロンドンでも2014年のThe Forumは2,000人台、その次のO2 Academy Brixtonは5,000人台、そして今回は12,000人台。まるで桁が違う。今までの倍以上の見積もりから、その成功をひそかに案じていた。
だけど、今は反省している。新曲の『Sis.Anger』で叫ばれる「ばかやろ〜!」が身に沁みる。不可能を可能にし、非常識を常識に変えてきたBABYMETALに、一抹の不安なんて必要ないのだ。

発売されたばかりの2ndアルバム『METAL RESISTANCE』を聴きながら、実質今年初となるワンマンライブに期待に胸を膨らませる。新作は1st『BABYMETAL』を上回る大反響で、iTunesの世界各国のロック/メタルチャートで初登場1位を獲得した他、アメリカのAmazonの総合アルバムチャートで1位、その後イギリスの総合週間チャートで同じく初登場のWeezerやMogwaiの新作を抑えて15位にランクイン。これは歴代の日本人アーティストで最高位だという。“坂本九以来の成功”は本当になるかも知れないし、もうすでになっているのかも知れない。話題沸騰の中で開催される今日のワンマンライブは、決して見逃すわけにはいかない。
東京テレポート駅に降り立つ。ここはイギリスじゃない。神奈川県から2時間もあれば到着できる。今回のライブは全国のZepp会場でリアルタイムでライブビューイングされ、日本国内でもおよそ12,000人近い観客が遠く離れた異国の地へ向けてフォックスサインを掲げる。

その一部となる会場、Zepp Divercity Tokyoの周辺は深夜にも関わらず人だかりが見える。あろうことか、行き慣れているはずの場所なのに迷子になる。
会場のある複合施設の建物内がいつもの通路が深夜のため塞がれていて、赤と黒を基調とした服装の大人たちが一斉に右往左往している。ショッピングモールを彷徨い歩く姿がジョージ・A・ロメロ監督の映画『ゾンビ』みたいになっている。BABYMETALのライブに飢えているという点では確かにその通りだ。大勢の人々が壁の地図を何度も確認して、開いてる通路を探す。若干、『バイオハザード』みたいな楽しみ方を味わっている。全クリしたらBABYMETALのライブビューイングだ。




建物の外側を周って無事、ゲームクリア。まるでラスボスのように立ちはだかるガンダムのふもとに行列があり、そこで友人とも落ち合う。小雨が降りしきる中、妙な静けさが漂う深夜1時に黒装束は一斉にZeppに入り、もう一つの島国で始まるライブを今か今かと待ち焦がれている。
開演前はThe Forumでのワンマンのライブ映像がフル尺で上映され、全身骨タイツのスタッフがステージに上がって客席を煽る。だけどスタッフ同士にあまり統一感がなく、動作がほとんどバラバラだったのが微笑ましい。深夜のお仕事、お疲れ様です。映像のテンションとステージの骨たちが全く噛み合わず、終始シュールな光景が繰り広げられたおかげで目が冴えました。

あの日あの時、この目で観たThe Forumのワンマンライブ。目の前で観ていた少年は終始飛び跳ね、隣で観ていた女の子グループの一人はメンバーが登場すると泣き出した。奇跡のような光景の連続だった。それを記録した映像からWembleyの生中継に繋がるのは感慨深く、2年前の興奮がもう間もなくで更新されると思うと胸の高まりが収まらない。
開演の4時半が近づく。スクリーンは待機画面が続く。深夜の静けさの中、これから始まる“伝説”を思うと心拍数が上がっていく。
すると突然、BABYMETALのメッセージ映像が上映される。「皆さん、朝早くからありがとうございます!」かれこれ4時間近く立ったまま待っていても、その一言で一気に癒されるような、眠気が吹き飛ぶような。その回復力は計り知れない。

映像が切り替わり、ウェンブリーアリーナの中継が繋がる。両サイドに煌々と照らされた“BABYMETAL”の赤い文字。海外公演とは思えない規模のステージ。中央から長く伸びた花道とその先にあるセンターステージ。
そして何より、ピットとスタンド席に詰められた人の数。
それが映し出されると、Zepp Divercity Tokyoの客席で「うぉぉ…」「すげぇ…」とため息が漏れる。BABYMETAL、ほんとにウェンブリーを埋めたんだ。これ、日本じゃないんだ。開演を待つ人々の表情が映し出される。海外のファンが大半を占め、その年齢層の幅広さと人の多さから、どこを切り取っても感嘆の声が上がる。

