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2006年2月14日火曜日

ミドリ@心斎橋PIPE69

衝撃だった。
大学時代からの友人のバンド・チッツの現メンバー最後のライブということで、大事なバレンタインデーを捧げた。とはいえ残念ながら予定は何ひとつなかったのでちょうど良かった。
言ってしまえばいつもチッツの撮影が目当てだ。
チッツが演奏を間違えるしチューニングずれてるのに毎回素晴らしいだけあり、対バンで観るバンドにグッとくることなんて滅多にない。疎外感幸子と佐伯誠之助とクリトリック・リスくらいだった。別の意味でグッときたのかも知れないし、この感性が正しいかどうかは分かんない。だけど、どれも心を鷲掴みにされるライブだったことは間違いない。
この日の出演者は、チッツ、クッダチクレロ、ヨルズインザスカイ、MASS OF FERMENTING DREGS、THE GUVA、Telomere、ミドリ。
お客さんはそれほどいない。人の数が疎らのライブハウスはいつも通り。

初めて観たミドリのライブは、心を鷲掴みどころか。

鷲以上の強そうな鳥がいたらそいつを教えてください。そいつが掴みました。

だから今、心が痛い。

ライブが始まる。男性メンバー3人が演奏を開始する。不穏なメロディで、不気味な照明がチカチカとステージを照らす。
キーボードの「ハジメ」が着ているジャージは後ろに『アキバ系』と書かれており、アップライトベースをうねうねと響かせる「劒樹人」は胡散臭いチンピラかマジシャンのような白いジャケットを着ており、ドラムの「小銭喜剛」は上半身裸でイレズミが入っている。
全く統一感のないメンバーが演奏するステージに、一人の女性が上がってくる。豹柄のコートを羽織っている。関西の柄の悪さを体現してるかのようなファッションで、兵庫県明石市というのどかな田舎町に住む僕は緊張する。
するとその女性はマイクを取り、ドラムスティックでシンバルを叩く。
その叩き方が、暴力だった。いわゆるミュージシャンの叩き方とは一線を画すような、暴力の音が鳴り響いた。
その瞬間、ライブハウス内が一気に凍りついた気がした。
「やってええんかぁああ!!?」
小銭に向かって叫び、威嚇する。ドスの効いた声で、更に空気が凍りつく。緊張感が走る。途端に豹柄のコートが地面にスルッと落ち、その女性の正体があらわになる。

その名は「後藤まり子」。

セーラー服姿で、おかっぱ。ボブ。

かなりのべっぴんさん。

こんな人が暴力的に叩き、狂気じみて叫ぶとは。
これはギャップ萌えなのだろうか。そんな感嘆の意を胸に抱いたその瞬間、ギターを抱えた後藤まり子は急にスイッチが入ったかのように演奏と共に暴れまわる。
『わっしょい。』という曲らしいが、髪をふり乱し、デス声を響かせる。ものすごい迫力だ。恐い。けど、可愛い。どう感じればいいのだ。「のたうちまわる」という表現が正しい。何かにとりつかれたかのように、マイクに口を近づけて絶叫するボーカル。周囲の男3人の怪しげな雰囲気といい、この人たちはタダモノではないと確信した。

『お猿』ではギターを置いた後藤まり子がステージから客席フロアに降り、歩き回りながら歌う。人がそれほどいない客席は自由自在に歩くことができる。後藤を観るべきかステージを観るべきか。お客さんの中ではこの2つの選択肢があった。ステージを観るのを選んだ僕は男性メンバーの演奏をボケーッと観ていた。するとふと、そのとき背後に気配を感じた。くるっと振り返ると、後藤がすぐ後ろに立っているではないか。でも、なんだろう。様子がおかしい。静止し、口に何か含んでるような顔をしている。
その瞬間。
ブシュッ!!
後藤は口から水を吹きかけた。僕の顔面に目がけて水が大量に飛び込んできたのだ。
なんなんだこれは。
どんなバレンタインデーなんだ。
すぐ隣にいた女性客が思わず「まさかっ…、個人攻撃っ…」と、『新世紀エヴァンゲリオン』の赤木リツコばりに解説をした。このとき、使徒ばりに十字架の形をして消滅した気になった。一気に注目されて恥ずかしくなり、消滅したくなった。正直、一瞬ムカッとした。そりゃそうだ。冬に水を浴びるなんて。しかも口から。
だけど後藤まり子は可愛かった。
これはもう許すしかない。途端に笑顔になった。男は単純なのだろう。後藤まり子という人はそれを熟知してるかのような、女!に思えた。全身で女を体現していた。女のすべてを持ち、すべてを吐き出していたように感じた。

