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2005年5月23日月曜日

切ないドラえもん


高校生の頃の話だ。
兵庫県の神戸、JR元町駅付近の高架下には
たくさんの「いかがわしいもの」や「ふしぎなもの」が
売っているよ、と友達から聞き、初めて高架下に行ったんだ。
たしかに本当に珍しい物がたくさん売ってあった。
そこで僕の目に止まる、ひとつのキーホルダーがあった。
台湾の品物を売っている店にそれはあった。
キーホルダーという商品は、いつの時代でも
ファンシーグッズとして少年少女に愛されている。
僕が『ドラえもん』が大好きだったのも手伝ってか、
それを見つけた瞬間、財布は開かれていた。
店の主人であろう80歳ぐらいであろうおばあちゃんは、
『あしたのジョー』のラストみたいなうつむき加減で店の立ち番をしていた。
「これください」と550円を渡し、
「ありがとう」などといった爽やかな会話もなく、購入した。

それが、このキーホルダーなんだ。





最初に思うことは、
明らかにアレンジされている、という事だった。
幼少の頃から『ドラえもん』が大好きだった僕にとって、
これはカルチャーショックだった。
日本と台湾との間には深くて暗い川が流れているんだと思った。





キーホルダーの宿命であることは承知だが、
従来のそれとは明らかに変形している頭部。
「夢」を多くの少年少女に語ってきたそれの頭が、
まるで実験された後のような輪っかに毒されていた。





必要以上に口が開いているが、
台湾では「怒ると人を食っちゃうかも」なキャラクターとして
認識されているのかもしれない。
目については、小学生の頃よくドラえもんを描いて上手・下手を
競い合っていたが、
下手と呼ばれる子は大抵、
それの目と目を離したがっていた。
敗者というイメージしかこの顔からは思い浮かばない。






どういうわけか、かなりアレンジが効いている。
ハート型にしているのは、愛されようとしているのだろうか。
なぜか血の色にも似た赤いポケットは、
なんだか危険な匂いがして、特に開けてほしくはない。







足が長いのは、もう仕方ないし、あきらめている。
しかし、この白い液体はいったい何だろうか。
これだけは、放ってはおけない。
制作者は恐らく、足全部を白色に塗りそうになったのではないだろうか。
思いとどまったようなデザインである。
そうではなければ、単にいかがわしい白色としか思えない。


さて、後ろ側を見てみようと、ひっくり返す。





ものすごく、残酷だ。
前がよければ後ろはどうでもいいのか。
いや、そもそも前も全然よくないというのに。
哀れとしか思えない。
「夢」と「希望」を与えてきた後ろ姿がこれなのか。
少年少女が現実を見た瞬間のような感覚を味わった。

待てよ。
真ん中から無造作に付けられている
ヒモはなんだろう。
僕は静かにその先端の球体を手に取った。
そして、そっと引っ張ってみた。








こんなことができるキャラクターだったのか。
おもしろいかおもしろくないかで言えば、
確実におもしろくない。
それに、ヒモが出ている場所がとても
清潔とは思えない。
少年少女には適していないヒモだ。
それに引っ張った後も特に変化の無い表情を見ると、
なぜか怒りがこみ上げてきた。






とても憎たらしい、
このなぜか誇らしげな表情。
だんだん本気で腹立たしくなってきたそのとき、
「大丈夫だよ、のび太くん」
と言った気がして、僕はこいつを強引に掴んでやった。






「痛い!止めて!」
「おまえがそこまで愛されようとしているのならば、
タケコプターとやらで空を飛びな!」
という気持ちでいっぱいになった。
実際、見てみたかった。
僕は、昔アニメで見たそれのように、
空を飛びたかった。
「空を自由に飛びたいな。」
本来のそれであれば、優雅に、そして夢いっぱいに、
空を飛ぶことが約束されるはずである。
僕は期待に胸を膨らませ、
外へ連れ出した。






それは、たしかに空を飛んだ。
あのとき見たアニメのそれのように、手足をおろし、
頭に身を任せて、宙に浮き始めた。












あのさ、垂直にしか飛べないんだね。


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