深夜4時45分過ぎ。ついに会場内が暗くなり、現地の地鳴りのような歓声がZeppのスピーカーから鳴る。ライブビューイングの会場もそれに匹敵するくらい、大きな歓声で“伝説”を迎え入れる。
さあ、時は来た。
古びれた教会のようなセットが青白い光に照らされる中、オープニングムービーが上映される。
“METAL RESISTANCE EPISODE4”と題されたムービーは、いつものように「A long time ago in a HEAVY METAL galaxy far, far away...」と『スターウォーズ』を模したナレーションから始まる。
真っ赤な炎が宇宙空間で燃え盛り、それが地球全体を火の海に染めるイメージ。それは世界征服を意味しているのか、はたまた。「生と死。始まりと終わり。この終わりなき繰り返し。」と語りが続く中、その炎は∞(無限大)の形を描き、また新たな星を作るかのように“THE ONE”のシンボルに変わる。
"The Spirit of HEAVY METAL"という言葉が多用されるのは、昨年受賞したKerrang! Awardsの『The Spirit Of Independence Award』から来ているのか。それとも何かと縁のあるバンド・Bring Me The Horizonの最新アルバムの『That's The Spirit』からなのか。その強靭なSpirit(精神)はここにいる誰もが知っているはずだ。厳かな雰囲気を作り出すムービーが毎度ながら気持ちを高ぶらせる。
"THE ONE"のシンボルが映像の下部へフレームアウトすると、ステージセットの中央上部にそれが移動する。同時に、3人の白装束が中二階についに姿を現わす。『KARATE』MVに登場した骸骨の鉄仮面を被り、その顔は見えない。途端に大歓声が起こり、その白装束にBABYMETALの到来を誰もが信じて疑わなかった。
ところが…

「Now is the time to join the METAL RESISTANCE !」
『BABYMETAL DEATH』で雷が打ち付けるようなイントロが鳴り出し、音に合わせてステージがストロボにより激しい光で連打される。途端に、人々の視線は中二階からセンターステージへと飛躍する。
なんと、白装束はBABYMETALではなかったのだ。
顔の前でフォックスサインをクロスするメンバーがいきなりセンターステージに姿を現し、大勢の観客が不意をつかれる。さっきまで見ていたものはBABYMETALではなかった。それに向けて歓声を上げてしまった。これが“偶像”崇拝なのだろうか。この3人は『KARATE』MVでも描かれていたように、メンバーそれぞれの“もう1人の自分”なのだろうか。
最大の敵は自分自身。何かに勝つわけでもない。誰かより優れるわけではない。勝ったか負けたかは関係ない。大事なことは本気かどうかだけ。
バーン!と大きな効果音が鳴る。まるで“自分との戦い”を描くような壮大なスケールのライブが今、始まる。

ひとしきり「DEATH!」を連呼する。ロンドンの客席はじっくり観ようとする人が多いのか、少し静かな印象を受ける。Zeppでは現地から離れていようが関係なく、イギリスと日本との距離を縮めていく。まるでメンバーがすぐそこにいるかのような熱気に包まれ、身体中から汗が滲み出る。
そのままメンバーはセンターステージでトライアングルを描くように立ち、後方のステージに等間隔に並ぶ神バンド4人から援護射撃を受けながら『あわだまフィーバー』へ。Our hourは日本時間5時。 Your hourは現地時間21時。時差を掻っ攫うような熱量がスクリーンから伝わり、メンバー同様に両腕で輪っかを作って踊り出す。MOAMETALの必殺の笑顔、YUIMETALのキレッキレのダンス、SU-METALの一切ブレることのない歌声。三位一体で迫ってくる世界最強のトライアングルに酔いしれるOur hourは、まだ始まったばかりだ。

