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2009年1月15日木曜日

殺人について

この日、25年間生きてきた中で最もショッキングな光景を見たのかも知れない。

吐き気を覚え、何度も涙が溢れた。胃が痛くなり、体調がおかしくなった。呼吸の仕方を忘れるほどの精神的ストレスとショック。心がボコボコに殴られたかのように、心が萎縮したかのよう。小指と唇が震え、一点を見つめた。潤んだ目により、その光景がぼやけて見えなくなることを望んだ。

しかしその望みは、この突然の大声で打ち消された。

「私は、絶対に死刑だと思います!」

仕事で東京地裁に行った。
最近は毎日行っている。厳重な荷物検査にも慣れ、大川興業所属の傍聴マニア芸人・阿曽山大噴火さんとも知り合った。裁判傍聴マニアの女性たちによる『霞っ子クラブ』の1人である高橋ユキさんとも知り合い、現在仕事で関わっている本『この殺人がすごい!」の寄稿も読んだ僕にとっては嬉しいこと尽くしでもあった。
今までに僕は何度か詐欺罪、強姦罪、恐喝罪、公務執行妨害などの裁判を傍聴した。しかし今日、初めて殺人容疑の裁判の傍聴をする。そのために傍聴券を受け取るために抽選の列に並ぶ。外れた。2日連続外れた。傍聴席50席に対し、傍聴希望者が約300人。倍率が6倍の中、当たるはずもなかった。
しかし何故か阿曽山大噴火さんが傍聴券をスルリと当て、僕に譲ってくれた。ご本人は殺人事件に興味はなく、ライブでネタにできるようなおもしろ裁判を求めているため不要とのこと。ブログにもこのことを書いてくださっている。ありがたすぎる。ものすごく良い人すぎる。感謝してもしきれない。もはや阿曽山大噴火さんではなく阿曽山大感謝さんだと思った。
この傍聴券は、昨年4月に東京都江東区で起きた事件の裁判のもの。
同じマンションに住んでいる女性、東城瑠理香さん(当時23歳)を強姦目的で監禁し、殺害。そして遺体をバラバラに切断し、トイレに流した事件を。
犯人は、捕まる前にテレビに映って笑顔でコメントをしていた星島貴徳被告。そして昨日の初公判では「部屋に隠していた被害者の骨が臭ってきたので、鍋に入れた」という新たな供述が大きなニュースになった。


この日の裁判は第2回目で、審理。今日のニュースでも報道されているけど、ものすごく壮絶なものだった。
昨年に大々的に何度も報道されていたのでテレビで星島被告の顔を見ていたけど、被告人として出廷してきた人物はまるで別人のようだった。痩せ細り、顔色が悪いというレベルではない顔色、無気力な表情。「生」とは全く反対側の次元にいるような外見をしていた。
最前列に席を取った僕と出廷してきたときの星島被告との距離は、1メートルもないほど近い。緊張が走り出す。仕事である上に、好奇心というものが僕を傍聴席に並ばせた。だから恐怖心はなく、興味や関心がそれに勝っている。そういうものだと思っていた。それでいいと思っていた。
そんな僕は大バカ者だった。
今まで生きてきた中でこれほどひどいものは見たことがない。

仕事で命令されたので念のため星島被告の姿をメモ帳にスケッチしたが、ペンを持つ手が恐怖心と絶望感によって震えまくった。
なぜかというと、傍聴席の右側に遺族関係者がいるからでもある。遺族の方々の気持ちを思うと、僕はここにいてもいいのか。いいのだろうか。好奇心や関心だけで来た自分を恥じた。仕事ではあるが、傍聴するという動機の中に少しでもそれがあったことを悔やんだ。
これが僕が描いた星島被告の姿。



動揺により、線が揺れているのがよく分かる。
検察官が、星島被告が犯行に至るまでの経緯と犯行後の死体遺棄について星島被告を追求していく。
その過程があまりにも惨たらしい。
レイプしようとしてその女性の部屋に入ったものの、星島被告が狙っていたのはその女性とは違う女性だった。2人暮らしをしているとは知らず、星島被告は誤って目的の女性の妹を襲ってしまった。
そして後には引けない星島被告は妹を監禁。自分の部屋のベッドに縛りつけ、強姦しようとするが性欲が湧かない。女性が叫ばないようにタオルを口に突っ込ませ、その目の前でアダルトDVDを見る。陰茎を勃起させるために見るが、勃起しない。女性が行方不明になったことがすでに警察に通報され、星島被告の家にも警察が来た。警察に嘘をつき、うまく逃れた星島被告にとって、すでにこの女性は邪魔だった。
そして殺そうとした。
首を刃物で刺した。8センチほど深く包丁を入れた。骨の感触がしたので止めた。包丁を引き抜くと血が大量に出た。

