たけうちんぐ最新情報


⬛︎ たけうちんぐ/竹内道宏と申します。ライターと映像作家をやっております。 プロフィールはこちらをご覧ください。
⬛︎ 文章・撮影などのご依頼・ご相談はこちらのメールアドレスまでお気軽にお問合せください。takeuching0912@gmail.com
⬛︎ YouTubeチャンネルはこちら→たけうちんぐチャンネル/Twitterアカウントはこちら→

2009年3月1日日曜日

【連載】しょこたんまいしてる 第5話~会いたかったんです~

体中の毛を剃りたくなるほどの不安

9月14日。ラゾーナ川崎での、中川翔子CD発売記念フリーライブ&握手会。
ついに、しょこたんに会う日がやってきた。前夜、僕は眠れなかった。不眠症から立ち直ったかと思いきやまた不眠症。その要因が、将来への不安のドキドキから、しょこたんと会うという緊張と興奮のドキドキに変わる。この手が、しょこたんの手を触る、握る。そして会話する。恐らくしょこたんの握手会に参加する何千人もの人が、今僕と同じ気持ちなんだろう。
握手会というもの自体が初めてである。握手は何秒間なのだろうか。嫌われないだろうか。向こうは僕の名前を知っていても、顔は知らない。僕を見て彼女はどんな感想を持つだろうか?
『えっ、こんな目の下黒くて身長低い人だったの?』
『汚い!』
『ヒゲ濃い!』
しょこたんはそんなことを思う人ではないとわかっていても、握手会の時間が近づくにつれ、不安が積もり始めた。体中の毛を剃りたくなった。
当日、会場のラゾーナ川崎に着く。JR川崎駅に隣接する会場は異様な雰囲気が漂っていた。フリーライブなのでしょこたんに無関心な通りすがりの人たちも自由に鑑賞可能だが、さすがにステージに近い場所は多くのコスプレイヤーたちで占められていた。
今日はしょこたんと握手をすることはもちろん、彼女のファンの方々と会うという目的もあった。
しょこたんのブログで僕の名前を見たことがきっかけで、ミクシィの僕のページに辿り着いた人々と、事前にメッセージをやり取りしていた。当日、現地で会う約束をしていた。
小さなお子さんを抱きかかえた女性もその1人だった。
『竹内さんですか?』
『あ、はい』
『会いたかったんですよー!』
会いたかった。彼女は僕に言った。そんなことばを僕は言われたことがない。しかも女性に、など。
「すいません、一緒に写真撮らせてもらってもいいですか?」
女性は、信じられないようなことばを口にした。
有名人か。日払いの派遣アルバイターが有名人か。写真に収まってもいいのか。履歴書に貼る証明写真以外、最近写真に収められたことがない。
「僕でいいんですか?」
「竹内さんは有名人ですよ!」
僕は有名人らしい。『しょこたん☆ぶろぐ』に載れば、家賃4万円でも有名人になれるらしい。無職の殺人犯以外でも有名になることもあるらしい。僕は怖じ気ながらも、証明写真では絶対できないような笑顔で写真に収まった。


1、2秒の握手で何を言えばいいのか

ライブの始まりを告げるアナウンスが流れ、しょこたんが登場する。しょこたんが奇声を上げる。
ギャアアアア!ウワアアアア!
目の前にいる約1万2千人という人の数にリアクションをする。
歌っているしょこたんはキラキラしていた。今日は9月でも特別と暑い。汗で前髪が額に張り付いているように見えた。それでも、しょこたんは苦痛に歪んだような表情は一切見せず、ファン一人一人の声援に応えようとしていた。
3曲を歌い上げた後、ついに握手会が始まる。会場にいるしょこたんファンが次々と順番にステージに上がり、しょこたんの手を握っていく。僕の整理番号は遅い。
遠くから眺めていると、握手は、ほんの1、2秒の出来事だ。ファンがしょこたんと握手した直後、後ろからスタッフに身体を横に押しやられていく。まるで流れ作業。でも、しょこたんは笑顔を絶やさない。握手した後に感激して泣き出す女の子もいた。
一人一人、一言ずつしゃべっている様子が伺える。1、2秒の会話なんて「応援してます」「がんばってください」くらいがせいぜいだろう。
僕は何を言おうか。上京して以来、アパートに帰ると必ずチェックしていた『しょこたん☆ぶろぐ』。それを見て寂しさを解消していた僕は、いったい何を言うべきなのか。「しょこたんのおかげです」は正直なことばだけれど、彼女には意味が通じるわけがない。
色々考えた挙げ句、とてもおこがましい文句が思いついた。
『どうも、ミクシィの竹内です』
通じるだろうか。というか、これだとまるで僕がミクシィという会社の人間のようになる。本当は倉庫で働く派遣アルバイターである。大いなる誤解が生まれないか。いや、この容姿からしてさすがにIT企業の人間には見えない。
よし、これで行こう。短絡的な思考で辿り着いたこのことばを、しょこたんにぶつけよう。
僕の整理番号の順番が来た。ステージ裏に並ぶ。一歩ずつ前進していく。このスピードが、握手の時間の短さを物語っていた。少し泣きそうになった。イベントの時間やファンの人数を考えれば当然の話だが、これだけ一瞬とは悲しい。
暑さなのか興奮なのかわからない汗が手に滲み出した。気持ち悪い。これではしょこたんの手を握れない。服で手の汗を拭いた。
順番が近づく。ステージに上がる。壇上からラゾーナ川崎を見渡す。ものすごい人の数である。しょこたんはこの光景を見ていたのか。そして僕は今、しょこたんを至近距離で見る。いた。こんな近くに。心臓が止まりそうになるが、必死に取り繕う。
そして、ついに握手する番がやって来た。