『いいね!』でその興奮はますます加速する。『METAL RESISTANCE』がリリースされたことでセットリストに幅が生まれ、聴き馴れた曲も新しい曲もどれが来ても心の準備が出来ていない。この史上最大規模の現実逃避行に、胸の鼓動が収まる気配がない。
「Yo! Yo!」と掛け声を上げながらセンターステージからメインのステージへ移動し、SU-METALが「ウェーンブリィーッ!」と可愛らしくコールを促す。「キツネだお」のヘドバンが終わった後のSU-METALの咆哮するシルエットが美しく、それがデスクトップで流れるならきっとスクショの音が鳴り止まないっ。
間髪入れず『ヤバッ!』へ。何度もライブで披露されてきたこの新曲は、ファンの間で『違う』という仮タイトルで認識されていた。リアルタイムの映像で観ると振り付けがじっくりと堪能でき、その表情も掴み取れる。YUIMETALとMOAMETALはまるでマンガのように分かりやすく、サビの「ヤバッ!」でΣ(゚Д゚)と目を大きく開いた驚いた顔から、2度目の「気になっちゃってどうしよう」から/(゚´Д`゚)゚\と困り顔で頭をパンパン叩く仕草に切り替わる。その一連の動作が顔文字で表せるくらい伝わりやすい。これが言語の壁を越える一つの要因になっているに違いない。そして、とにかく可愛らしい。

初っ端から連続するハイテンションから雰囲気が一変し、聴き覚えのあるピアノとストリングスのシリアスなメロディが。一部アレンジを加えた新バージョンのオケが鳴り、『紅月-アカツキ-』のオープニングを盛り上がらせる。
バックモニターに紅い月が浮かび上がる。センターステージに姿を現したSU-METALが「アカツキだーっ!」と叫んだ後、マントを翻して幾多も火柱が上がる花道を駆け走る。いきなり今日のハイライトか。足元から脳天まで鳥肌がゾワッと広がる。ダークヒロインのごとき佇まいが凛々しく、何かに取り憑かれたような表情を見せる。それらは時間を止め、先ほどまでノリにノっていた客席を一斉に地蔵にさせる。心が本当に揺れ動いた時、人は微動だにできないのだろう。核心に触れ、確信を持つ。泣く子を黙らせ、泣く大人を叫ばせる。そんなSU-METALの鋭い眼光が、遠く離れた彼女の生まれ故郷にまで確かに届いている。

その後はまた雰囲気が一変し、三三七拍子のドラムのリズムに沿ってYUIMETALとMOAMETALが手を叩く。『GJ!』はまるで分身したかのような2人が心を重ね合わせるように踊り、ラップメタルを炸裂させる。『おねだり大作戦』より難易度がアップしたようなキレッキレのダンスに目を奪われる。「もっともっとホラ! もっともっとホラ!」で片足を上げて、手をカモンカモンと動かして煽ってくる。この日が初披露だからか、客席ではまだその呼応が完成されていない。今後のライブでどんどん出来上がっていくのが楽しみで仕方ない。
神バンドのソロが終わると、『Catch me if you can』へ。イントロが始まるとバックモニターが真っ赤に染まり、中二階に現れた3人がシルエットに。2014年の幕張メッセ・イベントホールでのライブを彷彿とさせる演出に沸く。途中から階段を降り、メインのステージでかくれんぼを続ける。12,000人キャパの会場でその姿が見つかり、さらにその後拡散されていくのだろう。なぜなら、この後はアメリカの人気番組『The Late Show』の出演が待っているのだから。客席が映ると幸せそうな顔をした大人たちがサークルモッシュで“ぐるぐるかくれんぼ”を体現し、世界は広くてもその楽しみ方はどこも同じなんだと知ると笑ってしまう。

『ド・キ・ド・キ☆モーニング』は3人が倒れ込んでから目を覚ますタイミングのカメラのスイッチングに感謝したい。「リンリンリンッ」でカメラが激しく切り替わり、一瞬にして3人の寝起きの表情を正確に捉えていた。
そして話題を独占するであろう、『META! メタ太郎』へ。音源が発表された時はネットで賛否を見かけたが、判断するのはまだ早い気がする。BABYMETALはパフォーマンスありきで完成するのだ。
ヒーローソングのように誇り高く前進するようなマーチ調のリズムに乗り、YUIMETALとMOAMETALがウルトラマンのように片手を突き出す。トコトコと空を飛ぶように移動する。子どもが大喜びしそうな曲調だけど、その正体はバイキングメタル。図太い音に合わせてステージ上で美しいシンメトリーを作りながら移動し、一部「かっとばせ〜!」風に応援団長のように両手を広げるYUIMETALとMOAMETALと、一本足打法でフルスイングするSU-METALのパフォーマンスが楽しい。