検察官が1つ1つの行動と動機を星島被告に尋ねる。
星島被告は「はい、そうです」などと丁寧に1つ1つ答える。その声は小さく、ぼそぼそと喋る声。聞き取れるのがやっと。
反省をしている様子だった。生きる気力が一切感じられないような表情をしていた。拘置所では自殺未遂もしたそうなので、死で罪を償う意志があるようだった。

検察官「首を刺したとき、東城さんの状態はどうでしたか?」
被告人「うぐっ、という低い声を出しました」
検察官「そのときあなたは何を思っていましたか?」
被告人「死んでくれ…お願いだから早く死んでくれと思っていました」

このとき、遺族関係者の座っているあたりから鼻水をすする音が聞こえてきた。時折嗚咽を出し、見なくとも遺族が泣いているということが伺えた。
苦しむ東城さんは腰を上げて痙攣するが、星島被告はその身体をベッドに抑えつけた。声を出さないように右手で口を封じ、左手で首を刺す。完全に息がなくなったことを供述したとき、遺族から激しい泣き声が聞こえた。

そしてその後、法廷は混乱状態になった。

法廷の両サイドには大きなモニターが飾られてあり、そこには星島被告の部屋、マネキンを使った実況見分の様子を撮った写真が映し出される。
そして、僕が最も驚いたのは、星島被告による犯行時を再現したイラスト。それが大きなモニターに映し出される。そのイラストが、実はめちゃくちゃ上手い。僕なんか当然、足下にも及ばない。星島被告の部屋の写真が映ったとき、壁に何かのアニメのポスターが貼られてあった。恐らく星島被告はアニメが好きか、何かしら絵に関心があったのかも知れない。それともそういう仕事をかつて目指していたのかも知れない。そういったことが伺えるイラストというのが、
遺体をバラバラに切断した状況を描いたものだった。

検察官「なぜ頭部から切断したのですか?」
被告人「見られているようで、呪われている気になると思ったからです」
検察官「どのように切断したのですか?」
被告人「まずは包丁で首のまわりに切り込みを入れ、骨の部分に到達したら骨をノコギリを使って切断しました」

丁寧に描かれていたのは、星島被告が遺体をバラバラに切断した浴室。胴体を一部分ずつバラバラに切断する過程が、事細かく何枚もの絵に描かれている。頭部を切断した後は胴体を奥に押し込む。切断した部分を浴槽に入れる。頭部はビニール袋へ。胴体は段ボールや。手足は冷蔵庫へ。
そういったものを被告人本人が『私が東城瑠理香さんの身体を切断したときの状況』などといったタイトル付きで描いたイラストが、モニターに大きく映し出される。
その様子を星島被告が語り、モニターに残虐なイラストが次々と映し出されたときのことだった。
突然、法廷内に「ううううううう!!!」という泣き叫ぶ声が響き渡った。
1人の遺族が突然大きな声を上げた。
泣き止まない。
そして泣き叫びながら法廷を退室する。
ドアの向こう側からも泣き叫ぶ声が聞こえる。
まだ止まらない。

後から聞いたところ、この泣き叫んだ遺族というのは被害者の東城瑠理香さんの姉らしい。星島被告が本来強姦しようとしていた姉。妹は、姉の身代わりになったようなものだった。間違えられて拉致され、殺され、バラバラに切断された。
なんていうか…
これは一体…
これほどの悲しみがこの世の中にあっていいのか?

僕は吐き気を覚え、何度も涙が溢れた。胃が痛くなり、体調がおかしくなった。呼吸の仕方を忘れるほどの精神的ストレスとショック。心をボコボコに殴られたかのように内蔵が萎縮したかのよう。小指と唇が震え、一点を見つめた。潤んだ目により、この光景がぼやけて見えなくなることを望んだ。
そしてその数分後、先ほどまでぼそぼそと小さな声で喋っていた星島被告が、検察官が質問している最中に突然、大声を上げた。

「私は、絶対に死刑だと思います!」

一瞬、法廷内が凍り付いた。
検察官はその言葉に対し、声を荒げた。

「被告人は黙って質問を聞け!質問に答えろ!いいな!?」

これほどまで、苦しい場所を見たことがない。
単なる傍聴席の傍聴人と座っているだけの僕。左手には報道関係者が検察官と被告人の言葉をすべてメモに取っている。右手では被害者遺族が号泣している。
こんな状況を僕は知らなかった。
そしてこれほどまでに惨たらしいものであると思わなかった。
なんなんですかこれは。
こんな悲しみがあってもいいんですか?
誰が被害者のお姉さんを救ってくれるんですか?