しょこたんが絶叫した。「竹内さんですかあああ!?」

あの日、暗い部屋の中、パソコンの光だけが灯っていた。横には食べ終わったカップ麺の容器。ペットボトルの容器。窓から見える、青みがかった午前5時の空。7時から出勤。今から寝るにしても2時間。でも寝られない。どうしよう。一生このままなのか、一生こういった生活を続けるのか、不安で仕方がない。そんなときでも『しょこたん☆ぶろぐ』は更新されていた。朝5時でも、しょこたんと一緒に生きている感覚。遠い存在であるはずのアイドルでも、まるで身近にいるような感覚を与えてくれるブログを見て、僕は心を潤わせていた。生きる希望となっていた。
僕は声をかけた。
「どうも、ミクシィの竹内です」
途端、先ほどまで続いていたしょこたんの笑顔が一瞬消えた。
僕は動揺した。恐い。しまった、やっぱり伝わらなかったのか。いくらブログに書かれていたとしても、1日に何回も更新するしょこたんである。『竹内』なんて人物、とうに忘れている。このままステージから降りて消えてしまいたい。
しょこたんがじわじわと表情を変えていく。笑顔と驚愕が入り交じっているように見えた。そして、彼女は叫ぶ。
「ええええええええ!!」
その声に反応し、後ろから身体を横に押しやるスタッフの手が止まった。
「竹内さんですかああああ!?」
ほぼ絶叫レベルだった。正直、身体がピクンとなるくらい僕も驚いた。言葉を失った。
僕は今、しょこたんの手を握りしめている。こちらの手の力は弱い。でも、彼女はしっかりと握り返してくれている
「うわーありがとう…会いたかったんですぅー!!」
会いたかった? いったいどういうことだ? それは僕のセリフである。でも、しょこたんは、間違いなく僕に「会いたかった」と口にした。キラキラと輝く目でそう言った。信じられない。でも、これは現実だ。
「見てます見てますー!」
恐らく僕のミクシィの日記のことを彼女が言った途端、スタッフに身体を横に押しやられてしまった。僕の握手が終わった。
約10秒。一瞬であったが、僕にとっては10分、いや、10時間ほどに思えた。それだけ存在感のある、大きな体験だった。