この日2回目のムービーが始まる。『スターウォーズ』を模したテロップが流れ、“DEATH VADER(デス・ベイダー)”とされる人物のイラストが大写しに。YUIMETALとMOAMETALの持つライトセイバーのようなものが“4”の字を描き、「Goodbye, father」となんだか無視できない字幕が。
「May the 4th be with you」など、ふざけすぎているデス・ベイダーの低い声のナレーション。“EPISODE for BLACK BABYMETAL”のテロップのforが4に変わると、もうあの曲しかない。『4の歌』はYUIMETALとMOAMETALが中二階に姿を現し、イントロで肩を並べて階段を降りていく。
上手と下手と、花道を伝ってセンターステージへ。2人は英語で煽り、メタルレジスタンス第4章が4月の初っ端から4で染まる。スクリーンの中でも外でも大勢の観客が指を4に掲げる。客席では誰もが笑顔を見せ、日本より老若男女で幅広い客層に感じる。少年少女からおじさんおばさんまで、気優しそうなアイドルヲタから屈強なメタラーまで、決して混ざり合わないような人たちが「よんよんっ!」と叫んでいる。もはや当たり前になっているが、よくよく考えてみると異常な光景である。

『Amore-蒼星-』はバックモニターに大きな翼が浮かび上がり、その正面で歌い始めるSU-METALにまるで羽根が生えたように映る。初披露のこの曲は『紅月-アカツキ-』と対になっているようで、照明が終始青みがかることでその歌声と手を組んで世界観を作り上げる。
途中、SU-METALの膝が崩れてその場にひざまずく。音が鳴り止む。震える足元が映る。歓声が轟く。その声に呼応するかのように立ち上がる。再び歌い始める姿がドラマチックだ。反応せざるをえない展開を作り出し、観客のライブの楽しみ方が一斉に鑑賞ムードから参加スタイルに変わる。アクシデントの演出が功を奏し、12,000人規模の“自分との戦い”を盛り立てる。

『メギツネ』が終わり、『KARATE』へ。何度も繰り出されるパンチと、体心をブレることなく安定させるダンス。オープニングで登場した白装束=もう1人の自分は3人の心のどこかに潜み、このステージをどう見ているのだろうか。
昨年の横浜アリーナで初めて披露された時は、直前の松岡修造のイラストが出てくるムービーにちなんでファンの間で『修造』と呼ばれていた。若干ふざけた印象さえ持っていたが、今日はまるで違う。3人が倒れ込み、SU-METALがMOAMETALとYUIMETALの手を引っ張って起こし、メンバー全員が身体を引っ付け合って前進していく。この曲とずっと付き合っていくことになるんだろう。そのたびに3人が目を合わすパフォーマンスをすることで、チームワークを互いに確認し合えるような。
止まることなく突き進む“自分との戦い”は、この曲でその勝敗がつく。3人で励まし合うよう に並んで歩く姿に今日までのドラマを想像してしまう。言葉はなくても、見つめ合うことで互いに意思疎通し合っているように見える。「自分に勝つ」それはステージの大小関係なく、誰もが抱く人生のテーマだ。一切怯むことなく立ち向かう姿から、この物語がBABYMETALのみならず、それを観ている人たちの物語にもなる。次のページをめくるように、3人に背中を押される人も少なくはないはずだ。

「Why do people hurt each other?(なぜ人は傷つけ合うの?)」いつものムービーが始まると、ピットで幾つか空洞が生まれる。冒頭からウォール・オブ・デスが数カ所で発生し、YUIMETALとMOAMETALが火柱が上がるステージの端から端へ全力疾走する『イジメ、ダメ、ゼッタイ』へ。
観客が一斉にイジメ「ダメ!」キツネ「飛べ!」とジャンプする光景が映し出さると、改めてこれが日本ではないことに驚く。
人と人とが傷つけ合うこの世界を否定するように、もしくは希望を込めるかのように、両腕でXを作り出す。Zeppの会場も現地と同じような一体感に包まれ、もはや映像の中に放り込まれたかのようだ。

そして『ギミチョコ!!』へ。幾多のステージで多くの人々の視線を奪ってきたこの曲も、初披露の2013年12月の幕張メッセ・イベントホールから数えて2歳半になる。道なき道を切り開くキッカケになった。そのMVが撮られたライブテイクより遥かに成長したパフォーマンスが繰り広げられる。たとえ幾ら年を取っても衰えることなく、ますます洗練されていく。
MOAMETALが「I can't hear you!」、YUIMETALがいつもの「Louder! Louder!」と違って「Make some noise!」 と煽り、SU-METALの「Let's sing together!」で会場全体が手拍子をしながらシンガロング。当初は静かだった客席も今や喧騒の渦が発生し、ライブが進むにつれて温まってきている。それが今、最高潮に達した。