ジャズのような曲調で延々と「あんたは誰や あんたは誰か 私を惑わすあんたは一体誰なんや」と後藤が言い続ける『あんたは誰や』は強烈なインパクトを叩きつけた。
曲の途中、小銭に向かって「おい、あんたは誰やねん」と低い声で脅迫する後藤。小銭の頬に思いっきりビンタする。バッチーーン!と漫画のような擬音の文字が出るくらいの音。しかも何度も。何度も何度も。小銭は絶叫して答えたが、聞き取れない。そして劒に対しても、髪の毛を掴みながら「おい、お前は誰や?言うてみいボケ!!」と迫る。なんだこれは。こんなライブ観たことない。更に首が曲がるくらいに髪の毛を引っ張られるが、劒は黙々とベースを弾き続けていた。
「僕は一体誰なんや…」
突然、落ち込んだようにステージにしゃがむ。その後、ステージを降りて客席を歩き、煙草の灰やビールの水滴、靴の裏側などで汚れきった床に倒れ込み、「誰なんやぁああ…」と悶える。
お客さんは反応に困っている様子だった。特に歓声は起こらない。
いまだかつて味わったことのない緊張感。
この狂気には一言も発せられないよ。
心を鷲掴みにされたというよりも、胸ぐらを鷲掴みにされたような感覚。ステージで演奏するメンバー同様、客までもビンタされ、髪の毛を掴まれたようなスリルだ。ジェットコースターの最初、頂点に上がる頃を思い出させるライブだ。

最後は『POP』というラブソング。
ここで雰囲気がガラッと変わる。
センチメンタルなメロディのピアノが優しく鳴り、ベースが静かに入る。
「ある朝、突然あなたが死んだら私は大変喜ぶでしょう。もうこれ以上涙を流すことはないと言ってたくさん泣いて、悲しむでしょう」
乙女の恋心を綴った歌詞。届かない想いが歌われる。先ほどまで男を殴り、髪の毛を引っ張った人とは思えない女の子ボーカルが可愛らしく聞こえてくる。このふり幅はなんでしょう。狂気からまさかの感動へ。
曲が終わる頃、またドラムスティックを手に持ってシンバルを叩く。そのシンバルも手に持ち、客席フロア中央まで持っていく。このシンバルの鳴らし方もこれまた暴力的。感情に直結したような叩き方。
でも、それはライブの最初に感じた「恐い」ではなかった。
「泣ける」ものだった。
後藤はスティックを大きく振りかぶり、シンバルを何度も叩き続ける。
「ありがとうございました!!」
パシャーン!!
「ありがとうございました!!!」
パシャーン!!!
何度も何度も叩き続ける。そのたびに感謝の気持ちを告げる。
「ミドリでした!!!!」
泣きそうな声で叫んでいた。そしてスティックを客席に放り投げ、逃げるように楽屋に走っていく。
ステージの男性メンバーたちが演奏を終わらせ、ミドリのライブが終了する。

ライブ後は嵐が通り過ぎた後のように、スティック、シンバル、マイク、なんかの液体。色んなものが飛び散っていた。
爆撃を喰らった後ってこんな感じなんだろうか。残り火と煙を感じた。これは僕にしか見えていない光景なのか。こんな気持ちは、僕だけなのか。
メンバーがビンタされ、髪の毛を掴まれたように、自分も水を吹きかけられた。自然と演奏に加わったような、勝手に当事者のような気持ちになった。ただ恐いだけではない。そこには感情が充満していた。えげつない感情ばかりなのだろう。だけど、可愛いのは一体なぜなんだ。あの女性に、一体何があったんだ。
ミドリというバンド、後藤まり子という人に興味が湧いた。これは特別な感性ではないはず。こんな気持ちになってしまったのは、僕だけではないでしょう。

「あんたは誰なんや!!!?」
後藤まり子の問いに、すかさず返答は難しい。
本名を告げればいいのだろうけど、その問いは本質的な自己を探られ、正体を暴かれる気がした。
同時に、「あんたは一体誰なんですか?」とライブ後は「後藤まり子」検索開始。ほぼすべてのページをクリックした。
自分とは一体誰なのか。
それはインターネットには載っていないんじゃないか。

そんなミドリのライブでした。

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