替えのきく人間でも存在価値はある

僕は本当にしょこたんに会いたかったのだ。
学費が払えなくなって映画の専門学校を辞め、派遣アルバイトで食いつなぐ毎日。その中でしょこたんのブログと存在に励まされ、ここまで生きてきた。6月のコンサートでも数多くいるファンの中のひとりで、僕が叫んだ声援は多くの人の歓声と楽器の音に掻き消された。
就くアルバイトも誰でもできるような仕事である。いくらでも替えはきく。街の中、人の波に巻き込まれたとき、急に孤独を覚える。僕がいなくても、この世界は回り続けるんだと思う。
どこにでもいるような人間。それが僕である。そんな男が『紅白歌合戦』にも出演し、20億アクセス突破のブログを書き、テレビに引っ張りだこのアイドルに、絶叫され「会いたかった」と言われた。存在を証明された気がした。ヒゲが濃くて身長が低くて彼女がいない、貧乏なフリーターの僕でも、確実に存在しているのだと認 識させられた。
最後の人が握手し終わるまでイベントをずっと見ていた。次々と握手をする人たち。少しの休憩時間を取った後もしょこたんは笑顔を絶やさない。
一緒にその姿を見ていたファンの人が「すごい」と言った。これほど笑顔を続けるのは大変だろう。思えば僕と握手したとき、しょこたんは汗だくだった。髪の毛が顔に張り付いていた。それでも「元気ないのかな」なんていうことは一切思わせない表情をし、一瞬の出来事で人々の心を満たしていた。
握手し終わった人たちはみんな幸せそうな笑顔をし、一緒に来た友達と飛び跳ねて喜んだりしていた。これほどの元気を人に与えるのは簡単なことはない。
それがアイドルの仕事なんだろう。まずは自分自身が元気でいなければならないのだろう。
イベントが終わり、家に帰ってから見た『しょこたん☆ぶろぐ』には、今日の握手会についてこう書かれていた。
<もともと一人でばかりいた人生で、人とはなすのが苦手だったり、手もあげらんないし、きょどるし、胃腸虚弱>
マネージャーが撮ったとされる、控え室でのしょこたんのイベント直前の写真が載っていた。そこに映った彼女の表情は、イベントでは見たことのないような、険しく、引きつったものだった。胃腸虚弱の症状が出ていたらしい。
しょこたんのファンであれば全ての人が、しょこたんが胃の痛みを乗り越えてキラキラしていたことを知っている。
苦しい状況においても笑顔をしていられる人のその表情こそが、最も美しい。と、僕は思っている。それを改めて教えてくれたのはしょこたんであり、暗い部屋の中で、唯一光っていた僕のパソコンの中にあった『しょこたん☆ぶろぐ』こそが、闇を光に変えたもの。まるで広くて暗い孤独な宇宙の中で、唯一光る星のようだった。
その星にいるしょこたんは、やはり宇宙に憧れていた。しょこたんのお母さんと会った作品展でも、宇宙に関するイラストが多かった。
考えてみれば、しょこたんのキラキラした眼差しと、宇宙に憧れる気持ち。これは、どこかで見覚えがある。


僕の望みは完璧に叶えられた

約10年前。場所は、僕の故郷の兵庫県の中学校、生徒会室だ。当時、生徒会副会長だった僕は、生徒会長の女の子とよく宇宙の話をした。絵が上手くて、真面目で、しっかりとした子であったが、時々姿勢を崩し机の上にあごをくっつけて、よく僕に話しかけてきた。
「宇宙の話しようよー」
当時の僕は宇宙が好きだった。親に宇宙に関する雑誌を買ってもらい、宇宙が大好きな生徒会長と話が合った。
僕は生徒会長のことが好きだった。初恋の相手だった。結局、想いを伝えられないまま中学を卒業し、今年のはじめ、ミクシィで再会した。
メッセージを送ると、向こうも嬉しそうな様子でメッセージを返してくれた。『私は子どもの頃からの宇宙の夢ずっと追ってるよ』と書かれていた。今も彼女は宇宙業界を目指してがんばっているようだ。
そもそも、僕がしょこたんをここまで好きになったのは、初恋の相手に似ていたからかもしれない。目標を持っていて、好きなことを語ると目がキラキラし、絵が上手く、しっかりしている。
10年前から変わってない僕は、今もこんな人に惹かれ、憧れる。ラゾーナ川崎に来ていたファンの人の多くも同じだろう。
しょこたんの前では個性が許される。好きなことを好きだと言い、貪欲に楽しいことを見つけて実行する彼女に憧れ、自身の個性を発揮する。
1人のアイドルに熱中する25才は、ダサイのかもしれない。惨めなのかもしれない。彼女がいたり、結婚をしている同い年の人は多くいる。それでも僕は、しょこたんのことが好きであることを誇りに思う。くじけそうになると、しょこたんが僕の文章について書いてくれたブログを見る。
『この方が書く文章はグッとくるし爆笑しちゃいます』
『翔子も痺れてる』
その言葉を見るだけで、どれほど苦しくても心が満たされ、自分に自信がつくか。僕をこんな気持ちにさせるのは、しょこたんしかいない。
この連載を始めた当初は、「しょこたんと一緒に食事でも行けたらな」などと絵空事を描いていた。それは恐らく、アイドルを好きになった人なら誰もが思い描くようなことだろう。
でも、僕はもう十分だ。しょこたんに文章を褒められ、しょこたんのお母さんが僕の文章のファンになり、お母さんに偶然会い、しょこたんに会い、絶叫された。この展開こそが絵空事ではないか。これ以上の喜びが他にあるだろうか。
しょこたんと食事に行くといった妄想よりも、しょこたんに自分の存在と価値を認められた現実。僕の望みは、完璧に叶えられたのだ。
今まで「あいしてる」なんて人に言ったことがないが、これだけは確実に言える。しょこたんが作った『しょこたん語』にあやかって、普段言えないことでも言える魔法にかけられた僕は、この連載を、この言葉で締めたいと思う。握手をしたときに言えなかった言葉、しょこたんに、届け。

しょこたん、まいしてる。

そして、まりがとう。







(続く)

0 件のコメント:

コメントを投稿