いよいよライブはクライマックスに差し迫り、ムービーが始まる。『METAL RESISTANCE in UK』と題された映像は、壮大なストリングスをBGMにイギリスにおける大きな出来事を一枚ずつ写真で見せる。
2014年の初めての海外のフェス出演・Sonisphere Fes、The Forum、O2 Academy Brixton、2015年のKerrang! Awards、Metal Hammer Golden Gods Awards、Reading&Leeds Fes。どれも印象的な出来事ばかり。道なき道を歩んできた歴史がスライドされると、そのたびに目頭が熱くなる。そしてその最後には2016年の今、“THE SSE ARENA WEMBLEY”の文字が浮かび上がる。
大歓声の中、BABYMETALの文字がたくさん光を浴びていくCGの映像が映し出される。ナレーションによると、その光は彼女たちを見つめる人々=メタルの魂を意味する。Zeppのスクリーンには「この会場の模様が映し出されます。ステージのカメラに注目してください。」などといったメッセージが突然浮かび上がり、会場にどよめきが走る。
まさか、この会場の映像がリアルタイムでロンドンに届くとは。両サイドのモニターに浮かび上がる「Whenever We are on your side. Remember Always on your side」を約束するかのごとく、ウェンブリーアリーナのステージにこの会場の映像が映し出される。ロンドンと東京がまるで鏡のようにお互いの姿を映し合い、ステージに歓声を上げる。まるでキャパシティが全国のZepp会場を合わせた24,000人に膨れ上がるかのように、すべてがひとつになる。
つまり、『THE ONE』に。

壮大なバラードが幕を開けると、中二階で3人は黒い衣装を身に纏って姿を現わす。それぞれの目は一点を見つめ、この世の理の全てを貫くように力強い。一歩一歩ゆっくりと階段を降り、SU-METALが全編英語で歌唱する。
YUIMETALとMOAMETALはその場でジッと佇み、願いを込めるかのように片方の人差し指を差し出し、夢を信じるかのようにもう片方の人差し指を差し出す。その2本の指が親指とともに三角形を作り出し、ひとつになる。
ウェンブリーの客席が映し出されると、その奇跡のような光景に胸を打たれる。
客席でその国から来た人たちがそれぞれの国旗を掲げている。日本の日の丸国旗はもちろん、アメリカからヨーロッパ諸国の国旗まで。知らない国旗もたくさん見える。様々な国旗が取り囲み、360度に回転するセンターステージが3人にそれを見せる。
BABYMETALはそこから見える景色から何を感じただろうか。感極まった様子のMOAMETALの表情が映ると、感情が堰を切るように溢れ出す。
その景色は、今まさにバラバラになりつつある世界に訴えかけているかのようだ。この歌のテーマである“世界をひとつに”が切実に感じられ、より壮大なものにする。
3月末、ベルギーのブリュッセル空港で爆破テロ事件が起きた。以前フランスのパリのコンサートホールを中心に起きた同時多発テロ事件も含めて、テロと移民問題で揺れるヨーロッパ諸国でこのような光景が繰り広げられることが胸に迫る。
ひょっとして今日のライブも、タイミングが悪ければ開催が危ぶまれたかも知れない。海外のBABYMETAL関連の掲示板を見ると、ベルギーのテロ事件を受けてフライトをキャンセルしたお客さんもいたらしい。 世界が混迷を極める中、まるでここが世界の中心のように錯覚する。いや、これは錯覚なのだろうか。
最後、3人が中央に寄り集まってフォックスサインを重ね合わせる。鳥肌が収まらず、全身の血が入れ替わるような確かな感覚を味わった。