一緒に暮らしていた妹が、自分の身代わりで殺された。それだけでも苦しいのに、なぜバラバラに切断されなければならなかったのか?
供述によると、星島被告は「証拠隠滅のため」だったようである。逃げるため。自分の立場を守るため。月収は手取り50万円。満員電車が嫌いなので、毎日タクシーで通勤。そこに優越感を抱いていた。だけど今まで女性経験がない。満たされない。同じ階に住んでいるあの女性を犯したい。そういう性の欲求が、犯行に導いた。

検察官「あなたにとって世の中で1番大切なものは何だったんですか?」
被告人「自分です」

被告人への恐怖心なのか、被害者と遺族への同情心なのか、出所が分からない涙が目に溢れた。なんやろうか、この涙は。たぶん、言葉に出来ない代わりに涙に表れた。言葉にできない感情が溢れたとき、人は涙を流すんやろうか。怖い。悲しい。この2つの感情が、法廷を直視させなかった。途中から、僕はうつむき続けた。モニターを見る勇気もない。耳も塞ぎたい。目も塞ぎたい。何もかもに対し、感覚を無くしたい。心を消したい。
そうでもしなければ、頭がおかしくなりそうなくらい、心が痛かった。

裁判が終わった後、今日のこの法廷も描いた法廷画家の染谷栄さんにインタビューした。
2時間、色々なお話を伺った。15年間法廷画家の仕事をしている染谷さんは、映画『ぐるりのこと。』のリリー・フランキーさんのモデルでもある。映画にも法廷画家としてちょこっと出演している。テレビ朝日の専属の法廷画家なので、テレビ朝日系列のニュース番組の法廷のイラストは染谷さんが描いたものばかりである。

過去15年間、宮崎勤、麻原彰晃、光市母子殺人事件などの法廷を描いてきた染谷さんにとっても、今日の裁判はものすごく衝撃的だったらしい。

裁判員制度が今年から始まることで、法廷の景観が変わっていた。染谷さんは初めてモニターを見たらしい。そしてまさかそのモニターに、被告人が被害者を殺害する様子を再現した写真、イラスト、実際に犯行に使った凶器が映し出されるとは思わなかったそうである。
恐らく制度が始まれば、一般人である裁判員にも分かりやすいようにあのモニターが活用される。そこには、今日見たような残酷なイラストも確実に映し出されるだろう。今日の夜のニュースでは、このモニターの存在の有無を問う報道をする番組もあった。
遺族の方が取り乱すように号泣したのも、あのモニターの存在が大きいような気がする。
なんて言えばいいのだろうか。
今日見た光景は言葉にできるが、僕の気持ちは言葉にできない。ただ僕は今日の裁判を見て『僕には絶対に出来ない』と思った。当然であるが、その当然を疑う余地を一切与えないほど、本気でそう思った。
そして、殺人を犯すとこうなる。遺体を切断するとこうなる。トイレに流すとこうなる。鍋に入れるとこうなる。胴体をゴミ捨て場に捨てるとこうなる。などといった、人を殺すということが、どういうことなのか。それが、少しでも分かった気がする。
人を殺すということは相当なことであるということが、分かった気がする。

東城さんのお姉さんの気持ちを思うと、もう、苦しいとかきついとかいうレベルではない、何も言葉が見当たらないほどの悲しみが洪水のようにやってきて、1人の男の性欲のために、めちゃくちゃなことになっている様子が、このそれほど大きくない一部屋ですべて見えてしまった。

誰かにあのお姉さんを救ってやってほしいが、誰が救えるんだろうか。ただ、遺影を持っていたお母さんか。お父さんか。お友達か。
これほどまで、悲しいことがあっていいのだろうか…

染谷さんにお話を伺った後、地下鉄の駅まで染谷さんを送った。
印象に残ったのは、染谷さんの法廷画を描く姿勢。テレビの報道発表までに描かないといけないので、実質法廷で描くのはたったの約20分。その時間のおかげで早く描かないといけないため、法廷でのセリフや出来事にいちいち反応していられない。そして画の提出のために早めに退室するため、最後まで裁判を見ることはない。

「大変な作業ではありますが、それが少し救いでもあるんですよ。あんなに生々しい残酷な事件、普通の感覚では聞いてられませんよ…」

その通り、普通の感覚ではこんな裁判、聞いてられない。15年間も法廷画家の仕事をやっている染谷さんですら、衝撃的な裁判だったのだから。僕みたいに初めて殺人の裁判、更に死体遺棄をしたものに触れた場合、そりゃあ、心が壊れそうになる…

染谷さんと『ぐるりのこと。』の橋口亮輔監督とのシブヤ大学でのイベントで、橋口監督がこう語っている。

「常々、ドラマなどの法廷シーンに違和感を持っていました。重大な事件が裁かれる東京地裁104号法廷は、窓もなく平面で何の変哲もない空間で、被告もそれ以外の人もみんな一緒にそこにいるわけです。裁判官も検事も弁護士もみんな普通の人で、“日常の延長線上にある法廷”という感じが面白いと思いました」

まさにそれです。

だからこそ、怖かったんです。

なんなんでしょう。この悲しみは。

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