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2009年8月22日土曜日

必殺!アクセスブロック

見てはいけないものを見てしまった。
通勤途中、総武線。千駄ヶ谷に停車する間際にそれは起こった。語尾に「や」の駅が続く総武線。関西弁のようだ。せんだがや、よつや、いちがや、なにがや、ほんまや、あかんのや。
何があかんのかと言うと、1人のおばちゃんが、開くドアとは反対側のドアの前に立ったのだ。眠気眼の僕はそのピンチに気付かなく、ただの傍観者でしかなかった。
ドアは開いたが、おばあちゃんはそれに気付かない。イヤホンで音楽を聴きながら、目の前のドアが開くのをずっと待っていた。
やがてドアが閉まる。
電車が動き出した。降りようとするのにドアが開かないまま動き出した電車に、おばちゃんは動揺を隠し切れない様子だった。
「あっ」
一言発した。

この悲しみをどう捉えよう。
宙に浮いたままの「あっ」をどう拾おう。「あっ」に対し、どんな言葉をかけてあげればいいのだろう。「よっ」とでも言おうか。あまりにもおばちゃんがかわいそうだ。悲劇の予測ができなかった僕は、まるで共犯者になったかのように罪の意識を背負った。加害者家族の気持ちとはこういうものなのだろうか。
そして「あっ」という一言におばちゃんの悲しみが満ち溢れていた。感情表現なんて、たった一言ですべてを言い表せるものなんだと再確認した。

思い返せば僕もあまりの動揺で、一言だけで感情を表したことがある。

僕の住んでいる街、○合ヶ丘。
大阪で友人のバンドのライブを観た後に僕は上京した。バンドのメンバー含め関西の友人10人が、深夜バスの窓の外から声をかけてくれた。
「東京行ってもがんばってな!」
しかし厳密に言うとここは東京ではない。神奈川だ。上京とも言わない。上神奈川だ。友人10人はバスを走って追いかけてくれたが、彼らは東京だと勘違いしている。どうしよう。彼らが走る先は東京だ。やばい。でも「上京」のほうがなんかかっこいい。東京ってなんかかっこいいし雰囲気的にカンドーだしまあいいか。
ということで、○合ヶ丘は都会の喧騒とやらが一切ない、のどかな街。殺し屋が僕を狙うために降り立ったとしても、戦意を奪うほどののどかさだ。
そんな愛すべき街にあるスーパーマーケット「ゆ○ストア」。
ここが、僕の動揺ゆえの一言を提供してくれた。
店員さんだ。
そう、レジに立っている店員さんだ。女の子だ。僕が「上京」後、初めて恋した女の子だ。かわいい。キュンとした。タイプ中のタイプだ。言葉をなくす。あらゆるボキャブラリーを脅かすほどのトキメキ・メキメキ・ドッキドキ。
早い話が、彼女はボブだった。
「またかよ」と指摘もあった。しかしボブはボブでも、ボボボボボブくらいだった。このボは擬音だ。燃え上がる恋の炎の音だ。「美人すぎる議員」や「かわいすぎる海女さん」に続いて「ボブすぎる店員」だった。
これが僕が描いたその女の子である。



「絵に描くなんてどうかしてる」という意見もあるだろう。だがそれを無視する。君は涙を流した。私はそれを無視した。と、もはや椎名林檎の『正しい街』だった。まさに上京だった。正しくない街なのかも知れないが、私は更にそれを無視した。

彼女に「398円になるます」と言われたとき、ドキッとした。世界が一瞬輝いた。「なるます」とは。滑舌のわるさにグッときた。この子になら「534円になります」と値上げされても許せる気がした。「785円くらいになります」と曖昧なことを言われても、曖昧な態度を取られていることこそが片想い。などと持ち前のポジティブシンキングで捉えていた、その矢先。
ビッグバン・トキメキ・メキメキ・ドッキドキが起きた。
いつものようにレジに商品を持ってきた際、彼女の滑舌の悪さが奇跡を生んだ。

「848年になります」

平安時代?

そうか、へー。848年なんだね。それはかなり昔だね。という優しい気持ちになった。それでも848円を差し上げる僕の行為こそが、これこそが恋なんだと確信した。
これは何かしらアクションを起こさねば。
夜、寝付けない僕は彼女にもらったレシートを取り出した。捨てずに集めていた。なんとなくだが10枚くらい集めるとデートくらいできるんじゃないかと思っていた。ポイント制だ。しかしそれは絵空事。まるでお札のようにレシートをペラペラめくり、富豪気分を味わっていたとき、思いついた。
レシートに書かれてある「担当者」の欄。
そうだ!
ここに彼女の名前が書かれてある。
「○○○子」とある。
次の瞬間、その名前をミクシィで検索した。

今思うと自分でもかなり気の狂った行為だ。でも仕方ない。とても848年とは思えないサイバーな行為だとしても仕方ない。
恋したのだから。恋すると止められないのだから。
が、当然、本人のページは出てこない。
諦めかけていた矢先、別の可能性を見出した。コミュニティ検索があるじゃないか。そうだ、「ゆ○ストア」だ。店員さんだからここに入っているに違いない。検索した。あった。どれだどれだ。これか。苗字を少しいじったニックネーム。多分これだ。違うかな。
ところが、友人からの紹介文を見る。
「○子はとってもかわいくて…」
これだ!