“世界をひとつに”なんてありえないことかも知れない。だけど、今までに何度も非常識を常識に変えてきたからこそ希望を抱いてしまう。
たとえ世界がひとつにならなくても。でも…
その「でも」が力強く、説得力を帯びている。言い訳じゃない。逃げ道じゃない。輝きに溢れた「でも」に、心が激しく揺さぶられる。
時折ステージではZeppの客席が映し出される。これが“離れていても心はひとつ”なのか、3人の基盤となり続けるさくら学院のテーマを思い出す。客席の国旗の中にはさくら学院のフラッグもあり、それがひとつの国のように見えて微笑ましくもあり、3人の生まれ故郷を明確に示すかのように感じて涙腺を刺激する。 SU-METAL、YUIMETAL、MOAMETAL、神バンド。7人のステージを様々な国旗が彩り、新たなワールドツアーの開催を祝福していた。
そしてライブは終盤を迎える。ムービーにはBABYMETALの旗がたなびくイラストが映し出され、道なき道を描いたような荒野の先に3人の旗がある。
その旗を今日、ここに新たに立てにきた。
様々な国旗が掲げられる中、まるでひとつの国を作るかのように3人が旗を抱えて登場する『Road of Resistance』
それは月面着陸のごとく歴史に深く刻まれ、革命のごとく新しい時代を切り開こうとする。

新たなストーリーに自ら息吹をもたらすため、少女たちは小さな身体で見えない鞭を激しく打ち付ける。それを打たれた馬のように客席ではサークルモッシュが発生し、そのサウンドとパフォーマンスの迫力となんとか会話しようとする。
「Wow Wow」とシンガロングする中盤はすべての音が鳴り止み、観客の声だけが響く。旗を片手にセンターステージで拳を突き上げるメンバーに向けて、まるで世界をひとつにするような気概に溢れた眼差しで声を上げる。

その時の3人の表情は今までに見たことのないものだった。最後の力を振り絞るかのように呼吸を合わせてダンスするSU-METAL、YUIMETAL、MOAMETAL。それを観ている我々が知らないドラマを、この子たちは何遍も抱えてきたことだろう。
活動は決してラクなものではなく、不安とプレッシャーに押し潰されそうになった夜もあったのかも知れない。彼女たちは超人として生まれたわけではなく、日本の広島、神奈川、愛知で生まれた普通の女の子たちだ。日々を積み重ねることで力を身につけ、それぞれが歌、ダンス、アイドルへの「好き」を極めた。それがプロデューサー・KOBAMETAL氏のメタルへの熱量とクロスオーバーし、前人未到の地に降り立つことになる。プロフェッショナルなスタッフたちと手を組み、未知なる世界を開拓している。
BABYMETALを見ていると、叶わない夢なんかないじゃないかとさえ思えてくる。大事なことは、本気かどうかだけ。それさえあれば、道なき道だって見つけられるような気がしてならない。
「命が続く限り 決して背を向けたりはしない」
SU-METALの姿から、これしかない。これに懸ける。そんな迫真の表情ばかりで、ライブ中にふとその顔が大写しになると地蔵になる。突き上げていた腕も固まるくらい、その表情、歌声、気概に圧倒される。世界を迎え撃つ覚悟ができている。
YUIMETALは一時期痩せた姿に心配を隠せないこともあったが、それが失礼にさえ思える。自身の幼くて可愛らしい風体に甘えることなく、引っ込み思案な性格なのに勇敢に立ち向かっていく姿がただただかっこいい。
MOAMETALはその天真爛漫な笑顔で次から次へと人々を撃ち墜とし、最高を更新し続ける。BABYMETALから感じる“怖いもの知らず”の強さは、この子の眼差しからきている。

まるで3人を通して世界を見つめているような気持ちになる。ガッツポーズで床に滑り込むようにしゃがみ、客席もそれに倣って拳を天に突き上げる。
「We are!」「BABYMETAL!」 「We are!」「BABYMETAL!」 「We are!」「BABYMETAL!」
何度もコール&レスポンスし、中二階に登場した銅鑼をめがけて無邪気に駆け上がる。SU-METALが全身の力を振り絞るかのように銅鑼を叩くと火花が散り、音が鳴り止む。
スタンド席の観客も一斉に立ち上がり、大歓声に包まれる。その中で階段を降り、ウェンブリーアリーナを見渡す3人。SU-METALは先ほどまでの表情と打って変わり、少女のような顔になる。18歳の女の子であることをすっかり忘れていた。感極まり、少し泣いている印象を受ける。
様々な国旗がたなびく客席。どこもかしこも目を輝かせる人たちで埋まり、その光を浴びるように3人の瞳が輝いている。それは光か、はたまた涙か。それぞれが中元すず香、水野由結、菊地最愛と世を忍ぶ仮の姿へと戻るかのようで、素の表情にさえ見えた。
それは鉄仮面が壊され、もう1人の自分が現れたのかも知れない。“自分との戦い”の決着が付いたのだろう。白から黒へ、または黒から白へ反転するように、階段を降りる際は世界が熱狂するスーパーヒロインと10代の日本の女の子との間を何度も行き来していた。

MOAMETALは「You are also precious to me. I love you!」と言い、YUIMETAL「It is thanks to you that we are here today! We love London!」とそれぞれフォックスサインを掲げ、満面の笑みで挨拶する。
SU-METALが「We are going back to Japan」と発すると、少し残念がるロンドンの観客。しかし間髪入れずに「But remember we are always on your side!」と言うと、再び歓声が。
「See You!」
いつもの決まり文句で鮮やかに去っていく。最後の挨拶以外はMCは一切なく、ノンストップの“メタルレジスタンス第4章”が大歓声に包まれながら幕を閉じる。

この物語はまだまだ続く。そう確信に近いものを感じた。いつ終わるか分からないBABYMETALの物語には、きっとまだまだ先がある。

奇しくも、この日が日本人初のウェンブリーアリーナ公演になった。
いや、「なってしまった」と言うべきか、本当は3月12日にX JAPANが先陣を切ってワンマン公演を行う予定だったが、メンバーのPATAの緊急入院により開催が来年に持ち越されてしまった。それもあって、「日本人初の快挙!」と素直に喜べないところがある。
今までのBABYMETALの活動のそのほとんどがX JAPANの後追いといっても過言ではない。ダメジャンプ、クリスタルピアノ、銅鑼、「アカツキだー!」から、目黒鹿鳴館、日本武道館の『赤い夜』『黒い夜』のタイトルと「Japan...」の連呼まで、ありとあらゆる部分でリスペクトを捧げてきた。
そういう意味では、4月1日の“FOX DAY”に発表された9月19日の東京ドームまでの筋書きが崩れてしまうことになった。でも、それによりBABYMETALはついに自身の物語を歩むことになるのかも知れない。『THE ONE』の歌詞は始まりにも終わりにも読み取れる。X JAPANの東京ドームの解散ライブのタイトルは『最後の夜』。過去に『青い夜』を『赤い夜』、『白い夜』を『黒い夜』と反転させたBABYMETALのことだから、これが『最初の夜』へと反転するのか?
この壮大なストーリーは、まだ始まったばかりに違いない。

Zepp Divercity Tokyoの会場を出ると空が白みかけていた。深夜から朝にかけて観ていたことをすっかり忘れていた。まるで夢の世界から目覚めたようだけど、全部夢じゃない。でも夢を見させられた。その正体は、紛れもない現実だった。
深夜4時から朝方6時まで、感覚が最も研ぎ澄まされる時間帯のBABYMETALは格別だった。かつて不安で眠れなかった夜も思い詰めた夜も、フォックスサインを掲げた夜ですべて上書きされるだろう。
ロンドンから日本へ、時差8時間をリアルタイムで繋いでくれたライブビューイングさんに大感謝です。

BABYMETALは“メタルで世界をひとつに”という壮大なテーマを身に纏うことになった。
でも正直、世界はひとつにならなくていい。「なってほしい」その願いこそが、「なるために」そこに向かうことこそが重要に思う。
“自分との戦い”の決着は世界が決めることではない。己自身が一歩でも進むことでその景色は変わり、世界が変わる。世界はいつだってこの目で見る景色でしかない。規模が小さくても大きくても、それは変わらないのだろう。
この日のBABYMETALにはそう教えられた。

世界各国のヒットチャートを賑わそうが、前代未聞の記録を更新しようが、いつまでも根強く残る場所は人の心の中だ。
一過性のものや刹那的なものに興味はない。 そこで目にしたものは“自分との戦い”がテーマの後世に語り継がれるべき優れた作品であり、強烈な映像体験だった。
この日のライブは海外の人が9割を占めていたそうだが、その中に小さなお子さんの姿もあった。YouTubeやTwitterに投稿されたその姿はどれも、日本から来たヒロインに熱狂し、恋焦がれている様子だった。
中でも、クリスマスプレゼントにチケットをプレゼントされた姉妹が印象的だった。チケットを手に取った時は発狂レベルで大喜びしていたが、ライブになると一瞬でも見逃してたまるものかと言わんばかりに真剣に鑑賞する姿が微笑ましい。