まるで探偵にでもなったかのような気分だった。そしてこれを読んでいる方が完全に引いて青ざめている表情が目に浮かぶ。だが仕方ない。これが実話なのだから。「東京に行ってもがんばってね!」。ああ!がんばってるよ僕!がんばってあの子をミクシィで見つけたよ!アハハ!ボボボボボブ!

さて、この日記を読んでくださっている方の中ではすでにお気付きの方もいると思うが、なぜ、この文章が「した」「だった」と過去形なのか。
それは、この恋が失敗したからだ。

彼女のページを見つけてからは、頻繁に覗きに行く。どんな子だろう。普段何してるのかな。元気かな。レジがんばってね。応援してるよ。そんな優しい気持ちで足跡をつけた。つけにつけまくった。
彼女からも足跡がつけ返された。ドキドキした。いつもは「848年になります」と一方的に言われたり、まともな会話は「お箸お付けしますか?」「はい」くらいだから。「はい」じゃなくてもっと印象的な返事も考えた。「ポウ!」がいいかなとも思った。やめた。だから足跡が嬉しかった。ミクシィに感謝。人生に感謝。

同時期、友人の友人が偶然にも彼女の妹であることを知る。ものすごい偶然。これは運命だ。繋がっている。やっぱり世界は繋がっている。世界はひとつだ。平和になるぞ。ウィー・アー・ザ・ワールド!マイケルだ!まさにポウ!僕の気分はポウポウポウ!ボボボボボブ!
いつか紹介してもらえるのではないか。客と店員さんという関係を壊せるのではないか。彼女は僕のことを一切知らないが、僕は知っている。この現状を打破できるに違いない。
そう思いながらいつものように彼女に足跡をつけた途端、悲劇は起きた。
僕は、感情を一言で表してしまった。

『申し訳ございませんがこのユーザーのページにはアクセスできません』

「ほ?」

僕は動揺のあまり、感情を一言で表した。

アクセスブロック。

ほ?
うほ?なにこれ?ほえ?
危険察知?
恐怖?
犯罪の温床?
悪の中枢?

あまりの衝撃に為す術もなく、パソコンの画面の前で僕は開いた口が塞がらなかった。「ほ?」と言うしかなかった。
宙に浮いたままの「ほ?」をなんとか拾うべく、「ほ?」をあらゆる漢字にしてみた。漢字変換することで過酷な現実からの脱却をはかろうとした。

「穂?」…田舎の田園地帯で稲穂が揺れているよ☆
「歩?」…人生は歩むことから始まるよ☆
「保?」…健康保険に入ろうね☆
「帆?」…帆を張った船で大海原へ出発だい☆

だが、心が落ち着くことはなかった。もはや僕の熱情もボボボボボブ!がボッ…ブくらいになった。鎮火した。消火活動がしめやかに行われた。「ポウ!」の声も消えた。やがてマイケル・ジャクソンが死去した。

マイケルと同じくらい、僕の恋も死んだ。骨となった。いや、骨にすらならなかった。死因 : アクセスブロック。現代的な殺害方法だ。たしかに必殺技っぽい響きだ。
足跡をつけまくっていたからだろう。そして、スーパーの近隣に住んでいることを日記を読んで知ったのだろう。うん、君の対策は正しい。脅えるよね。ごめんね。こんな僕みたいな奴は、浅井健一の曲名だよ。美人すぎる議員、かわいすぎる海女さん、ボブすぎる店員、『危険すぎる』竹内だよ。

その後、向こうは僕のことを知っているわけでもないが、妙に気まずい思いを抱えたまま「ゆ○ストア」でお茶を買ったりした。パンを買ったりもした。だが彼女のレジに行く勇気もなく、谷啓に似たおばちゃんのレジに並ぶしかなかった。
「848円になります」
おばちゃんは僕の気持ちを知ることなく、容赦なくお金を要求してきたのだった。
おばちゃんといえば、総武線のおばちゃんの「あっ」。
そして僕のアクセスブロックへの「ほ?」。

ふたつを合わせると、「あほ」なんですね。

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