Babymetal christmas (headphone warning)   - ウェンブリーのチケットを貰って大喜びする姉妹
Babymetal bliss - 真剣にライブを鑑賞する姉妹

そして、BABYMETALの魅力を表す写真として何よりも広めたいのが、Twitterに投稿されたこの一枚。

https://twitter.com/hayleycodd/status/716428345249021953


まさにBABYが楽しむMETAL。子どもから大人まで、アメリカからヨーロッパまで、全ての人がBABYMETALの前ではこのような顔をしているのだろう。

この少年からしてみたら、“世界をひとつに”だって信じて疑わないのかも知れない。


BABYMETAL WORLD TOUR 2016 in UK
2016.4.2 THE SSE ARENA WEMBLEY
(Zepp Divercity Tokyo - LIVE VIEWING)

01. BABYMETAL DEATH
02. あわだまフィーバー
03. いいね!
04. ヤバッ!
05. 紅月 -アカツキ-
06. GJ!
07. Catch me if you can
08. ド・キ・ド・キ☆モーニング
09. META!メタ太郎
10. 4の歌
11. Amore -蒼星-
12. メギツネ
13. KARATE
14. イジメ、ダメ、ゼッタイ
15. ギミチョコ!!
16. THE ONE - English ver. -
17. Road of Resistance


2013年〜現在までのBABYMETALのライブレポートはこちら。


19 件のコメント:

  1. 返信
    1. 読んでくださりありがとうございます!GJ!は映像から楽しさが伝わってきました。

      削除
  2. 素晴らしいレビューでした。読んでて涙があふれました!

    返信削除
    返信
    1. とんでもございません…あのライブで感じたことをどうしても留めたかったので、共有できて嬉しいです。

      削除
  3. Zepp Divercity Tokyoの早朝の記憶が蘇る素晴らしいレポでした。

    返信削除
    返信
    1. 夢のような時間でしたね。読んでくださりありがとうございます!

      削除
  4. 返信
    1. 映像を見ながら涙しましたが、それがお伝えできていれば本望です…!

      削除
  5. そうだったわ・・・。
    文才スゲー!

    返信削除
    返信
    1. とんでもございません!気持ちに乗せて書いたまでですので、ライブの魅力が伝わっていればと思います。

      削除
  6. 爺さんです。私はZEPP TOKYOでした。
    仕事の後、新橋で夕食とカラオケで時間を潰し12時から物販の列に並びました。
    4時半までに順番が来ず何も買えぬまま入場しました。
    8時に新橋に着いた時は立っているのが精一杯。体力の無さを痛感しました。
    次は20日です。相方は21日なので初めての一人参加です。

    返信削除
    返信
    1. 書き込みありがとうございます!
      いえいえ…十分体力がありすぎかと思われます。自分はまだ32歳ですが、普段座り仕事のせいか深夜から早朝まで立ちっぱなしは腰にきました。
      20日の新木場参戦、お疲れ様でした。僕は21日に行きました。

      削除
  7. 爺さんです。昨日STUDIO COAST行きました。
    TOKYO DOMEは落選しました。

    話は変わりますが、竹内さんは映画監督でもあるんですね?
    私も以前、一度だけ映画作りに参加したことがあります。
    美術監督の稲垣尚夫氏との関係で日本映画学校の生徒さんにも協力いただきました。
    もっとも私は金集めやスタッフの飲み会の差し入れ等雑用係でしたけど。

    返信削除
    返信
    1. 先日は新木場お疲れ様でした!僕は昨日行きました。LVでは観ましたが、生で観られて感激しました。
      はい、映画監督もやっております。おお、そうなんですね!稲垣尚夫さんと繋がりがおありなんですね。実は僕、かつて日本映画学校に在学していました。学費の都合で中退してしまいましたが…。

      削除
  8. 遅まきながら、拝読させて頂きました。
    僕もZeppDiverCityTOKYOでした❗(ちなみに新木場は20日、ドーム参加です。)
    ライブビューイングの感動が甦りました❗これからも楽しく読ませていただきます(*´ω`*)

    返信削除
    返信
    1. とむを様

      読んでくださりありがとうございました!同じ場所にいらっしゃったんですね。僕も9月はドームのチケットが当選しましたので、確定でございます。楽しみですね〜!
      そう仰っていただき、ありがとうございます。
      これからもライブを観に行くたびに書きますので、よろしければご覧くださいね◎

      削除